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少女は魔族となった  作者: 不定期便
機械は人間となった
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新人格

「向こうの通りは怪物の個体数が少なめです!安全ではないですけど、他の道よりかはマシな筈!」


「ありがとう!じゃあ一緒に行こう!」


「いえ、私は他の人達にも情報伝達しないと…」


「子供一人じゃ危ないよ…!?ってほらぁ!怪物が…!」


慌てる通行人のお兄さんを横目に、私は目の前に現れたディンガで造られた巨人に掌を向ける。


「『ロブ!!!』」


光線が放たれ、それをモロに受けた巨人は跡形もなくその場から消え去る。その光景を見てお兄さんは放心したように口を開けていた。


「なっ…こんな子供が護光砲さえ効かないあの怪物を一撃で…!?」


「ご覧の通り私は大丈夫です!ですからお兄さんは早く逃げて下さい!」


「…そうさせてもらう!でも気を付けてね!?」


「はい!」


そう言って彼は私が教えた道へと姿を消していった。こうして避難誘導と巨人の撃退を繰り返しているうちに、私は自分の身体に起こっているいくつかの異常に気が付いた。


一つ。魔法を放つ度に、体内の何かが消えていく感覚を覚える。きっとこれがリィちゃんの言う魔力なのだろう。まるで水一杯だった水筒から水を少しづつ零しているかのような、そんな感覚だ。そしてその水が少なくなればなるほど絞り出して放つ事が難しくなる。つまりは魔法を放つ為のエネルギーが枯渇していっているのだ。


二つ。私が思っていた以上に、私の魔力が凄まじいという事。…いや違う。恐らくは私が飲み込んだ白の魔石の影響だろう。私の使う光線の魔法は村を滅ぼした護光砲を模したもの。故に護光砲の効かぬ巨人達には無力なのでは…と心配していたが想定以上の火力で無事撃退する事が出来た。私の持つ『破壊』のイメージを、白の魔石と溶け合った私の身体が何倍にも増幅させて放っているのだ。


そして最後に三つ。魔法を放つ度、魔力が抜けていく感覚と共に何だか身体が軽くなるのを感じる。常に成長を続けているかのような、自分とは思えない程身体能力が向上し続けているのだ。その感覚は何とも軽快ではあるのだが、同時に妙な不安さえ感じる。


「やっぱり…プラントさんの言う通り、普通じゃなくなってきてる」


紙のように軽い身体に違和感を感じていると、視界の端で黒い何かが動いた。


「キャロ。そっちはどう?」


「リィちゃん!ぼちぼちだよ。巨人は七体、避難誘導出来たのは十二人」


「こっちは九体撃退。けどそろそろ限界が近い…からここからは多分、アカマルとクママルに任せる事になりそう」


「私もあと数発が限界かな…ってあの熊さんの名前クママルになったの?」


「適当」


「そっかぁ」


「とりあえず私達もそろそろ避難しよう。魔力切れを起こしてる以上、ただの子供が居ても約立たず」


「だね」


話し合いを終え、二人で一緒に移動しようとした時であった。少し離れた地面が妙な音を立てている事に、私は気付く。


「…あそこからまた新しい怪物が出てくるかも。リィちゃん、気を付けて」


「ん。分かった」


動きながらも、音を立てる地に目線を向けながら私達は注意深く移動する。するとやがて目を向けていた箇所は小さく震え、ついに動き出したのであった。しかしそれは私達が想像していたようなものではない。


町を闊歩する巨人達と同じく、ディンガで作られた肉体。だが形成されたその形は人型ではなかった。まるで蜘蛛のような形状のそれは、町に来た時目にした空飛ぶディンガのようにふわりと宙へ浮かび上がった。そして青白く光るその八本の足をこちらに向ける。


「あの構え…光…光線を打つ気!?」


「先手必勝。『ダーク』」


リィちゃんがそう唱えた瞬間、空飛ぶ蜘蛛の周りを闇が包む。今までならば、為す術なく闇に飲み込まれていた筈だ。しかしその赤色の姿は一向に消えない。


「…参った。あの蜘蛛ディンガ、アカマルと一緒に倒した機械人形と同じで魔法を無効化する機能が備わってる」


「そうなると私達子供じゃ太刀打ち出来ないね。アカマルか熊さんに直接物理攻撃で倒して貰わないと…」


「その二人の元へ行く事すら厳しいかも。見て」


元々蜘蛛が居た地面をリィちゃんは指差す。元々あったディンガが蜘蛛となっている以上、そこにはぽっかりと穴が空いていた。そんな穴から這い出でる無数の手に私は肝を冷やす。


穴からは…私の村を滅ぼした、土と真珠で作られた巨人達が現れたのだ。彼らは目の無い顔でこちらを見ると一歩、また一歩とゆっくりな動きで迫って来る。故郷の仇とも言える存在の登場に、足が震える。


「パールマッド…!」


「周りをよく見てみれば、色んな所であの蜘蛛が浮いてる。その分パールマッドも各地で出現してるって考えていいかもね。そうなると確実に、人手が足りない」


「どうしよう…ナイトステップで逃げる事は出来るけど、そうなると被害は増える一方だよ…?」


「私達の手に負えないかもしれない。どちらにせよやれる事が無いなら、一旦ここは引くべき」


「でも…」


「早く!光線が来る…!」


ハッとして私は横に転がる。すると私達が元居た場所には光線が放たれ、地面にはぽっかりと穴が空いた。リィちゃんの忠告が少しでも遅れていれば今頃、私は塵すら残さずこの世から消え去っていただろう。命の危機に、私の心臓はドクンと鳴った。


だが息付く間もなく、パールマッド達は私達を囲うように向かってきている。魔力の枯渇によりナイトステップもそう何度も使う事は出来ないだろう。ここからアカマル達の元へ行くには距離がある。使わないに越したことはないのだ。


だが、今は使うしかない。二人分のナイトステップが上手くいくかは分からない。しかしやらねば終わると理解しリィちゃんに手を伸ばした時であった。


空を飛ぶ蜘蛛が、突然大剣に貫かれた。


「…え?」


バチバチという音を立てながら蜘蛛は地面に落下する。複数のパールマッド達を巻き込みながら爆散する機械を前に、蜘蛛を貫いた大剣は意志を持つかのように空中を動き回っていた。よく見てみればその大剣には複数のコードが絡み付いており、それは更に遠くに見える一つの影から伸びている事に気が付いた。


そして大剣を自身の元へ引っ込めると、その影は地面へと着地する。そしてその灰色の指を五本とも動くパールマッド達に向けると、彼女は言い放った。


「『ポイズンフィッシュ』」


彼女の五本の指からそれぞれ、緑色と紫色をした二種類の魚型の光が現れる。その魚達はどんどんと数を増やしながら空中を泳ぎ、目の前に立つ全ての巨人達に向かって突撃していく。そんな魚に触れた箇所から巨人達は変色しながら溶けていき、数体の魚に触れただけで最早原型が無くなるぐらいどろどろに溶けてしまったのだった。


そして私達を囲む巨人が全て溶けた時、全てを一掃したその人は私達の方へと歩き始める。圧倒的な実力を持つその人物を…私達は知っている。


「機械人形…?」


「その呼び名は辞めい。ワシにはプルアという立派な名前がある」


「何で私達を助けてくれたの?それに、壊れた筈じゃ…」


「直されたんじゃよ。そしてその過程で新たな命令がインプットされた。それだけの事じゃ」


「…でも脳を手に入れて、命令を効かなくなったんじゃないの?」


「今も反発しようと思えば出来る。ただ、そうする気が起きなくなったって事じゃな」


「どういう事?」


プルアはまるで人のように空を見上げ、息を吐きながら語り始める。


「ワシの人格は元々あったウェハヤという者の人格、そして後に吸収したミチバという老人の人格が混ざり合っていたんじゃ。だが…アダムによってボディーが破壊され、意識というものは完全に無くなった。そしてその後修復されたワシにはウェハヤとミチバの記憶こそあれど、彼らの想いは消えた。後から吸収した新鮮な脳であるミチバの方に口調は引っ張られているが…ワシはそのどちらにも属さぬ、全く新しい存在じゃ」


「つまり…さっき戦った人とは別人って事?」


「ボディーは同じじゃが、そうなるな。二つの記憶を元にしただけの自立思考型の機械でしかない」


「味方…として認識していいんだよね?」


「ディンガの暴走を止めるのが新しく与えられた命令じゃ。それを邪魔しないのならば、ワシは味方じゃ」


その言葉に私とリィちゃんは顔を見合わせる。願ってもいない頼れる増援に希望が見えてきたのだ。諦めかけていた私達であったが、まだまだ頑張れるという事実に胸が踊る。


「プルアさん、聞いて!あっちの方向にアカマルと熊さんが居るからあの人達と一緒にディンガの怪物達を…」


「いや、それだと途方もない作業量じゃ。ワシは直接、この町のディンガを動かす動力源を叩く」


「そんなのがあるの…!?」


「この町の地底にはかつてイヴが作った『無限の動力』がある。あまりの技術に見様見真似でも複製出来なかったものじゃが…今更そんな事は言ってられないじゃろう。それを破壊せねばこの町は止まらない」


彼女がそう言うと、今まで黙っていたリィちゃんが口を開いた。


「この町は全てディンガで作られてる上に、空さえもディンガが覆ってる。そんな状態で動力源を壊したらどうなる?」


「建物は皆崩れ、空から落ちてくるディンガ達の下敷きになるな」


「…それじゃあそれまでの間に、避難は完璧に済まさないとね」


「そういう事じゃ」


リィちゃんは私の方を向く。


「キャロはプルプルと一緒に地下に行って」


「え?何で?」


「町全体の動力源なんていう大切な場所なんだったら、プルプルなんて最強の兵器が暴走した時の事を考えてない筈がない。プルプルに対する対策も施されていないとおかしい」


「確かに…それに私の魔法は破壊に向いてるから、色々力になれるかも」


「それ以前にワシはプルプルじゃなくてプルアだがな?」


「私は今からアカマルの所に戻って、戦闘による制圧じゃなくて避難を優先するように伝えてくる。二人が仕事を終える頃には避難も完了してると思う」


「分かった。…ありがとう、頼りになるよ」


「任せて。キャロもしっかりね」


「うん!」


何を言うでもなく、同時に差し出した手を互いに掴む。そんな私達を横目にプルアさんは言った。


「よし、それじゃあ地下へと行くぞ」


「分かった。でもどうやって?」


「行き方は知らん。だから強行手段で行くぞ」


「強行手段…了解!」


リィちゃんから数歩離れると、私は地面に掌を向ける。


「『ロブ!』」


放たれた光線は地面を消し、遥か深くまで続く一つの穴を残した。それを見て満足そうにプルアさんが頷くと、彼女は言う。


「行こう。ワシが衝撃を受けるから、背中に乗れ」


「はーい。じゃあまた後でね!リィちゃん!」


「行ってらっしゃい」


プルアさんは私を背負ったまま、その深い穴へと飛び込んだ。

口調のせいで忘れかけますが、プルアは女性型ロボットです。最初期は思考を持たないロボット(グロテスクの父、ウェハヤの脳こそ使用されている)、その後は思考を持つロボット(ミチバとウェハヤの思考が混ざっている。死んでから時間が経ったウェハヤの脳より新しいミチバの脳が主軸)、最後はどちらにも属さない全く新しい人格のロボットとなりました。そこで、一つの疑問が生まれます。

元々のプルアは男性×男性の人格だったので、紛うことなき男性です。ですが今の全く新しいプルアの性別はどちらなのでしょうか?男性二人の脳を使ってはいますが、何の関係性もない全くの別人としての意識を持っているので一概に男性とは言えません。

見た目は美少女の男の娘か…老人口調の女性か…どっちにするかと悩んだ末、私は決断致しました。

そもそも機械に性別を求めるのが間違いだと。プルアは男性であり、女性でもあるという結果で良いのではないでしょうか。それでも納得出来ない方は男の娘か老人口調の女性、好きな方を選んで下さい。あなたが想像しているものが真実です。

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