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少女は魔族となった  作者: 不定期便
精霊は罪人となった
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追い詰めた

意味が分からない。多少予想外の事はあったものの、ぼくはこうして現在この研究所内に居る者の中で最も秀でた身体を手に入れた筈だ。元々仕えていた闇魔法に加え、ロブという全てを焼き尽くす魔法も使えるようになった。今なら誰にも負けない自信はある。


それなのに…何故、ぼくはあのキャロとかいう餓鬼に追い付けない?


「訳が分からなそうだね」


「チッ…!」


声のした方へ回し蹴りを食らわせる。だが…いくら俊敏な動きであったとしても空を切るばかりでキャロに当てる事は叶わない。ふつふつと湧き出る怒りに思わず拳を強く握ると、再び彼女の声がした。


「闇の中を移動する魔法、ナイトステップ。そして今の私は実体を持たない闇そのもの。身体の一部分を切り離し、ナイトステップで闇である『自分自身』の中へと潜り込み、切り離した闇の中から姿を現す。その移動法の連続にあなたは翻弄されてるの」


「くそが…!なら先回りして攻撃を仕掛けるまでだ!」


「あなたの周りには既にいくつもの闇が漂っている。それに私には闇に潜らない選択肢もあるの。それを見極める事が出来るかな?」


「クソっ…クソクソクソッ…!だがてめぇも逃げ回ってるだけじゃなんともならねぇぞ!攻撃してこい!その時にカウンターを食らわせてやるよ!」


「そう」


攻撃を止めると、ほんの一瞬その場に静寂が訪れた。何処から来ても対処出来るようにぼくは構え、周りに浮かぶ闇へそれぞれ睨みつける。いくら向こうが翻弄してきても身体能力ではこちらが上の筈なのだ。必ず、反撃が間に合う。


しかし…向こうは仕掛ける様子を全く見せなかった。


「はんっ、このぼくにビビってるのか?臆病者めが!」


「へい、キッズ」


ぼくの名を呼ぶその声はキャロのものではなく、少し離れた場所にて倒れ込む人物の声であった。下半身を失い上半身のみとなったぼく、いや、ぼくの身体を借りた精霊ミィは楽しそうな目でこちらを見つめていた。


「君、もう降参した方がいいワン」


「あぁ…?外野は黙ってろ!ぼくの頭脳とこの肉体、更には魔法まであるんだ!ぼくの勝ちは揺るがない!」


「ふーん。ま、良いけどにゃあ」


「くそが…!」


挑発とも取れる彼の発言にただでさえ煮え滾っていたはらわたが更にグツグツとマグマのように燃え上がる。このぼくが負けるだなんだの、冗談じゃない。全てはぼくの計画通りに進んでいる筈だ。


そう思っていた。ぼくの両腕が突然、風船のように破裂するまでは。


「は…?」


破裂した腕の中から大量の透明な宝石が溢れ落ちる。あまりにも突然すぎる出来事に痛みを感じる暇もなく、思考を回す。この宝石はなんだ?どうしてぼくの体内から?そんな疑問を感じていたが…すぐにその理由に気が付く。


「あの餓鬼…またタグの魔法で空気と入れ替わりやがった!そして空気から魔石を生み出す力でぼくの体内にある酸素を使って体内から明澄の魔石を生み出しまくったんだ…!」


「正解だよ」


いつの間にか、再び闇と入れ替わったキャロが目の前に立っていた。彼女は少し切なげな面持ちで無くなった両腕を見つめる。


「さっきお母さんに身体を貫かれても治ってたって事は、治す方法があるんだよね?もし無かったらごめんね」


「ぐ…『ダーク』」


魔法で生み出した闇を操り、腕の形にして両肩にくっ付ける。するとどうだ、たちまち闇は何の変哲もないただの腕へと変貌した。闇とは未知、つまりどんな物質でもある可能性を含んでいるのだ。よって闇を使用して何かを作り出す事など容易い。


そんな一連の流れをキャロは興味深そうに眺めていた。


「成程…闇魔法でそんな事が…」


「闇魔法がある限りぼくは不死身だぜ?さぁ、どうする!ぼくを殺せはしないぜ!」


「じゃあ…これはどうかな」


彼女がふぅと息を吐くと、彼女の肉体は霧状に分散していった。その結果辺りに薄暗い闇が生まれる。


「何をする…きっ…!?」


突然、身体に異常が起きた。体内に広がる気持ちの悪い感覚。明らかに正常ではないその感覚は次第にこちらの思考力さえも奪い、クラクラとしながらぼくはその場に座り込んだ。


「闇の性質を毒に変化させたよ。いくら部位を闇魔法で再生出来るからといって、毒を取り除くのは無理だよね」


「正気か…!お前のっ…身体だぞ…!」


「言ったでしょ?私は怒ってるの。はっきり言うと、あなたを苦しめたい」


「畜生…!ぼくの最高傑作さえ完成すれば…こんな毒なんか…!」


「…キッズさん」


上手く手足を動かせずにただ座り込むしか出来ないこのぼくを前にし、再び人型となった彼女は目の前で屈む。まるで幼き者を前にしているかのように。


「キッズさん…もう、こんな事はやめよう」


「やめる?チッ…やめるも何もお前はぼくを殺すつもりだろうが!」


「殺さないよ。確かにあなたは酷い事を沢山してきたし、私自身物凄く怒っている。決して取り返しのつかない事をあなたはしたの。でも…もし心を入れ替えてキッズさんの全てを人々の為に使えるようになるなら、私は許そうと思う」


「………」


「やめれ!きゃろ!」


妙な子供の声がし、ぼくとキャロはその声の方向を見る。するとそこには…倒れ込むぼくの身体を借りた精霊が居た。そんな彼の頭部からは一輪の青い花が咲いている。そう、にわかには信じ難いがその青い花からその声がしたのだ。


ぼくと精霊はその事に驚くが、ただ一人キャロだけは状況を把握しているような落ち着きを見せている。


「じゃらもんちゃん…」


「何?あれが…?馬鹿な、ぼくの魔法で消滅した筈だ!」


「わちゃはばらばらになっていきながらえてんのよ!ほんでちいさいみにみにちっちゃなはへんがきっずのからだにきせいしてるんにょ!」


「あの魔法を食らってまだ生きているだと…?馬鹿な、不死身か…!?」


「それよりきゃろ!おまえさんにはなしがあるん!」


彼女の言葉に答えるようにキャロが小さく頷くと、被検体六十六号は語り始めた。


「わちゃおみゃーのゆめのなかでいったべ!わちゃときっず、そのふたりはたおさなあかん!」


「でも…きっと変われる筈だよ!私はやっぱり…見捨てて倒すなんて事はしたくない!」


「かわれにゅ!きっずをいまみのがしたら、またたくさんのひとたちが…!」


「だからといって…!」


「茶番は終いだ、馬鹿共が」


意識がはっきりとしてきたのを感じ、ぼくはゆっくりと立ち上がった。目の前には間抜け面のキャロが居るが…もう、そんなのはどうでも良かった。彼女は最早障害ではない。


「時間をかけすぎたな…さっさとこのぼくを殺しておけばこうはならなかった。苦しめようとした事、そして見逃そうとした事がお前の敗因だ」


「キッズさん…?」


「ハッハハァ!わざわざ手駒を増やした甲斐があったよ!」


そう、戦いに夢中で誰も気付いていなかった。徐々に、徐々にと一同を取り囲む大軍が近付いていた事に。ぼくの生み出した魔石を取り込んだ、キッズを殺せという命令で動く哀れな被検体の魔族達に。


「グォォォ…キッズゥゥ…」


「うっ…ガァァァァァァ!!!」


「キヒッ!キヒッ!キッズコロス!キャロトジャラモンタスケル!」


未だ暴走状態の者も多いが、どうやら時間が経つにつれて最低限の知性を持ち始めた者も居たようだ。彼らは朧気ながら希望を託したキャロと被検体六十六号の存在を覚えているようで、ぼくの事を素通りしながらキャロ達の事を取り囲んだ。


「待って皆んな!私はキャロ、そしてそこに居る人がキッズさんなの…!」


「コロセェェェ!」


誰が叫んだかは分からないが、その声に反応して複数体の魔族がキャロへと飛びかかる。いくら闇と言えど、ある程度の実体はある訳だ。よって彼女は後退りながら彼らの攻撃を躱す。


「キッズさん!どうしてこんな事を続けるの!ねぇ!」


何やら馬鹿な餓鬼が喚いているようだが、この五十は超えるような魔族の軍勢を前に動けなくなっているようだ。そりゃそうだ。暴走状態の時は力を持て余すだけであったが、まともな知性を手に入れたのならばぼくの魔石を取り込んだ者は普通の魔族よりも強くなる。名付けるなら…『高位魔族』と言ったところか。そんな者が五十も居るのだ。


ぼくは軍勢に背を向け、歩き始める。そして変わらず呼び続けるキャロの声が耳障りになったぼくは落ち着きながら口を開いた。


「どうしてこんな事を続けるのか?もう、答えた筈だ」


「………」


「ぼくは仲間なんか要らない。この世界の真理を追い求めたい。その為には必ず、最高傑作を完成させなければならない」


「真理なんかどうでもいい!他者の命はそんなものよりも優先されるべきだよ!」


「どうでもいい?どうでもいい…!?」


聞き捨てならない言葉を聞いたぼくは背後を振り返る。そして怒りを包み隠さず大きな声で彼女に怒鳴りつけた。


「人は真理を追い求めたからこそ成長した生き物だ!この素晴らしい世界に生まれて、訳も分からずに死んでいく。そんな意味の無い人生を送るよりも生まれたからにはこの世界を解き明かした方が何億倍も有意義だ!それが唯一の、人間が神となれる手段なのだからな!」


「キッズさん…あなたは間違ってるよ!」


「お前もな。ぼくを生かそうとするんじゃなかったな」


「くっ…!」


魔族の数が多すぎてよく見えないが、戦闘音が激しくなった。これはどちらが勝つにせよ戦闘は長引くと、ぼくは勝敗を見ずに先へ進む事に決めた。


「さて、解毒剤を取りに行こう。幸いここからそう遠くはない部屋に色々揃っている筈だ」


先程の憂鬱とした気分から一転し、清々しい気持ちでぼくは大きく深呼吸をした。


「解毒したその後は…今頃チャシに殺され続けているアセツの命に、終止符を打ってやろうか」


ワクワクが止まらず、クククっと笑ってしまった。

アセツさんの差し金によりキャロに殺されかけ、その後アセツ本人に殺されかけ、キャロの母であるビレッジに腹を貫かれ、今回も毒殺されかけたがそれでも生き残る。キッズさん、あまりにもしぶとすぎます。まさか主人公補正はキャロにではなくキッズさんに働いているのでしょうか?

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