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少女は魔族となった  作者: 不定期便
機械は人間となった
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燃える正義

胸がざわざわと落ち着かない。まるで私が私じゃないみたいだ。けど、何故だかこんな異常事態にも関わらず恐怖は微塵も無い。寧ろ妙な納得感さえある。


相手は世界最強。プルアさんですら敵わなかった圧倒的な力を持つ騎士だ。だがそんな彼の斬撃を私は尽く躱していた。


「面白い…本当に面白いよ君達は!」


剣を振るいながらシャンさんは高らかに叫んだ。


「心臓を貫いても死なない子、それに感化され致命傷から立ち上がった熊、幼いながらに闇魔法を扱う子、類まれなる近接戦の才覚を持つ子、僕の動きに付いてこられる子!王が目を付けてるユウドの町だから来てみただけだったが…来て良かった!」


「こっちは来て欲しくなかったですよ…!」


「さて、改めて聞こう。君達の目的はなんだ?何者だ?」


私は少し黙り、その問いに答えた。


「私は村を滅ぼされました。突然に、理不尽に」


「………」


「だからその真相を知る為にここへ。そしてもう、その理由を教えてもらいました。そしたら色々あって、町がこんな地獄絵図に…」


「他の子達は?」


「居場所を無くした私を拾ってくれた、恩人達です。利も無いのに協力してくれて…」


「成程ねぇ」


攻撃の手を緩めないまま、シャンさんは言う。


「騎士団長、っていう存在が何なのか分かるかい?」


「騎士達を率いる最も強い騎士…」


「そう。つまりは『最も魔族を殺し、戦闘に役立つ豊富な経験や知識を持っている者』の事だ。誰よりも騎士として生きているから、僕ちんは騎士団長という立場にまで上り詰めた」


「………」


「さっき僕ちんがリィハーちゃんに騙されたように、魔族は自分の為に他者を利用する。そもそも前提として信用出来ない上、仮にそれが本当だったとしても僕ちんは君を殺すよ」


「どうして…?」


「僕ちんは騎士の模範となるべき、団長様だ。そんな人物が魔族を意図的に見逃せばどうなる?事実として魔族は歴史的に人を何億人…いやそれ以上殺してきたのか分からぬ、悪魔共だ。少数派の害無き魔族が居たとして、誰よりも騎士でなければならない。魔族を殺す為の騎士団なんだから、その長が迷っちゃ駄目だろ?」


「…分かりました」


私は爪で剣を受け止めると、ギロリとシャンさんの方を睨んだ。


「もう和解は期待しないです」


「うん。その方が良いよ、子猫ちゃん」


「私は…恩人達を易々と殺させはしない。絶対に皆んなをこの町から逃がす…!」


「やってみな☆」


受け止めた剣を弾き、私は彼の腹に蹴りを入れた。今まで人に暴力を振るうなどした事がない。だが私の身体は戦闘がどういうものなのかを、理解していた。右、左、右、左と連続して蹴りを入れる。


「うーん…確かに腕力はある。あるけど思っていた程じゃないな。あの驚異的な瞬発力を見ればもっと強くても良さそうだけど…」


「………」


「君、その力を扱いきれてないだろう?自分の美しさを自覚していないレディーのように、自分の力に対する理解が足りていないんだ。どの筋肉をどの力加減で動かし、どんな動きで、どんな角度で攻撃すれば良いのかを手探りで探そうとしている」


「…今まで暴力なんて振るった事なかったから」


「経験を積めばとんでもない化け物になるだろう。いずれ必ず人類は君に手を焼く」


そんな評論をしながらも彼は涼しい顔で私の全力を受け止める。ラッキーパンチでもいい。せめて一回だけでも彼に良い一撃を与えなければ逃げる隙は作れないだろう。そうして我武者羅に身体を動かす私を、寝転んでいるプルアさんは見て呟いた。


「馬鹿な…キャロは普通の子供ではないのか?何故あんな人間離れした動きが出来る…!?」


確かに彼女の言う通りこの動きは不可解そのものだ。私も今までの人生においてここまで動き回れた事はない。…原因を推測するならば、恐らくは私が食べた白色の魔石の影響だろう。


あれを取り込んでからというもの、私は魔法を扱えるようになった。あの魔石がどういう性質を持った物なのかは分からない。ただ…魔力量が減少するにつれ身体能力が向上するというのは明らかに魔法を使えるようになった事と関係がある。無ければおかしい話だ。


もやもやしながら戦闘を続ける私を見て、シャンさんはにやにやと笑みを浮かべていた。


「君の心を当ててあげようか☆」


「え?」


「君、今自分の力に疑問を抱いているだろう?鏡を見て『何故僕ちんはこんなにも美しいんだろう…』と疑問を抱いている時の僕ちんと同じ顔をしていたよ☆」


「私そんな顔してました…?」


「今まで戦った事がない、っていうのはあながち間違いではないのだろう。戦い方を見れば分かる。…けどね、王に仕える者として危険分子は排除しなきゃならないんだよ」


「っ!来る!」


「正解☆」


嫌な予感を察知し、私は攻撃を止めて後方へと飛んで下がった。そんな私を追尾するように、まるで竜巻のような動きの水がシャンさんの右目から放たれる。私はその渦に巻き込まれ、そしてその勢いで地面を転がった。


「器用だろう?人間が魔法を扱う時は掌から出すのが最高火力になるけどね、鍛錬すればそれ以外の箇所からも魔法を放てるのさ!不意打ちに中々便利だよ」


「私も魔法のお勉強したら目から光線出せるかな?…でもかっこ悪いからやっぱり嫌だな」


「魔法に興味があるかい?それじゃ、魔法戦といこう!」


シャンさんは剣を地面に突き刺し、両手をこちらに向けた。右手は淡く、そして左手は濃く青色の光を纏っている。私はそれが魔法の前兆であるという事を理解して急いで立ち上がった。だが、私の想像より早く魔法は放たれる。


周りで暴れるディンガの怪物達を巻き込むような規模の、まるで光線のような水の塊を彼は左手から出した。彼がゆっくりと左手を私の方に動かすと、水は連動するかのように私を追う。そしてその水魔法から逃れようと空へ跳び上がった時であった。


彼の右手からいくつもの矢の形をした水が天に向かって放たれたのだ。空中にて身動きの取れない私の身体にその複数の矢は突き刺さり、そして私を地上へと突き落とす。そんな私を地上で待ち構えていたのは左手から放たれていた水の魔法であった。


ディンガの怪物が触れただけで大破するような魔法に、私は巻き込まれた。


「うわあああああ!!!」


「ほんの小手調べのつもりだったんだがね…やっぱり対人戦闘の経験が足りてなさすぎる」


魔法をモロに食らって地面に伏す私に、彼は右手の掌を向けた。私はよろけながらも何とか立ち上がるが、右手から放たれた矢が足を襲い再び地面に倒れる事となった。それを見てプルアさんは焦ったように叫ぶ。


「キャロ!」


「………」


「魔族を駆除する時は先ず卵から。君が成長する前に、ここで排除する」


「………」


「生まれ変わったら人間になりな、ガール」


刺していた剣を引き抜き、彼は直接とどめを刺そうと倒れ込む私に迫る。それに対し私はただただ黙ってそれを見ていた。


「終わりだ!」


「………」


「くっ…キャロぉ!」


プルアさんは三本の大剣でシャンさんを止めようとする。しかし大部分は遠心力で動かしていた三本の大剣の勢いは弱く、とても私達の方へは届きやしなかった。その光景を見てシャンさんは嘲笑う。


「もう抵抗は出来ない!無駄だ!せめて最期に言い残せぇ!!!」


「………」


「待て…どうしてさっきから黙っている…!?」


「…ぷぁ!」


「!?」


シャンさんが間近まで接近してきたのを確認し、私は彼に向けて口を開いた。すると彼は目を丸くして私の口から出てきたものを見る。


「僕の…水魔法!?」


「さっき左手から放たれた魔法を受けた時…咄嗟に口一杯に含んでおいたんだよ!魔法だから口の中は傷だらけになっちゃったけど…命と比べたら軽い!」


「参ったな…想定外だ」


血液と共に出てきた水魔法を受け、シャンさんは後方へと吹き飛んだ。その隙に私は立ち上がってプルアさんの元へと駆け寄る。


「プルアさん、動ける!?」


「動けるならとっくに動いておるわい…!今体内で回路を自己修復しておるところじゃ。あと数分もすれば再び動けるようになるじゃろう」


「それじゃあ、私に魔力を分け与える事って出来る!?」


「…出来る。待っておれ」


彼女がそう言うと、プルアさんの切断された右腕からレモンイエローの色をした魔石が一個転がり出た。


「生きていないワシじゃが、その魔石のお陰で生物と同じように魔法が使える。全方位から熱を加えてやればその魔石は魔力を放出するんじゃ。手で包むなり、体内に入れるなりすればお主に魔力を分け与えてくれるじゃろうて」


「まだ掌からしか魔法が出せないし、また口に入れないと…傷だらけで痛いから嫌だなぁ…」


とにかく他に方法が無い。私は痛みを我慢しながら魔石を口に含み、シャンさんが吹き飛んだ方角を見た。するとそちらでは丁度シャンさんが腰をさすりながら立ち上がっていた。


「いたた…流石僕ちん、凄まじい魔法だ☆」


「シャンさん!」


「ん?」


右頬をぷくりと膨らませ、そこに魔石を入れる。そんな格好の付かない状態で私はシャンさんに掌を向けた。


「最後の魔法勝負をしましょう…!」


「…明らかに罠だ。けど面白そうだね。良いよ、楽しませてくれたお礼に乗ってあげよう☆」


「ありがとうございます…!」


シャンさんは私に掌を向ける。互いに、いつでも魔法が撃てる状態だ。正真正銘最後の決闘。より強い魔法を放った者が、勝つ。普通ならば私に勝機の無い戦いだが私はまだまだ諦めてはいない。


シャンさんに私が見せた攻撃魔法はロブだけ。勿論それは私が使える唯一の攻撃魔法であり、今の私が出来る中で最も殺傷能力のあるものだ。現にシャンさんに魔法を当てれる最大の好機で私がロブを放った事により、シャンさんはそれが私の持てる全力だと認識している筈である。つまり、魔法の火力よりもその対策に力を注いでいる可能性が高い。


そして私の予想通り、彼は魔法を使った。


「『コメットミラー』」


まるで星のように光る複数の円形をした鏡が彼の掌から放たれる。きっとあれは私の光線を反射する為の魔法だ。そして彼から逸れた光線を横目に私の身体を弾丸のように貫く…そういう類のものであろう。


そう来ると思ったからこそ、私は『別の魔法』を使う事を決めた。ロブという魔法を初めて使った時、私は村が消された恐怖を抱いて放った。それから、私はこの魔法を使う度に破壊や恐怖、悪をイメージしていたのだ。きっと魔法は…人の心に強く反応する。


シャンさんは魔族を倒すという正義から、ここまで非情に私達の命を狙う事が出来た。けど、私にも正義はある。人間の未来の為に、生きると決めた。それと同時に、お世話になった魔族の皆んなも私が守らなきゃならない。私が抱く正義は、かつて私が見た最も尊く偉大な正義にその姿を重ねた。


彼の最期の笑顔を思い出しながら、私は放つ。


「『ヘルフレイム…!!!』」


私の掌から青と黒が入り交じった、近くに居るだけでも熱気で溶けそうな程高温の炎の塊が放たれた。シャンさんの正義を、私は自分の正義で正面から打ち破る。その想いに呼応するように獄炎はシャンの魔法を一瞬で溶かした。


「それはホワイトの魔法…!まさか…こんな子供が…!?」


「いっけぇぇぇぇぇえ!!!」


「面白い…面白いよ!また会おう!もう一度僕ちんと勝負を…!」


「うおぉぉぉぉおおお!!!」


獄炎は巻き込まれたシャンさんを連れて建物群を溶かしながら遠くへと飛んで行った。私の持てる、最大火力。それを出し切った事により私はそのまま床に倒れる。


そんな私を、一人の人物が背負った。


「帰るぞ、キャロ」


「プルアさん…」


「色々聞きたい事はある、が。とりあえずこれだけは言わせてくれ。よくやった」


「へへっ…ありがとう」


「さぁ、地下で動力を壊した事によりこの町は直に崩壊する、巻き込まれんうちに先を急ぐぞ。住民の避難や怪物の討伐はあの騎士がやってくれるじゃろう。ワシらの仕事は終わった」


「うん…そうだね…!」


「それと、魔石返せ」


「そうだった!」


こうして役目を終えた私達は仲間達の元へと向かうのだった。

魔法というものは度々様々な作品に登場しますが、作品によって魔法という概念や在り方は大きく変わると思います。一口に魔法と言っても何故使えるのか、どう使うのか、どうやってそのような存在が生まれたのか…と作品によってそれぞれ違う背景があります。

この物語には魔法というものがよく絡んできます。それが何なのかもいずれ語る時は来ますが…今はただ、『使用者の心理に元ずいた不思議な力』として認識していてください。つまり私の場合『猫ちゃんめっちゃ可愛い』という想いから『猫をなでなでして喜ばせる』という魔法が扱える訳です。猫ちゃん以外も動物は大体可愛いので全動物に対応するなでなで魔法が使えます。

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