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供養集  作者: フルビルタス太郎
9/16

異世界最強の暗殺者が私ん家に居候しているんだけど……。のプロローグ

 陽が翳り始め、街やテーブルの上が金色に染まったのも束の間、いつのまにか辺りを彩る色彩は、金色から寒々とした墨色に変わり始めていた。

「ちょっと、苅部さん。聞いてます?」

 呉服町商店街のスクランブル交差点を見下ろすビルの一室にある洒落た喫茶店の中、キヨオカジャーナルの記者である宗方翡翠は目の前に座っている苅部啓介という男に向かって不機嫌な口調でそう言った。

 苅部は、手にしたスマホの画面を見ながら「聞いてる、聞いてる」と気の無い返事をした。彼が見ているのは、大井競馬第九レースのライブ配信だった。

「嘘ばっか」

 そう言うと翡翠は、メロンソーダの上に浮かぶバニラアイスをスプーンで掬って口の中に入れた。ほんのり甘く、牛乳の風味がしっかりと出ていた。「さっきから、スマホばかり見てるじゃないですかぁ、」

「だから、ちゃんと、聞いてるって……シャァッ!」

 話している最中に選んだ四頭中、三頭が三着内に入ったので苅部は、嬉しそうにガッツポーズをした。

「あー、当たったんですね。万馬券」

 翡翠は、その様子を冷ややかな表情で見ながらそう言った。

「へっ?どうしてわかんだよ。万馬券って、あ、もしかしてエスパー?」

「んなわけないじゃないですか。……苅部さん、万馬券しか買わないんですから当たれば自動的に万馬券ってわかるんですよ」

「ワイドや馬連かもよ?」

「知りませんよ、そんな事ッ!」

 翡翠はそう言うとぷぅ、っと頬を膨らませた。

「まあまあ、そうむくれんなって、」

 苅部は、そう言うとテーブルに置かれたティーカップを手に取り口を付けた。彼が飲んでいるのは、ミルクがたっぷりと入ったカフェオレだった。「で、ちーちゃんは、俺にその連中を調べろっていう訳だ?」苅部は、カップをソーサーの上に置きながらそう言った。

「はい。この前、無理に頼んで見せて貰った手帳から割り出した人達です。」

 翡翠は、そう言うとバックから写真を取り出してテーブルの上に並べた。写真は全部で一五枚で、撮影場所やアングルはバラバラだった。「お姉ちゃんは、事件発生までの一週間の間にこの人達と会っていました」

「多いな」

「当時、お姉ちゃんは、連載企画を幾つか担当していたそうです。この人達がもしかしたら何かを知っているかもしれないんです」

「でもさ、ちーちゃん。警察だって無能じゃねえ。捜査資料を読んだけどさ、手帳にあった連中はいの一番に調べてんだよ。今更、調べても何も出てきやしないと思うけど、ね」

「でも、苅部さん。もしかしたら……」

 翡翠は、身を乗り出しながらそう言った。

「……なあ、ちーちゃん。鏡子の件、調べるのいいかげんやめたらどうだ?」

 苅部がそう聞くと翡翠は「……なんでそんな事いうんですか?」と小さく呟いた。

「……ちーちゃんが心配だからだよ」

「でも、いくら待っても捜査は、ちっとも進展していないじゃないですかッ⁉︎」

 翡翠は、声を荒げながらそう言った。周囲の目線がざっと翡翠達の方に向けられた。

「……ちゃんと調べてるよ。まあ、捜査本部の規模は縮小されちまったけどさ」

「……すみません」

「なあ、イカロスの翼って知ってるか?」

「はッ⁉︎」

「ギリシャ神話、だっけかな。蝋で固めた……」

「いや、知ってますけど……。ていうか、なんも関係ないじゃないですかッ⁉︎」

 翡翠がそう言うと苅部のスマホが鳴った。

「……っと、悪りぃな」

 苅部は、一言断ってから電話に出た。「はい、苅部です。ああ、はい。わかりました」通話を終えた苅部はスマホをポケットに入れると立ち上がった。

「仕事ですか?」

「ああ。悪りぃな」

「あ、じゃあ、コレ。この一五人に関する資料、作ってきましたんで渡しておきますよ」

 そう言うと翡翠は、カバンから少し大きめの茶封筒を取り出そうとした。

「あー、遠慮しとくわ」

 苅部はそう言うと伝票を手に取った。「じゃ、ここは、俺が持ってやるから。貸しって事で、」苅部は軽く笑いながらそう言うと、レジの方に向かって歩いて行った。

「ちぇっ……。ケチな上に強引なんだから」

 翡翠は、軽く舌打ちをするとストローでグラスの中をかき回した。溶け始めたアイスがソーダと混ざり合い、不透明なパステルグリーンへと変わっていった。

 その様子をぼんやりと眺めているとカバンの中からスマホの着信音が聞こえてきた。

「ん、鈴原くんから……?」

 珍しいな、と思いながら電話に出ると、後輩の鈴原貴之のご機嫌な声が聞こえてきた。

『あ、ちっちゃいひすいせんぱ〜いッ』

 鈴原が猫撫で声でそう言うと翡翠は「あ、喧嘩売ってんのか⁉︎」と、腹の底から湧き上がったような低い声でそう言った。

『うってませんよう、』

 鈴原は、そう言うと小さな声で笑った。

「で、なに。用がないなら切るけど?」

『せんぱい、いま、ひまです?』

「は?」

 翡翠は、顔を顰めながらそう言った。

『いや、いま、いつものみせで、みんなでのんでるんすけどぉ。せんぱいもどうかなぁって……』

「ごめん。鈴原くん。今、そんな気分じゃないんだ……」

 翡翠が、申し訳なさそうにそう言うと鈴原が『えー?せんぱい、かれしとかもいないし、どうせ、ひまでしょ?いっしょにのみましょーよー』と言った。

「いや、あのさ……」

『あーあ、せだけじゃなくて心もちいさいんですね。せんぱいは……』

「おうおう、鈴原くん。いい度胸してんね。誰が、背も胸も小さいって?」

『あー、だいじょうぶです。おれは、ちいさなせんぱいがだいすきですから』

「よーし、今すぐ行って潰してやるよ。覚悟しときなね?」

 鈴原の言葉に頭にきた翡翠は、電話を切るとメロンクリームソーダを一気に飲み干して店を出た。そして、そのままの足で鈴原がいるいつもの店、繁華街の一角にある《酔酔亭(すいようてい)》という居酒屋に向かった。

 この店は、大手ディスカウントショップの隣にある細長いビルの三階にあり、翡翠の先輩である白石鷹冬(しらいしたかとし)が経営していた。その為、翡翠とその仲間達の溜まり場となっていた。

「いらっしゃい」

 エレベーターの扉が開くと共に威勢の良い掛け声が聞こえてきた。辺りを見回すと奥の座敷で手を振っている同僚の松原ひろみの姿が見えたので、近づいてみるとひろみが明るく弾むような声で話しかけてきた。

「やっほー、早かったじゃん」

「あれ、鈴原は?」

 翡翠は、座敷に上がり、辺りを見回しながらそう言った。

「ん、あっちで潰れてる」

 ひろみが指さすと部屋の隅で寝ている長身の男の姿があった。

「ちぇっ、潰そうと思ったのに……。大将ッ!生、一つッ!」

 翡翠は、そう言いながらひろみの向かいの席に座った。

「あいよッ」

 威勢の良い声が聞こえてきた。

「あはは、あんたが言うと洒落にならないって」

 ひろみは、けらけらと笑いながらそう言った。どうやら、だいぶ酔っているみたいだった。「ていうか、機嫌、悪そうじゃん?どうしたの」

「うん。まあ、ちょっと、ね」

「ふーん。彼氏にでも振られた?」

「違うわよ。違う。違うから、さ……」

 翡翠がそう言うと、大ジョッキに注がれた生ビールが運ばれてきた。

「お、きたきた。んじゃ、かんぱーい」

「おつかれー」

 ひろみは、そう言うと自分のグラスを掲げ、翡翠のジョッキに軽く当てた。小さく、キン、とグラスとグラスがぶつかり合う音が響いた。

 翡翠は、そのままジョッキに口を付け、冷たい生ビールを身体の中に流し込んだ。

「っはぁ、うめえ」

 そう言いながら、どん、とジョッキを置いた。

「うわ、おっさんくさ……」

 ひろみは、目をうっすらと細めながらそう言うとグラスをくいっ、とあおり、中身を飲み干し「すみませーん。カシオレ、一つ」と言いながらグラスをテーブルの上に置いた。

「はーぁ、ったく。苅部さんのやつぅ……」

 翡翠は、そう呟きながらジョッキの中身を飲み干すと、つまみの粗挽きソーセージを豪快にボリッと齧った。中からじゅわりと肉汁が溢れ出した。

「ふはぁ、うめぇ……」

「愚痴るか食うかのどちらかに出来ないの?」

「いいじゃん……。あ、生、おかわりぃ」

 翡翠がカウンターに向かって大きな声で言うと「あいよ、」という声が返ってきた。

 その後、翡翠は、嫌なことでも忘れるかのように早いペースでジョッキを空にしていった。

「てか、ペース、早くない?」

 ひろみは、顔を赤くした翡翠に向かってそう言った。彼女の方は、頬を僅かに紅潮させるて程度で、酔いが全く回っていないように見えた。

「だあってぇ……」

 翡翠は情けない声でそう言った。「苅部さん、調べてくださいってぇ、おねがいしたのにぃ、断るんだもん……」翡翠はそう言うと先程、苅部に見せた写真をひろみに見せた。

「いや、わたし苅部さんって人知らないから」

「お姉ちゃんの恋人……」

「じゃあ、知らないわ。ていうか、すごいメンツ。柚木翔太に熊澤健吾、うわ、御子神靖幸もいるじゃん……。はぁー、今をときめく人たちばっか、」

 ひろみは、写真を見ながらそう呟いた。「んで何?この人ら、なんかやらかしたわけ?」

「ん?なんか知ってんの?」

「ちょっと、聞いてるのはわたし。……有名よ?この人ら。この二人なんか特に」

「お、なんだい。ひーちゃんとまっつんは玉の輿狙いか?」

 酒とつまみを運んできた白石がひろみの持っていた写真を見ながらそう言った。

「違いますよぅ〜。お姉ちゃんが亡くなる前に取材していたんです……」

「ああ、なんだ。どうりで見覚えがあると思ったよ」

 白石は、そう言うと軽く笑った。「たしか、現代の経営者だったっけかな?そんな企画でさ。まあ、その中でも一番の出世頭なのがこの二人かな」

 そう言うと白石は、熊澤と柚木の写真を指差した。「驚きだよ、あん時は小さな会社だったのにさ、今じゃ、日本有数のIT企業ときたもんだ。……ああ、そういや、熊澤健吾で思い出したけどさ、この前、変な客が何か言ってたな」

「変な客?」

 白石の言葉に興味を持った翡翠は「え、その人何言ってたんですか?」と食い気味に聞いた。

「うーん、あ、そうそう。たしか、俺は熊澤健吾の秘密を知ってるんだぁってな」

 白石はその客の真似なのか、大袈裟な身振りをしながらそう言った。

「それに近々、大金が入るとも言っていたな」

「……大金」

 大金という言葉に翡翠の目の色が変わった。「熊澤健吾をゆするつもりなんですかね?」

「知らねえよ」

「警察には知らせたんですか?」

 翡翠がそう言うと白石は、笑いながら「馬鹿、酔っ払いの戯言をいちいち、真に受けていられるかってんだよ」と言った。

 翡翠達はその後も飲み続け、閉店時間の夜十一時頃に追い出されるようにして店を出た。

「雨降りそうだからよ。気をつけて帰れよ?」

「わかってまーす」

 そう言う翡翠の顔は、屋台のちょうちんのように真っ赤になっていた。

「あと、最近、通り魔も出るらしいからよ」

「大丈夫っすよ」

 翡翠は、そう言うとけらけらと笑った。

「大丈夫?送ろうか?」

 鈴原に肩を貸していたひろみが心配そうにそう言った。

「大丈夫。大丈夫。んじゃあ、失礼しまっすッ!」

 翡翠は、そう言って軽く頭を下げると覚束ない足取りで夜の街を歩いていった。

 しばらく歩いていると、ポツ、ポツ、と雨粒が地面を濡らし始めた。

「んあ、もう降ってきちゃった」

 翡翠は、笑いながらそう言うと近くのコンビニに駆け寄りビニール傘を買った。

 コンビニを出ると、


ーーパラリ……、ドーンッ!


 と、凄まじい雷鳴が辺りに響き渡り、一瞬、空が昼間のように明るくなった。

「うひゃえッ!すんごい、雷……」

 翡翠は、そう言いながら雨の中を家に向かって走っていった。その後、雨の勢いは、どんどんと増していき、自宅近くの公園に差し掛かった頃には、土砂降りになっていた。

 バケツをひっくり返したようにじゃぁじゃぁと降る雨の中を自宅に向かって歩いていると、ふと、公園の街灯の下に佇む二つの影を見つけた。「なんだぁ?」覚束ない足取りで向かうと街灯の真下に黒い人影があった。一つは立っていて、もう一人は座っていた。傘は差していなかった。

 傘もささずに変だな、と思いながら翡翠は「……大丈夫っすか?」と言いながら近づいていき「ひえっ、」と小さな悲鳴を上げた。血を流しながらうずくまっている男を見たからだった。

「だ、大丈……」

 そう言いかけて、翡翠は、ふと、ある事に気がついた。


 傍に立つ人影が異様に黒い事に。


 同時にハッと頭の中の靄が晴れるように目の前に立つ人影の異様さがより一層、際立ち始めた。

 その人影は、黒かった。黒いといっても肌の色が〜云々ではない。純粋に黒かったのだ。まるで、光を吸収する黒色塗料で塗ったフィギュアのように。

 それは、人型に空いたブラックホールのようにもガスのようなものが集まってできている生命体のようにも見えた。

 逃げなければ、そう思った瞬間、


 ぐりんっ、


 と、人影がこちらを向いた。

 目、鼻は無く、顔の真ん中辺りにぽっかりと穴が空いていて、その中に棘のような小さな白い牙がびっしりと隙間なく生えていた。

 「あ、ああ……」

 叫ぼうにも声が出なかった。

 人影はどんどんと近づいてきた。

(もう、ダメか……)

 そう思った瞬間、


ーードシャーンッ‼︎


 近くの木に雷が落ち、激しい光が辺りを包み込んだ。

「ひゃっ、」

 それとほぼ同時に身体がふわり、と宙を舞った。

「え?」

 気がつくと翡翠は、見知らぬ男に抱き抱えられていた。口元を布で隠していたが、僅かに見える目元や鼻筋を見る限り、整った容姿をしていた。まつ毛は長く、やや吊り上がり気味な切れ長の目は氷のように冷たかった。

「……いや、あんた誰?」

 翡翠がそう呟くが、男は無言のままだった。

(うわっ、感じ悪ぅ……)

 その後、男は、ビルの屋上に着地すると翡翠をゆっくりと下ろした。

(変な格好……)

 男は赤色のモンペのような服を着ていて、腰には、鞘に納められた刀か剣を差していた。背も高く、苅部や鈴原と同じかそれ以上あるように見えた。

「あ、ありがと……」

「サリス、」

 男は、そう言うと翡翠の顎を軽く持ち上げ、唇をそっと重ねた。

「……ンンッ⁉︎」

 状況を理解出来ない翡翠をよそに男は、貪るように激しい口づけをしてきた。唇を無理矢理こじ開けられ、舌を絡められる。

(ちょ、な、なんなのッ!こ、コイツ……ッ⁉︎)

 目の前には、鼻息荒い獣のように唇を貪る男の端正な顔があった。その艶めかしい表情に思わず胸が高鳴った。

(え、うそ。知らない男に無理やりされているのになんで……)

 男が舌を絡める度、翡翠は脳がとろけるような不思議な心地よさに包まれた。(……でも、なんだか、気持ちいいっていうかなんていうか……、頭がとろけるっていうか……)

 口づけは激しさを増していき、いつのまにか身体を包んでいた心地良さは心臓が止まりそうな程の快楽へと変わっていた。意識が飛びそうになった瞬間、男の顔が離れる。ほんのわずかな時間だったが、翡翠にはかなり長い時間拘束されていたように感じた。

「あ、あー、あ、あ……俺の言葉、わかるか?」

「ええ、わかるわ……じゃないッ‼︎ちょっと、あなたねぇ、いきなり……」

「……のんびりと話してる時間は無いな。奴が来る」

 男が翡翠の言葉を遮るようにそう言った。

「奴?」

 それと同時に大きな音が聞こえた。振り向くと先程の怪物が立っていた。「うそっ……。ちょっと、どうすんのよッ!」

 翡翠がそう言うと同時に、びゅっ!という空気を切り裂くような音と共に男が怪物の懐目掛けて弾丸のように突っ込んでいくのが見えた。手にはいつのまにか白銀に輝く刀が握られていた。

「……くたばれッ!」

 男は、そう言いながら刀を振るった。しかし、怪物は男の攻撃をすんでの所で躱すと、身体から無数の触手を伸して、男の身体をガッチリと拘束した。

「くそッ!」

 男は「ふんッ!」という掛け声と共に身体に力を入れ触手を引きちぎろうとした。しかし、触手は、ちぎれるどころか、締め付けが強くなっていった。

「ぐあ……」

「ちょっとッ!」

 翡翠が男の方に近寄ろうとすると、男は翡翠を見ながら絞り出したような声で「は、早く……にげ、ろ……」と言った。

「んな事できる訳ないでしょっ‼︎」

 翡翠は、そう言うと近くにあった鉄パイプを掴んで、怪物の口目掛けて投げた。

 しかし、鉄パイプはあっさりと弾かれてしまい、翡翠の足元に突き刺さった。

「ひぇッ!」

 翡翠は、驚きのあまり腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。「あてて……」

 ふと、前を見上げると先程の怪物が翡翠を見下ろしていた。

(うそ、マジでヤバいじゃん……)

 そう思い死を覚悟した瞬間、怪物の身体に赤い線が、一筋走った。

「え?」

 翡翠がそう呟いた瞬間、怪物の身体が縦真っ二つに裂け、血が勢いよく吹き出した。

「え、え?」

「おい、大丈夫か?」

 男は、刀を鞘に納めながらそう言った。

「う、うん……。大丈夫、だけど……」

 翡翠は、ゆっくりと立ち上がると怪物の死骸を指差した。「ねえ、コイツ、なんなの?」

「わからない」

「は?わからない……って、アンタ、コイツがなんなのか知っていたから戦ってたんじゃないの?」

「いや、こっちに飛ばされた瞬間、アンタが襲われそうになっていたから助けただけだ。アンタこそ、何か知っているんじゃないのか?」

 男は首を傾げながらそう言った。

「いや、マジで何も知らないから……。とりあえず、私ん家に来る?濡れたままじゃ風邪ひいちゃうしさ……」

 そう言うと同時に男が翡翠を抱き上げた。「ひあっ、ちょ、ちょっと……」

「家の場所は、何処だ?」

「さ、さっきの公園の近くだけど……。ていうか、あのさ、」

「しっかり捕まってろ。あと、舌噛むから喋んな」

「え?」

 男は、そう言うと翡翠を抱き抱えたまま助走をつけてビルの屋上から飛び降り、建物から建物へと飛び移りながら公園へと向かっていった。


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