第5話 2020年8月31日-嫌になるほどの快晴
『次はー桜田霊園前』
あの日から丁度1年、今日は姉さんの命日だ。
チリチリと肌を焼く太陽、周りは山に囲まれていて、セミの鳴き声が頭に響く。
「さてと。行くか」
水桶いっぱいに入った水とスポンジと雑巾。
ここは山が開かれて作られた霊園で、上にあるバス停から階段を下ると墓地がある。その墓地の一番左端の方に山田家の墓はあった。
【山田家之墓】
ん?
「あれ? 掃除してある。花も……」
見ると、もう既にピカピカに磨いてあり、花もお供え物もあった。
もう誰か来たのかな?
「久しぶり、姉さん。今日は暑いね」
今日の気温は32℃、墓石に水をかけても、直ぐに水を吸収するほどの暑さだ。軽く墓石を拭いてみるが、やっぱり雑巾には汚れ一つ付かなかった。
ろうそくに火を点けその火で線香を立てる。そして手を合わせる。
「あれから色々変わったよ」
「父さんは実家に帰るって置手紙を残した後連絡もない」
プライドの高いあの人の事だ、人前で弱さを見せないようにとずっと一人で抱え込んでいるんだろう。
「母さんは前と違って段々と気丈な姿も見せるようになってきた」
乗り越えられないものを背負って生きていく。母さんはきっと今、必死になって進んでいる。
暫くの間沈黙が流れる。
俺は、姉さんに言わなければいけない事がある。
「姉さん、姉さんがあの時言った事」
姉さんはこの世界を灰色だと言って死んだ。あの声が今でも頭の中で木霊する。
「あれからずっと、考えてた。確かに世界は灰色に溢れてるよ。そのせいで自分の持つ色が出せない人だって大勢いる」
「姉さんはその灰色達にいっぱい苦しんだんだね」
今でも抱えきれないほどの感情はある。けど、きっと抱えきれない感情は力にして変えていかないといけないんだ。
「俺も世界が大っ嫌いだ。灰色を『誰のせいでもない』って言う世界も、『それはどうしようもない事実なんだ』って突き付けてくる世界も」
「だから見ててほしい」
「俺、高校は海外に行くことに決めたんだ。母さんも応援してくれるって」
「世界、それが『灰色に溢れているのは仕方がない』なんて言ってくる世界なら、俺の持つ俺だけの色で出来るとこまで変えてみせるよ」
「聞こえてるかな? 俺、頑張るよ」
『……ありがとう、レン』
「!? 」
聞こえるはずのない姉さんの声が聞こえたような気がして、俺は少し笑った。
「おう」
これにて本作完結となります。
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