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供養集  作者: フルビルタス太郎
7/16

異世界最強の暗殺者が俺ん家に居候しているんだが……。のプロローグ7

 魔法学発祥の地、アルストゥリア王国。

 その首都であり、魔法学の研究拠点である学術都市ツイ・ド・ルーザを見下ろす小高い丘の上に建つ白亜のメルヴィング宮殿は、世界征服を目論む魔術師メルヌリスの襲撃を受け、今、まさに落城しようとしていた。

「たあッ!」

 宮殿の中庭では、白銀の鎧に身を包んだ騎士ゼノンと主席宮廷魔術師であるライトンの二人がメルヌリス配下の兵と戦っていた。

「はぁぁッ!」

 ゼノンの威勢の良い掛け声と共に振り下ろされた剣は、兵士の身体を鎧ごと袈裟がけに切り裂いた。

「ぎぇ……」

 兵士は、傷口から緑色の液体を噴き出しながら倒れると、切り裂かれた鎧と手にしていた剣だけを残して跡形もなく消えてしまった。

「へぇ、なかなかやるじゃん……。流石は剣聖って?」

 金の刺繍が施された黒衣を身に纏ったメルヌリスは、感心したようにそう言うと、ヘラヘラと笑った。見た目はあどけなさを残した少年といった印象だった。「その強さ、殺すにはあまりにも惜しいな。どう?僕の下に来る気はない?」

「ふん……」

 ゼノンは、あからさまに不快そうな表情を浮かべながら剣に付いた液体を振り払った。「……気でも触れたか」

「はは、いやいや、これでも頭は正気だよ。正気、」

 メルヌリスは、そう言うと破顔の笑みを浮かべた。それは、見るものに生理的な嫌悪感を感じさせた。「でも、やっぱり、恋人の仇の味方は出来ないか……」

「……何?」

 メルヌリスの言葉にゼノンの顔が強張る。「……ま、まさか。アーシェルもお前が殺したの、か?」

 ゼノンの脳裏に恋人であり、仲間であったアーシェルの壮絶な最期が蘇る。彼女は、ゼノン達の前で爆死していた。

「当たり。清純な割には中々いい身体のお姉さんだったよ。具合もよかったしさ……。でも、犯すたびにゼノン、ゼノンってうるさかったからさ……」

 メルヌリスは、そう言うと口角を僅かに上げた。「死んでもらっちゃった。えへ。今思うと少し勿体なかったけど、まあ、それなりに綺麗な花火が楽しめたかな?なーんて……」メルヌリスは、そう言うと不気味な笑みを浮かべた。

「貴様ッ!」

 激昂したゼノンは、剣を構えメルヌリスに斬り掛かった。

「やめなさいッ、ゼノンッ!」

 ライトンが止めに入るも間に合わず、ゼノンは跳躍すると獣のような唸り声を上げながらメルヌリス目掛けて剣を振り下ろした。

「ウォォッ!」

 しかし、ゼノンの剣はメルヌリスを切り裂く事なく、カン、という乾いた音を立てて弾かれ、虚空を舞って地面に突き刺さった。

「何ッ⁉︎」

 何が起きたのかわからないゼノンにゆっくりとメルヌリスの手が向けられる。「しまっ……」

「ばーか」

 メルヌリスの手が激しく光るとゼノンの身体は、弾丸のように飛んでいき、フレスコ画で彩られた回廊の壁に凄まじい轟音を立てながら激突した。

「ガハッ……」

 ゼノンの口から血と唾液と嘔吐物が入り混じったものが吐き出される。

「ゼノンッ!」

 ライトンは、慌ててゼノンの下に駆け寄ると癒しの魔法を掛けた。

「大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな……」

「ねえねえ、ゼノン……」

 そんな二人を見ながらメルヌリスは、そう言った。頭の中に響いて来るような玄妙な声だった。「僕の下に来なよ。来れば、君の好きなものをなーんでも与えるよ?地位でも金でも女でも、君の望む全てを」

「ふざけるなッ!」

「……もちろん、僕が殺したアーシェルってお姉さんを蘇らせる事も可能だよ?さあ、どうする?」

「アーシェルを……?」

 ゼノンの心は、さざ波のように揺らいでいた。

 最愛の彼女にもう一度会うためにこの男の軍門に下るか、それとも最愛の彼女を奪った男を討つか、その相反する思いの狭間でゼノンは悩んだ。

「ほ、ほんと……」

 ゼノンの心が、僅かに傾き掛ける。

「ゼノン。惑わされないでください。死者を蘇らせる事など出来ないのですから。まして、凄惨な殺され方をした……」

「出来るさ」

 ライトンの言葉を遮るようにしてメルヌリスがそう言った。「ヤヴァイの書を使えばね……」

「やはり、貴方の狙いはそれでしたか……」

 ライトンは、そう言うとゼノンを庇うように立ち塞がり、手にした杖をメルヌリスに向けた。「だったら、なおさら貴方に渡すわけにはいきませんね」

「……えー?ケチだなぁ……。アレは、君たちには過ぎた代物なんだよ?それをこの僕が有効に使ってやろうって言うんだからさ。感謝してよね?」

「それは、貴方も同じでは?メルヌリス」

 ライトンは、メルヌリスを睨みながらそう言った。「あれは、人の心を喰らう呪われた書です。貴方に……」

 メルヌリスはライトンを見ながら高い声で笑った。

「使いこなせるさ。この僕なら、ね?」

「……愚かな。かつて、神童と呼ばれた者とは到底思えない……」

「なんとでも言いなよ。僕は、ヤヴァイの書を使い新たな世界の王となるんだ」

「……新たな世界だと?」

 ゼノンが立ち上がりながらそう言った。すでに満身創痍の状態だった。

「うん。争いが無く誰も傷付かない素晴らしい世界だよ……」

 メルヌリスは、そう言うと狂った笑みを浮かべた。「喜びなよッ!君たちは、新たな世界が作られる偉大なる瞬間を目撃するんだよッ!ハハハッ、」

「矛盾していますね。争いが無く誰も傷付かない世界を作るのに、争い、他人を傷付けるとは……」

「馬鹿だなぁ、偉大なる理想の為には多少の犠牲は付き物なんだよ?」

「……狂ってるな」

 ゼノンは、冷たい眼差しをメルヌリスに向けながら剣を構えた。

「さて、おしゃべりはここまで」

 メルヌリスは、そう言うと軽く笑った。「……ヤヴァイの書が封印されている場所に案内してよ」

「誰が貴方などに」

「これでもかな?」

「何?」

 メルヌリスが指をパチン、と鳴らすと彼の後ろから兵士に拘束されながらアルストゥリア王国の第一王女ミトゥルスレーヌが姿を現した。

「姫ッ!」

「なんで、姫様がッ!クロウと一緒に逃げたハズでは……?」

「あの護衛の兄ちゃんならお姫様を置いてさっさと逃げたってさ。いやはや、大した忠誠心だよね」

 そう言うとメルヌリスは兵士の腰に差された剣を抜いた。

「さて、今なら案内してくれるよね?でないと……」

 メルヌリスは、そう言うとミトゥルスレーヌの首に当てた。「……お姫様の首が飛ぶことになるよ?」

「卑怯な……」

 ゼノンが顔を歪めながらそう言った。

「で、どうする?」

「……わかりました」

 ライトンは、項垂れながらそう言った。

「ライトンッ!」

「仕方がないでしょう。状況が状況なのですから……」

 ライトンは、そう言うとメルヌリスの方を向いた。「案内します。ゼノン、貴方も来なさい」

 そう言うとライトンは、ゆっくりと歩きはじめた。「初めから素直にそうしていればよかったのにね……。おい、行くぞ」

 メルヌリスは、兵士に向かってそう言うとライトンに付いていった。

 ライトンが向かったのは、礼拝堂の地下にある地下墓地だった。ここには、歴代国王とその家族達が葬られていた。

「……本当にこんな所にあるの?」

 メルヌリスが辺りを見回しながらそう言った。

「ええ、」

「嘘だったら承知しないからね?」

「嘘なものですか。ここなら誰も入りませんからね。隠し場所にはもってこいなんですよ」

 しばらく歩いて行くと中央に小さな棺が置かれた小部屋にたどり着いた。部屋の中には棺の他には何もなかった。

「何も無いじゃん」

「この壁の向こうですよ……」

 ライトンは、そう言うと壁の窪みに手を当てた。壁が光り、ゆっくりと上に迫り上がっていく。壁の向こうは、書見台が一つだけ置かれた礼拝堂のような広々とした部屋で、中は昼間のように明るかった。

「随分と凝った隠し場所なんだね」

「ものがものですからね」

「ふーん。まあ、いいや。ご苦労様」

 メルヌリスは、そう言うと部屋の中に足を踏み入れた。「ああ、そうだ。君達は、ここで待っててよ。……そう怖い顔しないで。無事にヤヴァイの書を手に入れれば、姫は解放してあげるからさ。……おい、こいつらを見張っていろッ」

 メルヌリスは、兵士に向かってそう言うとそう言うとミトゥルスレーヌを連れて書見台に向かっていった。

「こ、これが、ヤヴァイの書……」

 そう言うとメルヌリスは、書見台に置かれた赤く染められた革と金銀宝石で装丁された書物を開いた。中は豪華な表紙とは打って変わって簡素だった。「す、素晴らしい……。ハハ、やったぞ。ついに我が悲願が達成された……」

「……よかったな」

 歓喜するメルヌリスの耳元で冷たい声がそう囁くと同時に彼の右胸から白銀に輝く刃が飛び出した。

「な、え、な、なに……」

 メルヌリスは、胸元から溢れ出る血を呆然と見つめながらそう呟いた。「な、なんなんだよッ!」右胸を貫いていた刃が引き抜かれる。メルヌリスは、バランスを崩し、書見台にもたれ掛かった。

 彼の目の前にはいつのまにか赤く染め上げられた異国の服に身を包み、長い襟巻きで口元を隠した男が一人立っていた。

「な、だ、誰だ、お前……。お、王女は……?」

 メルヌリスは、目の前の青年に向かってそう言った。

「……それをお前が知る必要はない」

 男は、そう言うと手にした剣を一閃させた。「……ひぐ」と小さな声が聞こえたと同時にメルヌリスの首が宙を舞い、身体からは鮮血が噴水のように勢いよく噴き出して男の身体を赤く染めていった。

「流石ですね。クロウ」

 ライトンは、そう言いながら男の方に向かって歩いていった。ライトンの後ろでは、ゼノンが残った兵士を斬り捨てていた。「まあ、もうすこし早く始末してくれてもよかったのですがね」

「無茶言うなよ」

 クロウは、そう言うと口元を覆っていた襟巻きを下にずらした。女性的で、端正な顔が現れる。

「クロウの変装だったのか……」

「へへ、驚いたろ?変装術も暗殺者には必要なのさ」

 クロウは、ゼノンに向かってそう言うと軽く笑った。

「しかし、いつから」

「いつからって、城を出た辺りからかな。コイツの指示で」

 そう言うとクロウは、ライトンを指差した。

「なっ、ライトンッ!貴様、知っていたのかッ⁉︎」

「ええ。貴方に言うと失敗しそうだったので言いませんでした」

「……どういう意味だ?」

 ゼノンは、そう言うとあからさまに不満そうな表情を浮かべた。

「そういうところだよ」

「貴方、芝居が下手ですからね」

「……ふん、芝居くらい俺にも出来る。……で、姫様は無事なのか?」

「無事だよ。それにクレアが護衛に付いてるしね」

「あの脳筋で大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。さ、それよりも早くミトと合流しよう」

「ええ、そうで……」

 ライトンがそう言いかけると「……いや、油断しちゃったな」と小さな声が聞こえてきた。

 声のする方を見るとメルヌリスの首が宙に浮かんでいた。

「……なっ、」

 驚くクロウ達をよそにメルヌリスの首は書見台の前まで飛んでいき、血の海に横たわる胴体とくっついた。

「驚いた?」

 メルヌリスは、頭の位置を調整しながらそう言った。「咄嗟に使ってみたけど、詠唱しなくていいなんてさ流石、禁術って感じだよね……」

「そんな、馬鹿な……」

 クロウは、信じられないというような顔をしながらそう言った。「あの時、たしかに殺したはず……」

「うん。確かに死んだよ。痛かったなぁ」

 メルヌリスは、そう言うと満面の笑みを浮かべた。「でも、咄嗟に使った禁術により生き返ったのさ。いやぁ、蘇生魔法から始まる魔導書なんてさ、なんかいいよね。さ、今度は僕の番だ」

 メルヌリスが不気味に笑うと、彼の周囲に黒い魔法陣が現れた。

「黒い魔法陣ッ⁉︎」

 ライトンは、驚きの声を上げた。

 魔法陣は、回復系なら白、攻撃系なら赤というように効果によって色が分けられていた。しかし、ライトンの知る限りでは、黒い魔法陣など見た事も聞いたこともなかった。

「ふふ、驚いてるね。まっ、そりゃそうだよね。普通の魔法学者や魔術師は禁術になんて手を出さないもんね」

 メルリヌスは笑いながらそう言った。「出すのは僕みたいな天才だけだもんね」

「狂人の間違いだろッ!」

 クロウは、メルヌリスに向かってナイフを投げた。

「……ふうん。ゼノンよりは賢いよね。まっ、意味ないけど、」

 しかし、ナイフはメルヌリスに刺さる事なく弾き返されてしまい、そのまま地面に落ちた。

「チッ、魔力壁か」

 クロウは、舌打ちをしながらそう言った。

「……さあ、行けッ!我が兵達よッ!」

 メルヌリスがそう言うと、魔法陣から無数の兵士が現れ、クロウ達に襲いかかってきた。

「来るぞッ!」

「わかってるよッ!」

 クロウとゼノンは、瞬時に反応し、兵士達の攻撃を素早く避けた。

 クロウは、さらに半歩後ろに跳んで間合いを取ると、金属製の筒が付いたナイフを何処からともなく取り出し「くたばれッ!」と叫びながらナイフを兵士達に向かって投げつけた。

 ナイフは、兵士達の頭に次々と突き刺さった。そして、数秒置いて、兵士達の頭は次々と爆発していった。

「でええいッ!」

 ゼノンは、力任せに剣を振るい兵士達を次々と斬り伏せていった。その戦いぶりは凄まじく、剣聖の名に恥じない勇猛果敢な戦いぶりだった。

「うおっ⁉︎」

 突如、ライトンの放った魔導弾がゼノンの頬を掠めた。後ろでは首を飛ばされた兵士の亡骸が湯気を立てながら消えていた。「危ないじゃないかッ⁉︎」

「だから助けてあげたんでしょうに」

 ライトンは、まったくと呟きながらため息をついた。「まったく、背後がガラ空きだなんて、剣聖が聞いて呆れます……。私が助けなければ、死んでいましたよ?」

「なにぃ⁉︎」

 ゼノンは、兵士を斬り伏せながらそう言った。

「キャハハ、余裕って感じだね」

 メルヌリスが笑いながらそう言った。「じゃ、まだまだいこうか?」 

 メルヌリスがそう言うと兵士が泉のように魔法陣から次々と湧き出てきて、クロウ達に襲いかかってきた。

「クソッ、キリがねえッ!」

 クロウは、そう言いながら次々とナイフを迫り来る兵士に向かって投げていった。しかし、数が減る気配は一向になかった。

「やはり、大元を断つ他ありませんね……」

「どうやってだッ⁉︎魔力壁があるんだぞ」

 ゼノンは、敵を斬り伏せながらそう言った。

「策はあります」

「策?」

 クロウが、首を傾げながらそう言った。

「はい。魔力壁は、同等の魔力をぶつければ消すことが出来ます」

「知っている。しかし、その魔力が……」

「策があるといったでしょう?」

 ライトンは、ため息混じりにそう言った。「クロウ、私が合図をしたらメルヌリスの懐に潜り込み彼を始末してください」

「わかった」

「で、ゼノン。貴方はこれをメルヌリスに向かって投げてください」

 ライトンは、そう言うと手にしていた杖をゼノンに投げ渡した。

「……ああ、しかし、大丈夫なのか?」

 ゼノンは、不安そうな表情を浮かべながらそう言った。

「私を信じなさい」

「わかった」

「何を企んでるのかわからないけどさ、所詮は無駄な足掻き……」

 禍々しい気が渦を巻きながらメルヌリスの周りに集まっていく。「みんな仲良く燃え尽きろッ……」

「せいッ!」

 ゼノンは、メルヌリス目掛けて杖を勢いよく投げた。

「ハハ、無駄、無駄」

 メルヌリスが、余裕そうな笑みを浮かべながらそう言いかけた、その時だった。 


ーーバチッ!


 ゼノンの投げた杖が魔力壁にぶつかると同時に、雷のような音と共にメルヌリスを守っていた魔力壁が消えた。

「なっ、ま、魔力壁が……」

 メルヌリスは、そう言った。その表情には、焦りの色が見えていた。

「行きなさいッ!クロウ」

 ライトンがそう叫ぶ。


ーータンッ!


 クロウは、地面を力強く蹴って高く跳躍すると空中で身体を回転させ、メルヌリスに狙いを定めた。手にはナイフが握られていた。

「喰らえッ!」

 クロウは、腕を鞭のようにしならせながらナイフをメルヌリス目掛けて勢いよく投げつけていった。

「チッ!こざかしい真似をッ!」

 メルヌリスは、そう言いながら魔導弾を打ち出して、雨のように自分目掛けて飛んでくるナイフを次々と撃ち落としていった。

 次々と爆発が起き、辺りが煙で包まれる。

「くそ、どこに……」

「……ここだよ」

 クロウの冷たい声と共にメルヌリスの右胸から鈍い銀色の刃が飛び出した。

「……ふふ、無駄だよ。何度、やられても……」

 メルヌリスは、痛みを堪えながらそう言った。禁術で蘇る身体になったとはいえ、痛みはどうする事も出来なかった。

「禁術で復活する、だろ?」

「わかって、るじゃん。なら……」

「ま、でも身体が爆散しちゃ、復活なんて出来ないんじゃねえの?」

 クロウは、軽く笑いながらそう言った。

「なっ、」

 クロウの言葉にメルヌリスは慌てふためいた。流石に身体が爆散してしまっては、再生は出来ないと考えたからだった。「た、たすけて……」涙を浮かべながら命乞いをするメルヌリスであったが、その願いはクロウには届かなかった。

「アーシェルの時、アンタはどうしてたんだろうな……」

「いや、でも……」

「……死ね」

 クロウは冷たくそう言うと、後ろに飛び退きながらナイフを投げた。ナイフが刺さると同時にメルヌリスの身体は派手な爆発と共に細かな肉片となって辺りに四散した。

「やったな……」

 揺らめく煙を見ながらクロウがそう呟くと、部屋全体が大きく揺れ始めた。「な、なんだッ⁉︎」

「……どうやら、さっきの爆発で天井がやられたようですね」

 残った敵を焼き払いながらライトンは、冷静に分析をした。その隣ではゼノンが「な、何だッ⁉︎」と動揺していた。

「この様子だと、上も崩れましたね」

「呑気に分析してる場合かッ⁉︎早く逃げるぞッ」

「ですね。こっちに非常口があります。早くッ!」

 ライトンは、棺のある部屋を指差した。

「ええい、邪魔だッ!退けッ!」

 ゼノンが立ち塞がる敵を蹴散らしながら進んでいき、部屋の中に入るとライトンが棺を指差しながら「この中に秘密の抜け道があります。さあ、ゼノン、早くしなさいッ」と言った。

「……出たらブッ飛ばす」

 ゼノンは、そう呟きながら棺の蓋をずらした。中には人が一人通れる程の小さな階段が地下へと伸びていた。

「さあ、早くッ」

 ライトンがそう言いながら中に入り、ゼノンとクロウが続いて入り階段を降りていった。

 階段を降りた先は、薄暗い地下通路だった。三人は地響きがする中を進んでいった。

「あそこを抜ければ噴水広場に出ます」

 ライトンは、奥に見える通路を指差しながらそう言った。手前には古びた吊り橋が架かっていた。

「古いですからね。一人づつ行きましょう」

 ライトンの提案にゼノンとクロウは頷き、ライトンから順に一人づつ渡る事になった。ゼノンが渡りきり、クロウの番になった所で地下通路が大きく揺れ、轟音と共に天井が崩れ落ちてきた。

「クロウッ!」

 濛々と沸き立つ土煙の中、ゼノンの叫ぶ声が聞こえてきた。どうやら岩の直撃は免れたらしいが、足が岩に挟まってしまっていた。

「大丈夫かッ⁉︎」

 ゼノンの叫び声が聞こえてきた。もたもたしていては二人が逃げれなくなってしまう、そう感じたクロウは「先に行ってくれッ!」と叫んだ。

「バカッ!置いていけるわけないだろうがッ!」

 案の定、ゼノンから否定的な言葉が返ってきた。

「へへ、大丈夫だって。俺はウォダハスなんだぜ?なんとかなるって」

 クロウは、精一杯虚勢を張りながらそう言った。

「だが……」

「わかりました。さ、ゼノン。行きますよ」

 クロウの意を汲み取ったライトンは、そう言うとゼノンの腕を無理矢理引っ張り通路に向かった。「必ず、戻ってきなさいね?」

「おうっ!」

 クロウがそう言うとライトン達は通路の奥に消えていった。それと同時に天井が崩れ、通路が塞がってしまった。

「崩れちまったか。しかも、橋も落ちてる……」

 大きな地響きがして、頭上の天井が崩落した。

「ハハ、こりゃ死ぬな……」

 悪りぃ、と心の中でライトンに謝りながらクロウは、そっと目を閉じた。


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