第八話「初めてのオーダーメイド」
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暁の旅団が、ブルクハルトの街に帰ってきた。早速一行は、ギルド会館へ足を運びクエスト達成報酬を受け取りに行った。そこで同時に、ギルドマスターに暁の旅団を正式に解散する旨を伝えた。理由としては、メンバーの離脱である。ギルドでは赤狼級パーティーの解散とだけあって大きな関心を集めていた。その渦中に取り残されたのは、もちろんナミでそのほかのメンバーは早々に退散した。
ガッシュは、常宿への帰り際に公布板に目がいった。なんでも、この度ボロキアの代官となったロックウェル士爵が広く人材を募集し、移住者を募っているらしい。希望者には、面談の後に、土地が与えられ自作農としての生活が約束され、2年間の租税が免除されるらしい。高い技能を持つ者には士官として、取り上げられることもあるという。
「こりゃあ人は、集まんねぇだろうな。」
ガッシュの素直な感想である。
その場にいた平民達もそんな感じの様子だ。
「自作農になれるっつぅのは嬉しいけどよぉ。なんたってボロキアじゃぁなぁ。」
「んだんだ、命がいくつあっても足りないよ。つい最近も魔獣が出たって言うじゃないか」
「あぁ俺も聞いたよ。冒険者が退治したらしいが、それまでに数十人が食い殺されたって」
「いくら北の領地は、税が軽くなるからって命あっての物種だかんな〜」
そう北の領地は、ボロキアの森から魔獣や、モンスターが南下して来るため侯爵も、租税の軽減など政策を打ってはいるのだが、領民はそこに住みたがらないのだ。ましてや、魔獣がいる中心地ボロキア開拓のために命を張る平民はまずいない。
「さて、俺も用事を片付けちまうか。」
ガッシュは、北門に続く大通りを抜けて、少し入り組んだ路地に入っていく。そしてある店の前で立ち止まり、扉を開けて中に入っていく。
「いらっしゃいませ!!」
店の奥から、黄緑色の髪をした少女が走ってくる。ガッシュの顔を見ると何かを察したように、奥に戻っていく。少しすると奥から、青い髪の青年を引き連れてきた。
青年は、男の顔を見ると“また会いましたね”と言った様子で話しかけてきた。
「お帰りなさい。暁の旅団の・・」
「ガッシュだ。」
「いらっしゃいませ、ガッシュさん。よくご無事で。その様子だと相当な死戦だったご様子ですね。」
「まぁ、大したことない。」
「そうですか、うちの従業員が、すんごい顔のマフィアが来たって言うもんだから誰かと思いましたよ。」
「わっ!!それは言わないでよ!フレイムのバカ!!」
「あははは、すみません。つい、可笑しくって。」
「ご、ごめんなさい!すごくお客さんの顔が怖くて!あ、いや迫力がって。その・・アセアセ」
「気にするな。」
「それで今回はどのようなご用件でしょうか?」
「あぁ・・このショートソードを買い取りに来た。」
そういうと、カウンターに鞘ごとフレイムが鍛えたショートソードを置いた。フレイムは、鞘からショートソードを引き抜き、刀身を観察する。
「おぉ!もう試し切りはしてくださったんですね!しかも、買取ということは気に入っていただけたのですか!?」
「まぁな。というより、・・完敗だ。」
「え?どうなさりました?」
「実はな・・その剣に命を助けられたんだ・・」
ガッシュは、黄虎との戦闘で自慢の戦斧が砕かれたにもかかわらず、フレイムが鍛えたショートソードは、いとも容易く魔獣の皮を貫通したことを話した。
「本当ですか!!いや〜嬉しいなぁ。何分初めて、自分の鍛えた剣を売ったもので、心配してたんですよ。実戦で、役立たずでは意味がありませんから。いやぁ良かった!自分の剣を買った人の命が、守られたなら、それは鍛治師冥利に尽きるってもんですね。」
「そういうものか。」
「はい、そういうものです。」
「それでこの剣なんだが、」
「差し上げます。」
「え、このクラスの剣をタダでか?」
「はい。」
「いや、だけどな。」
「受け取ってください。初めて売った僕の剣があなたの命を救った記念に。それにその剣はもう、あなたに懐いているようですよ。」
「そうか。剣が・・。わかった、ありがたく頂戴しよう。代わりと言ってはなんだが、オーダーメイドを頼みたいんだが。」
「ほ、本当ですか?!リルやったぞ!うちで初めてのオーダーメイドだ!!」
「やった!やった!やったねフレイム!初めてのお客さんだよ。」
「ははっ、それでオーダーメイドの方なんだがな。」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね。記帳記帳っと、はいどうぞ。」
「大振りの戦斧を作って欲しいんだ。さっきも話したが、魔獣に粉々にされたからな。今度のは、このショートソードに負けない丈夫なやつを頼みたい。」
「なるほどなるほど、畏まりました。斧の身は、以前お持ちしていた物ほどでよろしいですか?」
「あぁ、構わねぇ。」
「それでは、柄の太さを決めたいのでこちらの型棒から選んでください。」
フレイムは、木箱に入った五種類の太さを持った木の棒を差し出した。ガッシュはそこから、四と刻まれた木の棒を選んだ。
「その太さなら強度を保つのも難しくありませんので、問題ありません。それでは、お値段の方ですが金貨5枚と言いたいところですが、初めてのお客さんですので金貨3枚でいかがでしょうか?」
「金貨3枚だって?!!本当にそんな安くて大丈夫か?なんなら5枚のままでいいぞ?」
「いえいえ、この値段で頑張らせてもらいます。安いからと言って決して手を抜いたりしませんから、ご安心ください。」
「いや、その心配はしてねぇけどよ。前の斧は金貨16枚もしたのに、この短剣レベルの斧がそんな安くて大丈夫なのか?」
「まぁここだけの話ですけど、原材料はタダなのでこれでも十分なんですよ。これ、内緒ですよ。」
「あ、あぁ。」
ガッシュは、安いこともあって金貨3枚全て置いて帰っていった。フレイムは、3日後に取りに来てくださいと伝えた。
「よーし腕がなるぞぉ!!リル手伝ってくれ!」
「任せて〜あたしが手伝うんだから、すっごい斧作るわよ〜!首がピュピュンのピュンと飛んでく切れ味で仕上げるわ〜」
リルは小さな体を弾ませるように、シャドーボクシングをしてはしゃいでいる
「セバスは、フリードを起こしてきて。」
「かしこまりました。」
リルは、魔鉱石を製鉄するために炉の確認に向かった。フレイムは、寝起きのフリードリッヒと共に魔鉱石の採取に向かおうとしたところに、また一人客が訪れた。
「おっと、おでかけかの?ヒック」
「これはこれは、あなたも確か暁の旅団の・・」
「ロイ・アルフレッドじゃ。ック、見ての通り、くたばりぞこないのドワーフよ。」
「初めまして、ロイさん。私は、フレイム・ロックウェルです。」
フレイムが握手を求めると、酒瓶を持っていない方の手でロイ爺はそれに応える。フレイムはその手を握った瞬間に悟った。
“こちらがこの人の利き手だ。・・この手の感触は、間違いない槌ダコだ。この人も鍛治師か、それも相当できるぞ。”
“中々良い手をしておるわい。若い割には、芯を捉えた剣を鍛えるとは思っておったが・・鍛治場で火遊びをしているわけではないようだのぉ。”
「むっ、ロックウェル・・ということは魔獣の森を開拓しようなどという、酔狂な貴族はお主のことか?」
「えぇ、その通りです。」
「鍛治師で貴族様か。ヒック、面白いのぉ。これからどこにいくんじゃ?」
「実は、ガッシュさんの戦斧を鍛えさせていただくことになったので、鉱石の仕入れに行くところです。」
「とゆうことは、これから鍛えるんじゃな?」
「はい。」
ロイ爺の目が急に鋭くなった。目の前にいる獲物を品定めするように。もちろんその視線に、フレイムも気づいていたが決して目を逸らさなかった。すると、すぐに先程の酔っ払い好々爺いに表情が戻った。
「ック、それならここで待たせてもらおう。お主の鍛錬に興味がある。見せて貰えるかの?」
「・・えぇ、良いでしょう。ただ、少々待たせてしまうことになりますが。」
「なぁに、ジジイは時間だけはあるから気にするでない。それに、お嬢ちゃんが話し相手になってくれるだろ?」
カウンターに隠れていたリルが気まずそうに出てきた。
「えへへ〜バレてました?お話の邪魔しちゃうと悪いと思って」
ロイ爺は、リルに買ってきたお菓子を渡すと、気を使わせてすまんかったのぅ〜と言っていた。フレイムは、リルに店番を頼んでセバスに馬車を出してもらった。向かう先は、ボロキア大森林である。霊峰エーナにあるフリードリッヒの魔力によって魔化した魔鉱石を取りに行くのだ。
フレイムが出かけている間ロイ爺は、リルと鍛錬場にいた。リルが作った炉を確認しているのだ。
「おぉ、これは良い出来じゃ。これを嬢ちゃんが作ったのか!」
「うん!私の土魔法でちょちょいってね!」
「そうか、そうか。そういえば嬢ちゃんの名前を聞いていなかったの。ワシはロイ・アルフレッドじゃ。」
「私は、リル・ドーベルマンです!」
「ふむ、もしやマッカートニー・ドーベルマンと知り合いかの?」
「え!それお爺ちゃんです!私のお爺ちゃんを知ってるんですか?」
「むむっ、そうかお嬢ちゃんはマックの孫か。ガハハハハハッ!世界は狭いのう!!っ知っているも何も、ワシとあいつは親友よ。訳あってわしは、国を去ったがな。」
「おぉ!こんなところでお爺ちゃんの知り合いに会えるなんて心強いです!お爺ちゃんは、いま“十の傑槌”に選ばれて頑張っています!」
「知っておる。奴の名が刻まれた武器は、この帝国にも流れてきているからのぉ。泣き虫マックが、いい剣を鍛えるようになったわい。」
「えぇー!!お爺ちゃんて、泣き虫だったんですか?いつもは弟子を泣かせてるのに。」
「あぁ、そりゃもう近所のクソガキにいじめられてはよく、洞穴で泣いとったわい。その度にわしが、やり返してやったもんだ。」
「もっと!もっとお爺ちゃんの若かった頃の話、聞かせてください!!」
「お?!おう、そんなに聞きたいならよし!話してやろうかの、あれはワシもマッカートニーもまだ若かった−−」
そこから、ロイ爺とリルの祖父の昔話が始まった。
彼らは、家が近所でよくつるんでいた。自然と仲良くなり、近所のマドンナを争い鍛治師を目指したと言う。なんでも、マドンナは女傑で鍛治師としても腕を認められていた。その彼女には結婚の申し出が多く、マドンナは“私の鍛えた剣を超える剣を鍛えたものと結婚する”と言い放った。そしてマックとロイの競争が始まった。二人はそれぞれ別のこれはと思った師匠に弟子入りし、寝る間も惜しみ剣を鍛えたという。
彼らがすっかり一人前の鍛治師になった頃、ある悲劇が訪れる。龍の襲来である。龍とドワーフの戦いは三月にのぼり、どうにかドワーフが勝利を収めた。しかし、マドンナは犠牲となってしまった。ロイは、龍を仕留めれるだけの剣を鍛えられなかったことを後悔し、国を出て今も模索している。その時から、マックとは会っていないそうだ。
「そんなことがあったんだね・・」
「・・むっ、マックのことを語るつもりが自分語りになってしまっておったわい!これだから歳をとると良くないのぉ。すまんな。」
「ううん、お爺ちゃんのことも知れたし、面白かったよ!」
「ほっ、そうかのぉ。ワシはな、霊峰エーナに行きたいのよ。あそこには必ず、伝説の虹色鉱石が眠っとるはずなんじゃ。」
「虹色鉱石?」
「嬢ちゃんも知っておろう。ドワーフの鍛える剣はどれも名剣と謳われておる。」
「うん。」
「そんなドワーフが国宝としている剣が三振りある。その剣は全て、七色の光を放つ鉱石を鍛えたものなんじゃ。その鉱石眠る場所には必ず、ドワーフ王国が繁栄すると言われておる。」
「七色の光なら、フレイムがいつも使う魔鋼も放っているよ。」
「魔鋼じゃと?なんじゃそれは・・」
「ちょっと待ってね、ほら、これだよ。うちの工房は全部これを鍛えて、剣を造ってるの。」
リルは、余っている魔鋼を、ロイ爺に手渡した。それを受け取り観察するロイ爺の目は、みるみるうちに丸くな李、顔が紅潮する。
「ふっ、ふぉおおおおおおおお!!!これは紛れもなく虹色鉱石ではないか!!!な、な、なぜこれを嬢ちゃんが持っておるのだ!!?ちょっと待て・・この店の品は全てこれを使ってるじゃとぉおおお?!!」
「お、お爺ちゃん?落ち着いて、ちょっと怖いよ?」
「こ、これが落ち着いてなどいられるか!!この石を探してもう、80年じゃ!!!これが本物の虹色鉱石か試す必要がある。お嬢ちゃん、今すぐこの店の剣を借りたいんじゃが!!」
「う、うん。すぐ持ってくるよ!!」
“なんと言うことじゃ、この輝きを見つけるためだけに国を捨ててきたというに、よもやこんな場所で見つけてしまうとは。いや、もしこれが本物の虹色鉱石だと言うならば、あのフレイムという若き貴族が霊峰エーナで、採掘できるほどの力を持っているのかもしれん。うぅむ、それなら全て辻褄が合うぞぃ!!”
リルが、店の方からガッシュに譲ったものと同じ剣を、重そうに持ってきた。
「悪いのぉ。それでは借りるぞぃ。」
左手で、フレイムの鍛えた剣を水平に構えて、鉄鉱石よりはるかに硬いレリック鉱石で鍛えた、ロイ爺の小刀を振り下ろした。
“キンッッ”と音を立てて、ロイ爺の小刀が欠けた。フレイムの剣には、少しも傷がない。
「フハハハ・・・むははははははっ・・ガッハッハっハッハッハ!!!」
「ヒィ!オジイチャンガコワレタ??」
ロイ爺はひとしきり笑うと、また来ると言い残して帰っていった。フレイムが帰ってきて、リルから話しを聞くと得意げに笑うだけで別段気にする様子もなかった。
それがリルには、フレイムの計画通りに何かが動いている気がしてならなかった。