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少女は魔族となった  作者: 不定期便
機械は人間となった
21/123

機械が得たもの

「『デスウィンドカッター!!!』」


アカマルがそう叫ぶと、空中に複数の半月のような形が出現する。それらの半月は空を切る音と共に目の前の機械人形を切り裂こうと飛んで行く。


「『デスサンダー!!!』」


追い打ちに雷撃が機械人形に降り注いだ。風の魔法で切り刻まれ、雷の魔法でその身を焼かれる。筈である。しかしそんな攻撃を受けても尚目の前の機械人形は変わらずに立っていた。


「ははっ…本当に魔法が効かねぇや」


そう言って笑うアカマルの頬には汗が伝っていた。物理攻撃も、魔法も効かない。そんな者を相手に戦いようがない。


「どうしよう、アカマル」


「…逃げるにせよ、ここはアイツの魔法の領域内だ。何とかするしかねぇよな」


「どうする?三人で謝ってみる?」


「案外『こっちこそごめん』ってなるかもしれねぇな!がはは!」


「二人とも真剣に考えてる…?」


「いや?」


「真剣なんて言葉、私は知らない」


「それぐらいは知っておいて欲しかったよ…もう…」


ため息をつき、目の前の機械人形を観察する。


「アンチマジック…その魔法を使ってから受けた魔法をかき消すようになった。けどその代償か、動きはかなり消極的になったね。出来るだけ動かないようにしてる風に見える」


「それは多分内蔵バッテリーの問題だろうな」


「バッテリー?」


「…田舎者は知らねぇか。まぁつまりは機械を動かす為の動力源だ。恐らく魔法を使ったり動いたりする度に消耗し、あの魔法無効の魔法を使ってる最中は消耗が激しくなるとかだろうな」


「じゃあ、待てば勝手に自滅するって事?」


「とはいえ、今のは憶測でしかない。それに色んな奴の魔法を奪ってるような奴だ。バッテリーがあったとしてそれを充電する術が無いとは考えずらい。もし私の推測が正しいなら消耗しすぎて不意に充電切れになるのを防ぐ為、どうせ無敵なんだから一応節約してるってとこだろ」


「そっか…それじゃあ結局どうにか対策を考えるしか…」


そんな事を話していると、それを聞いていたのか機械人形は口を開いた。


「話し合いは終わったか?そろそろ…殺すぞ」


「もうちょっと待って。今アカマルとキャロが作戦考えてるから」


「リィちゃんも考えて?」


「…待つ必要性が分からんな。ボディーはあの天才イヴが作成した最高傑作。そして魔法は何十人もの人々の力を合わせたもの。お主らにワシを倒す事は出来ない」


「え?」


発せられた言葉に、私は目をぱちくりとさせる。


「イヴが作成したって…グロテスクさんが作ったものなの!?」


「この老人の記憶によるとそうらしいぞ。どうやらこの町の住人全員が知っている事のようだ」


「こんなの…何の為に…?」


「…面と向かって存在意義を疑問に抱かれては心外じゃな」


「へっ、ジジイの脳みそを手に入れて一端に感情が芽生えたか?」


怪訝そうな顔をする機械人形を前に、アカマルは両手をパシンと叩いた。


「感情があろうがなかろうが関係ねぇ。お前をボコボコのスクラップにしてやるぜ!覚悟しな!」


「愚かじゃな。その方法が分からないのではないか?」


「いーや?予言してやるぜ、お前は瞬殺される!あっさりとな!」


「…戯けが」


魔法を使おうと、機械人形は構えをとる。余裕そうに笑みを浮かべるアカマルに私は小さく尋ねた。


「ねぇ、本当に倒す方法を思いついたの?」


「鬼は嘘付かないぜ。いいか?お前らは距離置いて見てろ。私様が攻撃を通すチャンスを作るから、後は何となく勘で頑張れ」


「そんな投げやりな!?」


「まぁすぐに意図は分かる。とりあえず待ってろな」


そう言い残し、アカマルは機械人形の元へと駆ける。そんな彼女を見過ごす筈もなく機械人形は魔法を唱えた。


「『サウザンドアロー』」


そう唱えた瞬間、ハリネズミを思わせるような無数の紫色をした針が機械人形を包む。そしてそれらの針は全て迫り来るアカマルへ向けて発射される。


「『デスエアーバレット!!!』」


アカマルが人差し指を前方に向けると、指先から透明な球体が発射される。その球体はとてつもない風圧で無数の針を弾き飛ばすと同時に、機械人形へ直撃した。魔法の効かない機械人形にとってなんて事はないが、自身の魔法が防がれた事に少し苛立った様子だ。


「流石じゃな…やはり鬼としては不可解な程の魔法量。他人の魔力を我が物にしてきたワシの魔法を上回るとは…」


「万策尽きたか!?」


「…そんな訳がないじゃろう。『サモンマッドゴーレム』」


アカマルの進行上に、私の村を滅ぼした者より一回り小さな泥人形が生み出される。それも、四体。彼らはその体格差を活かして目の前の標的を叩き潰そうとするが、彼らの拳よりアカマルの拳の方が強かった。泥人形達は軽快に崩れ去る。


「どうしたどうした!そんなへっぽこ魔法じゃ私は止まんねぇぜ!?やっぱりジジイ程度の知性じゃそんなもんか!」


「…そこに直れ。今、直接殺す」


「へっ!」


とうとう目の前まで接近してきたアカマルに、機械人形は右手の拳を突き出した。その拳はアカマルの頬をかすり、小さな傷を残したがお構い無しにアカマルは笑った。


「無理すんなよ!ジジイの身体で私を倒せると思うか!?老人の身体を使ってまで挑むとは、無謀ったらありゃしねぇ!」


「いい加減黙れ…アカマルゥ!」


機械人形の下段蹴りを躱し、アカマルは後方へと跳ぶ。そしてそのまま左の掌を機械人形に向けた。あれはそう、魔法の構えだ。


それを察した機械人形はアカマルの方へと踏み込む。そして両方の拳でアカマルの腕を折ろうと胸前で叩き合わせようとすると、アカマルはニッと笑った。


「皮肉なもんだな…理性を手に入れた代償に、怒りを露わにして挑発に乗る事となるとは」


「何…?」


「『デスウィンド』」


彼女がそう唱えた瞬間…突き出していたアカマルの左腕は切断された。アカマルの顔が苦痛に歪む中、上腕から離された前腕はそのまま風の魔法で宙を舞った。


「お主…自分で自分の腕を!?正気か!?」


「っ…!痛てぇえぇえ!!!…はぁ、衝撃無効じゃなくて反射すんならよ…反射先も反射すんならどうなんだ?」


「…はっ!」


両サイドからアカマルの腕をへし折ろうと迫り来ていた拳。しかし突然切断された腕は無くなり、二つの拳はそのまま互いにぶつかった。その結果、機械人形の動きは止まる。


「まずい…!衝撃が反射し合って…!」


機械人形がそう言い終わる瞬間、反射の負荷に耐えきれなくなった彼女の両腕は暴発した。黒い煙がアカマルと機械人形の二人を包む中、私達は機械人形の腕が地面に転がる音を聞き逃さなかった。


「リィちゃん!」


「分かってる」


私とリィちゃんは一目散に走り出す。アカマルが生み出してくれたチャンス、それを無駄にするもんか。彼女が言っていた好機とはこの事なのだ。


そんな私達を、煙越しに二つの白色の光が睨む。


「ふざけおって…あの世へ送ってやる…!」


「キャロ、来る!」


煙を晴らしながら、二つの大きな影が天高く伸びていく。機械人形の背中から生えた二本のそれは全て桃色がかった白色の真珠で構成されており、きらきらと光を反射しながら大蛇のような大きな口で天へと吠えた。そしてその口を私達に向けると、口の中から光が溢れ出る。


「『スケアパール…トライビナル!!!』」


その瞬間、大蛇の口から光線が放たれた。私の村を滅ぼし、私が唯一使える攻撃魔法と同じ、全てを焼き尽くすような光線。その光線は私達を消し去ろうと無慈悲に飛んできていた。


だが、上向きに放たれた炎の玉に掻き消される。それはまるで太陽かのように、その巨大な身体で凄まじい熱気を放ちながら空へと消えていった。


「…っ!アカマルゥ!!!」


「へっ…私の持てる全力だ。ざまあねぇな…」


「アカマル!ありがとう!」


「行ってこい…ガキ共!」


私は機械人形の左腕を、リィちゃんは右腕を拾い上げる。そして担いだその腕で、機械人形の前まで迫った。


「やめろぉぉぉぉぉお!!!」


「…ジジイが死んだ時、そんなみっともない叫び声はあげなかったぜ」


私は胴体を、リィちゃんは顔を持っていた腕で叩く。するとアカマルが自分の腕を切った時と同じように、腕と機械人形の身体で反射作用が起こった。


その結果、爆発が起こった。爆風に巻き込まれ地面を転がる私達だったが、直ぐに顔を上げて状況を確認した。すると、そこにはピクリとも動かないまま膝をついて座り込む機械人形の姿があった。


「止まっ…た?」


「お前ら、よくやったな」


うつ伏せに倒れ込む私達を見下ろして、アカマルは豪快に笑う。そんな彼女の右手には、切断された自分の腕が握られていた。


「アカマル…その手…」


「ん?おいおいキャロ、気にすんなよ。鬼は人間よりも強いんだ。適切な処置をすれば三時間ぐらいでくっ付いて元に戻るだろ」


「そっか…ちょっと安心した」


「…今馬鹿程痛ぇんだからな?怪我人を前に安心すんな?」


「大丈夫、唾付けときゃ治る」


「リィハー、てめぇ大怪我舐めんなよ?」


「いや、そのまま舐めないよ。自分の指を舐めてから唾付ける」


「そういう舐めるじゃねぇんだよ」


戦いが終わり、充満する魔法の匂いが消えて行く事に余程安心していたのだろう。私達はやり切ったように笑いあった。流石にもう、終わったと信じていたのだ。


…動かなかった機械人形の目に、光が戻るまでは。


「ワシ…は……し、な…」


「…っ!?コイツまだ…!」


「やるべき…こと…が…」


ばさりと、真珠で作られた羽が機械人形の背中に生えた。早くとどめを…とアカマルが一歩踏み出そうとした瞬間であった。機械人形は空へと羽ばたき、そのまま飛び去った。


「アイツ…!追うぞ!」


「待って!アカマルは行かないで!私達が行く!」


「キャロ…!?」


「その腕、早く手当てしないともうくっ付かなくなる。だからアカマルは手遅れになる前に治療に専念してて!」


「でも…あのロボット野郎の相手を…」


「アカマル、王様命令。キャロの言う事を聞きなさい」


「…チッ、わぁーったよ。幸いアイツはスクラップ寸前だ。殆どの機能も失われているだろ。…だが、無理すんなよ?」


「うん!行ってきます!」


「あぁ…」


「アカマル…帰ったら沢山手押し相撲しようね」


「気の使い方独特かよ。良いからリィハーも早く行ってこい!」


「はーい」


アカマルを置いて、私とリィちゃんは空を飛ぶ機械人形を追いかけた。

アカマルは粗暴に振る舞い、感情のまま言葉を発します。そんな彼女の言葉にミチバさんが唯一怒ったのが『そんな知性があるようには見えない』という発言でした。だからこそ今回、煽る時彼女はコンプレックスであろうその言葉を発したのです。ほぼ別人とはいえ、同じ脳を使っている訳なのですから。

結論、皆様は煽るような言動やコンプレックスを弄るような行為はやめましょう。守らない人はアカマルになってしまいますよ。

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