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ミコ・サルウェ  作者: 皆月夕祈
冬花の奇跡、群狼の旅人(上)
86/123

シンク

 王国の首都、パルティアの王宮に、一人の姫が居た。

 三人兄妹の末妹、名をシンクと言う。


 シンク=レア=クリムゴルド。


 長い群青髪を、上から七分の所で結ぶ、美しい当代15の娘である。

 婚期の早いこの世界で、15と言えば、もう嫁に行ってもおかしくはない年齢。

 

 しかし、ぱっちりと大きく、少し斜めに鋭い瞳が表す以上に、こわい性格が仇を成して、なかなか話のまとまりを得るには至らなかった。


 ただ、彼女には特有に持った人懐っこさが有り、また、男女問わず大柄の多いサルファディア人の中で、彼女は相当小さい体躯をしていた。

 ゆえに、可愛らしいと、よく人には好かれ、宮中で彼女を悪くいう者は滅多に居なかった。

 

 

 この国の王族は全てと、言うでもないが、額に角を持って生まれる者がそれなりに居た。

 

 その角を、王角と呼ぶ。

 それは、王権の象徴であり、力ある王程、この角は強く輝くという伝承から、王位の継承は、年齢や性別ではなく、如何に角が立派であるか、という事が焦点となっていた。

 

 その中で、シンクは角の無い王族であり、知恵は回るものの、王族としては出来損ないと言える存在である。

 もっとも、件の王角も代を重ねるごとに、力を失っており、シンクが特別駄目という訳でもない。

 今代の王、アリタイも角こそあるが、小さく、一欠けらの輝きも無かった。




「……はあ……はあ……はあ……。」

 パルティアの石畳を、シンクは供もつれずに走っていた。

 頬には、一度濡れ、涙が乾いた跡が残っている。

 

 シンクの視界は赤い。


 彼女の目の前で、王宮は炎に包まれていた。

 

 遠く聞こえる鬨の声。

 響く剣劇に、女官たちの悲鳴がシンクの耳を叩いた。

 

 暴力による政変である。

 首謀者はリシド。

 彼は王族ではない。

 

 しかし、彼の額には、大きな角があり、その角はゆらゆらと青く、炎の様に、光を放っていた。

 これまで、王族にのみ生えていた王角を、何故彼が、生やしているのかは分からない。

 

 ただ、角によって継承されてきた玉座。

 今の王家は力を失い、代わりに新たな王が生まれたのではないか、反乱軍はその様に考え、武器を手にしたのだ。

 


 シンクは、一人の裏切り者の顔を思い浮かべる。

 

 タリタス・アルベッラ。

 

 サルファディアの将軍である。

 彼は、王国の中でも、特に国を思い、忠義に厚いと言われた誇り高い男であった。 


 しかし、ほんの小一時間前、シンクが部屋で茶を楽しんでいた時であった。

 突然、抜き身の武器を手にしたタリタスが乱入してくる。

 

 シンクは大声でその無礼を咎めるも、タリタスはそれを苦にせず、侍女など、その場に居る者を切り殺していった。


 蒼白になるシンク。

 そして、その彼女に向かって、タリタスは言うのだ。


------姫様、お逃げ下さい。

 

 シンクは耳を疑う。

 彼女達を殺したのはお前だろうと、何から逃げろと言うのか。

 

 タリタスは言う。

「これは、謀反で御座います。もう、民は貴女方、クリムゴルド王家では持たないのです。だから、私はこの謀反に加担し、あの男を新たな王として奉り上げます。……しかし、これまでこの国を作ってきた王家の血を、私の手で絶やすのは忍びない。」


------故に、逃げなさい。


「どうせ、あなた一人では、何も出来ないでしょう。私の見えぬ所であれば、野垂れ死ぬも結構、どこぞで生き延びるも結構でございます。」

 

 そう言った、タリタスの瞳には強い怒りと、悲しみがあった。


 


 そうして、着の身着のまま、タリタスの独断によって、シンクは逃される事となる。



「……っ!」

 シンクは痛みに顔を顰めた。

 彼女が足元を見下ろすと、王宮より逃げる最中、白く美しかった足は、冷たい石畳に地足が触れて、凍傷でズタズタになってしまっていた。


 彼女は近くに立てかけられ、放置されていた反乱軍の旗を奪い取ると、踏みつける様に足に巻きつけた。


(くっ……覚えていない!……この痛み、必ず貴方にも味あわせてあげるんだから!!)

 

 そう、強く心に誓い、シンクは人知れず、その場から消え失せた。








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