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第二話「アイーダ」(全編)

日本で唯一の市立オペラハウスである、桜園シティオペラハウス。

落成10周年記念公演「アイーダ」の開催を前に、

「オペラ探偵」こと毛利さくらと、その相棒、有沢みなみの間に亀裂が・・・

何とか仲直りしたい有沢の思いは、果たして実を結ぶのか。

「アイーダ」の開幕です。

桜園音楽大学ホームページより、毛利華江理事長インタビュー(抜粋)


我が校の最大の特色といえば、やはりオペラ公演でしょうね。学内では、毎年、年に2回、オペラ公演をシティオペラハウスで開催します。普通の音大だと声楽科の学生が中心になると思うんですが、我が校の場合、舞台演出やプロデュース、メイクや衣装、大道具や舞台美術まで、舞台制作の全てを学ぶ舞台総合芸術科が、企画の中心になるんです。そして各学科から希望者を募り、学内のオーディションを経た選抜メンバーで、各公演を作り上げていく。

企画の良し悪しはチケット収入という形ではっきり成果になって現れますし、オーディション含めて、参加者全員の納得感を得るためには、舞台総合芸術科の企画担当者の視野の広さ、その年の学生たちの能力や個性を見抜く力など、まさに総合的なプロデュース力が問われます。総合芸術と言われるオペラの制作を、特定の音楽学科ではなく、全体を俯瞰できる舞台総合芸術科がリードすること、そして、その企画に学内の全ての学科生が同じ立場で関わることで、チームとして一つのものを作り上げるチームワークの大切さを学ぶんですね。

このオペラ公演のメンバーに選抜されることは、各学科のトップクラスの優秀な生徒である証ですし、競争率も高いです。一年生の時は選ばれたのに、二年生では脱落したり、途中でオペラ以外の表現を選ぶ学生もいます。付属の音楽高校在学中から特別推薦で公演に参加する学生もいますし、卒業後もアドバイザーという形で公演に関わり続ける学生もいます。4年間、あるいはそれ以上の期間、学内オペラ制作に関わり続ける学生の間では、年に2回のオペラ公演を成功させるために繰り返される毎日の練習や合宿などを経て、家族のような強い絆が生まれます。このオペラ制作に携わった学生たちは、卒業後もお互いを先輩後輩と呼び続けてますね。

さらに面白いのは、その先輩後輩関係が、各学科の垣根を超えていることです。バイオリン科の学生が、衣装担当の学生を先輩と呼んで、自分のリサイタルの衣装の相談をしたり、指揮科の学生と舞台総合芸術科の舞台監督志望の学生がカップルになったりね。音楽の世界ではこういった人的なつながりがとても大切。

オペラを総合芸術としてまとめ上げていくノウハウを学べたり、個々の楽器だけではない横の繋がりを作り出せるのは、相互協力関係にある桜園シティオペラハウスの存在が大きいです。シティオペラ管弦楽団のプロの奏者だけでなく、オペラハウスのバックステージを支える制作方の方々も、学生の講師として学内オペラ公演を指導します。卒業生の多くがシティオペラ管弦楽団の団員として活動していますし、バックステージも同様。

桜園シティオペラハウスが日本で唯一の市立オペラハウスと言われるのは、学校組織と協力することで、オペラハウスが持つべき、オーケストラ、声楽家、舞台スタッフの人的ネットワークというソフトを一通り備えているからなんです。一旦オペラからはなれて、ポップスやロックといった全く違う分野で活躍している卒業生や、音楽から離れて一般企業に就職した卒業生まで、時々、シティオペラ管弦楽団のエキストラのオーディションを受けに来て、実際に舞台に乗ったりします。受け入れる側も、あの先輩が戻ってきた、と大喜びだったりね。私たちが、この学校と桜園シティオペラハウスのコラボレーションによって実現した様々な成果の中で最も価値あるものは、そういう人と人との絆だって思っています。



東銀座駅近く、歌舞伎座地下、木挽町広場


「毛利さくらと喧嘩してるの?」

歌舞伎座の下のカフェでキャラメルマキアートのストローくわえながら、穂高先輩が言う。さっきまで2人で見ていたのは、メトロポリタンオペラ、通称METのライブビューイングの「ルサルカ」。相談事がある、と連絡したら、「METライブ奢ってくれたら」と言われて、お付き合いに都心に出てきたけど、お洒落な街並みに圧倒されてしまって息が詰まりそう。地下のカフェなら落ち着くかなと思ったけど、歌舞伎座の下なんか、逆にゴージャス過ぎて、なんだか目が回ってくる。

そんなお洒落でゴージャスな街並みの中でも、通り過ぎる人達が思わず一瞬視線を止めるのが、私の目の前に座ってキャラメルマキアートを召し上がっている穂高真里亞先輩。


ノースリーブのジャンパースカートは月の光を思わせる柔らかで光沢のあるアイボリー。下に着ているブラウスも、フリルの柔らかさにナチュラルな生成り感を共存させていて、首元の薄いブルーのレースチョーカーと共に、自然な雰囲気を醸し出す。細い肩紐の右の胸元にはシャンパンゴールドに輝く大きなブローチ。METの象徴であるシャンデリアを模した華やかなブローチで、ニューヨークに行ってきた人からもらったものだそうだ。ジャンパースカートの胸元から縦に走るレースはゴージャス感と可憐さを演出して、少し引き締めた腰の周りにあしらったシフォン生地のリボンと共に、身体のラインをあまり強調しないノンセックス感を出している。ふんわり広がったスカートの裾にはたっぷりのフリルが施されていて、白ソックスにブラウンのパンプスまで全て、何だかそのまま木々の緑の中に溶けていきそうな淡い雰囲気。


「今日のテーマは、『妖精』ですか」私はため息をついた。ゴシックロリータファッションが趣味の人ってのはそんなに世の中にゴロゴロいるわけじゃないと思うんだけど、なんで私の周りには2人もいるんかなぁ。しかもどっちもそういう出立ちが違和感なく似合ってしまう美人ときている。綺麗な人は何を着ても似合うからいいよなぁ。

「『ルサルカ』だからね」穂高先輩が言う。ルサルカは水の妖精だけど、有名なのは「月に寄せる歌」だから、森の妖精感と月の光の感じを合わせてみたわけですね。

「テーマがずれてる」穂高先輩が言う。「喧嘩の理由は?」

「『アイーダ』です」私はボソッと言う。誰かと喧嘩したことを思い出すのって不愉快だよなぁ。でも思い出さないと仲直りもできないしなぁ。


「『アイーダ』って、次のシティオペラハウスの演目だよね?」穂高先輩が言う。

「オペラハウス落成10周年記念公演です」私はうなずく。「穂高先輩もエントリーされてますよね?」

「まぁね」と、森の妖精はストローをくるくる回す。「あれは編成も大きくて、ハープが2台いるからさ。」

「今回はエキストラも多いみたいですね。アイーダトランペットとか、バンダもあるし」私が言うと、穂高先輩はストローから唇を離して、ちょっと遠くを見る目になった。「シティオペラの本公演は久しぶりだよ。」

言われてみれば、ここ1年ほど、穂高先輩をオペラハウスのピットで見かけなかった気がするな。大学構内ではよく見かけてた気がするけど。

「私、大学の講義手伝ってるからね。ほら、由里子先生の。」

そうか、それでしょっちゅう見かけてた気がするんだ。このゴスロリ美女がでっかいハープをゴロゴロ押しながら大学構内移動していたら嫌でも記憶に残るしなあ。


ハープってのはお嬢様楽器の印象あるし、実際楽器が高価なこともあって、穂高先輩みたいな良家のお嬢様が嗜む楽器、という傾向は否定しない。でも意外とガテン系の楽器なんだよな。穂高先輩も、このなりで、フォルクスワーゲンのワンボックスカーに、でっかいグランドハープを、ほとんど人の手借りずに一人で積み込んで首都圏走り回ってる。ハープ奏者をエキストラに招くオケ公演は結構多いから、需要もそれなりにある楽器。


「お忙しかったんですね」と私が言うと、ちょっと曖昧に頷いた。「まぁ色々あったんだけど、私のことはいいから。なんで毛利と喧嘩してるの?」

「『アイーダ』で着る服を新調したから見に来てって言われたんですよ」私は渋々思い出す。毛利さくらの家にお邪魔したのは初めてじゃないんだけど、あんまり心地よい体験じゃない。今回は特に、捨て台詞吐いて飛び出してきちゃったから、余計に不愉快な気持ち思い出しちゃうなぁ。

「新調とは、気合入ってるねぇ」穂高先輩が言う。

「まぁ、10周年記念公演ですからね。普段の公演なら既製服を少し手直しするくらいで済ませてるみたいですけど、演目も大きいし、気合も入ったんでしょう。でも、」

そこでちょっと言葉に詰まる。あの時の恥ずかしさが蘇ってきて、顔が火照ってくる。「行ってみたら、いきなり私の採寸始めようとしたんですよ。袖丈だの股下だの測り出して、挙句にスリーサイズだのなんだの確認し始めて。」

「有沢もドレス着るの?」穂高先輩が身を乗り出す。「どんなの?やっぱりロリータ風かな?それともセクシー系?プリンセス系?」

「乗らないで下さい」私はピシャリと言う。「私がドレスなんか、似合うわけないじゃないですか。毛利みたいに綺麗じゃないし、色気ないし。」

穂高先輩が黙ってこっちを見ている。「そもそも、『アイーダ』みたいな大きなものやるのに、舞台方もてんやわんやなんですよ。人手も足りないし、千葉さんも磯谷先輩もキューが多すぎてパニックになってるし。私がドレス着て客席にいられる日なんかないんだから。」

「そこは理事長権限使うって、毛利が言っちゃったんだな」穂高先輩がにっこり微笑んで言う。なんだろう、なんか、自分が情けなくなって、ちょっと涙出そうになる。「ドレスだって、理事長がお金出してくれるんですよ。私の分まで。」

「理事長っていうか、理事長のパパね。毛利のおじいさま」穂高先輩の微笑みは消えない。「毛利のおじいさま、孫娘にデロデロだからなぁ。」


毛利さくらの美学。オペラはできる限り、豪華な衣装で見る。

非日常の空間としてのオペラハウスを客席から演出するために。

オペラハウスの経営陣のスポンサーシップももらってる、なんて毛利は偉そうに言うけど、結局は孫娘がおじいちゃんにおねだりしてるだけじゃないか。そんなお金持ちのお嬢様のワガママに屈託なく付き合えるような、そんなハイソな家庭に私は育ってない。毛利さくらの家。大きな門扉から数分かけて歩いた先にたどり着いた立派な玄関の扉を、映画とかでしか見たことのないような家政婦さんが開けてくれる。私と私の友達の間にどれだけ距離があるか思い知らされる瞬間。そんな気持ちを逆撫でするように、毛利は、私を着せ替え人形にして、自分のそばに飾ろうとしたんだ。私が本来いるべき場所から引き離そうとしてまで。私は舞台裏で埃まみれになりながら大道具動かしたり綱引いたりしてるのが一番ふさわしいマッスル系女子なのに。


「ふざけんなって怒鳴って、飛び出してきちゃったんです。感情に任せて、結構ひどいことも言った」胸が急に締め付けられる。飛び出す前、呆然と私を見つめた大きな黒い瞳。邪気のない澄んだその瞳に涙を一杯溜めていた毛利。もうその一瞬から、私は後悔していた。こんなに綺麗なものに向かって、自分が放ってしまった言葉に。


「有沢はちゃんと分かってるわけだ。毛利に悪意はないし、有沢にマウンティングしようなんて優越感もない。純粋な善意で、有沢に喜んで欲しかっただけなのに」穂高先輩の微笑みは消えない。

「でもやっぱりズレてますよ。なんで私にドレス着せようなんて思いつくのか分からないし、そもそもなんでこんなに絡んでくるのかも分からない。」

「有沢が美人だからでしょうよ」穂高先輩が言う。何を言ってる。

「面白がってるだけじゃないかな。メイクや衣装で地味子がこんなに化けました、ビフォーアフターで比べてみましょう、なんて。」

「有沢は美人だよ」穂高先輩が繰り返す。「毛利は本物を見極める目を持ってる。あんたとつるみたがってるのは、あんたが本物のオペラオタクだって見極めたからだ。音大生にもそんなにいないタイプでしょ?」


それは確かにそうかもしれない。桜園音楽大学は、シティオペラハウスの運営に深くコミットすることで、オペラ制作に関わる人材を輩出している。理事長がどこかで言っていたその言葉は確かに真実だけど、でも現実はそんなに上手い話ばかりではない。オペラ公演からプロになる人の主流はやはり声楽家。楽器の専科の生徒にも、シティオペラハウスのハコ付きオケ、シティオペラ管弦楽団の一員になる、という道が用意されているのだけど、悲しいかな、市からの限られた補助金では、団員に充分な給料を払うことはできず、一部の正規団員以外の准団員さん達には、公演参加回数に対する出来高払いのお手当が出るだけ。自ずと、管弦楽団の団員として登録しながら、せっせと他のオケのエキストラや、自分の音楽教室の生徒さんからの月謝を稼いで食い繋ぎ、挙句に、ほかのオケの活動が忙しくなってオペラハウスの本公演に乗れません、なんて本末転倒なケースがゴロゴロ出てくる。ましてや、舞台制作の学科には、オペラにそれほど興味はないまま入学してきて、そのまま商業演劇や舞台制作会社のマネジメントといった分野に進む人も多い。それならまだしも、

「ウチの大学の一番多い就職先は音楽の先生と一般企業だからなぁ」穂高先輩が言う。「あんたや毛利みたいにオペラ一筋ってのはむしろ少数派だよ。オケ屋だって、ポップスやらジャズやらロックに転向するやつもいっぱいいるし。」


「有沢はもっと色んな舞台を見た方がいい」毛利さくらに言われた言葉を思い出す。

「どんな舞台でも、どんなパフォーマンスでも、そこから学べるものは必ずある。面白いか面白くないか、自分の興味のあるものかそうじゃないか、そんなことは置いて、舞台にあるものを真っ直ぐ見つめれば、有沢が将来作りたいと思っているオペラ舞台につながるヒントは必ず見つかる。舞台に上がれば全ては平等だから。」


私たち2人にとって、全ては将来自分たちが作り上げるオペラ舞台に通じる道だった。同級生に人気のアニメ映画からヘヴィーメタルバンドのライブまで、色んなパフォーマンスにできる限り触れながら、でも常に気持ちはオペラ舞台に向いていた。それが2人の絆だったし、きっとこれからもそうだ。それは私も異論はない。


「でも、だからって、なんで私がキレイな衣装を着ないといけないんですか」何を着たって、私は毛利さくらの引き立て役に過ぎないのに。

「本気でそう思ってるの?」穂高先輩がまじまじと私の顔を見る。

「毛利の隣にいて張り合えるのなんて、穂高先輩くらいっすよ」私が言うと、「それはまあそうだけどね」と、しれっと言う。流石だなぁ。

「でもさぁ、有沢はもう少し、自分の価値に気がついた方がいいよ。毛利は綺麗なものが好きだし、プロデューサー気質だから、磨けば光る原石が磨かれずに放置されてるのが我慢できないんだと思うよ。」

「…自分が磨けば光るとは思ってませんが」私は言う。毛利も穂高先輩も、私のこの平凡極まりないのっぺりした顔や中肉中背のどこにでもいる体型に(まぁそれなりに出るとこは出てるし引っ込むべき所は引っ込んでると思ってますけど)一体何を見てるか知らんけど、それはさておき、私は、自分の夢の相棒と仲直りをしたい。あの綺麗な瞳に浮かんだ涙にちゃんと償いをしないといけない。「とにかく、自分のできる範囲で、毛利の望みを叶えてあげたいんです。それでなんとか仲直りできないかなって。」

「それで私の出番?」穂高先輩が目を輝かせた。そんなに乗り気にならんでほしい。「いや、とにかく予算が限られるんで、ありものや借り物で何とかできないかな、と思って。穂高先輩、今日の髪もウィッグですよね?」

「これ?」と豊かなウェーブで肩を包み込む栗色の髪をつまむ。穂高先輩の地毛は黒なのだけど、ゴスロリ衣装の時にはかなり色んなウィッグを使って髪色で遊んでいる。今日の栗色はおとなしい方で、水色とか赤とか、ショッキングピンクなんかも当たり前。艶やかな黒髪が自慢で、エクステでアクセントをつけることが多い毛利とはそこが違う。だから、私も相談する気になった。

「ショートヘアのウィッグとか、お持ちなら貸していただけないかと。」

「いいねぇ」穂高先輩の瞳がらんらんと光り出した。「ボーイッシュ路線は素材の良さが際立つんだよねぇ。やる気出るなぁ。」

「ウィッグ貸していただくだけでいいので」私はちょっとのけぞりながら言ったけど、穂高先輩の瞳の炎は一向に小さくならない。「リフトアップテープで目尻上げる必要はないか。そのままでも切長で綺麗だけど、アイメイクはした方がいいな。眉はもう少し凛々しくした方がいいけど、服によるよなぁ…」

本当にこの人に相談してよかったんだろうか。私は既に後悔し始めている。



オーケストラリハーサル、桜園音楽大学講堂


桜園音楽大学の講堂の通用口で入館者チェックシートに記入してたら、「みなみじゃん」と声をかけられた。振り返って、心臓飛び出しそうになった。「麻野先輩?」

「元気そうだなぁ」人懐っこい笑顔に、頬にさあっと血が昇るのがわかる。やばい、落ち着け、私の心臓。

「ニューヨークじゃなかったんですか?」と言ってから、麻野先輩の傍に置かれた細長い黒い楽器ケースに気がついた。「ちょっと日本に戻るって話したらさ、ゆづが、アイーダのバンダのオーディションやってるよって教えてくれたんだ。久しぶりだし、受かればラッキーって思って受けたら、受かっちゃってさ。」

そりゃ受かるだろう。麻野先輩のトランペットの技量なら。何より、今のオケの団員との相性を考えても、麻野先輩が落ちるはずない。

「そんな簡単でもないぜ。クラシックの楽譜見るの久しぶりでさ。正直結構ヤバかったよ」と笑う笑顔が懐かしすぎて、なんだか胸がいっぱいになる。いかん、今日の目的を忘れちゃいそうだ。

「麻野君、帰国するなりうちのマスコットガールナンパすんのやめなよ」背後から声がかかる。「磯谷先輩、久しぶりっす!」とまた満開の笑顔。この人の笑顔はなんでこんなに周りを明るくするのかなぁ。



有沢みなみ、高校三年生の夏


真谷先輩、麻野先輩、穂高先輩と、その後の桜園シティオペラ管弦楽団を支える人材を輩出したこの代が四年生の時の学内オペラは、夏公演が「ポギーとベス」、冬公演が「フィガロの結婚」だった。この「ポギーとベス」の舞台裏を手伝ったのが、私の高校3年生最大にして最高のイベントだった。毛利さくらは桜園音楽大学付属高校の特待生として、当然のように高校入学直後から、学内オペラのプロデュースや広報に関わっていたそうだけど、中流家庭に育った私が学費のバカ高い付属高校に行けるはずもなく、ひたすら学割チケットを駆使して、シティオペラハウスの本公演に通いつめ、値段がリーズナブルな学内オペラは中学生の頃から既に全制覇を目指していた。高校3年生になって、進学先を桜園音楽大学の舞台総合芸術科に定めた時に、高校の先生が、「口頭試問のときに有利になるかも」とシティオペラハウスに働きかけてくれて、短期アルバイトで学内オペラの舞台方に潜り込むことができたのだけど、この一点だけで私は当時の担任の先生を一生の恩師と思っている。いや、普段の授業もそこそこ面白いいい先生だったんですよ。森先生、元気かな。


桜園音楽大学の講堂を借りて行われる本番直前のオーケストラリハーサル。舞台裏の段取りを確認するために演出卓のそばに座らせてもらった時、オケのトランペット吹きのお兄さんの周りに、なにかと人が集まっているのが見えた。歌い手さんは指揮者の真谷先輩の周りに寄っていくんだけど、オケの人と、オペラハウスのスタッフの人は、トランペットのお兄さんに声をかけることが多い。その全てに笑顔で答えて、そして集まってきた人がみんな笑顔になって去っていく。

「みなみちゃん、紹介しとくよ」と、舞台監督の千葉さんが、花咲か爺さんみたいに周りに笑顔の花を咲かせている人のそばに連れて行ってくれた。「麻野ちゃん、この子、高校生インターンの有沢みなみちゃん。」

「あ、麻野雅也です」とにっこり微笑まれて、私は金縛りにあったみたいにカチンコチンに固まった。「インペクやってます。インスペクターね。ま、オケの何でも屋です」そしてまた、こっちも笑顔にならざるを得なくなるパッと華やかな笑み。

「今年の学内オペラは伝説になるな」と、演出卓で、当時まだハコ付きスタッフに入ったばかりだった磯谷先輩が、私の左隣で呟いたのを覚えている。「ゆづちゃんの指揮も素晴らしいけど、歌にもオケにも逸材が揃ってる。それを麻野君がホントにうまくまとめてる。いいカップルなんだよなぁ。」

「ゆづちゃんと麻野君って付き合ってるの?」私の右隣の千葉さんが小声で言ってきて、私は意味もなく真っ赤になった。

「あれ、違うんですか?私てっきりそうだと思ってたんですけど」私を挟んで、頭の上で磯谷先輩が小声で囁く。「麻野君モテるからなぁ」千葉さんが同じく小声で返す。「オレが聞いたお相手は別の人なんだけど、2人いてさぁ」頼むから女子高生の頭の上でそういう会話はやめてほしい。麻野先輩が、パンパン、と手を叩いて、「そろそろチューニング五分前です!」と声をかけて、指揮台の真谷先輩に向かって敬礼するのを見て、私ははっきり自覚した。

これは恋だ。

高校3年生にして、初めて自覚した、初恋。



再び、オーケストラリハーサル、桜園音楽大学講堂


「初恋ってのは実らないもんだよねぇ」と、演出卓で隣に座った真谷先輩が呟いた。ギョッとする。

「アムネリスにとってはさ、ラダメスが初恋の人だったんだろうねぇ。オペラってそういう話が多いんだよねぇ。男を知らないウブな女の子が、初めて好きになった相手を一途に思い詰めて身を滅ぼしちゃうってさ。」


真谷先輩の視線の先には、指揮台の蔵本先生と談笑している麻野先輩がいる。蔵本先生のガハガハ笑いがいつもより1.5倍盛りくらいになってる感じがするな。麻野先輩がオケの金管群の中に歩み入ると、金管の人達がわっと歓声を上げた。


麻野先輩は大学卒業後に、当然のように桜園シティオペラ管弦楽団に准団員として入った。技量も高い人だったから、卒業後半年して、ニューヨークのジュリアード音楽院に留学する、と聞いた時も、みんなそんなに驚かなかった。だけど、専攻科がジャズコースだ、と聞いた時には、結構みんな複雑な気持ちになった。


「麻野先輩、もうオケはやらないんですか?」って、壮行会の時にズバッと聞いた人がいて、一瞬、会場全体がシン、としたのを覚えてる。みんなそれが一番気になってたんだろう。

「やらないってことはないよ」麻野先輩は笑顔で言った。「オレはプロになるんだ。このトランペットで食っていく。そのためには、こいつでできることはなんでもやらなきゃいけない。やれなきゃいけない。私はクラシックしかやりません、なんて自分で選り好みしてたら、稼ぐ機会を自分で減らすことになる。私は街の何でも屋でございますよって看板上げとかないと。

「でもね、一番のきっかけは、『ポギーとベス』だよ」と、麻野先輩は真谷先輩の方に笑顔を向けた。「あれをやって、急に世界が無限に広がった気がしたんだ。ガーシュインがクラシックに持ち込んだジャズのソウルを、ゆづが垣間見せてくれた。トランペットにはまだまだ出来ることがあるって思った。ゆづにはホントに感謝してる。」


あの時上がった歓声の中に黄色い声も混じってたのは、真谷先輩と麻野先輩が付き合ってるっていう噂が根強かったせいだろう。思い切って聞いてみるか。「真谷先輩。」

「ん?」と、ボブカットの横顔がこっちに向いた。

「真谷先輩って、麻野先輩と付き合ってたんですか?」

真谷先輩は、目をまん丸にして、分かりやすく顔を真っ赤にした。「ないない、それはないよ!」

「でも結構噂になってましたよね」畳み掛けてみる。

「まぁ、指揮者とインペクで一緒にいる時間長かったしね」真谷先輩は懐かしそうに言う。「あいつモテるからさぁ。その手の噂絶えなかったじゃん。」

真谷先輩自身は、麻野先輩のこと意識したりしたのかなって、聞こうと思ったら、逆に強烈なセリフが来た。「それにあいつ、好きな子いるみたいなんだよ。」

「マジですか?」有沢みなみはかなりのダメージを受けた。

「そう。それもどうやらこのオケのメンバーの中に。」

有沢みなみは10000のヒットポイントを失った。

「今回の帰国も、そういう意図があるんじゃないかなぁ。迎えに来たとか。あれ、みなみちゃん、大丈夫?」

有沢みなみは死んでしまった。誰か回復の呪文を唱えてくれ。



「アイーダ」公演2週間前 桜園オペラハウス会議室


「アイーダ」は、エジプトを舞台にしたヴェルディの大作で、スエズ運河の開通を記念して作られた、という俗説が流れるほど、スケールが大きく祝祭的な作品だ。特に第二幕第二場の「凱旋の場」は、式典用に管を直管にしたファンファーレトランペット、別名アイーダトランペットが高らかに鳴り響く華やかな場面として知られる。サッカーの応援歌にもなっていて、オペラを全然知らない人でも、きっと聞いたことのある名曲。

でも、スケールが大きい、ということは、舞台裏は戦場になる、ということと同義だ。それこそメトロポリタンオペラの「アイーダ」なんか、舞台面に巨大な壁と石像がそそり立ち、その壁の上に立ち並ぶ兵士や続々と登場する捕虜の群れ、豪華な略奪品の数々、ダンサーの群舞から本物の馬の隊列など、これでもかとばかりの物量が観客を圧倒する。我が桜園シティオペラハウスでそんな物量作戦は望むべくもないけれど、10年前の柿落としでも上演されたこの演目をもう一度、という気概と知恵と工夫で、なんとか舞台を豪華にしようと、舞台監督の千葉さんや磯谷先輩は日々ウンウン唸っていた。

「倉庫に10年前の大道具が残ってて、演出の幹代先生にも一部転用オッケーもらえてます。有沢、来週搬出手伝ってね。一旦奈落に格納します」磯谷先輩と集合場所と時間をすり合わせる。「仕込みはAキャストゲネプロ前日夜、昼本番終わってからですけど、昼本番は講演会なんで、衣装類とか床山系とか、持ち込めるものは昼のうちに搬入して、少しでも時間盗みます。」

ミーティングが終わってから、メイクの紗南ちゃんに声かけた。「あのさ、あとでちょっと、メイクのやり方教えてほしいんだけど」

「いいっすよ、舞台メイクっすか?」と、紗南ちゃんが答えて、急に私を指差す。「あ、有沢先輩の普段メイクっすか?ひょっとしてして先輩、ついに自分磨き決意しました?」

「いや、そういうことじゃないんだけどさ」と、計画を簡単に説明する。穂高先輩が頼みもしないのに書いてくれたコスチュームデザインと、メイクの指示書を見せると、紗南ちゃんの瞳がらんらんと光り出した。「これ、有沢先輩がやるんすか?マジすか?」

「いや、ウィッグと服に合わせて、軽くメイクもあった方がって穂高先輩が言うからさ」私はちょっとのけぞりながら言ったけど、紗南ちゃんの瞳の炎は一向に小さくならない。あれ、デジャブっぽいな。同じ経験を最近した気がするぞ。

「そんなの私にやらせて下さいよ。毛利先輩が本気で惚れ直すように仕上げてみせますから。うわーやる気出るなぁ。アイーダ本編よりモチベーション上がるわぁ。」

本当にこの子に相談してよかったんだろうか。私はさらに後悔し始めている。



「アイーダ」公演1週間前 国道


「磯谷先輩、真谷先輩に喋ったでしょ?」助手席でアイスコーヒー飲みながら私が言うと、「何を?」と言いながらハンドル回した。2トントラックの助手席は視野が高くて気持ちいいんだよなぁ。磯谷先輩の運転でさえなけりゃ。

「さっきからこいつあおってきやがってマジうぜえなぁ」磯谷先輩が毒づく。ハンドル持つと人格変わる人ってホントにいるんだよなぁ。「で、何喋ったんだっけ?」

「私と毛利が喧嘩中だって。」

「だって、燕尾服、ゆづちゃんから借りるんだよ。」

「田口先輩じゃなかったんですか?」聞いてないぞ。なるべく関係者少なくしようって思ったのに。

「流石にサイズ全然違うじゃん。やるからにはちゃんと体型にフィットしたものでさ。衣装部にも声かけたら、ちょっと手入れてくれるって。」

「ちょっと待って下さいよ」なんか、話がどんどんデカくなってる気がする。「ホントに、私の小遣いでできる範囲で、基本借り物で」

「そりゃアンタ、相談する先間違えたねぇ」磯谷先輩がギャハギャハ笑う。「今やアイーダ公演の裏プロジェクトとしてオペラハウス挙げて取り組んでますよ。有沢みなみ改造計画。」

なんだそりゃ。私は仮面ライダーじゃないぞ。

「みんな、アンタ達コンビが大好きなんだよ。仲直りしてほしいって本気で思ってるんだ。ありがたく受け取りなさいな。」


「このオペラハウスでできた絆は一生モノだからねぇ」真谷先輩は、講堂の客席でアイーダトランペットを膝に置いてスタンバイしている麻野先輩の背中を見つめながら、私に言った。「でも、絆は目に見えないからさ。結構簡単に、傷ついたり、切れてしまったりする。そこに絆があった、という記憶だけにしてしまうのは、悲しいじゃん。」


麻野先輩をニューヨークから呼び返したもの。帰巣本能を持つ動物の故郷のように、この学校やオペラハウスが、卒業生達を繋ぎ合わせている。そして戻ってくれば、温かい笑顔で迎えてくれる。人と人の絆で紡ぎ上げられた、柔らかな温かい毛布みたいに。

毛利さくらと私の絆は元に戻るんだろうか。あの時私が吐き出してしまった劣等感の毒。オペラハウスのみんなの協力があっても、一度外に出てしまった言葉は消せない。心の傷は身体の傷よりも治すのが難しいかもしれない。

2トントラックが、オペラハウスの駐車場入り口に近づく。「先輩、今回は車庫入れミスらないで下さいね。」

「おう、これ以上我が家を傷モノにはしたくないかんね」磯谷先輩が答えた。「で、どこで切り返すんだったっけ?」



アイーダ公演 前日ドレスリハーサル


ドレスリハーサルが終わって、大休止になった。細かい返し箇所を、客席の演出卓で、蔵本先生と幹代先生が詰めている。その間に、毛利さくらの定位置である桟敷席への動線を確かめた。舞台裏から上手側の客席通路に抜ける扉を通って、2階席への階段から桟敷席へ。とにかく人目につきたくないから、休憩中の移動は避けて、1幕の冒頭、ラダメスの「清きアイーダ」が終わって、客席に拍手が来た時に、桟敷席に滑り込んで、毛利さくらを驚かせる、という段取り。そしてできれば、1幕ラストの拍手の間にまた抜け出して、舞台裏に戻って改造人間から一般人に戻る。「それじゃぁ、毛利先輩とのツーショットが撮れないじゃないですか」と、紗南ちゃんが唇尖らせたけど、後で自撮り写真送るから、となだめる。


「初日にやりなさい」と、磯谷先輩にピシャリ、と言われた。初日は本番ならではのトラブルがつきもので、裏方の手は多い方がいいから、2日目以降にサプライズ仕掛けます、という私の案は速攻で却下。「初日にアンタが現れなかったら余計毛利が悲しむよ。トラブルなんか初日以外にだって出る。裏の手は充分足りてるんだから、それより大事なもの優先しなさい」と言って、磯谷先輩は顔を近づけた。「その代わり、私にもツーショット写真送って。」


一応、毛利には、LINEでメッセージ送ってある。この前はごめん、ちゃんと謝りたいから、アイーダの初日、必ず来てね、って送った。既読はついたけど、返事はない。毛利はこの程度のサプライズで本当に機嫌を直してくれるだろうか。


桟敷席からオケピットを見下ろすと、ハープのそばで磯谷先輩が穂高先輩と話しているのが見えた。穂高先輩は遠目から見ると黒いいでたちで、流石にオケピットに入る時にはゴスロリ衣装じゃないのか、と思ったら、よく見ると黒は黒でも、光沢のあるビロードのクラシカルなケープで、ちょっと魔法少女っぽく見える。ハリーポッターの演奏会でもあったのかな。磯谷先輩がこっちを見上げて手を振ったので、私も手を振った。

「みなみか?」すぐそばから声がして、横を見ると、隣の桟敷席から身を乗り出すように、麻野先輩の笑顔が覗いていた。「麻野先輩?」

なんで、と思ったけど、そうか、アイーダトランペットだ、とすぐ理解。オケピットの外、舞台上や客席、あるいは舞台裏で演奏される楽器群のことを、バンダ、というけれど、そのバンダで演奏されるアイーダトランペットは、客席の2階席や桟敷席で演奏されることも多い。今回のアイーダトランペットは桟敷席から吹くのか。桟敷席を通年で押さえてるなんて毛利くらいだから、関係者席として閉鎖してしまえば使える。演出としてもよくあるパターンだ。

「誰に手を振ってるんだ?」笑顔で聞かれて、「磯谷先輩です」と答える。「穂高先輩もいますよ。」手を振ると、穂高先輩が小さく手を上げてくれた。

「そうか、そこからはオケピット見えるのか」麻野先輩の顔が壁に隠れたけど、声だけは聞こえた。

毛利がこの桟敷席を愛用している理由の一つがそれだ。オケピットの全体が見えて、舞台面との距離も近い。特に公演の初日は、市長などのVIPが来ることもあるので、客席を非日常にする係の毛利は、桟敷席を指定席にしていることが多い。もちろん、正面から見た方が美しい舞台装置や演出も多いから、公演の初日以外は客席で見ることもある。あの衣装の毛利が客席のセンターに陣取っているのもなかなかに非日常的な空気感があるんだけど。

「穂高先輩、今日は魔法少女風ですよ」と教えてあげたら、麻野先輩は「お、それは後で見に行かないとな」と笑った。やっぱりいい笑顔だなぁ。一生片想いでもいいなぁ。


「…これ、既に燕尾服じゃないよね?」私はかろうじて絞り出すように言う。

ドレスリハーサルが終わって、舞台裏、関係者控室に戻った私の目の前のハンガーにかかっているのは、確かによく見れば真谷先輩が指揮台で着ている燕尾服をベースにしていると分かる。しかし、襟を一面に覆ってゴージャズに光り輝いているこのアイビー柄の金糸の刺繍はなんだ?いつの間にこんなものが生えてきたんだ?ボタンだって地味な黒いのが一つあっただけのはずなのに、胸から下に大きな銀色のボタンが6個並んで輝いていて、ご丁寧にポケットから銀の鎖がボタンに繋がっている。

「鎖の先には銀時計が仕込まれてございます」紗南ちゃんが言う。「異世界ファンタジーの貴族の御曹司をイメージしてみたそうです。」

オーダーと違う。返品するぞ。

「オペラハウスの衣装部舐めてもらっちゃ困りますよ」紗南ちゃんが笑顔を耳元に近づけた。「後は明日、我々メイク部ががっつり仕上げさせていただきます。逃げないで下さいね。」

目眩がしてきた。絶対毛利さくら以外のお客様の目につかないようにしないと。1幕が終わったらダッシュで舞台袖に逃げ込むぞ。



アイーダ 1幕 


清きアイーダ、神々しき姿

光輝と神秘の花に飾られた

我が想いの女王よ

我が命の煌めきよ


桟敷席の扉を開けた私は呆然と立ち尽くしている。会場は、1幕冒頭のラダメスのアリア「清きアイーダ」に対する拍手とブラボーの声に埋め尽くされ、そして、私の前の桟敷席には誰もいない。

ただ、譜面台があるだけ。

これはバンダの仕立てだ。2幕のアイーダトランペットの演奏場所。でもそれは、隣の桟敷席だったはずだ。もう一度、通路に出て扉の位置を確かめる。間違いない、昨日、わざわざ下見までして確認した、毛利さくらの定位置。

入れ替わったってことか。なら、毛利さくらは隣の桟敷席に移ったのか?なんで?昨日のドレスリハーサルから今日の初日開幕の間に?そんな変更、舞台方でも共有されてないぞ。

完全に頭がパニック状態になって、とりあえず隣の桟敷席の扉を開けようとして、踏みとどまる。待て、恐らくここに毛利さくらがいる。でももしいなかったら?他のお客様がいたら?隣じゃなくて、下手の桟敷席に移ってる可能性もあるぞ。

観劇中のお客様の舞台への集中を削ぐ行為は、舞台方として一番してはいけない行為だ。ましてや、私は今こんななりだし。

会場を揺るがすように鳴り響いていた拍手が止み、アムネリスが舞台上に歩み出している。愛するラダメスの心が自分に向いていないことに苛立つアムネリスとのやりとりが始まっている。最初のチャンスは逃してしまった。次の有名なアリア、アイーダの「勝ちて帰れ」は、1幕の幕切れだ。

とにかくまず、毛利さくらの位置を確認しなければ。下手の舞台袖に行けば、桟敷席の様子が覗けるかもしれない。私はもう一度、舞台裏に駆け戻った。


エジプト風の衣装を身に纏った合唱の人たちの間をすり抜けるように、楽屋の廊下を走る。見送る人達がなんか驚きの声をあげているけれど、耳を貸す暇はない。下手袖の操作卓の近くに駆け寄って、モニター画面を見る。

「えっと、誰?」卓に座った千葉さんが言う。「みなみちゃん?」

モニター画面に客席は写っているけど、桟敷席は画面の外だ。カメラはある程度首が振れるようになっているけど、桟敷席まではカバーしてない。モニターで見られないとなると、下手の袖幕に身を隠して、照明の影から桟敷席を伺うか?

私は襟元のキラキラ輝く金糸に目を落とす。ダメだ、この派手な衣装で、客席から少しでも見切れるリスクを冒すわけにはいかない。エジプトの世界を異世界ファンタジーの貴族の御曹司が幕袖から覗いてました、なんてことになったら。

「千葉さん」小声でささやく。「上手バンダの位置、変更しました?」

「…そうだっけ?」千葉さんは首を傾げる。「磯谷が蔵本先生と調整したのかもな。」

「磯谷先輩どこですか?」

「奈落だと思うよ。せり上がりのコントローラー。」

一瞬動線を考えたけど、一気に気が削がれる。ただでさえ、自分のワガママで今日の現場から離れてるのに、この上本番中で殺気立ってる磯谷先輩の邪魔をするのは。

ええい、こうなったら、毛利さくらの位置を特定できる確実な方法を取るしかない。



アイーダ 1幕〜2幕 幕間


周囲の視線が全部私に注がれてる気がする。足元がガクガク震える。私は舞台裏の暗がりで、なるべく人目につかない所で、輝く舞台をそっと眺めているのが好きなんです。スポットライトが自分に当たるのは困るんです。なるべく隅っこで、目立たない所で、誰にも気づかれずに一生を終わりたいと思ってるんです。そんなにこっちを見ないでください。ため息ついたり、指差したりしないでください。周囲に視線を動かすな。真っ直ぐ、御目当ての標的だけを見据えろ。

休憩中のロビーで一番目立っている女。周囲に沢山の常連のおじいさまおばあさまを従え、女王様のようにニコニコと応対している彼女の今日の出立ちのテーマは、当然ながら、エジプト。

ラピスラズリを思わせる深い青を基調にしたサイドシフォンスカート。スカート一面に青で描かれたエジプトの壁画のモチーフに、繊細な金糸の縁取りがゴージャス感を加えている。スカートの裾も金糸のレースで飾られているけれど、金ピカにならないように適度に抑制されていて、豪華だけれども品格を失っていない。腰をキュッと締めたブラウンのベルトにも、ラピスラズリの青をイメージした石の装飾が施されていて、金と青で装飾されたスカラベを模したバックルでエジプト風を強調している。トップスはゆったりした白のブラウスで一瞬シンプルに見えるけど、花のように広がった襟飾りや袖口には細かい金の刺繍がさりげなく施されている。青みがかったカラーコンタクトをつけた瞳、そして何より目を引くのは、艶やかな黒髪の上に輝く金のヘッドバンドだ。ヘッドバンドの額には、真っ青なラピスラズリが埋め込まれていて、左右から金の蛇が二匹、それを支えている。


ゴシックロリータ風クレオパトラかと見まごう毛利さくらだけを視界にとらえて、私は真っ直ぐ彼女に向かって歩く。毛利さくらの視線が私を捉え、一瞬の訝しげな表情から、驚愕の表情、そしてそれが、ぱあっと輝く笑顔に変わる。ホントにこいつ、オペラという非日常の世界から舞い降りた女王様みたいに綺麗だ。

毛利さくらを包んでいた常連さんたちの輪が自然に割れて、私と毛利の間に道ができる。私はゆっくり歩み寄って、毛利さくらに手を差し伸べる。その手の上に、毛利さくらは、そっと指先を乗せた。その細い、すぐに壊れてしまいそうな指先をきゅっと握りしめた。

「ごめん、私には、これが精一杯」ボソッと言うと、毛利さくらは、握りしめた手のひらを引き寄せて、私の腕に自分の腕を絡めた。

「最高だよ」って、私の肩の下から、小さな声が聞こえた。


「ウィッグは穂高先輩に借りたんだよ」と言うと、毛利さくらは「それでか」と微笑んだ。「開演前に、わざわざ穂高先輩がロビーに来たんだ。有沢が行くから、ちゃんと仲直りするんだよって。」

私たちは桟敷席に戻っている。休憩時間はまだかなり残っているけど、私はロビーでこれ以上人目につくのは耐えられないと、毛利と一緒に桟敷席に駆け込んだ。予想通り、毛利は上手側の隣、舞台面から遠い側の桟敷席に移っていた。昨日の夜、磯谷先輩から直接LINE来て、桟敷席の変更打診されたそうだ。蔵本先生の指示だったのかな。それにしてもなんで私に教えてくれなかったんだ?

「穂高先輩、今日はどんな衣装だった?」と聞くと、毛利はクスクス笑った。「珍しくシンプルな黒のストレートドレスだったよ。胸にMETのブローチ付けてるくらいで。」

ああ、この前のライブビューイングでも付けてたやつだな。

「でも、なんで男装なの?無茶苦茶似合ってるけどさ」毛利が言う。

「私はガテン系だから、綺麗なドレスなんか似合わないし」客席からこちらを見上げているお客様の視線が気になる。ちょっと壁際に身を隠そうとするのに、前の席に座った毛利が絡めた腕をほどこうとしないから、自然、私も客席から結構見えてしまう。この桟敷席だけ次元が違って見えてるだろうな。

私がいつものスタジャン姿で、開場直後の関係者控え室に顔を出した途端、紗南ちゃんが、サラシ布持って飛びかかってきた。「まず女子トイレに来て下さい、胸つぶします!」と叫んだ時から、私はもうあれよあれよという間に紗南ちゃんのオモチャになった。1幕開幕前で忙しくないのかと思ったけど、紗南ちゃんは「全然平気っすよ。合唱陣はドレスリハの時にメイク一回練習してもらったし、ソリストさん達は先輩達が対応してますから、下っ端の私は出番ないんで」と、私を女子トイレに引きずり込む。「先輩、出てる所しっかり出てるから、ちょっと胸苦しいっすよ」と言われて胸周りにサラシをギュッと巻かれて、ドレスシャツを引っ掛けて関係者控え室に戻れば、衣装部の人達が待ってましたとわらわらやってきて一瞬で真谷先輩の燕尾服(ほぼ原型をとどめていないファンタジー仕様)を着付けてくれて、続いて再び紗南ちゃんと床山の人たちがわらわらやってきて、気がつけば鏡の中に、漆黒のハンサムショートの髪にパープルの入った唇、切長の目にキリリとした眉の異世界貴族の御曹司が座っていた。

「まぶたにラメまで入ってる」毛利がクスクス笑う。「やっぱり有沢は綺麗だよ。顔立ちが整ってないと男装なんか似合わない。自分に自信持っていいと思うよ。」

「私は自分が綺麗かどうかとか、どうでもいいんだ」私は言った。「毛利を喜ばせたいって、私がポロッと磯谷先輩に呟いただけで、このオペラハウスのみんなが私に力貸してくれた。私自身にはなんの力もないかもしれないけど、でもこのオペラハウスの仲間がいる。磯谷先輩も、穂高先輩も、真谷先輩も、紗南ちゃんも、衣装部や床山の皆さんも、一瞬で私を改造しちゃった」そして、隣で満面の笑みで私を見つめている毛利を真っ直ぐ見つめた。「私は、毛利さくらに負けないすごい宝物を持ってるんだって、改めて思った。変な劣等感で、ひどいこと言ってごめん。」

毛利はちょっと顔を赤らめた。休憩3分前、ロビーのお客様に入場を促すアナウンスが聞こえる。「終演後、ツーショットの写真撮ろうね。」

「終演後までは無理だよ。2幕の後の休憩では、毛利はロビーに行かないと。私はもう舞台裏に戻る。この格好は2幕の間で終わり。」

「えー、もったいないなぁ。じゃあ今撮らないとダメじゃん」毛利が急に慌ててスマホをバッグから出す。

「ホントは、1幕の途中で桟敷席に入って、1幕の幕切れの拍手の間に写真撮って、そのまま舞台裏に消える予定だったんだよ」毛利が自撮りシャッター切りまくっているスマホに向かって、精一杯の笑顔向けながら、私は言った。「まさか桟敷席移動してると思わないからさ」今思い出しても顔に火が出そうだ。千の矢のように身体に突き刺さったロビーのお客様達の視線。

「有沢も知らなかったの?」毛利がピースサインしながら言う。

「昨日までは、確かにこっちの桟敷席がバンダの位置だったんだ。ドレスリハが終わってから、急に変更したんだと思う」考えてみれば本当にヘンだ。照明位置も変更しないといけないし、微調整といっても結構手間のかかる変更なのに、舞台方に周知されてないなんて。

「こっち側でアイーダトランペット吹くのは、ひょっとして麻野先輩?」毛利が言う。

「そうだよ」私が言う。客席の扉が次々と閉じていく。そろそろコンマスの入場だ。

「なるほどね」毛利が言う。

「なるほどって?」私は尋ねた。何に納得してるんだ?

「磯谷先輩って、いい先輩だよね」と、毛利さくらはにっこりした。オケピットの中に、チューニングのラの音が響き始めた。



アイーダ 終演後


おお大地よ、さらばだ、涙の谷

悲嘆の中で消えた歓喜の夢

天の扉が開かれ、この迷える魂は

永遠の太陽の光へと飛翔する


終演後、スタジャン引っ掛けて奈落に降りたら、せり上がり機構の側で磯谷先輩が手を振った。「仲直りできた?」

「おかげさまで」というと、私の顔を覗き込んで、プッて吹き出した。「まだ目の周りにラメ残ってんじゃん。」

「紗南ちゃん気合入れすぎなんすよ」とボソッと言うと、磯谷先輩はケラケラ笑う。「あの子も今年バイトで入ったばっかりで、主要キャストのメイク任されてないからさ。張り切っちゃったんでしょ。」

「磯谷先輩、聞きたいことあるんすけど」私は言う。毛利さくらの謎解きの答え合わせをしないといけない。「麻野先輩と穂高先輩のために、桟敷席移動したんですね?」

磯谷先輩が穴の開くほど私の方を見た。「毛利さくらに言われたの?」

私が頷くと、磯谷先輩はゲラゲラ笑い出した。「参ったなぁ。オペラ探偵にはなんでもお見通しってわけだ。」


「技術的に言えば指揮者さえ見えればいいんだから、わざわざバンダの位置を変える理由なんてないんだよ。手間をかけてまでバンダの位置を変えたのは、オケピットから麻野先輩が見えるようにしてあげたかったからでしょう。あるいは、麻野先輩からピットが見えるようにしてあげたかったか」毛利さくらは言った。「ピットの下手側、麻野先輩を正面から見上げる位置にある楽器奏者のリクエストだったとしたら、一番怪しいのは穂高先輩だと思うんだよね。」

確かに、穂高先輩の弾くハープは下手側に配されている。でも、他にもいっぱい楽器はあるじゃん。

「なんで?」というと、毛利はにっこり微笑んで言った。「穂高先輩がつけてたブローチ、METのブローチだったよね。」

そう、メトロポリタン歌劇場、通称MET。ロビーを飾るシャンパンの泡を模した大きなシャンデリアが有名で、穂高先輩が身に付けてたブローチも、そのシャンデリアを模していた。

「METはニューヨークのリンカーンセンターにある。そしてMETの隣にあるのは?」

「ジュリアード音楽院」私は呟く。麻野先輩の留学先だ。ニューヨークに行ってきた人からもらったと、確かに穂高先輩は言っていた。

「多分、麻野先輩が日本に戻ってきた時に、2人で会って、穂高先輩に麻野先輩がプレゼントしたものだと思う。穂高先輩はブローチ付けてる自分も見せたいし、麻野先輩も、穂高先輩の正面でアイーダトランペット吹いてるのを見せたかったんでしょう。あのブローチがちゃんと目立つように、あえてシンプルなストレートドレス選んだんじゃないかな。穂高先輩、黒のドレスだけで50種類以上持ってるからねぇ。」


前日のドレスリハーサルの時、ピットで話し込んでいた穂高先輩と磯谷先輩。そういえばあの時の穂高先輩も、黒は黒でも魔法少女ケープ付きだったな。

「真里亞が、桟敷席のあんたに手を振ったあとでポロポロ涙こぼし始めちゃってさ。見上げたら、隣の桟敷席から身を乗り出してあんたと話してる麻野君がぎりぎり見えて、お姉さんはピンと来たわけですよ。なんせ、真里亞がシティオペラ公演に出なくなったのも、麻野君の渡米がきっかけだったからね。なんか色々あったのは聞いてたから。」

磯谷先輩に問い詰められた穂高先輩が白状した話は、毛利さくらの想像よりちょっと深刻で、麻野先輩は穂高先輩に、一緒にニューヨークに来てくれないかって言ってたらしい。胸に付けたMETのブローチはそのお返事の合図で、

「付けてくるっていうのがyesの返事ですか?」って私が言ったら、磯谷先輩は首を横に振った。

「離れていてもあなたのことをずっと思っていますっていう意味で、noっていう意味なんだってさ」磯谷先輩も首を傾げる。「なんか、普段から服で色々メッセージを発信する人って、ちょっと発想が違うよねぇ。」

オケピットから麻野先輩にnoのお返事を告げたら、初日終演後すぐに会場から去ろうと思ってたらしい。初日の夜にいっぱい泣いて、翌日からは何事もなかったかのように笑顔でピットに戻る。そんな穂高先輩の(ちょっとメロドラマっぽい)計画が、バンダからピットの中が見えない、という単純な障害に阻まれてしまった。

「しょうがないなぁって、蔵本先生と照明さんに、舞台裏から桟敷席の動線言い訳にして、毛利にも了解もらって急遽バンダの位置を変更したわけですよ」磯谷先輩は苦笑いする。「あんたといい真里亞といい、手のかかる後輩達だわ。」

「でも、私に伝え忘れたのはひどいっすよ」と私が文句を言うと、磯谷先輩はニヤっとした。「あ、それはわざとね。」

「はあ?」どういうことだ?

「毛利さくらの位置が分からないとなれば、あんたはあの格好で色んな所走り回るでしょ。そうすりゃ、あんたのあの格好を沢山の方々に見ていただくことができる。勿体ないじゃん。桜園オペラハウスの舞台裏全面協力で作り上げた改造人間有沢みなみ。」

この人、いい人っぽい顔して実は悪魔か?

「まさか、お客様がいっぱいいるロビーに登場するとは思わなかったけどね」と、手元のスマホの画面をこっちに見せた。ロビーで、手を取り合っている毛利と私の写真。顔から火が噴き出した。「なんですか、この写真!」

「ロビーにいた受付スタッフが撮りまくってたらしいよ。舞台裏のスタッフのグループチャットにバンバン流れてきてる。」

やめてくれ、誰か桜園市のインターネット回線を全遮断してくれんか。

「みんな、毛利と有沢のファンなんだよ。このハコが、父兄みたいに見守って育ててきた可愛い子供達。麻野君も、ゆづちゃんも真里亞も、私も田口も。」

それは確かにそう思う。毛利さくらとの仲直り作戦で気付かされた、私の最大の財産。

「でさ、麻野君の事なんだけどさ」磯谷先輩の目がギラっと光る。若干悪魔っぽい邪悪な感じの笑み。「傷ついた心を抱えてニューヨークのジュリアードに寂しく帰ることになるじゃん?」

「そうですね」何をそんなにワクワクしてるんだ?磯谷先輩が、一段声を潜めて、私の耳元に囁く。

「どうやら、ゆづちゃん、ジュリアード留学考えてるらしいんだよ。」

「真谷先輩が?」オーケストラリハーサルの時、麻野先輩の背中を目で追っていた真谷先輩の視線を思い出した。ちょっと切なげな表情で、アムネリスの悲恋について語っていた真谷先輩。

「いいねぇ。現役の頃の焼き木杭に火がつくのか、それとも真里亞の逆襲があるのか。この三角関係、これからも見逃せませんねぇ」磯谷先輩は一人で盛り上がっている。

私は私で、自分の初恋の話は毛利さくらには秘密にしておこうと思った。あの毛利さくらの目から隠し通せるか、ちょっと自信はないけれど。穂高先輩が見上げた視線の先で、アイーダトランペットを高らかに吹き鳴らす麻野先輩、カッコよかっただろうな。

そういえば、毛利さくらの初恋の相手って、誰なんだろうな。そんなことを考えながら、私はせり上がりの下、ラダメスとアイーダが生き埋めにされ、永遠の愛を誓いながら死んでいく墓の中から、明るい地上へと上る階段に向かった。



(第二話「アイーダ」 幕)

さくら学院の藤平華乃さん(現onefiveのKANOさん)が、さくら学院の日誌で、当時のメンバーをオーケストラの楽器に例えていたことがありました。今回、アイーダトランペットの吹き手とオケピットの中の演奏者の恋、という話を思いついた時に、トランペット奏者を麻生真彩さんをモデルにしたキャラにしたのは、この藤平さんの日誌で麻生さんがトランペットに例えられていた所からの発想です。そこから自然に、日髙麻鈴さんをモデルにしたキャラと新谷ゆづみさんをモデルにしたキャラが麻生さんを巡って三角関係になる話になったのは、さくら学院の2018年度学院祭での3人の即興芝居が強烈だったせいですね。そう考えるとこのシリーズ、本当にさくら学院がなかったら生まれてないんだよなぁ。

もしさくら学院を知らずにこのお話を読まれた方がいらっしゃったら、是非このグループのことを知って欲しいって思います。自分の置き忘れてきた色んな宝物を思い出させてくれる、素敵なグループですよ。

次回投稿の第三話のオペラは「ラ・ボエーム」。次回は@onefiveの4人をモデルにした登場人物たちが大活躍します。是非合わせてお読みください。

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