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少女は魔族となった  作者: 不定期便
機械は人間となった
20/123

末代まで呪う

「はっ…?」


目の前で起きた出来事を理解出来ない私が居る。あまりにも突然に、しなしなの老人からとは思えない量のおびただしい血液が辺りに飛び散る。上半身と下半身の接続が無くなり、それは力無くその場に倒れ込んだ。


「おい、ジジイ…ジジイ!返事しやがれ!何でっ…!」


光を失ったジジイの目は静かに私を見ていた。…いや、恐らくもう見てさえいないだろう。意識はもうとうに失われている筈だ。


知っていた。ここは命が簡単に失われる、そんな世界だと。だが非力な老人が意味も分からず一瞬で殺される現実に、私は歯を食いしばる。


「何なんだよ…お前!」


がざがさと、下半身を失いながらも機械人形は必死に這いずる。魔法の香りによって誰にも認識されない世界。ジジイを殺す事が出来たのは、コイツだけだ。


機械人形からまるで蛇のような動きでこちらへとケーブルが伸びる。そんなケーブル達を足で踏み潰すと、表情を変えない機械を睨み付ける。


「お前は何で造られた?一体何を目的として設計された?何の命令で動いている?」


「………」


「…だぁああああ!ごちゃごちゃ考えるのは私様らしくねぇ!良いか?壊すからな!恨むなよ!じゃあな!」


そう言い残し、頭部を踏み潰そうと足を上げた時であった。聞き慣れた声が、私の耳に入ってきたのだ。


「アカマルよ…お前に、ワシの好きな言葉を贈ろう」


「…ジジイ!?」


死んだと思っていたジジイの声に、思わず私は振り返る。しかし私はそこでそう簡単に現実は覆らないと、残酷な事実を改めて思い知らされる事となった。


「なんだよ…」


「アカマルよ…お前に、ワシの好きな言葉を贈ろう」


「ふざけやがって…!」


地面に倒れたジジイの上半身。その身体には機械人形から伸びたケーブルが絡み付いていた。脳を直接操作しているのか、ジジイは死んだ目でパクパクと口を動かしていた。


「ジジイの好きな言葉も…!もう聞けやしねぇんだよ!!!」


感情的に叫び、機械人形を潰そうとした瞬間であった。その無感情の表情に突然、割れ目が生まれた。いや、顔だけではない。彼女の身体全体が小さな四方体となって宙を漂っているのだ。踏み潰せたのはせいぜいその中の数十個。残りの四方体は虫のように宙を舞い、ジジイの死体へと群がった。


「何だ…?今更何を…」


無数の四方体へと分裂していた身体は、再び融合し一つの形を作り出す。ただし、ジジイの肉体を巻き込んで。ジジイの下半身を軸に四方体達は肉体を形成し、やがてそこには上半身は鉄の肌の女性であり、下半身は生身の老人という不完全な存在が立っていた。


そんな不完全な機械人形はジジイの上半身へと近付くと…頭部を捕食し始めた。


「なっ…」


「………」


「コイツ…きめぇ……死体を欠けた肉体として利用した上に、その死体を食ってやがる…」


「何じゃ、きめぇとは失礼な」


「っ!?」


その老人口調に思わず目を見開く。今口を開いたのは…目の前の機械人形だ。現にその声だって機械感を感じさせる女性の声だ。だがまるでジジイが機械人形に憑依したかのように、不快な気分にさせる。


「何度もジジイになり切って喋るな。分かってんだよ…もうジジイが死んだのはよ!割り切ってんだからいちいち突っ突くな!」


「仕方ないじゃろう。この機械人形は人の上位互換とも言える存在じゃ。だが、脳にあたる部分だけは造られなかったのだからな。…初めて、脳の成分を吸収し擬似的な脳を作成する事に成功したのじゃ」


「…脳を作られなかった?」


「とある命令のみをインプットされ、その通りに動くしか能がなかった。考えを持たぬ方が使い勝手がいいのか、何故脳を与えられなかったのかは気になるがな。この老人の記憶にもそれらしい情報は無い。残念じゃ」


「今まで脳が無かったんなら何で命令をインプットされたって自覚があんだ?記憶や考察能力もない筈だろうが」


「む、確かにそうじゃな。妙だ…」


「…私は機械野郎と議論を交わす為に来たんじゃねぇんだよ」


いっちょ前に人らしく考え込むようなポーズをする機械人形を前に、私は拳を握る。


「キャロの村を滅ぼした奴を探しに来たんだよ!魔族を作り出す程の技術者…お前を造った奴と同一人物だよなぁ?」


「キャロ…同行していた白髪の子供か。魔族を作り出す云々は初耳だが、そんな事が可能な者はそう居ないじゃろうな。…まさかワシを壊してその足掛かりを入手するつもりか?」


「半分正解だぜ。機械のてめぇなんざには分からねぇかもしれねぇが…」


「………」


「人間らしく、『敵討ち』をしてやりてぇ気分なんだ」


「魔族が何を人間らしさに拘っておるのじゃ」


「そっちこそロボット野郎が何ジジイの身体使ってんだ!てめぇが一番人間になりたがってんだよ!」


「…否定はしない」


「素直で良かったな!下手に反論してれば舌噛みちぎってたかもな!」


私は機械人形に向かって飛びかかり、右手の拳を強く握る。そして機械人形へと接近した私はそのまま拳を彼女の頭部へと振り下ろした。


ガン!と軽快な音が鳴ると共に、その痛みが私の手へと跳ね返る。


「ワシに打撃が効かん事を忘れたか?」


「ったぁ…!わざとだこの野郎!効かなくても一発ぶん殴ってやりたかったからな!」


「そうか」


「こっから本腰入れてぶっ壊すからよ…!心配すんな!」


自身の腰付近にて構えてた左手を、目の前の機械人形に向かって突き出す。すると左の掌から生み出された無数の氷柱はまるで滝のように機械人形へと飛んで行く。その物量に機械人形は部品やら血液やらを散らしながら空中へと押し出された。


「空中散歩は楽しいかぁ!?楽しかろうが楽しくなかろうが叩き落としてやるよ!」


「…ほう」


「『デスマッドハンド!!!』」


宙を舞う機械人形の横に、何の前触れも無く土の塊が出現する。その土達は巨大な拳の形に固まり、そのまま彼女を地面へと叩き付けたのだった。流石に効いている筈なのだが…それでも機械人形は立ち上がる。


「チッ、しぶてぇな…!」


「成程…魔法を使える鬼という異質な存在なだけでなく、魔力量も常軌を逸している。並の魔道士では到底敵わない」


「ふっ、私様は最強だからな!腕力も魔力も兼ね備えている!」


「じゃが…」


機械人形はその白い瞳をこちらに向ける。


「お主…魔法は得意ではないのではないか?」


「………」


「簡易魔法、というものを知っておるな?これは魔法の基本となる魔法。つまりは誰にでも苦労せず扱えるシンプルな魔法じゃ。火を生み出す、水を生み出す、氷を生み出す、電気を生み出す、風を生み出す、土を生み出す。やる事が単純な分、思想や技術がなくとも魔法使いなら誰にでも扱える」


「あぁ…そうだな。魔法学校に行って最初に教えられるような事だわな」


「簡易魔法に慣れ、魔力の動きを掴み始めたならば後はより高等な魔法の会得へと入るものだ。独自の持つ哲学的考えを元に、魔力を動かして魔法というものは作られる。他人の書いた魔導書を元に魔法を会得するよう努力を重ねる。そういった過程を踏んで一流の魔道士というものは生まれる」


「………」


「お主、簡易魔法しか使えないな?」


そう言われた瞬間、心臓が跳ね上がった。動揺が顔に出ていたのか、彼女は満足そうに目を細めた。


「驚きじゃな。お主程の熟練された魔法使いが、基本以外の魔法を扱えんとは。それ程の魔力操作技術を持つのに、何故じゃ?」


「うるせぇな…簡易魔法だけでも使えりゃこっちのもんなんだよ!バーカ!」


私は左手を前に突き出した。


「『デスフレイム!!!』」


全てを焼き尽くすような、真っ赤な豪炎が掌から放たれる。災害ともいえるその魔法を前に、彼女は落ち着き払っていた。


「『ウィンドホール』」


彼女がそう言うと、機械人形の前に空を切る音を鳴らす小さな空気の歪みが生まれる。見た目はどう見てもしょぼい魔法。しかし豪炎がその歪みに触れるや否や、風に吹かれたように跡形もなく消え去ってしまった。


「チッ…『デスアクア!!!』」


「『サモンメタリックゴーレム』」


豪炎と同じように生み出した巨大な水の渦も、彼女が出現させた金属製の人形に受け止められる。冷や汗を垂らしながら焦りのあまり次の魔法を出そうとした私に、機械人形は言う。


「ワシはこの国に住む者達が持つ魔法、その全てを奪っておるんじゃぞ。星の数程の魔法を使えば簡易魔法程度簡単に対処出来る」


「クソッ…」


「そして、こんな風に簡単にとどめを刺す事も出来る」


機械人形は、小さく口を開いた。


「『ノーワンエスケープ』」


次の瞬間、身体の動かなくなった。対象の動きを止める魔法かと思ったが、少しずつ手足が勝手に動いている事に気が付いた。私の肉体は私の意思とは反し、妙な動きをする。その動きとは私が先程までしていた様々な構えであった。


「この魔法は対象の動きを巻き戻す魔法…これで抵抗は出来んな」


「…!」


口を開こうにも、身体が言う事を聞かない。一言も発する事が出来ずただなすがまま隙を晒す私に、機械人形は掌を向けた。


「では、この魔法の持ち主の要望通りにお前を溶かしてやるとしよう」


「…!」


「『ポイズ…』」


「ダメ!!!」


「そこまでだ。…キリッ」


聞き覚えのある二つの可愛いらしい声が辺りに響く。思わぬ存在の登場に、安心感からか涙腺が脆くなった。


「『ロブ!!!』」


「『ダーク』」


私の背後から放たれた光と闇が視界を奪う。それらのものが晴れた時、離れた場所でガタが来たように小刻みに震える機械人形の姿が目に映った。


私は魔力を込める事により巻き戻しの魔法を解除すると、思わず口角を上げながら背後を振り返った。


「キャロ!リィハー!おめぇらどうやって私様達を認識出来たんだ!?」


「前にもこの匂いを嗅いだから…近くに来て匂いに気付いた時『何かが起こってる』って分かったの。だからこそ、アカマルの事を認識出来たんだ」


「マジで助けられたぜ!ありがとよ!」


「たまたまこっち方面に来てなかったら気付かなかった。散歩コースを決めた私を褒めて」


「リィちゃん偉い」


「へへ」


そんな話をしていると、遠くに立つ機械人形がこちらを見た。彼女は震える身体で一歩を踏み出すと、震える唇で言葉を紡ぐ。


「キャロ、リィハー。お前達も魔法使いか…」


「え?…何で私達の名前を?」


「決まってる、王様だから有名になった」


「仮にそうだとしても私は王族じゃないからね…?」


「…じゃあ以前からの隠れファン?」


「あんなロボットのファン居るかな…?」


「お前ら、気を抜くなよ」


のんびり話す二人に、私は忠告した。


「アイツ、物理攻撃が効かない。受けた衝撃を反射すんだ。だから私様達の魔法で仕留めるぞ」


「えっじゃあ雪合戦最強って事?良いな」


「あ?雪合戦は雪を喰らいながら相手を叩きのめすのが楽しいんだろうが」


「私は雪玉喰らいたくない。安全圏から好き放題してやりたい」


「安全圏に居る奴って妙に倒したくなるよな」


「私に雪玉当てたら末代まで呪うよ」


「二人とも雪合戦の話はもういいんだよ!」


のんびり話す私達二人はキャロに怒られてしまう。そうだ集中せねばと前を向くと、今まで無表情だった機械人形は不気味に口角を上げていた。


「さて…それじゃあギャラリーも増えた所で、面白いものを見せてやろうか」


「あ?面白いもんだぁ?」


「お主…魔法以外で攻撃は通らないと言ったな」


不敵に笑うと、機械人形は呟いた。


「『アンチマジック』」

前回は真面目なシーンで終わっていたので黙っておりました。喋りたがりの作者でございます。

物凄くどうでも良い小話なのですが…キャロはシンシャさんと最初に出会った時親友であるテトの真似を、リィハーは今回助けに来た時アダムさんの真似をしておりました。二人とも真似したがりで、気の合う友達。…本当に気が合うだけなのでしょうか?

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