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第六話「河熊の悪夢 前編」

感想などなど、お待ちしてます!

 侯爵領から、ボロキアまでの道中はほとんどが乗合馬車での移動だ。冒険者とかだとランクが高ければ、護衛ついでに乗車賃がタダになることが多い。「暁の旅団」も、その例に漏れない。


「それで、河熊はどの辺りに出たんじゃ?」


「ボロキアに一番近い、パーム村からの依頼よ。深夜になると、食料を食べにきた痕跡が確認されて、とうとう人を襲い出したみたいね。」


「おいおい、それじゃもうとっくに村人が、全滅してるかもしれねぇじゃねぇか。」


「ガッシュの言う通りですね。パーム村から、侯爵領まで鳥を使ったとしても三日かかりますし、私達はこれから向かうわけですから延べ十三日が経過後に到着するわけです。」


 魔獣化した河熊が相手ということもあるが、仕事中は断酒するのがロイ爺の決まり事だった。いつもの酒浸りの雰囲気は、どこにも感じられない。盾役としての、重厚感あふれる戦士と言った感じだ。

 それだけじゃなく、暁の旅団にピリッとした空気が流れていた。さすがは、赤狼級冒険者と言ったところか。


「それは話していても仕方ないわ。そんなことは、このクエストを出した本人が一番わかっているわよ。それに彼らは自ら望んで、あそこに住んでいるのよ?きっと、対策ぐらい考えてるはずよ。」


「だと良いがな。」


「ですね」


「フン。」


「はいはい、それより私たちが考えなきゃいけないのは、村に到着後すぐ戦闘になる可能性があることよ。みんなわかっていると思うけど、魔獣化した獣は身体能力が向上するし、その牙は鉄も切り裂き、皮に至っては刃が届かないわ。」


「儂の盾は、レリック製よ。河熊の魔獣ぐらいなら、受け止め切れる。そう断言しておこう。」


「ロイ爺がいうからには、僕は信じます。それに、河熊の皮は僕のエンチャントで弱体化できます。ガッシュの斧なら、きっと切り裂けるはずです。そうですよね?」

丸メガネをクイッと上げながら、ガッシュに問いかける。


ガッシュは、砥石で戦斧を磨き上げながら答える。その瞳には、冷たい鋼の光沢が映し出されている。彼の斧は、これ迄に刃毀れ一つせずに幾百の屍を築き上げてきた。そんな斧は、眩く光るのではない、鈍い光を放つのだ。


「あぁ、問題ない。必ず俺が仕留めてやる。」


「ふぅ、当たり前でしょ。じゃなきゃ誰があんたと、パーティーなんか組むのよ。」


「違いないわい、ガッハッハッハッハ」


「全くです。フフフ。」


「お前らな!!・・っちぃ。んだよ、胸糞悪りぃ」


「私も毒矢で弱体化させるし、気を引き締めてかかれば私たちならやれるはずよ。」


 こうして一行は、パーム村まで途中に点在する村に立ち寄りながら、先を急いだ。



 同じ時をして、フレイムはフリードリッヒの背に乗って、空を飛んでいた。向かう先は、ボロキアである。今回は、魔鉱石を入れてきた鉄カゴの中にリルが居る。セバスはというと、フレイム工房で店番である。


「フリード、あそこだ。」


 フリードリッヒに、着地地点を指定する。そこは、ボロキアの大森林のちょうど中心地で深い森ではあるが、開拓すれば平原にできるほどの平地だ。近くには侯爵領まで続く、川も流れていた。


 フリードリッヒは、あまりの樹木の多さに着陸できないと判断すると、旋回しながら火炎を噴き、あたり一面を焼け野原にした。この火炎も生半可な炎ではなく、地面までもが真っ赤に溶けていた。そこにいた草木や動物は灰も残していない。とは言っても、フリードリッヒが唸り声を上げながら、飛んでいたためか弱い生き物たちは我先にと、このあたり一帯から逃げ出していた。そして十分な広さの着陸場所が開けると、不思議な事に今度は息吹をかけながら旋回した。すると、あたりに広がっていた炎がみるみる鎮火されていくではないか。

 

 そしてそこに、黒龍が堂々と着陸する。未だ、地面は“プスプス”といぶされては居るものの、火傷をするほどではなかった。


「ケホッ、ケホッ、流石です。フリードリッヒ様!いつ見ても、炎はかっこいいし、すごい熱いです!!」


「そうか?貴様に褒められるのは、嫌いではない。今度、火の魔術を教えてやっても良いぞ?」


「やった〜!」


「リルの土魔法と火魔法は相性が良いから、覚えられるなら損はないかもね。」


「そうでしょ〜、私天才だからダブルになれちゃうと思うんだよね!ふふ〜」


 この世界では、基本魔法の習得は一属性と決まっているが、ごく稀に二つの魔法を習得できるものがいる。彼らを皆は、ダブルと呼び尊敬した。

 フレイムは、颯爽と龍から飛び降り、足元の土と灰を手のひら一杯に掬い上げる。そして、じっくり感触やらを確認して、それを味見して吐き出した。


「やっぱりここの大地は、豊かな土壌に恵まれているようです。ここに、僕らの街を築き上げましょう。」


「はい!」


「クワァ〜儂は寝る」


 フレイムとリルは、あらかじめ魔鋼で作った斧で木を伐採し始めた。まずは、代官であるフレイムの家を建てる予定だ。建設の知識に関しては、リルが精通していた。なんと言っても、ドワーフに建築させれば1000年保つと言われているのだから、大したものである。


 侯爵領で、人材も集めなければいけないが、集めた人材を住まわせる整備された土地と住居も必要になる。自分の領民に、今日からここに住んでもらうと言って紹介した先が、魔獣がうじゃうじゃいる家もない場所では、脱兎の如く逃げ出してしまう。それにそんなことが近隣貴族に知られれば、帝都にいる本来の領主アージハルトの顔に泥を塗ってしまう。


 二人はせっせと、木を切っていく。家を建造できるだけの樹木が、幸いにもここに腐るほど生えている。それらを次々と切り倒しては、小ぶりの木を下に並べて、その上を滑らせて転がしていく。

 中々の重労働だが、二人とも普段から鍛冶場で汗を流しているため、体力には不安がない。一定量を切り出すと、リルが今日の仕事の終わりを告げる。


「これだけあれば一軒、家を建てれるわ!あとは乾燥させて、仕上げに明日フリードリッヒ様に建材の表面を焦がしてもらえれば、防虫、防腐剤代わりになるし万全よ!」


「良かった。あとは、数軒家を作っておけばここに人を招いても問題ないね。」


「でも、これこのままで大丈夫?私たちがいない間に、モンスターが来たりとかしない?」


「あぁそれなら、大丈夫だよ。フリードがこの辺りにマーキングしてくれてるから。その匂い嗅いだら、大抵のモンスターはぶるっちゃうから、はははっ。」


「おい、儂を犬っころのように扱うな。」


「はいはい、さぁ帰ろう。羊が待ってるよ!」


 このフリードリッヒのマーキングが、回り回って「暁の旅団」を窮地に立たせることになる。



 暁の旅団は、パーム村の一歩手前のトルク村に朝早く到着した。馬車は、ここまでである。ここから先は徒歩で向かわなければならない。どこかに、野宿させてもらえるよう頼みにいくと、血相を変えた村人が、ある場所へ案内した。


「おい、お前ら冒険者の方々が来てくれたど!!」


「こ、これは・・」


 そこは村長宅の母家で、この村では一番大きな建物でそこには、30名ほどの小汚く、怪我をした者たちが集められていた。こちらの方に気づいた一人の金髪の若い女性が、怪我人の手当てを中断して近づいてきた。


「初めまして、河熊退治にきてくださった冒険者様ですか?」


「えぇ、赤狼級冒険者のナミよ。あなたは?」


「河熊退治を依頼した、パーム村村長の娘のアリシアって言います。この度は、依頼を受けてくださって、本当に・・ウッ、ウゥッ。」


 彼女は叫びたいのだ。なんでもっと早くきてくれなかったのかと。それでもそれを彼女らに言うというのは筋違いというものである。そのため決して言ってはいけないと、頭ではわかっていても、犠牲者のことを思えば無念が込み上げてきてしまうのだ。

 もちろん、その思いをナミは察している。長く冒険者をやっていれば、別段珍しい話でもないからだ。どうしてやることも出来ないため、彼女は一刻も早く河熊を倒すだけである。


「・・アリシアさん、落ち着いて状況を説明してくださいますか?そうすれば一刻も早く、河熊を倒せますので。」


「・・ウゥ、ズビッ。はい、わかりました。」



そして彼女は、パーム村で起きた悪夢を語った。人の味を覚えた河熊は、最所に食べた女性の味を占めて、襲う家々にいる女しか食べなかったと言う。男は全て殺されるだけで、食べられなかった。


 河熊に持ち去られた遺体を、奪い返したこともあったがそのせいで更に人が死んだことも・・

 

 村の男たちも腕っ節には自信があったし、武器もあったが河熊の皮に弾き返されて魔獣化した河熊だと気づいたこと。

 

 為す術を失い、村中の金を集めて依頼を出したこと。


 助けが来るまで、村の一箇所に集まって耐え凌いでいたが、結局河熊に防衛戦を突破され離散した。そしてトルク村に生き残りがここに流れ着いたこと・・


 河熊の根城は恐らく大量に殺戮した村長の家であること・・


 涙ぐみながらも必死にアリシアは、話してくれた。そして、アリシアを含めた生き残りがナミに食ってかかるように泣き縋り、怨念が漏れ出る。


「どうかお願いします!あいつを、あいつを必ず地獄に送ってください!!私の母は、私の代わりにあいつに・・あいつに・・・お腹の中に、妹か、弟もいたんです。もう少しで、生まれるはずでした。・・お願い、します。」


「俺の嫁御も、あいつに生きたまま喰われたんだ!!」


「あたしの息子も、首をへし折られて、亡骸もまだ供養できてねぇんだ。息子に合わせてけろ。」


「お願いしやす。どうか悪魔に天罰を」


「天罰を」


「仇を」


泣き崩れるように正座をして、顔を覆いながら悲嘆にくれるアリシアを、ナミは自分の涙を腕で拭って笑顔を作って励ます。


「アリシアさん、任せて!あたし達は、河熊なんかよりよっぽど強いんだから!だからね、もう少しの間だけ生き残っているみんなを支えてあげて。」


「・・はい。よろしくお願いします。」



 実際は、魔獣化した河熊は下位の天災級に指定されており、赤狼級の彼等にとっては油断できる相手ではない。しかし、そんな事は考えもしない男がいた。


「いくぞお前ら、河熊狩りじゃぁあああ!!」


素行は悪くとも情に厚い、ガッシュである。


「「「おう!!!」」」


ここに一晩泊まるはずだったが、そんな悠長なことは言ってられなくなってしまった。それに、今は早朝でここからパーム村までは、歩いて3時間位だ。昼前には着くし、河熊夜行性ではないからタイミングとしては悪くはない。



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