ポエマー彼女は偽物彼女
高校の卒業式で告白、めでたく付き合うことになった彼女との初デートは4月に入ってからだった。
デート当日。私服を着た彼女は少し大人びて見えた。
「とても綺麗だ。」
僕が言うと、彼女は左手に持ったスマホで顔を隠しながら言った。
「春の陽射しと新たな生命の力が私を美しく見せるのです。」
はて。
彼女はこんな話し方をする子だっただろうか。
高校時代のことを振り返ってみるものの、僕は好きな人には緊張して話せない典型的なダメ男だったので、まともに会話した記憶が無い。
きっとこういう子なのだろう。
水族館に着き、大水槽を目の前にして彼女はこう言った。
「鰯の鱗が光る。マンタが優雅に漂う。厳しい自然の中でも皆このようにそれぞれの人生を全うするのでしょうね。」
デートを重ねるうちに分かったことがある。彼女は私生活の出来事、例えば大学で、同じ文学部に所属する友人との会話について話すときにはこうはならない。
ただ自らの心情描写が独特なのだ。
ポエム調の語りは、絶対マシンに乗っても健在だった。
「奥底から響く振動。迫り来る頂点。その先にあるのは光か闇かぁぁぁぁ!」
ある日、待ち合わせ場所で会うや否や彼女は泣き出した。
慌てて理由を聞く。
「私、もう耐えられない…。」
私は貴方が愛する女じゃない。双子の妹。驚いた?実の両親でも見間違えるくらい似ているの。
本題に入るね。何故私が姉の振りをしていたか。
姉は亡くなったの。
卒業式の3日後。不幸な交通事故だった。
姉の最期の頼みが、私が姉の代わりになることだった。
貴方を悲しませないようにという姉の思いなの。決して悪気は無いし面白がってもいない。
デートはいつも楽しかった。
でも貴方が本当に想っているのは私ではない。そう考えると途方もなく悲しかった。
楽しい時も、嬉しい時も、姉だったらなんて言うだろうと考えると普通に喋ることも出来なかった。
そして何より、次第に貴方に惹かれていく自分がひどく汚い女に思えた。
さようなら。素敵な人を見つけて幸せになって。そしてどうか姉のことを恨まないで。
視界が暗転した。
高校の卒業式で告白、めでたく付き合うことになった彼女とのデート。前回からかなり間が空いた気がする。
彼女は一人っ子で、理系で、利き手は右。感情表現がストレートな愛らしい女性だ。
待ち合わせ場所には既に彼女の後ろ姿が見えた。
少し離れたところから名前を呼びかける。
振り向いた彼女の顔は何故か青ざめていた。
最後のオチをはっきり書かないのが好きなんですが、私の文章力でその意味が伝わっているのか心配なところです。意味分かんねえよって方は何らかのリアクションを頂ければ幸いです。