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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
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彼女との出会い

ウニストス。二百年前から存在する、世界有数の魔法学校だ。だが煉瓦で作られた大規模な校舎に年季などは感じさせず、予算をふんだんに使って校舎の手入れを徹底しているのが分かる。それ程までに古くから存在し、何百人もの生徒が通うこの学校は人々にとってかけがえのないものなのだ。


そして、この私様もそんなウニストスに通う生徒の一人である。十六の時から通い始めてまだ一年も経っていないが、既に様々な興味深いものを学んできた。友人も作り、毎日新しい発見が絶えない。勉学は苦労するが何とか良い成績をキープしている。正直、かなり満たされた毎日であった。


そんなある日、城のような規模の校舎に囲まれた広大な中庭で一つの催しが行われていた。それはズバリ、定期的に行われる魔法での決闘であった。教師陣によって生み出される、怪我も痛みも無い特殊な結界の中で行われる決闘は成績に影響しないただのイベントであり、生徒達にとって待ち遠しい時間でもあった。


中庭内に複数の結界が出現した後、結界内で一体一の勝負を繰り返し、最後の一人にまで勝ち残った者の名は校舎に刻まれ、学校の歴史の一部となる。私様はそんなものに興味こそないが、やるからには勝つというのが信条だ。


そして、とうとう私様の番が回ってきた。結界に足を踏み入れようとする私様に後ろから友人達が話しかけてくる。


『頑張ってね、ウェル!』


『私達は負けちゃったけど応援してるから!』


私様は彼女らに笑みを向け、結界内へと入る。すると同じく結界に入ってきた高身長の男子生徒がこちらを睨んできた。奴の名はユウシュ。生徒達から頼られる兄貴肌の男だ。


『よう、ウェルフル。まさか一回戦でお前と当たれるなんてな。幸運だ』


『あ?何で私様と戦うのが幸運なんだよ』


『俺達の組で最も成績が優秀なのはお前、そしていつも二番手なのは俺だ。だからこそ、俺はお前を目標にこれまで努力してきた』


『へぇ、そうかい』


『そしていつもとは違う実戦形式なら!男である俺の方に分がある!完璧なお前も敗北する時が来たんだよ、ウェルフル』


『ハッ…それはどうかな』


それ以上言葉は交わさず、私様達は睨み合う。するとやがて開戦の合図である、笛の音が教師によって起きた。


それを聞くや否やすかさずユウシュは構える。魔法戦において、相手に掌を向けるのが定石だ。だがユウシュは掌は両方とも空へ向けている。


『《クラウド!》』


そして、彼の掌からモクモクと煙が立ち上る。その煙は私達の頭上を埋め尽くし、まるで生き物のように不気味に蠢いていた。


『あ?んだよこれ』


『この雲は俺の掌と接続されているのさ。本来、同じ掌から同時に複数の魔法を放つ事は出来ないが…』


ユウシュはキラリと光る歯を見せ、不敵に笑った。


『煙が俺の体内の魔力を引き出し、上空からお前に複数の魔法を同時に放つのだ!!!』


彼がそう言うや否や、雲はゴゴゴと不吉な音を立て始めた。そして、光ったと思った時だった。雲からは炎、氷の刃、電撃が繰り出された。それぞれが巨体の猛獣でも仕留められそうな程の威力。そんな魔法達が同時に私様に襲いかかってくるのだ。


『決着だ!ウェルフル!!!』


『まだそいつは気が早ぇえ!』


『む!?』


私様は上に掌を向け、高らかに叫んだ。


『《デスボンバー!》』


そう唱えると、掌から小さな一軒家程度なら消し飛ばせそうな爆発が起こった。そして降り注ぐ魔法達は全て爆風によって掻き消され、上空に浮かぶ雲さえも爆発の餌食となって消滅した。その様子にユウシュは青ざめる。


『嘘だろ…!?三つの魔法を一つの魔法で対処した上で、更に魔法の発生源までを潰した…!?』


『へっ、良い魔法だったぜ。お前の不幸はこの私様を相手にした事だ』


『遠距離が駄目なら…!《ソード!》』


彼の手に光が集まり、光はやがて銀色に煌めく剣へと変貌した。そしてユウシュは剣先をこちらに向ける。


『魔法で敵わないなら近接戦だ。俺達は男と女。お前ではどう足掻いても腕力で俺に勝てない!』


『じゃ、試してみるか?』


『悪く思うな!』


ユウシュはこちらに向かって駆け出す。歩幅、構え、目線。どれをとっても上質だ。騎士の戦い方をよく学び、努力によって洗練された動きを得たのだろうと一目で分かる。


だが…どうやら私様の努力の方が一枚上手だったようだ。


『《ステップアップ》』


『む!?』


魔法を唱えると、私様の身体は青色に発光する。その光に当然ユウシュは警戒するが、彼は知らなかった。この時点でもう私様の勝ちが確定してしまった事を。


『のろいぜ、ユウシュ』


『っいつの間に背後に…!?』


彼が振り返った時にはもう既に彼の肉体は空を舞っていた。そう、私様に蹴り上げられた彼はまるで綿のようにいとも容易く打ち上げられたのだ。理解が追い付かない彼に、私は跳躍で近付く。


『この魔法は一定期間私の身体能力を向上させる。魔力を身体中に循環させる、高等技術によって実現した魔法だ』


『…流石だ。俺のライバルにして、卓越した魔法の才を持つ天才よ…!』


振り下ろされた踵を腹に喰らい、ユウシュは地面に叩き付けられる。そしてそれと同時に教師の声が結界内に響いた。


『勝者、ウェルフル!』


華麗に着地した私様はステップアップを解除しながら結界から出る。すると試合を終えた私様に友人達が群がってきた。


『凄いよウェルフル!男子に、それもユウシュに勝つなんて!』


『ま、私様にかかればどうって事ねぇぜ!』


『こうなったらもう敵無しだね!ウェルフルの優勝は決まったようなもんじゃない?』


『ねー!この子程強い人他に居ないもんね!』


『よせよお前ら。この私様が勝つのはやる前から決まってんだ、そうはしゃぐなよ!』


騒ぎ立てる友人達を横目に、私様は座り込んだ。確かに私様の知る限り、この場に私様以上の実力を持った生徒は居ない。それ程までに私様は魔法についての理解が深く、魔法の研究を惜しまなかった。誰よりも魔法に向き合ってきたのだ。


だからこそ、私様は強い。


…………………


『ウェル!起きて!』


『…んあ?』


『もう、一回戦全部終わったよ!』


試合を終えた私様は待ちくたびれて眠りに落ちてしまったようだ。わざわざ起こしてくれた友人達を前に、私様は伸びと大きな欠伸をする。


『んで、次の相手誰だ?』


『それが…』


彼女らは一斉にある一点を見る。その様子に私様も釣られてそこを見ると、そこには一人の少女が居た。


『…何だァ?あんな奴うちの学校に居たか?』


清楚という言葉が誰よりも似合いそうな、細い女の子であった。その青い瞳は静かに周りを見渡し、腰まである長い黒髪はよく手入れされているのか上品さを感じさせた。ただそんな彼女は…車椅子に乗っていた。


『あの子、普段学校を休んでるケイトさんよ。脳の障害で手足が自由に動かせないらしいの』


『従者に車椅子を押されてて…あんな若いのに可哀想だよね』


哀れみ始める彼女らに、私は眉をひそめながら疑問を投げかけた。


『おい待てよ。まさか次の相手って…』


『そう、ケイトさんよ』


『嘘だろ!?』


私様は改めてケイトの方を見る。触れただけで壊れてしまいそうな、可憐な少女。肉体的に頑丈なユウシュとは違い、いかにも脆そうだ。そんな彼女が相手という知らせに私様はため息をついた。


『完璧してくれよ…手加減は苦手なんだ』


『あはは…どんまいだね。ウェル』


『というかアイツ本当に一回戦勝ち上がってきたのか?とてもそうは思えねぇけど』


『私達も試合は見てないんだけど、そうみたいだよ?まぁ…勝った理由は分かるけどね』


『あ?』


『あの子の対戦相手、ヨクボーだったのよ。女好きの変態で有名な奴』


『あー…そんでボコボコにするのが忍びなくてわざと負けたのか』


『そういう事。勝ったらいずれウェルと戦わなきゃいけないってのが怖くなったからって可能性もあるけどね』


『ふーん…』


私様は立ち上がり、拳と拳を叩き合わせた。


『ま!結界内だと怪我はしないし、心配する事もねぇか!』


『ウェル、あんまりあの子を怖がらせちゃ可哀想よ』


『わーってるよ』


意気揚々と私様は結界の中へと足を踏み入れた。


…………………


何が起こったのか、理解が追いつかなかった。何故私様は今、地面に這いつくばっているのだ?何故、ケイトはそんな私様を静かに見下ろしてるのだ?


最初は当然彼女の事を舐め腐っていた。所詮ただのお嬢様だと、そう判断していた。だが彼女の扱う魔法を見た瞬間、彼女への認識は変わった。


彼女は正しく、怪物でしかなかったのだ。私様はステップアップを含め、使える魔法を全て使って全力で勝ちを狙いに行った。だが…


彼女は車椅子故に一歩も動かず、基礎魔法だけで私様を完封した。


『まじかよ…こいつ…!』


ケイトの瞳に悔しそうな顔をする私様が写る。だが瞳に写る私様は悔しさと同時に、ワクワクしたような笑みを浮かべていた。


『私様より…強い奴が居んのかよ…!』


人生で初めて味わう敗北に、そして現れた底の知れぬ怪物に、胸の鼓動が止まらなかった。全身に満ちる幸福感を私様は噛み締めていた。


本当に、この学校に来てから毎日が楽しい…!

これにてこの私、アカマル様が大大大活躍する新章ムッテ編の始まりだぜぇ!ユウドん時より長くなるかもしれねぇけどよろしくな!私様のかっちょいい姿を楽しんでいってくれ!

あ、それと前回の話にいいねが付いてたぜ!作者の野郎が四度見ぐらいしててキモかったが、してくれた人ありがとうな!…とまぁ毎回いちいち喜びの報告してたら読者視点ダルいと思うからこれ以降は基本的に作者の感情を挟まねぇが、ブックマークやいいね、評価をされたら一日上機嫌になるぐらい喜んでるからしてくれると嬉しいぜ!

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