15 逆らえない本能
『はい、ラスト1枚君にあげるよ』
『……欲しくねぇ!』
『でもそういうルールだから』
『……くそっ』
『はい、2抜け』
もうすぐこの世界は崩壊する。
そう❤︎Aの本能が訴えていた。
……仕方がない、世界を渡ろう。
♦︎Qと♠︎Qが消えて以来、自分以外のAを見た途端自分ではない自分になりそうで怖かった❤︎Aは世界の移動を拒否してきたが、さすがに渡りざるを得ないようだ。
……嫌な、予感がする。
そう思いながら❤︎Aは世界を渡った。
その瞬間に2つ目の世界が崩壊した。
……嫌な予感は的中してしまう。
❤︎Aが訪れた世界には❤︎Aが密かに想いを寄せる少女、♦︎Aがいるのだった。
彼女を見た途端に消えたいという欲が強まってしまう。
ダメだ、堪えるんだ……!
必死に自分に言い聞かせる。ここで欲に忠実になったら彼女に辛い思いをさせるだけだ……。
彼女に植え付けられた本能が薄かったからだろうか、彼女は♦︎Aに近づかずに済んだ。
しかし、距離を取ることは本能が許さない。
「……逃げて……」
❤︎Aは自分では距離が取れないため、♦︎Aにそう呼びかけた。
いつ自分が暴走してしまうか分からない以上、♦︎Aとは距離をとっておきたかったのだ。
しかし、あろうことか♦︎Aはゆっくりと❤︎Aの方へと近づいてくる。
そのことに❤︎Aは嬉しさはあったが、それ以上に焦りが大きかった。
今近づかれたら、いつまで自分を抑えられるかわからない。
彼女を無理やり襲うのは本意じゃないんだ……
「……おいで?」
「や、めて……我慢、できない……から……」
「我慢しなくてもいいんだよ。辛いでしょ?」
彼女は両手を広げて、自分を受け入れてくれる体制になる。
……このまま、消えてもいいかも……
いや、ダメだ! 彼女には幸せになってもらいたいんだ。消えて欲しくなんてないんだ。
「ほんとに……逃げて……」
しかし、♦︎Aは首を横にふり、一向にその場を動かない。
そしてとうとう、❤︎Aの限界がきてしまったようだ。
ゆっくりと近づいて、そのまま♦︎Aを抱きしめる。
もちろん、彼女たちは同じ数字を持つ者同士のため、身体が溶け始める。
「ごめんなさい……ほんとに、ごめんなさい……」
❤︎Aは取り返しのつかないことをしたと謝罪をするが、抱きしめる力は緩めることなく、むしろより力を入れていく。
♦︎Aはそんな彼女の頭を撫でて、落ち着かせようとしている。
「気にしなくても大丈夫だよ」
「でも……私のせいで……」
「そういう本能があるんだから仕方ないよ。最初我慢してくれて、ちょっと嬉しかったし」
「……でも……」
「私のこと考えてくれてたんでしょ? その優しさが伝わってきて嬉しかったんだよ」
そう言って♦︎Aも抱きしめる力を強める。
もうお互いの身体の原型は留めていない。
今度はどんどんと顔が溶けていく。
もう彼女たちに残された時間は少ないだろう。
♦︎Aは最後の力を振り絞って言葉を繋げ始める。
「❤︎Aのことを恋愛対象とは」
「見れなかったし、今も見れてないけど」
「でも、でも」
「大好きだよ」
「消える相手が貴女で良かったって」
「本気でそう思ってる」
「ありがとう」
その言葉に❤︎Aがどれほど救われたことか。
本能に抗えず、想い人を消えるということに巻き込んでしまったことによる負の感情が一気に消え去った。
自然と涙が溢れてくる。
「ありが、とう……!」
もう半分くらい溶けてしまった口を無理やり動かして❤︎Aはそう言葉にする。
もう意識は消えかかっており、少しでも気を緩めたら完全に消えてしまうだろう。
その前に、伝えられてないことを、伝えたい……
「大好きだ、よ……ダイヤ……」
伝えられた……。
良かっ……た。
そう思ったと同時に気が緩み、❤︎Aの意識は完全に消えてしまう。
残された♦︎Aは、最後に伝えられた言葉を嬉しそうに思い返す。
……そういう言葉は、《始まりの時》が起こる前に聞きたかったな。
もし聞けてたら、私は……
♦︎Aの意識も、消えていった。
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Aの世界 0枚
Bの世界 2枚
♠︎5 joker
Cの世界 0枚
Dの世界 1枚
❤︎5
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物語のヒント
全ての世界は、もうすぐ消える