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少女は魔族となった  作者: 不定期便
機械は人間となった
33/123

最強対アカ組

「ふー…」


リィハーとキャロから離れてどれくらいの時間が過ぎただろうか。熊公が大暴れする横で私は相も変わらず増殖する化け物共を相手にしていた。最初こそ楽勝だと気を抜いていたが、次々に現れる新種のディンガに私達は相当消耗させられていた。


「だが…こんなもん痒くもねぇな!」


魔法を放つ度に化け物達は軽快に消し炭と化してゆく。何度も何度も大規模な魔法で彼らを一掃しているが、まだまだ魔力量には余裕がある。適切な間合いで対処すれば恐らくは無傷のまま事を進めれるだろう。


「熊ァ!てめぇはまだいけるかぁ!?」


「ガウッ!」


返事をすると同時に熊公はその太い腕で空飛ぶディンガ達を薙ぎ払う。奴の目はまだまだ死んでいない。むしろこれからが本番とでも言いたげだ。


「へへっ、可愛い奴だ。良い根性してるじゃねぇか!」


「グルルルル…!」


頼れる相方を背に私は戦いを続ける。しかしそんな中、一つの考えが脳を支配した。


「それにしてもキャロとリィハーの奴…大丈夫か?まさかやられちゃいねぇだろうな…」


「ガウッ!ガウッ!」


「あ?んだよ、励ましてるつもりか?」


「ガウッ!グルルルル…」


「へっ、仲間の事ぐらい信じてやらねぇとな。アイツらのガッツを信じてやるか!」


「グァァ!」


「私達は私達の使命を果たすとしよう!」


そうして改めて気合いを入れ直した時であった。戦闘の間際、ふと上を見上げた私は妙なものに気が付く。


「何だ?空に透明な渦が…あれもグロテスクの野郎の発明とやらか?…いや、違う。あれは魔法だ。一体誰の…」


ふと考えを口に出したその時、私は言葉は憎たらしい程綺麗な音に遮られた。その音の正体は斬撃音。無駄一つない美しい太刀音に…熊公は血を吹き出しながら倒れた。


「熊公!!!」


腹に一筋の切り傷を受け横たわる熊の大きな腹に一人の男が立つ。白い鎧に虎を思わせる歴戦の戦士の証である眼光。そして私に刀身が黄金で作られた血の滴る剣を向ける様は正しく、騎士そのものであった。何故かリィハーを抱き抱えている事には触れないでおこう。


「てめぇ…!よくも熊公を…!」


「安心してくれオーガプリンセス。次は君の番だ☆」


「ふざけやがって…!この私様を誰だと思ってやがる!」


「お嬢ちゃんというオーディエンスが居るからね。良いやられ方を期待しているよ」


「アカッ…!」


「『デスバレット!!!』」


あまり大掛かりな魔法を放てば一緒に居るリィハーごと巻き込んでしまう。よって私は極限まで強度を高めた小さな岩石の魔法を目の前の騎士に向けて放った。もし仮に躱されても追撃をすれば問題無い…筈であった。魔法が触れる直前に男の姿は一瞬にして消えた。


「何処行きやがった…!?」


「僕ちんはいつでも…女性の傍に居るよ☆」


「はっ…!?」


目線を下にやった時、奴は私の懐で微笑んでいた。キラリと光るその剣を構えながら。


「アディオス、ハニー」


「リィハッ…」


痛みに気付くより先に、私の胸を剣が貫通した。参った、完敗だ。私は奴の動きを目で追う事すら出来ずに…負けてしまったのだ。ぼやける視界でよく見てみれば青ざめるリィハーの顔が映る。


私はそのまま、地面に倒れた。


「あ…ああ…アカ…」


「さぁ、行こうかリィハーちゃん。次の敵が僕達を待ってる」


「本当に…死んだ…?」


「死んだよ。長年騎士をやってるからね、分かる」


「………」


「哀れんでるのかな?魔族を他の生物と同じ様に考えるのはやめなよ。僕ちんはもうとっくに彼らが死んでも何も思わなくなった」


「………」


「困ったな…口を開こうとしない。シャドに助けを求め…」


「…馬鹿がよぉ!」


「なっ!?」


突如起き上がり、困り顔の騎士に一発拳を入れる。リィハーが驚いたように目を見開く中、あまりに予想していなかった不意打ちに対処出来なかった騎士はそのまま少し先へと吹き飛ぶ。思わず離してしまったリィハーを抱き締めながら、私は尻もちをつく騎士に言ってやった。


「がっはっは!私があれぐらいで死ぬと思ったら大間違いだぜ!残念だったなぁ!?」


「アカマル…!」


「…良いパンチだ。僕ちんとした事が油断していたよ。普通の鬼なら心臓を一突きすれば死ぬんだけどな」


「知りたいか?何故私が生き延びたのか」


どくどくと胸から流れる血にも気を留めず、私は言い放った。


「根性!気合い!信念!お前は今鬼の中の鬼である最強の私様を相手にしてるんだぜぇ!?」


「成程…根性論は嫌いじゃないよ☆」


「私は死なん!私が死ぬ時は世界が滅ぶ時だけだ…!」


「…参ったな。君、驚く程タフだね。今にも死にそうになっている者の台詞じゃない」


騎士は立ち上がり、剣を再び構えた。


「オーガプリンセス。…君の事、強敵だと認めるよ☆ 諦めない敵は何よりも手強い」


「ヒヒッ!こっちも悪かったな。てめぇを舐め腐ってたよ…!」


「では、見せるとしようか。僕ちんの本気の…八割程度を」


「待て!」


私はニヤリと笑い、持っていたリィハーの頭部を握った。


「少しでも動いてみろ!こいつの頭が弾け飛ぶぜ…!」


「あ…成程」


正直、勝敗は別にして奴との力の差は大きすぎる。なら使える手はいくらでも使うべきだ。あの男視点リィハーはただの罪無きいたいけな少女。騎士として、人質を見捨てる訳にはいかないのだ。


思った通り歯を食いしばりながら騎士は私を睨みつける。


「汚いな…美しい僕ちんとは正反対だ」


「さァさァどうするよぉ!?清廉潔白の騎士様よぉ!」


「きゃあこわい」


「安心してくれお嬢ちゃん!この僕ちんが必ず…助けてみせる☆」


彼はそう言うが、しばらく私と彼は膠着していた。奴の動きを目で追う事は出来ないが、消えた瞬間握り潰す事は出来る。その事を理解しているからこそ向こうも下手に行動する事が出来ないのだ。だが、その状況は私にとってもまずいものであった。


このまま黙っていれば…ただでさえ無理しているというのに心臓が活動を止めて私はぽっくり逝ってしまうだろう。だからこちらとしても行動したいのだが…下手に何かすれば隙を付かれて騎士に切り裂かれる未来が見える。彼は相当の手練だ。一瞬の隙も見過ごさないだろう。


「…なぁ!騎士野郎!」


「なんだい?」


「お前…そろそろ帰りたくねぇか!?」


「いかにも帰って欲しそうな台詞だね!隠し事の下手なレディーも愛嬌があって好きだよ☆」


「この餓…物凄く美味そうな餓鬼は解放するからよ!だから一旦私様の事も見逃してみねぇか?」


「信用出来ないかな!」


「チッ…めんどくせぇ。じゃあどうしたらいい!何かしないと一生このままだぞ!」


「んー、そうだねぇ…」


騎士は何かを閃いたかのように微笑むと、さも当たり前かのようにその言葉を言った。


「僕と生涯を添い遂げてくれるなら、見逃してあげるよ?」


「はっ…!?」


「…隙あり」


思わぬ言葉に固まった、その時であった。彼の姿は消え、またもや私との距離を一瞬で縮めていた。彼は剣を振るおうとするが、予想外の出来事に反応が鈍った私では対処しようがない。


「まずい!殺られ…」


「アカマル!脱力!」


「リィハー…!?」


「む…」


ふと目線をリィハーにやると、彼女は二丁の護光砲の銃口を目の前の青年に向けていた。護光砲は青白く光っている。いつでも発射出来る状態だ。私はリィハーを信じて強ばった全身の力を抜く。


そして、護光砲から二つの光線が放たれた。その光線は騎士に直撃したかは分からない。だが脱力した私の身体は護光砲の反動に耐えきれず、反動により勢い良く後ろへと地面を転がりながら飛んでいく事となった。その結果私とリィハーはあの騎士から距離を離す事に成功する。


眩い光が収まった頃、傷一つ付けずに騎士は立ち上がる。


「あ〜…そういう事だね。まさかお嬢ちゃんも魔族側だったなんて…盲点だった」


「アムアムから貰った護身用のこれも不意打ちだから決まっただけ。もう通用しないから逃げるよ!アカマル!」


「あぁ…悔しいがそうするしかねぇ!」


「逃がさないよ、ガールズ☆」


騎士の視界から逃れようとリィハーを背負ったまま全力で走り始めた時であった。リィハーは何かに気付き、私の肩を叩く。


「アカマル!」


「んだよ!?」


「タイミング合わせて!」


「はぁ!?」


リィハーは上半身を捻って騎士の方を向き、掌を彼に翳した。


「『ダーク』」


彼女がそう言った瞬間、騎士の周りに闇が生まれた。いつもならリィハーの魔法を使われた相手は生み出された闇の中へと吸い込まれるものだ。しかし、今彼女が使った魔法は攻撃の意志を見せずにただただ騎士の周りに佇んでいた。まるで視界を奪うのが目的かのように。


「こんな目眩しで何を…」


「次!」


リィハーは高らかに叫ぶ。すると私の視界の端で大きな茶色の物体が動いた。それは正真正銘、死んだと思っていたあの熊であった。


「熊公!お前生きて…!?」


「多分アカマルの諦めない姿勢に感化された。だから死ぬのを諦めたんじゃないかな」


「グォォォオオオオ!!!」


熊公はその腕を振りかぶると、普通の人ならばぺちゃんこになるような速度と重さを乗せた一撃を騎士に食らわせた。視界を奪われた騎士は対処出来ずに宙を舞うが、相変わらず傷一つ付かない。


「闇はもうすぐ晴れる。目が見えるようになったら君達なんか一瞬で…」


「最後!アカマル!」


「よぉーし…燃えてきた!空の彼方まで吹き飛ばしてやるぜ!」


リィハーの意図していたものを理解し、私は宙を舞う男に掌を向けた。


「『デスファイア!!!』」


「残念だったね、お嬢さん☆」


ニヤリと笑い、騎士は構えをとった。


「『アクアスター』」


彼がそう唱えた時、彼を球状の透き通るような水が包んだ。あれは恐らく彼なりの防御手段だ。私の魔法を受け止める為の、強大な魔力を集中させた最強の盾である。


だが、それも予想通りだ。


「魔法を使う時…魔法名を口にする事で普段は操れない潜在的魔力にも自覚を持たせ、普段より高威力の魔法を使える。一流の騎士様なら当然そんな事は知ってるよなぁ!?」


「それがどうしたのかな?」


「逆に『別の魔法の名を口にする』事で魔力は混乱し威力は減衰するが…十分だ!」


「…まさか!?」


目の見えない彼は気付かなかったのだ。私の掌からは炎ではなく、大地を焦がすような雷が放たれている事に。いくら高度な防御魔法だろうと、水である以上電気は通してしまう。


私の魔法が彼を包む水に触れた瞬間、騎士は感電した。


「今だ!逃げるぞ熊公!」


「ガァウ!」


リィハーを背負い、私は熊公と共に騎士の野郎から離れた。


〜〜〜〜〜〜〜


「完敗だ。完全に油断しきってたよ、逃がしちゃった」


ようやく身体が動かせるようになったが…オーガプリンセス、リィハーちゃん、熊肉の三人の姿はもう何処にもなかった。恐らく僕ちんが追えないような遠い場所へと逃げてしまったのだろう。


「魔法を使う鬼…か。妙な胸騒ぎがするね。もしかしたら人類の脅威となり得るかも…」


よっこらせと僕ちんは立ち上がる。今まで何万体、いやそれ以上の魔族を討伐してきた僕ちんでも聞いた事のない存在であった。そもそも魔法を使うにしたって魔法にある程度耐性のある僕ちんを感電させられる程の火力があるのだ。しかも、人間の子供を連れている。それも恐怖で言いなりになっている訳でもなく、自分の意思で味方する子供を。


「帰ったら報告かな。…やっぱり、闇魔法の使い手はいつの時代もろくな存在じゃない」


とりあえず今は与えられた任務を遂行せねばと世紀末のような町に向き直った時であった。僕ちんは目の前に二人の人影がある事に気付いた。


一人は機械のような身体をした女性、そしてもう一人は白い髪のリィハーちゃんぐらいの歳であろう少女だ。彼女ら二人は警戒したように僕ちんを見つめている。


「あぁ、そっか。まだ仲間が居たんだね」


「キャロ。こいつは…騎士団長じゃ。腕は確かだ、気を付けろ」


「騎士団長!?つまり…ホワイトさんよりも上の…」


自信に満ちた笑みを浮かべ、僕ちんは剣先を彼女らに向けた。


「今度は慢心しないよ。このシャン、全力で御相手しよう」

この物語は基本的に魔族サイドの目線で話が進んでいきます。なのでどちらかと言うと魔族御一行に感情移入しているかと思われます。ですが、今回の話をシャンさん目線で見てみればどうなるでしょうか。

たまたま紛れ込んだのかこの事件の黒幕なのか、いずれにせよ他の魔族に混じって不審な存在が居たので討伐するという国を守る騎士として当たり前の行動をしたのですが…

守るべき子供が人質に取られ、善だと信じていた子供に兵器で撃たれ(しかも二丁持ちという容赦の無さ)、視界を奪われ、視界を奪われたシャンさんを巨大な熊が全力で殴り、しまいには嘘を付かれて感電して動けなくなるという…

極悪非道な集団を相手にする可哀想なシャンさんなのでした。

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