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少女は魔族となった  作者: 不定期便
箸休め編
40/123

さらば、穴掘り男爵

「ん…ふあぁぁ…」


まるで霧がかかったように思考がはっきりとしない。気だるげな感覚と自分の出した大きな欠伸に、自分がいつの間にか寝てしまっていたのだと私は気付く。何があったかあまり思い出せずにいたが、自分が乗っている茶色のもふもふを見て全て思い出した。


ユウドでの一件が終わり、グロテスクが残ってくれた事に泣いてしまった私はアカマルと気分転換に散歩をし、そしてその後一日の疲れからかクママルの上で横になったのだ。その結果野生動物にしては整っていた毛並みがあまりにも心地好く、私の瞼は次第に閉じていったのだ。そんなクママルは私が起きた事に気付かず丸くなってぐっすりと寝ている。


私も二度寝しようかなと開いた目を閉じようとすると、丸まったクママルに寄りかかりながら座る一人の人物が話しかけてきた。


「おはよう。リィハーちゃん」


「…穴掘り男爵?どうしてここに居るの?」


「誰…?」


「え?…グロテスクか。寝惚けてた。ごめん」


「結構寝てたもんね。それにしたってそんなよく分からない存在と間違われるのはちょっと心外だけども」


「角と牙が生えてる所がそっくりだったから、つい」


「角も牙も生えてないから似てないね」


そんな中身の無いやり取りをしながら私は周りを見渡す。するとここは見覚えのある場所、つまりは私達の国であるという事に気が付いた。ユウドからはそこそこ離れていた筈だが、私は数日に渡って寝ていたのだろうか。そう思った時、座るグロテスクの膝上に黒い何かがうつ伏せで寝ている事に気が付く。


「…その竜は?」


「あぁ、この子はディメンションドラゴン。馬車で帰ってる時に襲ってきたんだけど…キャロちゃんが手懐けてくれたお陰で今や心を許してくれてるんだよ」


「ふーん」


ちんちくりんである私より更に小さい、極ちんちくりんを見ながら私は言った。


「ディなんたらなんて呼びずらいし、ディドとかでいいよ。その方が呼びやすい」


「ディドか…良いかもね」


「それで、キャロが手懐けた筈のディドはどうしてグロテスクに寄り添って寝てるの?」


そう聞くと、彼はあははと小さく笑う。


「何でだろうね。妙に懐かれちゃってるみたい」


「竜は仲間意識が強い。もしかしたらグロテスクの事も竜だと思ったのかも?」


「…さっきの穴掘り男爵に引っ張られてない?角も牙も生えてないんだって」


「冗談」


私はクママルの上から飛び降りると、グロテスクの横に腰を下ろした。


「他の皆んなは?」


「キャロちゃんとアカマルはプルアにこの国を見せて回ってるよ。尤もキャロちゃんも来て日が浅いし、アカマルが二人を案内してるって言った方が正しいかな」


「そっか。それで、出発はいつにするの?」


私の言葉に、グロテスクは大きく目を見開いた。


「どうしてそれを?」


「私が作った結界魔法にほつれを感じる。竜は特殊な生物だから、ディドが何かやったんだろうなって予想した。そしてそうなった時、グロテスクの考えそうな事は大体想像つく」


「………」


「ムッテの魔法学校、ウニストスに行く気でしょ。前々からアカマルの事は気にかけてたもんね」


「…敵わないなぁ」


彼は微笑みながら空を見上げる。その時の彼の瞳は優しく、何処か切なさを感じさせた。


「僕はユウドへ行って、ある程度心の整理が出来た。何もかもを忘れてしまった僕と違ってアカマルは悪い事も全部覚えてるから、連れて行くのは逆効果かもしれない。でも…このままじゃいけないと思う。アカマルは強いよ。けどその強さは強がっているだけの脆いものなんだ」


「君達の王として最終的な判断を下すのは私。そして私は正直の所、その決断はかなり危険なものだと思ってる」


「………」


「賭けだよ。アカマルが全てを乗り越えて前に進むか、それとも…」


「…もしもの話はよそう。確かにムッテに行ってアカマルに取り返しのつかない何かがあったら、僕は一生その事を後悔する。けどどちらにせよ、このまま放っておいても日々の中で重ねていく小さな歪みがアカマルの心を壊すんじゃないのか?」


「分かってる。私は危険な決断とは言ったけど、反対とは言ってない」


「という事は…」


「ムッテへ行く事を認める。けど、その場合アカマルと一緒に行くのは私とキャロだけ。グロテスク達はお留守番だよ」


その言葉にグロテスクは眉を潜め、理解出来ないような素振りを見せた。彼は疑心を孕んだ声色で問うてきた。


「どうして?何か不都合な事でもあるの?」


「…一度アカマルを純粋な人間の世界に触れさせる。グロテスクもプルプルもプラントも皆んな人間じゃないから。だから一度魔族の世界から遠ざける」


「その心は?」


「原点を思い出させる事が目的。その原点を思い出した上で、その後どうするかはアカマルが決める事。私達はそのサポートをする」


「成程ね…」


少し黙り、グロテスクはこちらを向いた。


「分かった。任せるよ、リィハーちゃん。アカマルの事をよろしくね」


「そっちこそこの国をお願い。私が留守の間に滅んでたら嫌だよ」


「ははっ、任せてよ」


「うむ」


話し合いを終え、私はゆっくりと立ち上がる。すると私を見上げながらグロテスクは聞いてきた。


「どこ行くんだい?」


「王様の仕事」


「仕事…?リィハーちゃんが?」


「住民が増えたから役職を与えないと」


「役職…長い事ここに住んでるけど初耳だよ」


「グロテスクは奴隷兼穴掘り担当」


「扱いが酷い。それに穴掘り男爵じゃないって」


「アカマルは賑やかしで、プラントはムードブレイカー、キャロはお姫様だね」


「ろくな職業が無さすぎない…?少なくともプラントの存在意義無いね?」


「クママルは王族専用の毛皮ベットとして…プルプルとディドをどうするか…」


「そこは決定事項なんだね」


「当然」


苦笑いをするグロテスクを横に、私は顎に手を添えて唸る。いくら考えても、答えは出ない。頭の使いすぎで熱が出そうだと嘆いていると、グロテスクは何かを思い付いたように指を立てた。


「あっ、そうだ」


「む?」


「ディド君はリィハーちゃんが寝坊した時空間を操って冷たーい池の中へ転送。プルアはリィハーちゃんが好き嫌いした時にコードでグルグル巻きにして逃げられないようにしてから食べさせる役はどうかな?」


「グロテスク…」


「なぁに?リィハーちゃん」


ニコニコと笑う彼に向けて、私は清々しい笑顔を向けた。


「追放」

穴掘り公爵とは何の関係性もございません。そして箸休め編は今回のように全体的に短い話になる可能性があります、ご了承ください。それでは以下の文は引き続きユウド編の設定達です、どうぞ。

『真珠』。サエルさんが幼少期に貰った宝物。全話で言ったように元々サエルさんがプルアになる予定だったので、本来はプルアに真珠と関係する魔法をいくつか使わせる予定でした(本編では一度だけ使用してます)。そして破損した部位に応急処置として真珠を詰め、そのうち原型の無くなったただの真珠の化け物としてキャロ達を追い詰めるというものを想像しておりました。なのでパールマッド達は所謂真珠化したプルアの布石として出したのですが…結局その設定が生かされる事はありませんでした。海が近いので真珠を使った魔鋼をアダムさんが起用したという事にしておきましょう。

『ディンガ』。何でもありな便利な道具。存在しない物体を出す上で私は名前を覚えて貰えるかを心配しておりました。なので箱っぽい物の名前をもじれば覚えやすいのではないかと思い、ジェンガから名前を取って覚えて貰おうと画策致しました。しかし名前決めの前、ディンガは黒い箱ではなくダイヤモンドにする予定でありました。真珠の対になるものはダイヤモンドですからね。しかし宝石で作られた町もそれはそれで素敵ですが、機械の町としてあまり相応しくないのではと思い現在の形となりました。スチームパンクな町も考えておりましたが、上手く描けるかが不安でしたのでこれもやめました。

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