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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
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景色虫

そこまでショッキングな訳ではありませんが…一応閲覧注意です。タイトルで察してください。

「すぅ…すぅ…」


こちらに寄りかかりながら寝息を立てる友人の脱力しきった間抜けな顔に思わず笑みが零れる。出発してからもう五日は経つが、やはりアカマルとプラントによる猛特訓に身体が十二分に休まっていないのだろう。ここの所、キャロはよく寝ている。


「キャロ…早く元気になるといいな」


そう呟いた時であった。その言葉に馬を操作するアカマルが答える。


「疲れもあるだろうが、急激な成長に身体が追い付いていないんだろうな。あんなに魔力を酷使したのも、毎晩全力で格闘しまくったのもコイツにとっちゃ初めての経験だろ。だから身体が眠る事でそれに耐えられる身体に成長しようとしてんだ」


「成長…」


「チビのお前も寝た方が良いかもな?キヒヒ…」


「五月蝿い、アカマル」


そんな話をしている中、私は馬車に揺られながら動く景色を眺めていた。平原が広がるこの場所には至る所に人工的と思われる森が点在しており、遠くの方にはうっすらと大規模な樹海が見えた。一定間隔に植えられた木の森に、私は人里が近い事を確信する。


そうして観察していた私だったが、ふと指が何かに触れたのを感じた。私は座席に触れていた指を離し、隣の空席を注意深く観察する。すると席の一部分に何やら出っ張りがある事に気が付いた。


「何だろう、これ」


再び触れてみるが、何だか柔らかい。木製の席と同じ見た目なのに妙だなと思っていると、一瞬振り返ったアカマルが答えを出してくれた。


「そいつは景色虫だ」


「けしきむし?」


「擬態能力のある昆虫だよ。場所と場合によって全身の色を変える事が出来るんだ。非常に高い栄養価から狙われやすく天敵も多いんだがな」


「ふーん」


何を思う訳でもなく、私は何の気なしにつんつんと景色虫を指でつついていた。そんな私にアカマルは笑う。


「おいおい、自分よりちっこい奴が珍しいからってあんまりいじめてやんなよ!」


「人の身長をいじるな。それと別に強くつついてないから良いでしょ?」


「やっぱりチビにチビって言うのは堪んねぇよなぁ!」


「最悪だよ」


「まー、すまんすまん。五分ぐらいいじるのは我慢してや…ん?」


「どうしたの?」


「いや…よく見てみれば私のとこにも景色虫が居てよ。気付かなかったぜ」


「あ、こっちにももう一匹居る」


「こっちにもだ」


「更にもう一匹…」


「………」


「………」


私とアカマルは同じ事を考えているのか、何だか嫌な予感がして互いに顔を見合わせる。景色虫は魔族ではなく、ただの虫だ。それでもここまでこの馬車に集中して出現しているとなると、妙な胸騒ぎがしてならない。


そしてその不安の的中を告げるかのように、アカマルが悲鳴をあげた。


「どうしたの?」


「り、リィハー!周りをよく見てみろ!周り!」


「ん…?」


言われるがままに私は周りをよく見てみる。先程眺めていた通り、何の変哲もない草原が広がっていた。だが、改めて見てみればその草原は違和感で溢れていた事に気がついた。


何十、いや何百個の出っ張りがこの景色に溶け込んでいたのだ。それらのものが全て景色虫であるという事に気付くのに差程時間はかからなかった。


「集合体恐怖症と虫嫌い。二つの人種が死ぬね、これは」


「何でお前そんな冷静なんだよ!?これ絶対おかしいぞ!」


「分かってる。けど私の闇魔法ではどうにも出来ないし、アカマルの魔法も威力が高すぎて可哀想。様子見するしか…」


「あぁもう虫嫌だぜ私…!」


珍しくビクビクするアカマルは先を急ぐ事を決め、馬車の速度をあげた。そんな中、寝ているキャロを抱き締めながら私は景色虫達の様子を注意深く観察する。


「アカマル。もし景色虫達が何か明確な理由があって私達を取り囲んでるとしたら、何が目的だと思う?」


「生憎虫と会話した事ねぇから分かんねぇよ。私の知る限りじゃこいつらはただ葉っぱ食ってのんびり生活してるだけの奴らで、知恵や欲望なんてのは無いと思うが…」


「じゃあ、誰かの差し金っていう線は?」


「…有り得るな。既存の動物を操ったり、召喚獣を生み出して戦わせる操命魔法ってのがあるぐらいだ。景色虫が意志を持たない以上、誰かに操られている可能性は高い」


「十分に警戒して…え?」


そう言った瞬間、キャロを抱き締めていた感覚が消えた。キャロが消えたのではないかと驚いて私はキャロの方を向くが、相変わらずキャロは私の腕の中ですやすやと気持ち良さそうに寝ている。腕の感覚が無くなったのか?と不審に思っていると、こちらを振り返ったアカマルは目を丸くした。


「おい!キャロはどこ行った!?」


「何言って…今私はキャロに触れて…」


「あ!?…まずいな」


「え…?」


「いいか?私達は今、明確な敵意を持って魔法を使われている!リィハー、お前は今恐らく幻覚の類を見せられている!」


「って事は…まさか…」


冷や汗をかきながらアカマルは頷く。


「その通りだ…!キャロが攫われちまったって事だ!」


「っ…!」


キャロが、攫われた。その事実にサーっと全身から血の気が引いていくような感覚に陥った。キャロは強いから何かあっても大丈夫。だが今のキャロは疲れにより寝ている最中なのだ。何が起きても不思議ではない。


そう焦る私を横目に、落ち着きを取り戻しつつあるアカマルは前を向いて言った。


「だが幸いにも相手が魔法使いってんなら何処に居るかの心当たりはあるぜ…ムッテは魔法の町と呼ばれているぐらいだからな。数多の魔法使いが住んでいる」


「でもムッテで探すにせよ何の手掛かりも無い上に、早く見つけ出さないとキャロが…」


「いや、その心配は無い」


「え?」


「何の理由があってかは知らねぇが…奴らの目的は私達みてぇだ」


アカマルはこっちへ来いという仕草をする。そして言われるがまま御者席へと身を乗り出した私はそこの床に何か文字が刻まれている事に気が付いた。


「『ムッテにて貴様らを殺す。少女を返して欲しくば逃げない事だ』」


「どうやらキャロは人質代わりみてぇだ。価値が無くなっちまうから命は奪えねぇし、この文言を見るに私達に恨みを持ってるみてぇだから無関係のキャロに乱暴はしないだろ」


「でも、恨みって誰が?」


「さぁな。どちらか片方だけじゃなく、私様とリィハーの両方がターゲットなのも意味分からん」


「とりあえず、やる事は決まったね」


「だな。ムッテへ行ってキャロを取り戻すぞ!」


「おー!」


いつの間にか、私達を囲っていた景色虫の姿は消えていた。

攫われてしまったキャロ姫を助ける為、勇者リィハーとアカマルが立ち上がる!

キャロが主人公?知らないですね…

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