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少女は魔族となった  作者: 不定期便
序章
10/123

造られた存在と変わってしまった命の形

「おはよう!」


扉を開け放ち、出来る限りの元気な声で私は叫ぶ。扉の先は様々な備品や薬物が綺麗に整理されている考えていた通りの研究室であった。…壁にはアカマルが開けた大きな穴こそあるが。


そんな中、鉄製の椅子に座って何やら話し込む二人の人物が居た。骸骨と大怪我人、プラントさんとグロテスクさんだ。グロテスクさんの方は私に気付くと笑顔で手を振ってくれるが、プラントさんは無反応である。


「おはようキャロちゃん。よく眠れたかな?」


「うん!…たまにリィちゃんが抱きついてきて起きちゃうけど」


「リィハーちゃんもキャロちゃんと同じでまだ甘えたい盛りだからね。久しぶりに感じる人肌が恋しかったんだよ」


「人肌…」


「僕は腐ってるし、プラントは骨。アカマルは寝相が悪いから添い寝したら寝れないし」


「骨である以前にアイツと添い寝する事自体嫌だがな」


そう言うプラントさんに私とグロテスクさんは苦笑いをする。相変わらずの毒舌な姿は何だか安心感さえ覚える。…アカマルの事があった以上、尚更だ。


その考えが表情に出ていたのか、グロテスクさんは不思議そうにこちらを見る。


「どうしたの?何か辛い事でもあった?」


「あ、いや…それよりも二人は何を話してたの?」


「…君に関係する事だ。嫌な事を掘り起こしちゃうけど、聞く覚悟はある?」


私は迷いなく頷く。それに対しグロテスクさんも頷き返すと、彼は足の間で手を組んで話し始めた。


「君の村を滅ぼした魔族…パールマッドは覚えているよね?真珠の埋め込まれた泥人形だ」


「うん。あの光景はきっと…一生忘れない」


「…傷を抉ってごめんね。けど、これは話さなくてはならない。キャロちゃんを僕の部屋に寝かせた後、プラントがパールマッドだったものの一部を持ってきてくれたんだ。『何やら様子がおかしかった』と」


「様子がおかしかった?」


「プラントは見ていたんだ。君の村が光線によって焼き払われるその光景を。けど、それはおかしいんだ。パールマッドはただの泥と真珠の集合体。多数で動いて村に泥にも真珠にも関係の無い光線を撃つなんていうのは本来の彼らの姿とはあまりにも掛け離れている。そこで遺体を調べた結果…ある残酷な事実に気が付いた」


ごくりと固唾を飲み込む。話している本人であるグロテスクさんさえ汗を垂らすようなその残酷な事実とやらに、私は覚悟を決めた。


「それで、その事実とは…?」


「あのパールマッド達から…特殊なコアが発見されたよ。まるで後から埋め込まれたかのように、基盤や動線と共にね」


「それって…」


「僕は確信した。あれは、『人間が作った魔族』だと」


その言葉が意味する事実に私は震え上がった。


「人間の作った魔族…!?魔族と人間は敵対関係の筈じゃ…その前に魔族を作る技術なんてあるの…!?」


「恐らく…これを作った者は人間の味方でも魔族の味方でもない。ただ強力な兵器が欲しかっただけだ。…そして、魔族を作る程の技術を持った者に心当たりがある」


「え…?」


「『ユウドの町』。それは王都から離れた所に位置する『化学の町』とも呼ばれた先進的な技術力を持った科学者達が住む町だ。この世界で最も科学力を持ったユウドが、魔族を作り出すなんて前代未聞の出来事に絡んでいない筈がない」


ユウド。その名前には聞き覚えがあった。本で得た情報にはなるのだが、確かこの世界の丁度中心に位置するのが王都『ネメニィ』である。そしてネメニィを囲うように世界各地に散らばる様々な町があるのだ。そんな中、世界を囲う『海』というものに面している数少ない町であると。そう記憶している。


そんな事を思い返していると、ふとある事に気が付いた。


「じゃあ…私の村を滅ぼしたのって…」


「…悲しいけど、キャロちゃんの故郷を消したのは人間の力だ。何の目的があって、どうしてそんな事をしたのかは分からない。この世において絶対的悪は魔族だけじゃない。人間にだって、悪党はいるんだ」


「………」


「僕は魔族を作った人を止めたい。キャロちゃんやリィハーちゃんみたいな悲しい犠牲者をこれ以上生み出す訳にはいかないんだ。だから、ユウドの町を収める領主に協力を仰ぐ」


「仰ぐって言っても…魔族の話を聞いてくれる訳が…」


「そこは大丈夫。あそこの領主は理解がある人だ。信頼出来るよ」


頭にハテナのマークを浮かべていると、今まで黙り込んでいたプラントが口を挟んだ。


「グロテスクは魔人になる前、貴族だった。ユウドの町の領主の二人目の息子として生を受けたんだ」


「グロテスクさんが…!?」


「…僕の脳みそは腐ってるから、魔人になる前の事はよく覚えていない。けど記憶の片隅にある家族達の姿は聡明で慈愛に満ちていた。自分の町の闇を、見過ごせる筈がない」


「じゃあ…何で今まで家族の元に帰らなかったの…?」


「僕はもう…本来死んだ筈の人間だ。いくら領主だからといって魔族を匿えばそれ相応の罰を受ける。だからこそあの家に僕は不必要なんだ。けど今はそんな事言ってられない。止めるんだ、人工魔族の製造を」


「グロテスクさん…」


私に似たその白い目は静かに輝いていた。今まで故意に疎遠にしていた家族との再開。それは良くも悪くも彼の人生を大きく動かすものだ。それでも彼は自分の中の正義に従い、何の得もないのにユウドへと足を運ぼうとしている。


彼のようなお人好しを…放っておく事は出来なかった。


「それなら私も連れていって」


「キャロちゃん…!?魔族を作り出すような危ない人を探しに行くんだ、決して安全じゃないよ。これは相当危険な橋だ」


「分かってる。確かに力不足かもしれない。けど…危険な所に一人で行かせる訳にはいかない。魔人だって事がバレたら大変でしょ?だから出来る限り私がカバーするよ」


「死ぬかもしれないんだよ…?」


「私は死なないし、グロテスクさんも死なせない。…まだ日は浅いけど、私達は『家族』でしょ?」


アカマルの受け売りの言葉を彼に投げかける。傍から見ていたプラントさんはまるで冗談を言われたかのように小さく笑い、グロテスクさんは驚いたように目を見開いていた。彼は少しの間黙り、やがて口を開いた。


「…本来、僕一人の力で解決しようとしてた。けど確かに僕一人程度で何とかなるような事じゃない。何が起こるか分からない死地へと向かうんだ。仲間を名乗るなら…皆んなの力も借りないとね。キャロちゃん、僕に力を貸してくれる?」


「うん!勿論!」


私がそう強く答えた時だった。突如背後にある扉が大きな音を立てながら開き、そこから二人の人物が飛び出した。


「話は聞かせて貰ったぜ!この私様も同行させて貰おうか!」


「アカマル…!?」


「キャロだけじゃ頼りない。人間枠として私もついてく」


「リィハーちゃんまで…」


突如やって来た二人の助っ人にグロテスクさんは目を潤わせる。何だかんだ言って仲間を放っておけない人達何だなぁと微笑ましく思っていると、何かに気が付いたような様子をグロテスクさんは見せた。彼は訝しむような顔でアカマルとリィちゃんを見る。


「僕が居ない間…料理作る人が居なくて困るからとかじゃないよね?」


「うぇっ!?あー、あぁ…いやそんな事無いよなぁ!?王!」


「そ、そうだよ。決して美味しいご飯食べたいからとかじゃないよ。私は王様としてだね…」


「う、うむ!私様は味見役としてだな…」


「………」


グロテスクさんは呆れ返ったように頭を抑える。


「料理を美味しいって言ってくれるのは嬉しいけど…せめて僕の為に来て欲しかったな」


「ち、違うんだ〜!誤解だ〜!」


「そう、誤解!」


「朝ごはん作ってくるね…はぁ…」


「「待って〜!」」


とぼとぼと部屋を出ていくグロテスクさんの後を二人は慌てて追いかける。騒がしい彼らの声はどんどんと遠くなり、やがて聞こえなくなった。この部屋に残されたのは私とプラントさんの二人だ。


「プラントさんは一緒に来るの?」


「いや、俺はここに残る。かろうじて人間としての形を留めてるアイツらとは違うからな。一目で魔族だと気付かれる」


「そっかぁ」


「まぁアカマルは俺の次に強い。過剰な戦力で行く意味もないからな。…とは言え、お前の将来を考えて一つ提案がある」


「提案?どんなの?」


プラントさんはポケットから一つのペンダントを取り出す。白い宝石が輝くそのペンダントには見覚えがあった。


「それは…ホワイトさんのペンダント…」


「この宝石が何か、知ってるか?」


「いや、分かんない」


「これを持っていた奴については?」


「王直の騎士さんだって。自分の隊を持つ凄い人らしいけど…」


「そうか」


彼は雑にペンダントを私に投げ渡す。何となくその白い宝石が気になり握ったそれをずっと見ていると、プラントさんは言った。


「魔鋼から獲た宝石を魔石というんだがな…そいつは魔石の中でも異質だ」


「ここに来る時プラントさんが使ったやつよりも?」


「あんなの普通の魔石だ。まぁ、魔石は物によって様々な効力があるんだが、そいつは…『体内に取り込むと肉体の性質が魔族に極めて近付く』」


「え?つまり…食べたら魔族になっちゃうって事…?」


「近くなるだけだ。人間を水、魔族をレモンに例えるなら水の中に一滴だけレモンの果汁を混ぜた状態だ。まぁ、常人では考えられない程の特異な力を得る事が出来る訳だな」


「ほうほう…」


「そしてここからが本題だ。入手方法も不明。だからこそそれを欲しがる連中は山程居る。もしユウドの町へ着いたらそれを可能な限り高価で売り払え」


「売っちゃうの?」


「アカマルとはぐれた場合、身を守る手段が必要だろ。売った金で護身用の武器や魔石を買え。そうすればお前の生存能力は格段に上がる」


確かに種そのものに影響を与える魔石など絶対に誰かにとっては需要がある。そんな魔石をホワイトさんが持っていた事に疑問は残るが、プラントさんの言う事には従った方が得だろう。それを踏まえた上で私は彼に聞いた。


「これって売ったらどれくらいになると思う?」


「普通に売ったら『百万銀』…いや『五金』はいくだろうな。商売の駆け引きやらを知らないお前でも屋敷を買うぐらい可能な程の金額を得る」


「そっか。それだけ価値のあるこれを手に入れた私はラッキーだね」


「…キャロ?」


プラントは眉を顰める。彼の目線が集中する中、私はペンダントを口元まで持っていく。そこでようやくプラントさんは私が何をしようとしているのかを察したようだ。


私はその白い宝石を飲み込んだ。


「なっ…!?」


「不思議な感覚…喉に触れた瞬間、液体と化したような…」


「おい話聞いてたのか馬鹿!それを使えば正常な人間じゃなくなるんだぞ!?売れば有象無象の平民共でさえ得られないような大金を得るチャンスだったってのに…!脳が腐ったか!?」


「話は聞いてたよ。だから、飲んだ」


プラントさんは理解出来ないという顔で固まる。だが彼を見る私の真っ直ぐな目に、彼は何かを感じ取ったようだ。


「『人間の幸せ』なんて願い、私みたいなただの子供には到底叶えられない。そりゃそうだよ、そんなに簡単に叶うなら誰かがもう叶えてる筈だもん」


「だからお前は…人間を捨てたのか?」


「プラントさんも会った時に言っていた筈だよ。『人間としての生き方を捨てる事になる』って。だから私はそれを形にしただけ。人間のままじゃ、人間を守る事なんて出来ない。それに五金で買うような貴重なものなら自分で使わないと勿体ないでしょ?」


「………」


プラントさんはあまりにも予想外だったのか、動揺した様子で顔に右手を添える。そしてちらちらと私の顔を見ると彼は大きく溜め息を吐いた。


「やっぱり似てるよ、お前と王は」


「そう?」


「あぁ。…人間味を感じさせない所がそっくりだ」


良い事なのか、悪い事なのか。彼はそれ以上口を開こうとはしなかった。

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