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ミコ・サルウェ  作者: 皆月夕祈
春暁の騎士、庇護の戦女 
23/123

暁2

 

 アッボール領改め、マイシュン領、領都シルバは、慌ただしい様相であった。


 昼食時を終えた頃、突如、街は雷雨に見舞われた。

 

 特に雨季というにはまだ早く、これほど激しい雨風というのは、今時分では相当に珍しい事であった。

 どこぞで、ウォータードラゴンでも暴れているのかと、領内のあちらこちらで噂になっていた。

 

 勿論、噂のみでこれほど、慌ただしくなることは無いし、根拠のない話でもなかった。

 雨で視界が悪い、そんな中でも何やら、南の空に巨大な物体が、此方に向かって来ている事が薄っすらと視認できた。

 

 

 良く見れば、それはドラゴンという姿はしていない。

 しかし、普段、特別な理由が無ければ、ドラゴンなどの強力な魔物は、自らの領域から出てくることは無く、誰が言い始めたのか。

 ウォータードラゴンなど、見たことのある者はいないのだ。


 それが、此方へ徐々に近づいているように見える。

 ドラゴンとは災害の様な物であり、撃退ならともかく、余程の幸運が重ならなければ、討伐など早々にある事ではない。

 

 マイシュン領主、マイセン・マイシュンは、神妙な顔で出撃の準備をしていた。

 前領主が、後継ぎ共々凶刃に倒れ、今回の戦で功の合ったモルスタム公爵家四男であるマイセンの元に、振興家として苗字と共に、領主の地位が転がり込んできたのだ。

 

 国にとっては、侵攻先すらない僻地中の僻地、実家の公爵家にとっても、飛び地も飛び地であり、うまみはかなり少なかった。

 

 ただ、あれほど無理をして兵力を動員したにも関わらず、結局滅ぼす事はおろか、領土すら切り取れなかった。

 

 その中で、敵方の将を数人倒したという事で、褒美を貰えただけ、破格の待遇であると言えるのだ。

 マイセンは家を継げる立場ではないし、僻地とは言え、納得の上で、ありがたく赴任した。

 

 しかし、良かったのはそれまでで、赴任早々、南にある魔の森がせわしなくなっており、獣や魔物が遠目にも、森から彷徨い出ていると、領内の開拓村などから多数の報告があった。

 その挙句に、かつてない突然の雷雨に、ドラゴンの出現。

 

 

 マイセンには、南の森で何が起こっているのかなど、分かりはしなかった。

 しかし、このまま放置という訳にもいかず、すでに実家の公爵家には、援軍の要請を送っていた。

 

(……おそらく、あのドラゴンの方が到着は早かろうがな)

 

 実家の公爵領は飛び地にあるため、どんなに急いでも一日で到着することは無い。

 

 マイセンは己の不運を憂いながらも覚悟を決めた。

 若輩とは言え、武で名を挙げた者である。

 

 はるか遠くに居るにも関わらず、その姿を見ることが出来るほどの巨大な生物。

 勝てるかどうかは、まったく不明。

 しかし、ここでされるがままでは、軍事国家に居場所はなかった。


 場合によっては、赴任早々に領地を取り上げられ、実家の顔に泥を塗る事になる。

 

 逆に、ここでまた名を挙げれば、最低でも金子、もしくは王都の軍部が動く可能性もあった。

 マイセンは領主としてより、軍人向きの資質を持っている。

 家柄を考えれば、将軍職の一人として、名をつらねる事も決してあり得ない話ではないのだ。

 

(そうなれば、こんな田舎からも御然おさらば出来るんだがな……。)

 マイセンは自らを奮い立たせるため、取らぬドラゴンの皮をなめしながら、屋敷を出発した。

 

 

 

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