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ミコ・サルウェ  作者: 皆月夕祈
薄暮の悪魔、産声の愛娘
51/123

アーシャ2

 アルテラへと向かう途中、アーシャは視界の右隅に”何か”を感じ、足を止めた。

 その”何か”は黒く、サブリミナルの様に、早いテンポでチカチカと、あったりなかったりを繰り返した。

 

 アーシャは一瞬、目の異常かと思い、目をこすった。

 しかし、治る事も無ければ、そこ以外を見ても異常はなかった。


 酒の酔いが無いでもない。

 しかし、あの程度の酒量、今となってはほろ酔いにも満たないはずであった。

 

 アーシャは、その何かの方を見た。

 

(何もない……。)

 

 右隅のちらつきも納まる。


 再度、正面を向くと、また、ちらつきが始まった。

 

 いったいこの黒い物は何なのか、忙しい中にも、アーシャはどうしても気になった。

 正面を凝視しながら、視界の右に強く意識を集中させた。



(……ん)


 少女だ。

 

 歳は十くらいで、髪は長め、肩口の少し先まで、伸ばしている。

 ぼんやりと映っていた。

 

 

 これも、ハッキリとは解らない。

 しかし、季節にはあわない、温かそうなコートを身にまとっている様に見えた。

 

 

 また、アーシャは首ごと右を向く。

 ちらつきは治まり、先ほどの少女はいなかった。

 

(……なんだ?)

 また、視界を正面に戻した。


 いる。


 そして、視界の隅で、今度は動いている。

 何をしているのは解らない。

 しかし、確実に、この少女は存在していた。

 

 なぜ、こんな現れ方なのか、そして、誰であるのか。

 

「ちっ……、魔法使い共の悪戯か?……いや、だが……。」


 だとしたら最低のタイミングだ。

 

 しかし、アーシャはそう考えながらも、悪戯の類とは思えなかった。

 悪意を感じないのだ。

 

 幾度も、戦場を経験したアーシャ。

 悪意や殺意には、人一倍敏感であった。


  

 アーシャは少女がいた位置まで歩いていく。

 そこには誰もいなかった。

 

  

 代わりにアーシャは、足先に何かが当たる事に気付いた。

 

 人形だ。

 

 アーシャは土埃にまみれた人形を手に取り、埃を払った。

 それは、見覚えのある人形。

 

 植物の幹をうまく編み込んで作られたそれは、EOEに登場する、とある国の装飾品だ。

 

 冬、新月の夜に切られたチクリの幹は、一年でもっとも柔軟で、丈夫である。

 

 そのもっとも良い幹を加工して、ひも状にした物。

 それを使って作成された人形は、愛する我が子に送る、身代わりの人形であった。

 

 何故、こんなところに、これがあるのか。

 恐らく、子が何かの拍子に落としたのだろうか。

 アーシャはそれを、複雑な表情で見つめた。


 

「団長」

 急に、声が掛けられた。


 

 驚いたアーシャは、ぴくりと肩を跳ね上げると、咄嗟に人形を懐にしまい込んでしまった。

(しまった!)

 

 持ち主を探して、届けてやる時間の余裕もないし、このまま、ここに置いておけば、持ち主の方から探しに来るかもしれない。

 しかし、一度しまい込んだ以上、人に見られたまま、またここに置くのもバツが悪い。

 

(何をやってるんだ……。)

 

 アーシャは、自らに呆れるも、平静を装って、声のする方向へ向き直った。

 先程、別れたばかりのオニツカ、リーフェがいた。

 

「どうか、されましたか?」

 どこか不自然なアーシャの態度に二人は、訝し気な顔をした。

 

 面倒な事になった。

 アーシャは返答に迷った挙句、結局は答えないという選択をした。 

 

「……いや、なんでもない……。それよりもモニカはどうした?」

 オニツカは、ピクリと小さく眉を動かした。


 

「モニカがいるのは、ヒエメスの最下層です。今から迎えに行っても、戻ってくる頃には、次の日が昇ります。それに、陛下が連絡していないとも思えませんし。戻ってくるに任せて、今回は我々だけで対処する他ありません。」

 

 それを聞いたアーシャは眉を顰め、少し考える様に数秒黙った。

「……ちっ。解った。いくぞ。」

 そう言った。


 舌打ちは、兎も角。

 硬い表情で、悪態一つつかないアーシャの態度に、やはり不振を拭えず、再度、確認するオニツカ。

 

「……本当に何でもないんですか?」


 しかし、アーシャは、オニツカをジロリと睨むのみで、何も言わず、走り去っていった。

 オニツカは、その後ろ姿を暫く見つめた後、リーフェに促され、自らもアーシャを追いかけていった。 



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