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少女は魔族となった  作者: 不定期便
機械は人間となった
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似た者

ドズンと、鈍い衝撃音と共に落下していた身体が止まった。ふと周りを見てみればその空間は一面緑色のディンガで作られた、薄暗い通路のように見える。ろくな灯りは無いが、ディンガの放つ光のお陰でかろうじて今の状況は掴める。


「陰気臭い場所じゃな…」


背負っていた私を下ろしながらプルアさんはぼやく。降ろされた私はすぐさま周りを見渡し、彼女に言った。


「この場所もグロテスクさんが作ったのかな」


「グロテスク?」


「あぁ、イヴさんの事だよ」


「我が創造主にしては大層なあだ名じゃな…あんまり人をグロテスクと言うもんじゃないぞ?それはギリギリ…いや余裕もって悪口じゃ」


「違うの!本人がそう名乗ってたから…!」


「そうなのか?イヴが虐げられている訳では?」


「ない!…家事は全部やらされてるみたいだけど」


「サエルの影響じゃろうなぁ。毎日毎日使用人と共に働く貴族とは、他に居らんぞそんな奴」


そう言って彼女は溜め息をつく。そんな彼女に対し、私は疑問を投げかけた。


「その口振りからすると、さっき言ってたウェハヤさんっていうのはヴゥイム家の関係者なの?」


「ん?あぁ、そうじゃよ。アダムとイヴの父じゃ」


「その人の記憶もある?」


「ある。何じゃ?何か知りたい事でもあるのか?」


「信じられないけど…アダムさんはグロテスクさんが死んだような口振りで話してた」


「イヴは無事じゃ。安心せい」


「そして『二度も大切な人を失い』とも言ってた。…過去に何があったの?」


「あぁ…その事か…」


彼女は目を細め、私の白い瞳を見つめながら話し始める。


「アダムにとっての大きな人生の分岐点。…それは弟、イヴが殺されるという事件であった」


「グロテスクさんが殺された…!?」


「その犯人はウェハヤ本人。彼は元々イヴの才能を恐れており、ワシの作成を切っ掛けに殺害へと踏み込んだ訳じゃ。その後、アダムによってワシを改造する際の生贄とされたがな」


「何でウェハヤさんは才能を恐れたの?」


「歴史は繰り返す、という言葉があるな。今からもう…五十年は前の話になるか。イヴのような天才的な頭脳を持つ科学者が居たんじゃ」


「…ウェハヤさんが過剰に恐れていたのはその人が原因?」


「左様。その者はたった一人で未知の兵器を作り上げ、国王に戦いを挑んだ。当時幼いウェハヤの脳裏には刻まれていたんだ。空を覆う巨大兵器の姿が。そして無情にあらゆる土地を燃やし尽くす光景が。ウェハヤは決して非道な訳では無い。ただ…幼き時に見た悪の科学者と己の息子の姿を重ねていたのだ」


「………」


どうやってグロテスクさんは生き延びたのか、その科学者は何だったのかという疑問はある。しかし…それ以上に私はウェハヤという人物に対して思うところがあった。


「やっぱり、似てるなぁ」


「ん?」


「ウェハヤさんとアダムさんだよ。…二人とも方法は間違ってたけど、世界を良い方向へと導こうとしてたんでしょ?ウェハヤさんは人類の害となり得るグロテスクさんを消す事で、そしてアダムさんは人を糧にして世界を支配する事で」


「そう…じゃな。二人とも己の正義に従った上の行動じゃ」


「どんな目的だろうと命を奪う理由にはならない。だから私は二人を悪人として認識しているし、正しいとは思えない。けど、信念を曲げずに人の為の行動をする姿は…ちょっとかっこいいって思っちゃった」


「…変わっとるな。あの犯罪者達に美学を感じたか」


「人間を助けたいって気持ちは私も同じだもん」


「全く、人間の気持ちはよう分からんもんじゃな……む?」


「どうしたの?」


「下がっとれ。何かが来る」


そう言いながら彼女は私を背の裏に隠した。耳を澄ませば確かに複数の足音が先にある暗闇の中から響いている。しかしその足音のリズムは一定で、あまりにも狂いのない間隔に足音の主達が人間であるとは考えずらい。


姿を確認するより先に、プルアは右足を振るった。


「先手必勝じゃ。我が剣の錆となれ!」


プルアの足は突然、コードが絡み付く銀色をした三本の大剣へと変貌する。…いや、違う。元々三本の剣が絡み合っていたものを私が足と認識していたのだ。三本の剣の窪みはそれぞれの剣に合致し、違和感無く足としての機能を果たしていたのだ。


そんな三本の剣は闇に向かって飛んでいき、暗闇の中で三回金属がぶつかる音がした。プルアが剣に繋がれたコードを遠心力で引っ張ると、それぞれの大剣には銃器を持った人型の機械人形が突き刺さっていた。


「戦闘用ロボットじゃな。ワシらを侵入者と認識し、撃退しようとしていたんじゃろう。攻撃される前に叩いて正解だったわい」


「同族だけど…いいの?」


「なぁに、こいつらは低予算で作られた意思無き機械じゃ。ワシと違って命なんてもんは無い。好きなだけ壊し放題じゃよ」


「そう…?」


そんな話をしていると、またもや暗闇の中から足音が聞こえる事に気が付いた。先程とは違いたった一つの足音だが、それでもプルアは油断せず構える。


「また来たか…ささっと倒させてもらおう!」


三本の剣のうち一本が暗闇に向かって飛んでいく。さっきと同じ展開であれば大剣に貫かれた機械がその姿を現す筈だ。だが金属音がしない上、プルアもその剣を引っ込めようとはしない。


「どうかしたの?」


「…強い」


「え」


「ワシより格上の…何かが居る…」


「それってどういう…」


その瞬間、キンッという金属を弾く音と共に暗闇の中からプルアの剣が飛んできた。勢いの無くなった大剣が地面を転がる中、人間であれば冷や汗を流しているであろう緊迫した表情でプルアは固まった。向こうに居る格上の存在とやらを警戒しているのだろう。


重い空気がこの場を支配する中、暗闇からその人物は姿を現した。


「なっ…!?」


「あっ…!?」


コツンコツンと、落ち着いた歩幅でゆっくりとこちらに向かってくる人物を私達は知っていた。焦げ茶色の髪、整った容姿、白色の瞳。アダムさんのような貴族服を着ているが、その姿は何処からどう見ても…グロテスクさんそのものであった。しかし彼の傷付いている筈の皮膚は人間のように綺麗であった。


グロテスクさんはにっこりと笑う。


「やぁ。待ってたよ」


「グロテスクさん…?どうしてここに…それにその姿…」


「待て。彼奴がイヴだとすれば時間的計算が合わない。奴がワシを修理し、ワシだけが外へ出た。ここへ先回りしている筈が無いんじゃ」


「混乱してるみたいだから、整理してあげよう」


グロテスクさんはグロテスクさんらしくない、意地悪な笑みを浮かべた。


「僕の名はイヴ。…それは確かだ。嘘じゃない」


「だからそれだとおかしいって話じゃろうが」


「そして同時に、君達が知っているイヴとは別人だ。それもまた事実」


「は?」


話す時の彼の仕草とうっすら聞こえる雑音に、私は言った。


「あなたは機械…なんですね?」


「そう。イヴの記憶と知能を全て受け継いだ、もう一人のイヴと言ってもいい」


「…ウェハヤの記憶には存在しないな。いつからお主は存在しておる?」


「そうだねぇ。イヴが生まれて…三年ぐらいの時かな?」


「馬鹿言うな。まだ赤ん坊じゃろうが。そんな状態でここまで高精度の機械が作れるか?それにもし仮に作ったとして、お主の姿は今のイヴそっくりじゃないか。まさか赤ん坊が未来の自分の姿を予知したとでも言うつもりか?」


「いや、それは違うよプルアさん」


プルアさんは訳が分からぬ様子で私の方を見る。本当にそうなのかは分からない、有り得ないと思うような不気味な話だ。それでも私は自分の中の仮説を口に出す。


「あのグロテスクさん型の機械人形が作られた時…きっとまだ子供の姿だった。けど年月が経ち、成長したんだよ…!」


「はっ!?おいキャロ、お主正気か?機械が成長なんてする訳が…」


「したらどうする?」


くすくすと笑いながら、目の前の機械人形は告げた。


「元々人だって機械と差程変わらないんだ。脳というコンピュータは嬉しい時笑う、悲しい時泣くなんていうプログラムで動いている。僕ら機械が充電をするのと君のような人間が食事をする事に何の違いがある?バッテリー切れで止まるのと、寿命が来て止まるのは何が違う?魂がなんだと言うが、人も機械もボディーが壊れたら動かなくなるのは同じだろう?感情なんていうものも、状況によって思考回路を変更するプログラムによって僕は得ている」


「それは暴論じゃろう。仮にそうだとして、それだとイヴは人間を造り出した事に…」


「目の前の僕を見たら分かるだろう?成し遂げたんだよ、イヴは」


彼は楽しそうに頭を左右に揺らすと、少しづつ私達の方へと歩み寄って来る。


「人は何故機械を尊重しないのか。それは修理すればいくらでも直せるからだ。だがそれはきっと人間も同じ。僕らは創造主である人間が傍に居るから復活出来るが…君達の創造主は今傍に居ない。そうだろ?」


「………」


「だからこその、僕だ。この頭脳で世界の理を解き明かす事さえ出来れば、僕は人間にとっての神となれるんだよ。そうすれば正しく不死の世界だ。素晴らしいと思わない?」


「あの…」


「あぁ、ごめんごめん。話し相手なんて初めてで少しヒートアップしちゃったね。…まぁ、早い話イヴには自分の生活があるけど、生活なんて関係なくアイデアを実現し続ける事の出来る存在が僕ってわけ。それで?君達は何で来たのかな?」


グロテスクさんに似ているようで全く違う性格の彼に混乱しながらも、私は問いに答えた。


「今、朱色の魔石によって町全体が兵器と化している。だから私達は無限の動力ってものを壊して、あの暴動を止めに来たの」


「そんなの分かってるさ」


「えぇ…?じゃあ何で聞いたの…?」


「無駄話ってのも恋しくなるぐらい独りだったんだよ。それに君が嘘つきじゃないのは把握出来たしいいんじゃない?」


「待て。何故地上の様子が分かる?」


「ディンガを伝うエネルギーの動きを見れば分かるさ。そしてそれを止める為に誰かしらがここへ侵入してくるのも、予想が付いた」


「………」


「正直言ってねぇ…」


彼は足を放り、指をクルクルと回しながら話を続けた。


「僕、この騒動を止める事に反対なんだ」


「何でですか…!?」


「一科学者として見てみたくない?『この先はどうなるのか』、『世界に自分の発明は通用するのか』、『我が兵器を使った者は満足するのか』」


「人の命がかかってるんだよ…!?」


「興味無いよ。僕は自分の好奇心を何よりも優先する」


「…改めて分かりました。あなたは、イヴさんとは違う」


「それだけ生まれ育った環境ってのはその者の精神に影響を与えるって事さ。父さんが幼少期に見た戦争のせいで歪んだのもそうだろう?…もう一人のイヴが殺されたのも含め、必要な情報は集めててね」


「………」


黙る私達を前に、彼は背を向けた。


「それじゃ、行こっか?」


「行くって…何処へ?」


「気は乗らないけど、君達の目的の場所まで案内してあげよう。とは言っても、君達の望みが叶うとは思えないけどね」


「どういう…?」


「直に分かるさ」


彼は顔だけをこちらに向けると、少年のように笑った。


「是非御覧に入れよう。このイヴ・ヴゥイムの作った、最高傑作を」

本筋に関係無い話ではございますが…以前よりアクセス数が増えている事に喜びを感じている今日この頃でございます。書き始めたばかりの時は良い時で一日30アクセスだったのですが…最近は投稿した日には50を超える事も増え、何もしていない日でも20程度のアクセス数であり読んでくださってる方が増えているという事実に感動しております。

もう少し増えたら言おう…と思いその時は何も言っておりませんでしたが、初めてブックマークと評価をされた時は嬉しかったです。戒めとして残している失踪した過去作品にも評価をされはしましたが…兄の義理ブックマーク以外はされた事がなく、数日ニヤニヤしていたぐらい昂っておりました。

という事でブックマークや評価、感想などお待ちしておりますニコニコ。おっそこの兄ちゃん姉ちゃんカッコ可愛いね!良かったらしていかないかいニコニコ。…とは言ったものの、形にしなくても毎話この作品を楽しんで頂いているのであれば満足であります。

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