12 折れる心
2つ目の世界には想い人はいなかった。
しかし、その程度のことで諦めるほど♦︎10の精神は弱くなかった。
まだ行ったことのない世界もあれば、入れ違いになったのかもしれない。
意外にも♦︎10はポジティブだったのだ。
そして再び♦︎10が世界を渡った。
……渡った世界にいたのは、想い人ではない10をもつ者、♠︎10だった。
しかし、♠︎10は♦︎10に気付いていない。
……このままゆっくり逃げれば、バレないかも……
パキッ
そう思って足を踏み出したら、枝を踏んでしまったようで割と大きな音が出てしまう。
……バレちゃった?
そう思い振り返ると、♠︎10と目が合ってしまう。
バレてた。
そう気づくと♦︎10は全速力で駆け出した。
♠︎10のことは嫌いじゃないが、彼女と消えたいわけでもない。
「ちょっと待って、❤︎10見なかった?」
「え?」
♠︎10の意外な質問に足が止まる。
……あれ、消えにこない?
もしかして私、♠︎10の想い人が私って勘違いしちゃった?
そう思うと恥ずかしくて顔が熱くなる。
そしてそれを誤魔化すために慌てて質問に答える。
「み、見てないよ」
「そう、ですか……」
なんだ、早とちりか。
そう思って油断している♦︎10に♠︎10は近づくと……無理やり身体を引き寄せた。
その瞬間に身体が溶け始める。
……え?
♦︎10の思考は状況を全く把握できていなかった。
なぜ、♠︎10は自分と溶けることを選んだんだろう?
他に想い人がいるんじゃないの……?
思ったことがそのまま口にでる。
「なんで……貴女が好きなのは❤︎10じゃ……?」
「あ、それは貴女を油断させるための嘘だよ。全速力で逃げられたら追いつけないから」
「そんな……」
身体はもう溶けて、右腕はもうない。
♦︎10はそれでも諦めようとはしなかった。
まだ……間に合う!
今から逃げても遅くない。
そう決意すると、無理やり身体を引き剥がした。
その影響で溶けかけていた左腕も地面に転がり落ちた。
しかし、そんなものはどうだっていい。
想い人と消えるためなら……
「……どこいくの? もう♣︎10はいないよ?」
「……え?」
突然想い人がいないと言われて足を止めてしまう。
……嘘、ただの罠……
♦︎10は必死に自分にそう言い聞かせる……が、♠︎10の口は止まらない。
「《始まりの時》で❤︎10と一緒に消えていったよ。そこの足元の泥っぽいのが元♣︎10と❤︎10だよ」
「……え?」
そう言われて足元の元少女を見る。
もちろんぱっと見でわかるほど原型は留めてないが、そこには♣︎10が愛用していた髪留めらしきものがあった。
これは以前私がプレゼントしたものだ。
間違えるはずがない。
「……嘘だよ……そんなわけがない……」
「残念だけど、事実だよ。だから貴女は私と消えるしかないの」
「……」
♦︎10の動力源は想い人である♣︎10だった。
その想い人がいないことをしって……彼女の心は折れてしまった。
もう抵抗する気も起きない。
もう、消えたい。誰とでもいいから……。
「それじゃあさっきの続きしよっか」
「……」
「あはは、抵抗しないんだ」
こうして♦︎10と♠︎10は消えていった。
ーーーーーー
Aの世界 0枚
Bの世界 3枚
♦︎A ♠︎5 ❤︎6
Cの世界 3枚
❤︎8 ❤︎A joker
Dの世界 3枚
♣︎6 ♠︎8 ❤︎5
ーーーーーー
物語のヒント
消えた少女はどこにいくのだろう?
神のみぞ知るとはこのことだろうか。