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EARTHRINGS  作者: 映画音
邂逅
5/20

五話「会議」

「会議」


 関係者が集まって、決められたルールに従い、議題について意見を出し、相談すること。その会合。または、その機関のことである。


◆◆◆


 今回、生徒側と自衛隊側との同盟会議の場にて定められたルールは三つだ。

 一つ。会議に参加するメンバーは両者三名まで。なお、人選は問わない。

 二つ。会議時間を一時間に設定し、その時間内に決まらない場合は不成立とする。 

 三つ。例え同盟交渉が不成立となっても、不要な敵対心をいだかない。

 最後の一つはあまりに不確定で必要性がいまいち考えられないが、同盟交渉会議設定時に自衛隊側から提示された。


 五月十六日、午前九時半前、視聴覚室。

 遠信が不気味な笑顔を浮かべる頃から一時間ほど前のこと。


 普段、二十名ほどの生徒が出入りし、生徒側での方針会議をする場の視聴覚室に、二つの合わせた長机、六脚の椅子だけというのは少々殺風景に見えた。


 生徒側から出場するのは柊助ひいらぎたすけ近藤進こんどうすすむ倉橋氷見くらはしひょうみの三人。彼らは既に会議の場についていた。


「私達、早すぎたかしら」


 氷見は手元の時計を確認しながら退屈そうにぼやく。


「そうつまらなそうにするな氷見。お前は冷静で冷淡で冷酷だが、顔に出やすい節があるぞ」


「進会長。貴方に私の性格についてとやかく言われたくはありませんし、そんな氷のような性格もしていません。」


「二人とも緊張感が無さすぎだろ。これから重要な会議だっていうのに」


 二人のいつも通り過ぎる会話に柊はため息を漏らす。


「何故緊張等という生産性のないことをせねばならん」


「右に同じく」


「お前らは仲がいいのか悪いのか……」


「「悪い」」


「さいですか」


 息ぴったりに悪いと言われても、説得力がないにも程がある。


「無駄口はそこまでにしとけよ、そろそろ時間だ」


 万が一、彼ら自衛隊側が遅れてくるようなら進はこの会議をやめるだろう。

 時間も守れない者は約束も守れないと。


「遅くなってすまない」


 ガチャッと音がし、扉の方へ向くと迷彩柄の隊服にどっしりとした体格、服の上からでもその屈強な体がわかる。

 その男、本郷救人ほんごうきゅうじんの姿だった。


「いえ、時間の五分前です。自分達が早すぎただけですよ」


 最初の値踏みはよしと、にこっと進は微笑みかける。


「いえいえ、自分達は十五分前行動を基本にしています。我々の中では遅刻ですよ」


 年下の進を侮らず、本郷救人という男は低く、探るように、できるだけこちらの弱味を見せまいと微笑み返す。

 扉前での微笑み合いが終わると、後ろから真田阿多御津さなだあたみつの姿が見えた。


「やあ、助くん。昨日ぶり」


「おはようございます真田さん」


 柊は、この会議を成立させた一人である真田は来ると思っていたのでその人選に驚きはしなかった。最後の一人は恐らく副リーダーの妃鴇定きさきときさだだろう。


「え……なんで」


 そう思っていたから驚いたのではない。彼が、この場に、そちら側でいることに驚いたのだ。


「原先生……」


 自衛隊側最後の一人。白髪、白髭の男、原和はらかずが扉から現れた。


「なにか問題があったかな? 柊くん」


 原和はハテナマークを浮かべている。


「だって、先約があるって僕らの誘いを──」


「だからその先約がこれだよ」


 生徒会側は当初、柊の提案もあり氷見ではなく、原和に協力してもらおうとしていた。だがそれは先約によって、できずに終わったが、まさかその先約が自衛隊側の協力だったとは思いもよらなかった。


「誤算だったな柊、まさか原先生が相手とは」


 やりにくくなる、柊はそう直感する。


「そんな腫れ物のように扱わんでくれよ進くん柊くん。私は同盟に賛成だと言っただろう。そう身構えないでくれ」


 原和は席に着きながら、まあまあとなだめる素振りをみせる。だが、柊や進はそんなことを警戒したのではなかった。


「では、人数が揃ったところで会議を始めたいと思います。議長を務めます、馬場美香です。よろしくお願いいたします」


 長机の前央に馬場が座り、会議は開始された。議長と言っても仕切るわけではなく、収集がつかなくなったときのまとめ役だ。このメンバーで収集がつかなくなることがあるのかは疑問だが。


「じゃあまず、同盟を何故結びたいか、そちらの意見をお聞かせ願いますか」


 進は主導件は渡すものかと言わんばかりに開口一番、先手をうった。


「時間が惜しいからな、わかった。こちらが同盟を結びたい理由、結んでなにをしたいかを言おう。簡単だ、今のぞくに言う大人側の暴走を止めたい。君たちと同盟を結べば彼らも無視は出来ないはずだ。置いてきぼりをくらうのは嫌だろうしな。我々はこの小さくなってしまった世界の平和を守りたい、それだけだ」


 偽善ではなく本心。そう手に取るようにわかった。本郷は本当に正義に生きる人なのだろう。

 そして今回のこの交渉が難航する予感も強くなる一言だった。


「では、そちらは」


「謎の解明の協力要請、大人側への圧力強化、脅威の撃退」


 ここからが踏ん張りどころだ。三人は目をあわせ、息を飲む。


「概ね理解し合えるようだな。大人側のこと、謎の解明も天鳴地動のことだろう、これから生きてくうえでそれも理解できる。だが──」


 やはりか、


「脅威の撃退とはなんだ」


 ここをつかれることは予定内だ。

 ──だがこれが同盟交渉失敗の原因となる。


「我々に危害を及ぼす恐れのある敵の撃退です」

 

 進は強気だ。


「それは放送の件と関係があるのか? 君たちはなにを知っている」


 進は難色を示し、訝しんだ。

 どうやら原和は柊との考察や情報を自衛隊に教えてはいなかった。


「私から、敵とは我々が確認した未確認生物のことであり、先日の放送やインターネット、水道、電気、その他を維持している者もこれと同一視しています」


 説明が上手く、圧のある氷見がここは担当した。

 未確認生物? と首をかしげる原和以外の二人に写真を見せる。


「なんだこれは」


「写真部を中心とした偵察班が撮ったものです」


「その写真のことに関しては私からも信じれると断言しましょう」


 原和がフォローしてくれた。意外だと思ってしまった。


「……原先生がそういうなら信じます」


 本郷は難なく折れた。原和は本郷の中で大きく信頼されているようだ。

 柊達は情報開示に制限はかけず、信憑性の高い情報と考察を淡々と自衛隊側へ話した。そのほとんどが原和と柊が導いた考察だった。


「現状の君らの考えは理解した。そのうえでもう一度きく、脅威の撃退とはなんだ」


 より一層厳しくなったオーラで、本郷は聞いた。


「この写真が撮られた地点付近でベースを設け、これの撃退に当たります。一応の作戦、展開の仕方はもう考えてあります」


「なぜ、撃退ということになった」


「放送を受けてです。殺される前に殺すべきです」


 進は言葉をオブラートに包むことはしなかった。


「話し合いをする気は」


「ありません。第一、全人類のほとんどを消し飛ばしたと予想される相手と交渉できるとは思えません」


「可能性はゼロではないだろう」


「ゼロに近いのは確かです」


 お互いに一歩も譲らない。

 柊はこの場にいてなにが出来るのだろうかと思い始めた。


「どうやって殺す」


「今日から、工作部と手先の器用な者で武器を作らせています」


「工作武器で全人類を消し飛ばした相手と戦えると?」


「少なくともまた天鳴地動と同じことがおこるとは放送からして考えられません。その手で殺しに来るでしょう。近接戦ならば工作武器でもある程度の力を発揮すると考えています」


「相手が遠距離ぶきを使用して来たらどうする」


「こちらも遠距離武器を使用すればいい」


「どこにある」


「あなた方が持っているでしょう」


「銃か。ならこの作戦は我々ありきな作戦だということか」


「そうなります」


「では我々が拒否すれば君たちはその作戦を実行に移せなくなるということか」


「はい」


「ならば拒否しよう」


 淡々と進む会話はここで一端区切りがつき、止まる。


「……何故ですか」


 黙っていた柊はここぞとばかりに発言する。


「危険だからだ。君たち子供にそんな危険な真似をさせたくない。それにそれは先手を撃つことが前提であるだろう。もしも、あの放送が悪戯で君たちの言う宇宙人が敵ではなく、敵であったとしても交渉できる存在ならどうする、こちらから戦いを仕掛けることになるんだぞ」


「ですが悪戯の可能性は極めて低く、先手を取らなければこちらに勝機はありません! それに、すでに想定七十億以上の人類を消し去っている輩と、交渉できるとは思えません」


 つい声を上げてしまった柊は進に落ち着けとなだめられる。


「確証が得られない以上、実行は無理だ」


「ですが……原先生、貴方はどう思いますか」


 本来であればこんなことは聞くべきでないのは柊にもわかっていた。


「そうだな、確かにあの放送が本物で、その本物の実行者が彼らであるならば実行に移すべきだろう」


「──なら」


「だが、確証が得られないのは事実。こちらから開戦して勝てたとしても更なる戦いで勝てるとは限らない。交渉できないとも限らない。なら私は本郷くんの言っていることは正しいと思うよ」


 最悪の予測は的中だった。難航どころか失敗する予感しかしない。


「原先生がまさかそこまで消極的だとは思いませんでした」


 名一杯の嫌みだった。

 でも、


「今は君や生徒のスクールカウンセラーではなく、彼らの協力者だ。彼らの意見に賛同するのは当たり前だろう。それに君らを危険から遠ざけろとも言われているんだ、すまないね」


 原和はあっさりとそれを一蹴する。


「これでも私は教師の部類でね。生徒を守るのも仕事のうちなのさ」


「嘘だ、楽しんでいるだけでしょ……」


 やはり、この人はこういう人だった。


「そう言ってくれるな。同盟が失敗したときはその相談にのってあげよう」


 そしてこういうことを言うのもこの人の人間性だ。


「我々はなにも、このまま殺されていいと思っている訳ではないんだよ柊くん。その条件を飲めないのは先にあげた理由だけではないんだ。関東遠征の結果にも理由はある」


 関東遠征。天鳴地動及び消失があってすぐ行った、三勢力合同の遠征だ。県庁所在地や重要箇所などに目的地を絞って行われた。


「関東遠征で我々自衛隊は数多くの駐屯地、警察署、ベースを回ったがどこにも武器がなかった、消えていた。他にも軍車両、航空機、船舶なんかも綺麗さっぱり消えていた。これは君たちも知っているだろ?」


「「「ええ」」」


「言いたいことはもう、わかるだろう」


「……武器の補充が出来ない、ですか」


 進が念頭に入れていなかったと難しそうな表情を浮かべる。


「武器はなるべく使いたくない。使用するなら戦闘目的ではなく自衛目的でだ」


 言いたいことはわかる。確かに今回もし戦ったとして、勝てたとして、次、その次と、消耗戦になったとき負けるのは必至。さすがは自衛隊側のリーダー、それとも誰かからの入れ知恵か。


「もし、何者かが殺しにかかってくるなら応戦ではなく戦略的撤退を指示する。勿論、やむを得ない場合は全力で応戦しう」


「ですが、ここより外に出れば安全と呼べる場所はないでしょう」


「侵略があればここも安全とは言えない」


「ですが少なくとも消失、天鳴地動に関しては外よりもこの場にいる方が安全といえる。最低でもここを拠点に外へ広げていかないと」

 

 打ち合わせにないアドリブの考えを柊は話す。


「ここを拠点にするという考え方からして自衛隊ありきだろう柊くん」


 その考えは原和の前に敢えなく散る。


「具体的にどこに逃げるおつもりで」


 氷見も痺れ切らし、口をあける。


「まだ決めていないが候補は幾つかある。どこも辺りの警戒がしやすく、逃げ道も多い場所だ」


「逃げ続けられる自信がおありなのですか」


 進の顔には諦めが見える。だが、相手の考えを聞いておきたいのだろう。


「逃げながら打開策を考えればいい。戦闘し、余裕も人員も物資もなくなりながら打開策を考えるよりよほどましだ」


 と本郷。


「相手に時間を与えることになるだろうが、その事も頭に入れて打開策を考えればいい。戦闘していてもそれは同じだと思うよ」


 原和は先回りして補足した。


「これを踏まえて、謎の解明と大人側への圧力の二つで同盟成立としないかい?」


 妥協しろと本郷は持ちかける。だが、


「遠慮します。戦うことを放棄して、謎の解明ができるとは思えません、それにこの場から動くとなったとき、行く行かないは自分達の意思です。派閥は関係なくなる」


 進はあっさりとそれを振る。


「一応言っておくが君たちと同盟を組みたくない訳ではないのだよ、むしろ組みたい。だからこんなことを言っているんだ」


「わかっています」


 暫しの沈黙。


「意思は固い、か。なら、残念だが今回はこれでお開きかな」


 本郷は議長の馬場に目配せした。


「え、えっと、ではこれで同盟会議を終了します。えと、結果は不成立です。お疲れ様でした」


 不成立だったのがショックだったのか、不意に締めを降られたのに驚いたのか、馬場はたじたじしていた。

 そして真田はというと会議開始されたから一言も口にすることなく、視聴覚室を後にした。


 会議時間は実に四十五分と、予定より十五分も短いものになった。


「──誤算に誤算が重なったな。まさか自衛隊側のリーダーがあそこまでキレる人だとは」


「見た目の割には頭脳派だったわね」

 

 かなり失礼なことを二人はぼやいているが、ぼやくことしか出来ないのだ。

 

「確かに、原先生はあくまで有利に進めるための駒で、精神面の揺さぶりが大きかったね……本郷さんだけでも結果は変わらなかったよ。多分」


 柊もつられてぼやく。


「初めから考えていることがバレていたな、タイミングからして武力を求めていることを予想していたんだろう。自分達の力を奢っていたわけではないが、大人は強いな」


 完全に自分達の負けだと、進はため息をついた。


「それで、どうするのこのままだと応戦は無理そうだけど」


 氷見は疲れたという顔をする。


「工作武器だけでなんとか応戦するしかないだろう。ただ、逃げるという案を教えたうえで義勇兵を募らないとだが」


 進はあくまで応戦の考えだ。少ない人数なら少ない人数にあった作戦を考えるだけなのだろう。その分、勝率はどんどん低くなるが。


「一割、二割集まれば喜べるレベル。それ以上は集まらないだろうな」


 柊はため息をつく。


「そこまでいけばいいがな……」


 進はいつにも増してネガティブだった。

 最悪、十人単位での戦闘も視野に入れていそうだ。それでも尚、戦う選択肢を捨てないのは人類の未来を考えてのことだ。


「なんにしてもこの情報、確実に大人側へいくわよ。あれだけ大々的に盛り上げたんだから」


「せめてあの条件で一応同盟組んでおけばよかったんじゃないか?」


「あの条件を飲めば応戦の妨げになることは確実だ。彼らがそれを阻止しようとするさ」


「それは同盟を組まなくても同じな気がするが」


「組むよりかはましって程度でしょ」


「ああ」


 三人の思い空気の中、馬場は終始、居心地の悪そうな顔をしてあたふたしていた。


◆◆◆


 ──自衛隊側本部、校庭テント。

 拠点に校舎をという提案もあったが、武器などの管理のため、あまり人を寄せないよう校庭にテントを設置した。ちなみにテントは山岳部のものを借りている。


「協力してあげればよかったのにぃ。俺も宇宙人殺したかったなぁ」


 語尾を伸ばし、自衛隊あるまじき事を口にする男は椅子をギコギコと揺らしながら、帰ってきた本郷を見て、開口一番つまらなそうにした。


「慎め麻流他」


「はーいぃ」


 棚部麻流他たなべまるたは反省の色なく椅子を揺らす。


「でも俺もぉ逃げるよかぁ応戦のがぁいいと思うんですよぉ」


「さっき説明した通りだ」


「ちぇ、折角久しぶりに面白そぉなのにぃ」


「麻流他」


「はーい慎みまぁすぅ」


 麻流他はいつもこんな調子だ。


「お前はもう少し正義を考えた言動をしろ」


「本郷さんみたいなぁ偽善者にはなりたくないですぅ。その偽善、生徒たちにも押し付けたんでしょぉ? でも彼らはあなたの正義をぉ、本物の正義とか思っちゃってるんだろなぁ」


「偽善だとしてもやらないよりかはいくらかましだ。それに日下部さんだって……」


「アンタが日下部さんの話をするな」


 麻流他の目付きが変わる。時々ある麻流他のこれは普段だらけた口調のせいかより一層圧が増す。 


「……棚部、借りてたもの返すからあんたのテントに置いとくわよ」


 真田は間をおいて、空気をぶち壊して話しかけた。


「……あぁ、わかったぁ。ついでに俺もぉテントに行くわぁ」


 おもむろに椅子から腰をあげた麻流他は真田のあとを歩いた。 

 本部のテントから五十メートルほど先に個人のテントはある。他にも武器庫とするテントや生き残りのために設置された風呂のテントなども校庭にある。


「ねえ麻流他」


 本部より少し離れたところで真田は口をあけた。


「なんだよぉ」

 

 麻流他はめんどくさそうに答える。

 真田は麻流他にはドライだ、麻流他は真田に関心がない。

 真田と麻流他が話すことは滅多になかったが、麻流他が唯一真面目に話すのが真田だった。


「あなた、宇宙人と戦いたいのよね?」


 真田は一瞥もくれず麻流他と話す。


「ああ、だからマジギレモードの俺に嘘までついてよんだのか」


 その一言で意思を汲み取った麻流他は語尾を伸ばしはしなかった。


「協力するわよ、"生徒側に"」


 真田は最初からそのつもりでいた。


「いいのぉ? 本郷様を裏切ってぇ」


 麻流他は平常運転に戻った。茶化すのは麻流他の専売特許である。


「助くんには、借りがあるもの」


「……もしかして惚れたぁ? そいつにぃ。高校生はまずいよぉ~」


「ないわよ、私はただ」


 彼の容姿も、内面も、何もかもがしんそこどうでもいい。

 ただ、ただ私は、彼の"声"が好きなだけ。心地よかったから。

 あの、震え声が。


◆◆◆


 ポイントA。

 写真部があれを初めて発見した地点はそう呼ばれた。そのポイントAから遥か先、およそ人間が踏み込めぬ場所にあれは集結しつつあった。


「ЩЩЩЩЩЩЩЩЩЩЩ」


 その言語は人間にはまるで理解できない。そもそも聞き取ることさえ困難。聞こえたとしても、悶え声にしか聞こえないだろう。

 あれはこう言ったのだ「いつ、攻める」と。

 攻めるとは無論、一橋高校をだ。

 いつ、という問に無数のあれらは一声に答える。


「ЩЩЩЩЩЩЩЩЩЩЩЩ」


 あれは脳がコンピューターのように繋がり、感情も、考えも何もかもが繋がっている。だから答えはすべて同じだった。 


「あと二日……」


 あれらは一橋高校の面々に準備する機会を与えたのだ。理由は明白、遊んでいるのだ。


「ЩЩЩЩЩЩЩЩЩ!」


「ЩЩЩЩЩЩЩЩЩ!」


「女は俺が殺す!」


「人間と子を作るか!」


 そうあれらは叫び、笑っていた。

 人とあれとの戦争まで後二日。


 そして叫びを聞く、否、繋がり持てる脳で感じている者がいた。


「二日後、か……」


 その者は、一橋高校の人間の身をあんじながら、その身を一橋高校においていた。

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