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次の日も、俺は大学の図書館に足を運んでいた。しかも今日は、朝からだ。
わざわざ朝から図書館に来たのには、理由が2つある。ひとつは、早めに行って席を確保するため。そしてもうひとつは、家の空気が重くるしかったからだ。グレゴリには悪いが、かける言葉も見つからないため、とりあえず家を出るしかなかった。
朝といっても、俺が家を出たのは午前10時過ぎだったため、図書館内にはちらほらと人がいた。幸い、昨日みたいに席が埋め尽くされるほどではなかったので、適当な席を見繕ってカバンを置き、本を探しに行った。
正直、あまり本を読んだことが無かった俺は、法律の本のようなものではなく、出来るだけ簡単に読める本を読みたかった。やがて小説のコーナーに、1番薄い文庫本を見つけ、自分の席に持っていった。すると、俺の向かいの席には、なんとよしみが座っていた。
「おはよーう、今日は早いね。カバンが置いてあったからもしかしてって思ったら、やっぱり匠だった!」
「おはよう。マジか、カバンだけでよく分かったね。昨日もこんなに早く来てたの?」
特に知りたくもない、社交辞令のような質問をしながら、俺はゆっくりと席に座る。しかしこいつはなんなんだ。同じ仲良しグループにいるというだけで、個人的には仲良くもなんともない。それどころか、話したことも片手で数えられるほどしかない。
正直、ウザい。1人でも何かするために図書館に来ているのに、結局仲良しグループのメンバーと顔を合わせるなら意味がない。
1人になりたいんだあっちいってくれ。そんな言葉が言えたらなあ、と思う。どんなに便利なことか。
そんな時、グレゴリのことが頭に浮かぶ。あいつも、こんにちは、お名前は?の一言さえ野良猫にかけられれば、そう苦労はないのだ。
要は勇気。自分の言いたい一言をかけられる勇気こそが、どんな時でも必要とされるのだ。帰ったらグレゴリにこの話をしてやろう。きっと感動するに違いない。
......!!!ねぇ、きいてんの?!
......?!
突然の素っ頓狂な大声に慄き、ふと我にかえる。どうやらよしみが一生懸命俺の質問に答えてくれていたようだ。
「だからね、昨日はお昼くらいに来たんだけど、席を取るのに苦労したから、今日は少し早めに来ようと思ったって話!」
俺が今日早く来たのと同じ理由だったので、少し可笑しくなって、ニヤけてしまった。そんな俺を、よしみは訝しげな顔で見ている。
「変なのー。匠って時々分かんないね。てかさ、私たちいつも一緒にいるけど、あんまり話したことないよね。せっかくだからさ、今日ご飯でも食べに行こうよ」
「あ、うん。いいよ」
「やったー!じゃ、12時くらいになったらいこ」
不覚だった。あまりにも不覚だった。まさかいきなり誘われるとは思わなかったので、とっさにOKしてしまった。俺にとっては、マンツーマンの食事など、苦痛以外の何者でもない。何故なら、会話の対象が全て自分になるからだ。
俺はその後の2時間弱、憂鬱で憂鬱で、小説の内容が全く頭に入って来なかった。
そうこうしているうちに、地獄の時間が訪れた。昼の12時だ。
「よーし、じゃあいこっか!」
「おう」