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少女は魔族となった  作者: 不定期便
精霊は罪人となった
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とある星

「で、その手が何なのか知りたいんだっけぇ〜」


目の前のわんちゃん、ロディさんは脱線した話題を再び口にした。彼は確かにこの腕について分かると、そう発言していた。だがその後の彼の発言によって彼に対する不信感が募りすぎている。彼が今から何かを話したとして、真面目に内容を聞けるであろうか。何せ彼は突然キスを強要した人だ。


だが、他に手立てがないのも事実。私は閉じたロディさんの目を見ると、頷いた。


「教えて欲しい。私の身体に一体何が起こってるの?」


「ん〜、じゃあまず整理してもらおうかぁ〜」


「整理?」


「初めてその症状が出た時、どんな状況だったのぉ〜?」


私は少し黙り過去の事を思い返すと、やがて口を開いた。


「守るべき筈だった存在が殺されて…荒ぶっていました。魔法を使おうと殺意のまま掌を仇に向けた瞬間、ぶわっと」


「その直前、過度に魔力を酷使したりしたかなぁ〜?」


「過度に…?えっと…」


『何でだろう…殺意に身を委ねると、力が湧いてくる。多分、私は今までこの身体の《真の力》を扱えきれていなかったんだ。感情というストッパーが相手を傷付ける事を躊躇ってたから…』


そうだ。私はじゃらもんちゃんと合流する前、アセツさんとの契約によってキッズさんを倒そうとしていた。そしてその時に気が付いた筈だ。契約によって湧き出る殺意により、自分の意思とは裏腹の契約の強制力によって、普段以上に火力の高い魔法を放てた事に。だが無から有は生まれない、火力が高いという事はそれだけ沢山魔力を使ったという事だ。そういう意味では限界以上に魔法を使ったと言っても過言ではないかもしれない。


そんな私の表情を見て心当たりがあるのを察したのか、ロディさんは満足そうに小さく頷いた。


「そこでストッパーが壊れたんだろうねぇ〜。そのせいで後は魔法を使うにつれてちょっとずつ漏れ出てるんだよぉ〜」


「漏れ出てるって…何が?」


「君の体内にある、もう一つの魔力が〜」


その言葉の意味が分からず、私は眉をひそめた。


「それってどういう意味?」


「君の体内には今ねぇ〜、キャロのじゃない魔力が蔓延ってるんだよぉ〜。普通人間は空気中にある誰のでもない魔力を摂取するけど、既に誰かによって摂取された後の魔力がキャロの周りに常に浮いてるんだぁ〜」


「一体誰が…というか、その魔力のせいで私はこんな腕に?」


そう言って私は自身の左腕を差し出す。するとロディさんはゆっくり首を横に振った。


「違うよぉ〜。逆だよぉ〜」


「逆って…」


「『その誰かの魔力によって、君の姿は保たれてる』んだよぉ〜」


「それって…まるで私が元々人間じゃないみたいな…」


そこで私は思い出す。遠い昔…お母さんとお爺ちゃんが私の事を『異型児』と呼んでいた事を。そして、お爺ちゃんが『人間らしく』という言葉を私に言い聞かせていた事を。もし…私が普通の人間でないのだとすれば…


そんな思惑の答えを、ロディさんは言う。


「君は魔族とのハーフ、つまりは『獣人』なんだよねぇ〜」


「獣人…シラツラさんと同じ…」


「で、それをよく思わなかった誰かがキャロの周りに自分の魔力を固定させて、キャロの体内から魔獣の成分を制限してたんだろうねぇ〜。獣人なのを隠す為にぃ〜。まぁ一種の呪いみたいなものかなぁ〜」


「多分…私の家族の誰かだ。私が異型児って事で苦労してたみたいだから…」


「それで今回魔力を本当に出し切った事でキャロの魔力と一緒に、呪いの魔力も外に出尽くしたんだよぉ〜。今までも、魔法を使い果たした時に何か違和感はなかったぁ〜?」


あった。私は魔力を使い果たすと、瞳が紅くなり身体能力が増すのだ。ずっとそれは白の魔石による影響だと思っていた。だが…実際は違う。呪いの魔力を体内から出し切った事により、私の身体が一時的に獣人へと戻ろうとしていたのだ。そして今回、限界以上に魔力を出し切った事でこうして後遺症が残る程に魔族へと近付いたのだ。


白の魔石を取り込む前から、ずっとそうだったんだ。ただ気付きようがなかったのだ。白の魔石を取り込む前は魔法なんて使えなかったから、体内にある呪いの魔力を外に出し切れば魔族に戻るなどと。


嫌な納得感を胸に、私は固唾を飲み込んだ。


「じゃあ私は今、ゆっくりと魔族になろうとしてるって事…?」


「獣人に戻るだけで、完全な魔族にはならないよぉ〜。けど…」


「けど?」


「君は人間でいた期間があまりにも長すぎたみたい〜。他の獣人達は生まれてからずっと魔族としての本能と向き合えるから大丈夫なんだけど…キャロはずっと人間として生きてきたから、獣人に戻った場合その本能に打ち勝てるか分からないんだぁ〜」


「暴走するかもしれない、って事?」


「そう〜。だからこれ以上魔法を使わない事をお勧めするよぉ〜。じゃないといずれは完全に呪いの魔力が全て出切っちゃうからぁ〜」


「そう…ですか…」


私は自身の左腕を困ったように見る。魔法が使えなければ、私はただの小娘でしかない。赤眼になって身体能力を上げようにも、その過程で魔力が全て外に漏れ出てしまうのは本末転倒だ。ただでさえ無力な私がこれ以上、何も出来なくなってしまう。


かと言って、獣人に戻って大丈夫だという保証も無い。クリさんが恐れていた通り、私は魔族の本能に呑まれてしまうかもしれない。正直…打ち勝つイメージも湧かないのだ。私は皆んなとは違い、精神的にもまだまだ未熟なのだから。


そんな事を考える私は余程難しい顔をしていたのか、ミレファは慰めるようにぽんと私の頭に手を乗せた。そしてそれを真似して、ロディさんもぷにぷにの肉球で私の頭を撫でる。


「ミレファ…ありがとう」


「シレドミ、ラミレ」


「ロディは〜?ロディも撫でたけど、ロディはありがとうじゃないのぉ〜?」


「ロディさんもありがとう。色々教えてくれて」


「やったぁ〜」


「でもついでに…聞きたい事があるの」


「ん〜?」


私は少し言い淀むが、覚悟を決めて聞いた。


「『アースの儀式』って…何?」


アースの儀式。お母さんの言っていた、私の村で代々行われていたという儀式の名だ。それが一体何なのか、どんなものであるのかは分からないが…現時点で分かっている事と言えば十年に一度村の子供を差し出すというものであるという事。何の為の儀式なのか、いつからの伝統なのかは分からない。


ただロディさんは心当たりがあるようで、ほんの少しだけ俯いた。


「そっかぁ〜。君はあの土地の生まれかぁ〜」


「あの土地…?」


「いいよぉ、話すよぉ〜。ただ、ミレファはこの話を聞いた事があるからねぇ」


そう言うとロディさんはミレファの方を向き、口を開いた。


「ラドラシソ、ファラドラソ、ミレファ」


「ドレド、ララ」


ミレファは頷くと、ロディさんの上がってきた階段を使って二階へと上がった。その様子を見届け、ロディさんは改めて私の方を向く。


「長話になるだろうからねぇ〜。ミレファには上で暇を潰すように言ったんだよぉ〜」


「あの…何で私の村の話をミレファに話したの?」


「いやぁ、『エデンの土地』についての話は大事だからぁ〜。そこに住む者でなくとも知るべきだよぉ〜」


「エデンの土地…私の村は名もない辺境の村って聞いたけど」


「そりゃあ昔話なんて全てが語り継がれるもんじゃないしぃ〜。時代と共に忘れ去られる事もあるんだよぉ〜」


「そういうものなのかな」


「とにかくぅ〜。話すよぉ〜」


ロディさんは瞑っていた瞼をゆっくりと開くと、その落ち着いた紫色の瞳を私に向けた。その瞳は彼の言動とは似つかわしく無いほどに、色気と威厳に満ちた光を放っている。


「『この星』について。『地球』という星について。そして…『海酒 吾郎』という男について」


〜〜〜〜〜〜〜


『これからぁ〜。どうしようかぁ〜』


宇宙空間を漂う一匹の犬がそう呟く。その犬は全身真っ白の体毛で包まれた、世にも珍しい紫色の瞳をした犬である。ただそんな犬は宇宙空間にてまるで当たり前かのように酸素が無くとも生きており、重力も何も無いというのにも関わらず全く慌てる様子を見せなかった。


そんな犬に対し、彼の仲間のうちの一人が答える。それは生物なのかどうかも怪しい、水以上に透き通った色の無い球体であった。その存在は口の無い身体で口を開いて言った。


『どうしようもこうしようも、ヒートナルがああなっちゃどうしようもないピヨ』


その言葉に一同は何も無い宇宙空間に目を向けた。そこにはつい数分前まで、一つの栄えた星があった。だがその星、ヒートナルでは命を命とも思わないような大戦争が起きていた。その戦争の理由とは、宗派の違い。ヒートナルの住人達はそれぞれが自身の神を肯定する為に異教徒と戦った結果…神以上に大切な、星という土台を壊してしまったのだ。愚かな生物が優れた科学力を持てばどうなるかを、漂う四匹の生き物は痛感したのだった。


困ったような仕草を見せる犬と球体に、仲間のうちの一人、桃色の鱗をした人型の竜が告げる。


『こうなったら仕方ないわね。私達四人で新しい居場所を作るしかないわ』


いとも簡単にそう言い放つ竜に、球体は胡散臭さを感じながら言う。


『どうするんだモー?この広い宇宙、何処に行くべきか見当つかないヒヒーン』


『だから言ったでしょ、作るって』


竜は落ち着き払った仕草で何も無い空間に手を翳した。まるで当たり前かのように、一杯の茶を淹れるかのように、実に簡単に。竜の掌が向けられた先には小さな塵が吸い込まれていき、その塵はやがて一つの宝石となり、その宝石はやがて塵を纏って星となった。まさに神の所業とも言えるような事を竜は軽々とやってのけたのだ。


星の重力に吸い込まれ、四匹の生命体はその星へと着地する。だがその星にあるのは砂漠だけ、見渡す限り何もありはしない。ここを新天地とするならばあまりにも寂しい光景だ。


だが既にそうなる事を予想していたのか、竜は仲間である球体の方を見た。


『ミィ。あなたの出番よ』


そう言うと、竜は砂を掌に乗せた。その行動を見てミィと呼ばれた球体は彼女の思惑を理解する。


『いいクワッ。ミィは全ての物体の性質を変えられるんだワン。その砂を変えるぐらい…』


ミィが砂を見つめていると、その砂は白色に輝いた。そして砂はミィが念じるがままの姿へと変わっていくのだった。ただの塵の塊であった砂には次第に色がつき始め、保っていない形は段々と固まり、伸びて行く。


白色の輝きが消えた時、竜の掌には二本の赤と青の花が置かれていた。竜は満足そうに頷くと、今度は犬の方を見る。


『アフロディーテ、次はあなたの番よ。性の神と呼ばれたあなたの力を使いなさい』


『いいよぉ〜』


竜が二本の花を差し出すと、白犬は器用にも肉球にてそれを受け取った。右に赤の花、左に青の花。白犬はまるでグラスで乾杯をするかのように二本の花を合わせると、その瞬間、二つの花の間に小さな光が生まれた。その光の正体は小さな種である。


小さく光る種が地面に着いた瞬間…世界の景色が変わる。種の着弾地点を中心に、大地の全てが緑色に芽吹き始めたのだ。そう、白犬は大自然というあまりにも偉大なものを生み出したのだ。にも関わらず白犬はまるで当たり前かのような顔をしながら持っていた二本の花を大地に突き刺す。


『やっぱり自然ってものは綺麗だねぇ〜。見栄えが良くなったよぉ〜』


『…流石、性の神ね。たった二本の花を交配させ、そこから生まれた種を元に更なる交配を繰り返し、この星全てを一瞬にして植物で支配するなんて。しかも花だけでなく、草や木などの別種までもを創るとは』


『ロディの力があれば簡単だよぉ〜。君みたいな竜と、そこに居るミィからたぬきを生み出す事だって可能さぁ〜』


『こんなのと子供を作るなんて嫌よ』


『メェ!?』


ミィもそんなつもりはなかったのにも関わらず、告白してもいないのに竜に拒否され、彼のプライドはズタボロとなった。拒絶された精神的苦痛により形を保てず段々と溶けていくミィを無視し、竜と白犬が広がる自然を楽しんでいたその時であった。


今までずっと黙っていた、一匹の生物が彼らに一歩近付いた。その生物はこの場に居る誰よりも大柄であり、炭のように真っ黒な鎧に身を包むその様はまるで人間のようであった。…いや、少し違う。その禍々しい雰囲気は人間というより…冥界より現れた死神のようだ。目の前に存在する者全ての命を刈り取るような、恐ろしさを感じる。


兜に隠れて顔は見えないものの、鎧の生物は口を開いた。


『ドウスル?』


無愛想かつ無口な彼の言葉に、竜は眉を顰めた。


『どうするって…何がよ』


『オレタチ、アタラシイホシツクッタ』


『えぇ、そうね』


『…ニンゲン、ツクル?』


鎧がそう言うと、一同の顔付きは険しくなる。彼らは知っていた。彼らの故郷であるヒートナルは人間の愚かさにより滅んだ事を。そして、自分達はその人間に汚い欲望によって『造られた』事を。


当然、彼らは人間を生み出すという事に強く反応した。そしてその中でも最も早くに意見したのがミィであった。


『却下ブン。ブリック、お前も知ってるワン?人間なんてもの、生み出す意味が無いシャーって事を』


『デモ…』


『ブリック、ミィの言う通りよ。悪知恵を持った者はその欲望により全てを無に帰す。また同じ事を繰り返したいの?』


『ロディも反対だよぉ〜。人間以外の動物さん達だけで充分〜』


一同の意見が出揃った事により、竜は小さな溜め息を付いた。そして表情の見えない巨体の鎧を見ると、冷たく言い放つ。


『この話はこれでお終い。積み上げた石の上にわざわざ爆弾を乗せる必要はないもの。私達はここで平和に暮らすの。分かった?』


『ミンナ…オクビョウ』


『臆病?私達が?』


『オレシッテル…サンニントモ、ニンゲンヲアイシテタ』


『そんな訳…』


『ワルイニンゲンタクサンイタ。ケド、イイニンゲンモスコシハイタ。カレラノアタタカサ、オレタチシッテル』


『けど、人間は争いを起こす。見てきたでしょ?人間達はつまらない事で争って、共に育った筈の同胞を犠牲にしてまで戦争を続ける。生まれた時から優しく見守ってきた自然を壊しながら。ブリック、あなたは私達四人の中で一番戦争に利用されてきたでしょ?』


『オレ、アラソイキライ。デモ…コウカイ』


『後悔?』


『…スクナイケドソンザイシテタ、イイヒトをスクエナカッタコト』


星の消滅。それはそこで暮らす者達全ての命が終わるという事。戦争の責任を取るのは争いを繰り広げていた本人達だけではない。他者を思いやり、慈しむ事の出来た純粋な者達の生命も終わるという事だ。そんな優しい存在を、彼らは知っていた。


言い淀む三匹を前に、ブリックは続ける。


『コンドコソ…オレハツクリタイ。ヤサシイヒトタチノイバショヲ。ダレモキズツカナイヤサシイセカイヲ。ソノタメノ、オレタチ』


『私達はヒートナルの戦争の引き金となった存在よ。そんな私達が今更…』


『ダイジョウブ』


鎧は重たい腕をゆっくりと持ち上げると、陽気に親指を突き立てた。


『オレタチナラデキル。オレタチハアノセンソウヲケイケンシタカラ、ホントウニダイジナモノガナニカシッテル。《シアワセ》ノカチ、ワカル』


『………』


『オネガイ。オレモミンナモ…アノトキノコウカイヲケシタイ。モウイチド、ニンゲンヲシンジヨウ』


『…ミィ、アフロディーテ』


『あぁ、分かったグル』


『やってみようかぁ〜』


黒い鎧、ブリックの説得により…その星に一つの種族が生まれた。その種族の名は人。四匹を生み出し、星を滅ぼした、忌むべき種族である。


彼らにより生み出された、真っ白の肌をした一人の赤ちゃんは四匹の腕の中に包まれた。

地球という概念が存在する時点で、このお話は他の小説に出てくるような異世界での出来事ではありません。私達と同じ世界で起きた出来事なのです。厳密に言えばローファンタジーに該当するのでしょうが…皆様が求めているようなローファンタジーとは違うので、作品としては便宜上ハイファンタジーとさせて頂いております。

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