スマフラ
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ある夏の暑い夜、俺は午後11時頃にバイトが終わり、街灯が少なく薄暗い住宅街を歩いていた。高校生二年で一人暮らしというのはなかなかにつらいもので家事などがまともにできるはずもなく、洗濯物や洗い物がたまりにたまっている。そのかたずけのことを考えると足取りが重くなる、しかしやらなければ後々さらに大変なこのになるのは分かりきっていた。
そんなことを考えていると我が家が見えてきた、ボロボロの外壁に、今にも崩れそうな錆びだらけの階段、典型的なボロアパートだ。しかし八部屋ほどあるこのアパートで入居しているのは、俺だけだ。なんでも数年前に女性が突然死した事件から、怪奇現象が頻発し他の入居者も気味悪がって、引っ越してしまったそうだ、今では大家さんさえ別のところに住んでいる程だ、取り壊すのも何か怖いということでまだ部屋を貸しているそうだ。中でも事件現場の204号室は激安だったので事故物件とはいえ金に余裕のない俺は速攻で借りた。設備は意外としっかりしていてトイレにお風呂、キッチンまである、たまに視線を感じたりすること以外は完ぺきな住まいだ。
きしむ階段を上り、薄暗い廊下の突き当り、204号室もとい森本家のドアを開く、数歩の廊下兼キッチンを抜けベットに倒れ込む。疲れた、このまま寝てしまおうかと考えたが今日は金曜日、夜更かしするには最適な日だ、幸い土日はバイトは休みなのでダラダラできる。そうと決ればさっさと洗濯物や洗い物をかたずけて風呂に入ろう。食器を水で軽く流し、洗濯物を適当に洗濯機にぶち込む、風呂から上がったころには、午前1時を過ぎていた、眠い目をこすりゲーム機の電源をつける、そして大人気格闘ゲームスマフラをひらく、我が家にWi-Fiなんて高価なものはないので、もちろん相手はCPU正直つまらない、だが相手がいない以上仕方ない。
数十分間CPUと闘い続け流石に飽きてしまい天井を仰ぐ。どうするか少し考えた後、とんでもないことを思いついてしまった、幽霊に相手してもらえばいいじゃないかと、我ながらかなりぶっ飛んだアイデアだ。そうしたらコントローラーがもう一つ必要なわけだが、確か押入れに予備のコントローラーがあったはず、押入れの中をスマホのライトで照らし探すこと数分、ついに見つけた、これであとは出てきてくれるかだが、コントローラーを二個つなぎキャラ選択画面にし、虚無に向かって呼びかける。
「おーい、一人じゃつまんないから一緒にやりませんかー?」
結構大きな声で呼びかけてみたが、動きがないやっぱ無理だったか、シンと静まり返った部屋でふと我に返りバカバカしくなって寝ようと電源を落とそうとしたときだった。
「○○‼」
静まり返った部屋に、キャラクターを選択したときの音声がながれた。もちろん俺ではない、ふと画面を見ると2Pが準備完了状態になっていた、コントローラーを見ると少し浮いて、まるで人が持っているかのように揺れていた、俺はこのとき確信した、幽霊が操作していると、不思議と恐怖はなかった、それよりも誰かとゲームができるのがうれしかったのだろう。
幽霊は正直弱かった、だが相手のコントローラーの動きから悔しがっている様子などが見えて嬉しかった。何度も闘い続けた、気づいたら寝てしまっていた、カーテンの隙間から日の光が目に当たり起きる、目が覚めた瞬間、あれは夢だったのかと、思ったが夢ではない証拠がそこにはあった。キッチリ片づけられたゲーム機、綺麗に畳まれた洗濯物たち、その近くには、でかでかと
「礼」
とだけ書かれた紙が落ちていた、確実に昨日の夜俺は幽霊とゲームをした、今は視線を感じない、きっと今は居ないのだろう。
ふと、時計を見ると午後1時だったのでひとまず、昼飯を食べてから考えよう、ベットから飛び降り、箱買いしていた乾麺を取り出し、やかんでお湯を沸かす、沸くのを待っている間にも俺は幽霊のことを考えていた。また一緒にやりたいと、そのためにはコミュニケーションの手段が必要だと考えた、残念ながら、俺には霊感がほとんどない様だ。姿も見えなきゃ、声も聞こえない、視線を感じる程度だ、だがコントローラーを持てていたということは、物に触れることができるということだと思う、物は試しだな。
乾麺をおわんに入れお湯を注ぐ、体に悪いと分かっていても自炊はめんどくさいのでするきがおきない。
昼飯を早々にすませ、財布とスマホを持ち100円ストアへ向かった、土曜というだけあって、人が多かったが、目的のものを買い帰ってきたころには夕方だった。久しぶりに休日に人の多い場所に行ったからか、もうへとへとだった、玄関のドアを開け、晩飯を作ろうとまた乾麺を取り出すがめんどくさくなって、そのままベットに入り寝てしまった。
どれくらい、寝たのだろう、外は真っ暗、時計を見ると午前2時をまわっていた、変な時間に起きてしまった、また朝起きられなくては困るので、再度寝ようと布団をかぶろうとしたときだった、視線を感じる、またあの幽霊だろう、今からゲームをするのは厳しい、だがせめてコミュニケーションをとろうと思った、昼間買った電子メモ帳を手繰り寄せた。
次はいつになるかわかりません