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少女は魔族となった  作者: 不定期便
精霊は罪人となった
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余所者

『ほう…』


熊のような毛量と体格をした男、宇宙船の船長は大地を踏みしめて思わず声を漏らした。見渡す限りの大自然。彼の乗ってきた宇宙船が異物である事を強調するかのように人工物の類は一つも見えない。宇宙をさすらっていた彼だったが、ここまで人の手が加えられていない星は久しかった。


『うし。んじゃ、行くとするか』


そう呟き、男が一歩を踏み出そうとしたその時であった。彼の背後にある宇宙船の扉が開いたのだ。その音に彼が振り返ると、そこには見慣れた顔があった。


『船長ぉ。勝手に行くとかないっすよぉ』


目の下に大きなクマのある、気だるげに目を細めた痩せ型の男であった。彼は橙色のバンダナを頭に着け、服は白と黒の囚人服という奇抜な格好だ。そんな見慣れた仲間の登場に、船長は歯を見せる。


『新しい星は冒険心がくすぐられるだろぉ?いちいちお前らの事なんか待ってられっかよ』


『せめて船員型ロボットの一体でも連れてったらどうすかぁー。危険っすよー』


『ハッ!俺はこの俺様以上に危険な奴を見た事が無いぜ』


バンダナの男は知っている。目の前の船長は肉食獣さえ素手で倒し、巨大生物さえ罠に嵌め、過酷な環境でも息抜き、訪れた星の原住民さえあらゆる手段で滅ぼすと。確かに彼以上に恐ろしい存在は居ないかと、バンダナの男は納得する。


『そんじゃ、どうしますー?他の奴らも呼びますー?』


『いーや、アイツらはいい。さっきまでたらふく酒を飲んでやがったからな、寝かせとけ』


『あいあいさー』


『てな訳で、二人で行くぞ!この俺様の勘によると…この星には面白ぇもんがある』


『そうっすかぁー』


『ほら、噂をすれば見てみろ』


船長が指を指し、バンダナの男はそちらの方面を見る。そして気が付いた。草原に咲く花草を掻き分けながら二人の人物がこちらへと走ってきている事に。見た事の無いような緑色の装束を身に纏ったその二人の人物はせっせと足を動かす。


『ありゃあ…人間すか?』


『そうだな。俺達《地球人》、そしてヒートナルの住民達と同じタイプだ』


『でも…肌が白いっすね。ホイップクリームみたいっす』


『ガッハッハ!まぁそんぐらいは誤差だろ!こんだけ宇宙は広いんだ、肌ぐらい些細な問題だろ。寧ろヒートナルの奴らが俺らに似すぎていたんだ』


『そうっすねぇ』


そんな話をしていると、例の人物達はとうとう男達の前に辿り着いた。彼らはまだまだ若い一組の男女。男女は興味深そうに目を輝かせながらやってきた男達、そして宇宙船を見る。


『ラファラ!?ソラ!シラドラミ!』


『レソ!ミソ!』


『…何だァ?こいつら、何を話してやがる』


『ヒートナル跡地にある星とはいえ…彼らの言語とかは違うみたいっすね』


『折角苦労してヒートナル語を学んだって言うのによォ…音階みたいな話し方しやがって』


『音階…ドレミファソラシドの概念があるって事は?』


『地球と何らかの関わりがあるかもしれねェなぁ…』


そんな真面目な話をしてる余所者達を前に、ファーラの若者達ははしゃいでいた。彼らはクルクルと余所者の周りを回ったり、ゴツゴツとした筋肉質な腕を触ったりして楽しんでいるようだ。まるで子供のように騒ぐ男女を前に、地球人達は苦笑いを浮かべていた。


そんな中、船長が切り込む。


『なァ。お前らの住処は何処にあんだ?』


『船長ー。こっちの言葉通じないっすよ』


『分かってらぁ!こういうのは伝わらなくてもパッションが大事なんだよ!アメリカ、イタリア、ロシア、中国に行った時もなぁ…!』


『はいはい分かったっすよ』


『とにかくだ!こう…な?良いから案内してくれよ!良い子だからさぁ!』


しかし若者二人は意味が分からずにきょとんとしていた。互いに顔を見合わせて何かを相談する二人を前に、バンダナの男は頭を抱える。


『はぁ…無駄っすねぇ』


『まぁ慌てんなよ。俺様のグレート大作戦、その二がある』


『何すかそのクソダサい作戦は』


『てめぇ!…まぁいいさ。今に見てろ』


そう言うと船長はガサゴソと懐を探る。『あったあった』と小さく笑うと、彼は懐から一つの物体を取り出した。それは長い銀色のボディーに、円形の硝子が取り付けられた機械であった。


『懐中電灯?そんなの使って何を…』


『まぁ見てろって!』


船長は持っていた懐中電灯を目の前のファーラ人に差し出す。するとファーラ人の二人は驚きの声を漏らしながらそれを受け取った。


『ミレ!ファラソミラソ!』


『レミド!ドドラシソ…!』


ボタンを押せば、光る。そんな不思議な物を手に入れた彼らは互いに照らし合って遊び始めた。そんな彼らの無邪気な笑顔を見て、船長は満足そうに頷く。


『これでいい』


『どういう事っすか?ただプレゼントしただけじゃないっすか』


『この星の現状を見るに、文明なんてもんは無いと見た。そんな奴らが見た事のねぇ機械を手に入れたらどうする?』


『どうするって…今やってるみたいに遊ぶんじゃないすか?』


『そうだが、俺が言ってるのはその先だ。餓鬼の頃、俺達は手に入れた玩具を友達に自慢しに行っただろ?それと同じだ、人は珍しいもんを他人に見せたがる』


『て事は…』


彼らの予想通り、ファーラ人の二人ははしゃぎながら彼らの腕を掴んだ。不思議な道具の所持者として、仲間の元へ紹介しに行くのであろう。あまりにも都合良く事が進んだ事に、船長は口角を上げた。


『さぁ、行こうぜ』


『えぇ…そうっすね』


〜〜〜〜〜〜〜


『ふあ〜。お散歩日和だぁ〜』


精霊、ロディは平和な日々を謳歌していた。何も無いのに満たされる、それは彼にとって初めての経験。ヒートナルでは絶えず人々が己を求め、やるべき事は無限にあった。だが…大戦争の中ではいくら求められても、満たされる事は無かった。兵力を増強させる為にあらゆる生物のキメラを作り、それらを戦争の地へ送るなど…


よってロディは心から今の生活が気に入っていた。人々は時折自身にお願いをしに来るが、純粋な願いならばロディも喜んで叶えてやった。そしてそんなロディを人々は愛し、家族のように暖かく接してくれる。そんな彼らをロディ自身も愛していた。


ロディは今日も、人間達の話を聞きに彼らの住処まで出向く。誰と誰が恋愛関係にあるのか、子供達は元気に成長しているのか、きちんと皆は仲良くやれているのか。命を繋ぐ役割を持ったロディにとって、人と人の交流というものにはとても興味があったのだ。


だからこそ人の事をよく見ているロディなのだが…彼は人間達の暮らす集落へと足を踏み入れた瞬間、皆の様子が妙な事に気が付いた。何かに興奮している様子、まさにお祭り騒ぎとはこの事だ。


『どうしたのかなぁ〜。誰かの子供でも産まれたのかなぁ〜』


そんな事を考えながら、ロディは集落の中心点へと足を運ぶ。そしてそこで彼が見た光景は、ずっと忘れていた恐怖を思い起こさせるのに充分すぎた。


『シレファ!ラファソシドレ!』


『ガッハッハ!良いぞ、もっと色々見せてやろう!』


ファーラの人々の中心に居たのは…見覚えの無い人間だった。彼はやけに文明的な服を着ており、人々に様々な機械や道具を見せている。そんな彼の肌は…白くは無かった。


ロディは珍しく真剣な表情を浮かべると、人混みを掻き分ける。そして接近してくるロディに気が付いた余所者は驚いたように目を丸めた。


『お前…アフロディーテじゃねぇか!ヒートナルは無くなったけど、おめぇは無事だったのか!』


『何しに来たんだ。…海酒 吾郎』


熊のような髭をした男、吾郎はニヤリと笑った。


『何って、見りゃ分かんだろ?俺ァ歓迎されてるのさ』


『ふざけないでよ。君は…ヒートナルを滅ぼした張本人だ』


『人聞きが悪いなぁ、アフロディーテ。俺だってヒートナルが無くなったって言われた時は驚いたぜ?』


『戦争の引き金となった…この僕を生み出したのは君だ』


『あぁ…ありゃあ懐かしいな』


吾郎は見せびらかしていた道具を服の中に仕舞いながら話し始めた。


『俺らは死刑囚だった。馬鹿騒ぎしながら生きてたらこうなっちまったよ。だが…こんな所で終わるにゃ俺という存在は偉大すぎた。そこで俺らは全看守を始末してから脱獄し、政府が馬鹿な国民共に隠れて作り上げた宇宙船をもパクった。そういう技術ってもんは公表されるより随分先に存在するもんさ』


『………』


『そして、追っ手の来ない宇宙へと俺らは飛び出した。もう地球には帰れない程遠くまで来ちまったが…別に困りはしなかった。ノアの方舟って知ってるか?』


『いや…』


『世界が滅ぶ寸前、船に全ての動物の雄と雌を乗せて滅亡を免れた奴の話さ。政府はそれを想定していたのか、既に宇宙船には様々な家畜が二頭積まれていた。だから食事には困らなかったし、水なんかも大量に用意されてた。最初のうちはひもじかったなぁ』


『………』


『そんで俺達は宇宙船を使って様々な星を回り、自分達に必要な物を略奪していった。仲間に頭脳明晰な奴が居た甲斐もあって、俺らは訪れた星の技術をどんどん自分達の物にしていったんだ。こうして思い返すと、俺らが全てだと思い込んでいた地球の科学ってもんはこの宇宙において小さな一欠片でしかなかったのさ』


『訪れた星を…どうしたんだ』


『まぁ、楽しく利用したよ。原住民達に嘘の情報を流して同士討ちさせたり、余った家畜や虫を投入して生態系を滅ぼしたり、星の核となるようなもんをとりあえずで盗んだりもしたな』


『お前らのせいで…一体どれだけの命が失われたんだッ…!』


初めて聞くロディの怒号に、ファーラの人々は困惑した。地球の言葉によって構成される二人の会話内容をファーラ人達は理解出来ない。よって二人が何の話をしているのか分からないのだが…あまりにも普段とはかけ離れたロディの様子に怯えていたのだ。


そんな中、吾郎はニヤニヤと笑みを浮かべている。


『分からねぇ。類を見ない、大犯罪者だな』


『何を嬉しそうに…!』


『そりゃあ嬉しいだろう!俺達の力が宇宙にも通用したんだぜ!?ワクワクするよなぁ!』


『…外道が』


『そう拗ねるなよ。人間以外が絶滅したヒートナルに一匹の犬を送り出したら、向こうの科学力によって犬は長い時を経てただのわんこから精霊にまで進化したんだ。そう、お前が精霊になるきっかけを作ったのは…俺なんだよ。お前のパパだぞ、反発すんな』


『ロディはこの生命を司る力で、他の精霊を創らされた。そしてそれぞれの精霊を崇める派閥が出来て、星を滅ぼす大戦争が起こったんだ。これも全部…君の筋書き通りだろ』


『一石を投じときゃ滅ぶとは思っていたが、まさか精霊なんてもんがここまで凄くなるとは思わなかったぜ?だからこそ俺らは一旦ヒートを離れ、事が済んだ後にお前ら精霊を回収しに来ようと思ったんだ。だが帰ってみりゃ、ヒートナルは消えていた。お前らも消えちまったんじゃねぇかって焦ったよ』


『…ロディ達が目的なら、同行する。だからこの星、ファーラには手を出すな』


『俺様はな…正直者だ』


『そうか。なら…』


『だから自分の欲望には常に正直なんだよ』


その瞬間、破裂音のようなものが辺りに響いた。吾郎の手に握られた煙を吹く銀色の物体、そして赤くなる胸を抑えて膝から崩れ落ちるロディ。死と略奪という概念を知らぬファーラの人々はこの状況を見て…ぽかんとしていた。


『ヒートナルの奴らも良いもんを作ったぜ。対精霊用、えげつねぇ火力のピストルだ』


『ぐ…』


『まぁ、対精霊用とは言ったが…』


吾郎は近くに居た青年に、銃口を向けた。意味は分からないが、何か面白いものを見せてくれるのであろうとファーラの青年は期待を含んだ眼差しを吾郎に向けていた。


だが、その眼差しからは直ぐに光が消える事となった。再び鳴る破裂音と共に、青年は力無く大の字で倒れた。人々は理解が出来なかったが、唯一状況を理解しているロディは動揺する。


『ソラシ…!おい…!』


『へっへっへっ…このピストルは急所なんざ狙わなくても簡単に命を刈り取れる。便利なもんだ』


『貴様…!』


ロディは怒りで歯を食いしばると、天に向かって叫んだ。


『ラソラミ、シドラ!!!』


ファーラの言葉で『皆んな逃げろ』と、彼はそう伝えた。その理由が分からなくとも、人々はロディの言う事ならと素直に飲み込み、何かを言うよりも先に逃げ始める。ロディへの信頼があったからこその行動力であった。


だが…そんなファーラの人々を吾郎が見逃す筈もなかった。


『ハッハッハ!俺ァ地元のゲーセンのシューティングゲームで一位を取った事があるんだよォ』


引き金を引く度に、誰かが倒れる。それを阻止しようとロディは身体を動かすが…先程撃ち込まれた弾丸に薬でも塗ってあったのか、思うように身体が動かない。ロディは愛する者達が射殺され続ける地獄の光景を、ただ眺めるしかなかったのだ。


だが…地獄はまだ、始まったばかりであった。


『お、ようやく来たかぁ!待ちくたびれたぜぇ!』


吾郎の視線が向く先に居たのは…山のような巨体をした、数十体ものロボットであった。そのロボットは皆一様に人型であり、頭部の中にあるコックピットに誰かが乗り込んでいるのが分かる。


『よし…花火大会、スタートだァ!』


吾郎の合図と共に、ロボットが目から放った光は…


この世界を、炎で焼き払った。

今までで一番書いていてキツかったです。作者自身早く終わってくれ〜!と願いながら書いております。私の想定によるとあと二話ぐらいで一旦この話は一段落するので…それまで頑張って下さい。

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