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ミコ・サルウェ  作者: 皆月夕祈
春暁の騎士、庇護の戦女 
21/123

昏闇世界

「……ぐっ!」

 アニムは、突然、ドサリと地面に放り投げられ、腰を強かに打ち付けた。

 

 何処までも、深く黒い世界。

 様々なモノが混ざり合い、粘性があり、何かの子宮のように、クツクツと今も何かが作られているかの様な、暖かい空間。


 そんな黒い世界にもかかわらず、暗いと感じるわけでもない。


 事実、アニムは男:『時を廻るもの』を、『時を廻るもの』もアニムを、しっかりと目視できていた。

 

 『時を巡るもの』は声に似合わず、若い男だった。

 

 深い黒髪に、切れ長の目を、神経質そうに釣りあげている。

 投げられたアニムは、乱暴に扱われる事に文句を言おうとも思ったが、恐らく状況的には助けられた様に思えた。

 

 状況が良く分からない中で、文句を言うのも軽率であり、かと言って感謝をするのも抵抗がある。

 結局、アニムは言葉に詰まり、黙って睥睨している男を見上げるだけとなった。

 

「『混沌』、今まで何をしていた。」

 

 男はアニムの襟首を掴むと、無理やりに引き釣り上げた。

 突然、怒りをぶつけられ、アニムは焦りを覚えた。


「いや、ちょっと待ってくれ。さっきの彼女もそうだけど、俺は何にも知らないんだ!!」

 アニムは抗議の声を挙げるが、男は気にせず、アニムに怒気をぶつけ続けている。


「お前がいないおかげで!!……!」


 アニムは腹の辺りを何かに、押されるような感触を感じた。

 しかし、襟首をつかまれている為、下がることは出来ず、視線のみを下へ向ける。

 すると、先日の黒い少女が、アニムと『時を廻るもの』の間に割って入ろうとしていた。

(『時を廻るもの』、だめだよ。)

「『産声』」


 少女:『産声をきくもの』は『時を廻るもの』を黙ってじっと見つめる。

(……。)


「……っく。解ってる……。」

 そういうと、『時を廻るもの』はアニムを離し、ばつが悪そうに『産声をきくもの』から目線を逸らした。

 そして、苛立たし気にまたアニムを睨みつけた。


「いいか、『混沌』。なんでも良いから命を増やせ! お前のおかげで、こっちは大変な事になってるんだ!!」

 そう一気に捲し立てると、先ほど白磁世界から消えた時と同じように、「時間だ」といって消えてしまった。


 わけが分からないまま、放置され続けているアニムとしては、いい加減に我慢の限界に来ていた。

 逆上したアニムは、『時を廻るもの』が消えた辺りを怒鳴りつけた。



「ちょっと待て! 時計ウサギかよお前は! どういう事だ!?」

 しかし、すでに姿を消した『時を廻るもの』からの返答は無い。

「ん!!」

 アニムは苛立たし気に、自らの太ももの上を拳で殴りつける。


(『混沌の種父』。大丈夫だよ。『時を廻るもの』は焦ってる様だけど。貴方は戻ったんだ。)


 アニムの頭の中に声が響いた。

「待ってくれ! 何が何だか分からないんだ! 今まで、成り行きでやってきたけど、そもそも何でこんなゲームみたいな事をやらされてるんだ? 君はその答えを知っているのか?」

 

 アニムはこの世界に来てから、ずっと疑問に思っていた事を彼女にぶつけた。


 しかし、『産声をきくもの』は困ったような顔をする。


(本当に覚えてないんだね……。でも、ごめんね。今は、これ以上は無理なの。)


「え?」


(大丈夫。今まで通り、世界を生で満た……。)

 

 『産声をきくもの』は明滅し、言い切ることなく消えてしまう。


「えええ?……何なんだよ……?」

 

 アニムは力なく、その場にしゃがみ込み、項垂れた。



「『混沌の種父』おかえり。」

「え?」


 一瞬、アニムは『産声をきくもの』が返ってきたのかと思った。

 しかし、すぐに違うと気付く。

 アニムの目の前には白いダッフルコートと似た衣服に身を包んだ、『産声をきくもの』と全く同じ顔をした少年がいた。

 

「記憶が無くて大変なんだって? 僕は『消えゆく灯火』だよ。今日は挨拶だけだけど、またよろしくね。」


 そういって、彼は笑みを浮かべた。

 しかし、その笑みは落ち着いた『産声をきくもの』とは違う、無邪気で、どこか揶揄うような笑みであった。

 

 戸惑うアニムを余所に、彼が何かしたのだろう。

「大丈夫だよ。いずれわかるから・・・・・・多分ね。」


 そのまま、アニムの意識は暗転した。




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