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悪夢

作者: 下典



「ここはどこだ・・・?」


目覚めると周りには兵士そして部屋の奥中央には豪勢な装飾を施した椅子には王らしき人間が座り周りにはその親族と思われる人間たちが佇んでいた。何やら聞いたことのない言語でひそひそ話している。


「なんで?俺は死んだはず・・・」


醜い顔に肥えた体いわゆる弱者男性の俺はつまらない空虚な人生を終わらせるため、確かに電車に轢かれ自殺したはずだった。

しかしもらった鏡を見るとありえない光景が移っていた。

姿形が前の姿とは打って変わり、美形というにも余りある容姿となっていたのだ。

魔法使いのような男が何か唱えると俺の体はひかり、彼らの言語を理解できるようになった。

一体何が何やら訳が分からず呆気に取られていると王が語り掛けてきた。

その王に話を聞くとどうやら俺は死にゆく魂を憑依させこの体のイケメンに乗り移ったらしい、それと言語を理解できるようになった理由は魔法だという。この現象は異世界転生というやつらしい。そして王や王の周りの人間達の願いは転生前の現代国家の知恵でこの国の内政をして欲しいとのことだった。


ここは地球とは違う世界で、この王国では数年前に大国の侵略戦争の末の敗戦を喫しており、領土は分割され、国土は荒廃し、重くのしかかった債務は重税として国民の首を絞め、大きな不況のため失業者が増大し購買力は減少、それが新たな失業者を生むという悪循環に陥った。

国内の大きな反感は戦争を始め、国を取り仕切る王族に向けられ武力革命寸前だという。


しかしどうだろう、前世がサラリーマンで平凡な脳の俺に国の運営ができるわけがない、多少歴史の知識から偉人の政策は思い出せなくないがそれも義務教育で受けた程度だ。


「どうですか・・・できますでしょうか?」


王は不安げな表情を取り、俺の次の発言に固唾をのんでいる。


「・・ええ、なんとかしてみせましょう」


「なんと!!ありがたい!!」


王や周りの王族の不安げな顔は消え去り安堵の表情へと変わる。

ここで今自分がなにもできないのを言うわけにはいかない、なにもできないのがバレれば最悪追放され、何も知らない状態でこの見知らぬ土地で放置、なんてこともあるかもしれない。それにどうせ生き返ったのだ少しくらい嘘をついて楽しく生きたっていいはずだ。兎に角にもこの世界でいい暮らしを過ごしていくためにはこの王族達に有能な人物と思わせておかねばならない。


「ではまずもう一人憑依者を呼びましょう、私だけでは手が足りないので・・・それと呼ぶ人間に条件付けはできないでしょうか?」


あくまで自分が無能でないように見せながら国の運営に知識がある人間を呼ぶことができればそいつに業務をほぼ丸投げでも王らには俺が無能には見えないはずだ。


「はい、あと一人ならおそらくできるはずです、呼ぶ人間の条件付けは一つなら可能です、それと必ず自殺した人間の魂出ないと憑依できないようです」


「なるほど、それなら自殺している人間でなおかつ『最も多くの人間を統率していた人間』で憑依させることはできるでしょうか?」


我ながらいい条件を思いついた、最も多くの人間を統率してきたリーダーなら間違いなく内政において地検があるはずだ。

自殺している人間しか呼べないのは神が与えた二度目の人生のチャンスかそれとも生きることから逃げた命の二度目の人生という監獄なのか。


「わかりました、今すぐ憑依させましょう」


王の命令で即刻、憑依儀式は始められた。

まず生きた人を台座に寝させ、魔法使いの様な格好の人間が何かを唱えたかと思うと台座の人の体が光る。

その光はすぐに消え、その人が目を醒める。

目覚めた彼にさっきの自分と同じ情報を伝えた。


「なるほど、わかりました、私がこの国を変えて見せましょう」


その男は俺と違い情報を聞くと一才の曇りなくすぐさま王の頼みを快諾した。

彼は迷いのない純粋な顔をしていた。


「ちなみに君の名前はなんて言うんだ?」


「アディだ、よろしく」


「そうか、よろしくアディ」


アディ?歴史の教科書では聞いたことの名前だ、きっとほかの異世界の人間なのだろう。

それにしても大丈夫だろうか、彼もいきなりこの国を任せられて復興などなかなかの無理難題だ。


しかしその疑問は彼の行動をみるとすぐに吹き飛んだ。


彼は王国中を回り国民の状況などを見て回るとすぐに問題点をまとめ上げ隠された問題点を炙り出し解決に導いていった。

アディをリーダーとして数年に及んで国の復興に取り組んだのだがアディの政治手腕は凄まじいもので大きな問題だった失業者問題は大規模な公共事業で失業者を職につかせ失業率を40%を10%ほどまで落ち着かせた、それに労働環境の改善、福利厚生、これによりこの王国は経済成長期を迎えた。

アディが取り組んだのはそれだけではなかった。

彼は国民の健康問題、環境衛生にも力を入れた。

他の国の大使が訪問に来た時は「この国の子供は我が国と比べみな元気で肉体能力的にも高い水準に達している、彼らが大人になればまだこの国は発展を続けるだろう、依然と比べ国全体が目覚ましい進歩をしている」とこの王国の復興に感動したという。

さらには魔法まで活用した、魔法はこの国だけのもので自然的な物に逆らう手段、すなわち悪魔の力と忌み嫌われ王族の命令以外に使うことを禁じられていたが、すぐに偏見を解くように宣伝し、魔法を有効活用することに成功した。


そして何より彼のすごいところのは話のうまさだ。

たびたび起きていた不況による暴動、以前は武力で無理やり抑えていたが彼が来てから暴動はいい演説のの機会となった。

彼は優しい言葉と低い姿勢で暴動に参加したものを落ち着かせた、彼の言う短く具体的なキーフレーズは理解力のない民にも十分理解でき、感情的な言動やストーリーは民の心に共感性を生ませた。

民は彼に一人また一人と彼に魅了され、資金援助をする熱狂的な支援者も生み出すことに成功した。


気が付くと彼はこの国の実質的なリーダーとなり、英雄と呼ぶ人もいた。

王国も戦前以上に成長し、大国に一切引けを取らない国家として成立していた。

その中で俺は彼の補佐としてコバンザメのように彼の甘い汁を吸いつづけた。


ある時アディに呼ばれ二人で話し合うことになった。

夜の城の最上階アディは机に座りワインを味わっていた。


「本当にすごいな、アディ数年でここまでの国にするなんて、最初は反抗的だった民衆のほとんどがお前を支持してすっかり人気者だ、それで今日はなぜ俺を呼んだんだ?」


「二つ質問をしたくてね、まず一つ、年々上がり続ける人口に対して王国の食糧自給は現状では不可能、原料自給も不可能だ」


「それが一体どうしたんだ?」


「生存権だ、私たちは王国人民を扶養し、過剰人口を移住させるための土地を全世界に要求する、この国の経済状況、人民の強さ、忠誠心の強さ、そしてこの国にしかない魔法を駆使できれば険しい道にはなるが不可能ではない、そして何より生存権を得ることは私の前世からの夢なんだ」


「そんな・・・戦争したら多くの人が死ぬぞ!元も子もないじゃないか」


「・・・やっぱり君は邪魔になりそうだね、十分私のおかげでいい暮らしができたんだ、もういいだろう」


アディが机を二回叩くと制服を着た兵士たちが俺の手を拘束した。


驚いて動けなかったが何より俺が驚いたのはそれ拘束されたことではなかった。


その制服を着ている兵士は左腕に見覚えのある鉤十字の腕章をしていた。


アディは新しく生やしたちょび髭に触りながらこう言った。


「最後の質問だ、私に対する敬礼をこれからこうしようと思うのだがどう思う?」


ここで私は自分が彼を転生させてしまったことの愚かさを悟った。



どうかこの現実が夢であってくれと思うほどに。







「ハイル・ヒトラー」







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