三話「今朝の件」
女性が弱いなんて誰が言ったのだろうか、むしろ女性は男よりも強いと言えるだろう。
女性とはいつも世界の中心にいて、世界を右へ左へ振り回す。女性からしたら男なんて表舞台にたつただの人形だと思っているのかもしれない。
ならば、真田阿多御津という女性もまた、柊助という男の影に隠れた、これから世界を左右する何人かの女性のうちの一人なのかもしれない。
◆◆◆
午前九時、大人陣地副校舎、会議室。
やはり危険だな、とおいた大人側リーダー堂島遠信は険しい顔をして、円卓を囲む面々をみた。
「ったく、子供なんて厄介な物は早めに取り込んでおくべきでしたな、まさか自衛隊側との交際なんてものがあるとは」
「やはり水面下でのラインがあったか」
「三つの勢力の均衡が崩れかねんぞ」
「いやまってください、まだラインがあるとは決まった訳では……」
「あなたはどちらの味方なの? そういえば生徒を庇うような発言が今までもありましたわよね、境先生」
「い、いえ……それは──」
遠信の前置きを皮切りに、大人たちは口々に勝手意見を飛ばしていく。それを遠信は咳払い一つで静かにさせると、飛び交った意見をまとめた。
「確かに、生徒側と自衛隊側にラインがあるとするのであれば、勢力の均衡が崩れるのは必至、我々は態度やあり方を改めなければならん。だが、境先生のいう通り、ラインではなく、ただの交際関係という可能も大いにある。自衛隊側の人間と生徒側の、それも生徒会メンバーの人間だ、馬鹿じゃあない。あんなところで情報交換なんてこともしないだろうし、むしろただの交際、なんてことの方が可能性は高いだろうな。しかも未成年との交際、それをラインの糸口にするのは大人として難しいだろう」
「堂島先生はこの事に関しては気にしなくてよいとおっしゃるのですか? それは少し甘く考えすぎなのでは」
女、教師ではなくPTA のその人は少々力持たして言う。境という新人教師は何故か慌てふためいた挙動をする。
「それは早計だな霜月くん」
「っ……なんですって」
PTA の女、もとい、霜月の言葉に怒気はなく、羞恥心がこもったように思える。
「まあ、そうかっかするな。私は現状での可能性を話していただけだよ」
怒気ではない羞恥の感情が言葉にこもっていたことに気づきながらも、遠信はそれを怒気としてあつかった。それにまた顔を赤くした霜月は黙って聞くことにした。
「確かに、今はまだラインがあるとは言えない。が、どちらとも馬鹿じゃあないと言ったろ? 状況が悪化すれば、この関係を利用せざるをえなくなると私は思うがね。それに今朝の件で状況は文字通り悪化の一途をたどっている。このままでは時間の問題だ」
「それではあの関係が交際関係のままでは終わらないと、お考えなんですね」
その男、久留和澤の目は憧れ、尊敬、信頼のどれとも違いまるで神を崇めるような、心酔しきった目で合いの手をうった。
「ここは歩みよりが重要だな、生徒の心に寄り添うように。天鳴地動から一ヶ月、まだまだストレスや不安を内に持っている者も少なくはない、それに付け込むとしようじゃあないか。少し荒い手にはなるがそれを呼び起こすこともできるだろう」
「それは……」
「なにかな?」
「っ……」
境の正義の反論の灯火は、遠信のいちべつで消える。
「なによりも"今朝の件"がある。そろそろこの世界を一つにする時なのだよ諸君」
それはまるで宗教の布教のように、教祖が信者にお告げを伝えるようにねっとりと。
「さあ、今日が建国記念日だ」
不敵な笑みを浮かべた。
◆◆◆
"今朝の件"そう遠信が表現したものは文字通り今朝、六月十五日午前五時半のちょうどの出来事だ。
写真の件が生徒会に報告されたり、暗がりで歳上の女性からのキスを受けたり。そんなあれこれがあってから半日もたたぬうちに、それはあった。
少し早すぎやしないかと、柊は思う。
それがあったことが理由なのか、実に半月ぶりの全校集会が開かれた。勿論、取り仕切るのは大人達だ。が、どういう風の吹き回しなのか、生徒側、自衛隊側にそれぞれ発言の時間を与えた。
「まずは私、校長の古河の話からとさせていただきます」
そうおいた古河の言葉はどこか文書を読むような感じがしてならない。それもそうだろう。何故なら遠信が用意した"シナリオ"を読んでいるのだから。
「今、我々は結束しなければならない時に来ているのです。今朝の件で我々人類は新な危機にさらされることを知りました……。我々は世界に試されているのです。ここで一つになれなければ恐らく、先の天鳴地動の二の舞を演じ、消えることでしょう……」
ざわめきと小さな悲鳴が起きた。
「やられた……」
隣に立っている進がそう漏らす。勿論、こうなる可能性を危惧していなかった訳ではない。いつかこうして生徒に対する"脅迫"ともとれるそれを行ってくるとは進も、柊やリーダー会議に参加する誰もが思っていたことだ。しかし、全校集会などという場所で、場合によっては自分たちの足下をすくわれかねないところで言うなんて、それが出来たのも、この脅迫が全校の大半に響くのも、全ては今朝の件が原因だ。
「ですから、どうか、どうか我々の言うことを聞いて欲しい。これはあなた達のためなのですから」
それだけで古河は言葉を終わらせ、体育館袖へとはけていく。それだけで充分すぎだ。
体育館袖には遠信がいた。
「これで我々の勝利ですね」
「いいや、これからが建国への闘いだ」
遠信は古河の安堵の表情をよそに、険しい顔する。
「会議でも言っただろう。彼らも馬鹿ではないのだよ。今のは彼らに対する宣戦布告でもあるんだ。あの関係をどちらも利用するに決まっているだろう」
「なら、どう」
古河は不安な顔して遠信に迫る。
「第一目標はざっと百人だな。それだけ手に入れば勝利は近い」
◆◆◆
午前九時半、生徒会室にて。
古河のあの言葉の後では、残りの二勢力の言葉は無力だった。
「くそっ」
凄い音を立てて進は机を叩いた。この時初めて進の苛立つ姿を見た気がした。
「完全にやられた……あいつらは情報戦を放棄して、強硬手段に出やがった」
「あの様子だと、校長じゃ無さそうね。あっち側のリーダー」
今回手にいれた唯一の情報だと氷見は言った。そんな情報も大して役にはたたなそうだが。
「校長がリーダーでないとしたらどうする、リーダーがわかっていればまだやり方はあただろうが、今は完全に大人側の情報を失ったぞ」
と剛野手。
「多く見積もって一、いや二割は大人側になびいてしまうかもしれない。百人以上持ってかれたら形勢は崩れるぞ。それまでに俺たちは自衛隊側との同盟、緑の化物の正体、今朝の件の詳細、この三つの条件と情報を手にいれるしかない。発言力では大人側には勝てんからな……」
進は苦し紛れの打開策、とは到底言えない希望案を提示した。
「どれも無理があるんじゃないか」
剛野手は険のある表情をする。
「ならこのまま指をくわえていろというのか!?」
「そんなことは言ってねぇよ!」
二人は苛立ちがピークに来ている。本来なら自制が効く二人が、特に進がここまで取り乱すのは初めて見た。
「剛野手くん! 進くん!」
美香は今にも殴り合いそうな二人の間に入り、それを一旦落ち着かせた。
「今日のところはここで解散。このまま苛立ったままで会議をしても、なにも進まないし、なにも生まれないよ。だから宿題、各々今日は考えることにしよ? 緑の化物のことも、今朝の件のことも、自衛隊側との同盟をどうやって結ぶのか、いいよね?」
美香の声にも苛立ちはあったが、それを何とか抑えているようだった。想像していたよりも、ずっと美香はこういうことに強いらしい。
みんなはそれに頷いた。
「よろしい、自衛隊の方のことは、まずどうやって接点を作るかから考えてね。突然訪問とかは論外だから」
柊はその接点という言葉に身覚えがあった。その接点は昨日出来たばかりのものだったが、
「俺、自衛隊側の一人とあるかも、接点」
その言葉に暫しの沈黙を置いてから、皆口を揃えて言った。
「はぁ⁉」
と。
◆◆◆
「おーい、タスケー」
生徒会室からの帰り道、本校舎と第二校舎を繋ぐ渡り廊下を歩いていると、後ろから聞き覚えのある声で呼び止められた。
「なんか久しぶりな感じがするな古千」
「そうだな、一週間ぶりか? 最近ちっとも顔を見せないで、寂しかったんだからな」
「そう言うな、ここのところは生徒会で忙しいんだ」
特にここ二日間の忙しさは柊のキャパを越えるものがある。事実には耐性はあるが、忙しさに耐性はないのだ。まあその事実でさえもここ最近の受け入れの難しさときたら、耐性があるのかすら怪しいが。
「それにしてもやられたな、あの校長の言葉。揺れる生徒は少なくはないだろうに」
「ああ、さっきもそのことで揉めたばっかだよ」
「今朝の件といい、校長の言葉といい、なんか裏でやっているのか?」
「まあな」
「……そっか、あんまり無茶するなよ?」
「内容は聞かないんだな」
「聞かれたくないだろ」
「……ありがとう」
古千は幼稚園からの付き合いで、こちらはわからないのに、古千はいつも俺の事を、というよりは俺の発する空気を読んでくれている。原和に言った理解者ではない親友だ。
「なら、今から食堂で昼食としないか?」
天鳴地動後の昼食は各場所で受け取れるものを好きなところで食べるか、食堂で食べるかの二択になっている。勿論、二つともメニューは変わらず質素で関東遠征時や定期的に町に下りて集めた缶詰や非常食が基本で、冷凍食品なんかも冷蔵庫なども使えるため食はなんとかもっている。代金は無料だ。
「悪いが遠慮しておくよ。戻ってレポートにまとめたいことがあるんだ」
久しぶりの親友の誘いに答えてやりたいのだが、柊は共同の寝床になっている教室に帰って、美香から出された宿題をレポートでまとめようと思っていた。こればかりははずせない。
「そうか、なら残念だがまた今度にするとしよう」
「ああ、それじゃあな」
「なにかあったら言えよな、理由は聞かないで協力するよ」
古千と別れてから寝床(教室)に戻った柊は早速、ノートパソコンを取り出した。
レポートに手をつける前にいつもやっていること、ルーティーンになりつつあるオンラインでの生存者確認をする。確認すると言ってもニュースの更新と日付での検索くらいしかないのだが。
そうした工程を踏んでからレポートをまとめ始めた。
「本当は原先生と一緒にやりたかったんだけどな……」
生憎、予定があるとのことで相談は受けてはもらえなかった。
まずレポートにまとめるのは緑の化物。原和と柊の間で宇宙人と呼ばれるその存在についてだ。といっても先日、原和と話していた考察内容を書くだけで付け足すことも特にはない。
ちなみに宇宙人という呼び方は、誰もが皆宇宙から生まれし者だから間違いではないだろうという屁理屈で固定化させた。
問題は二つ目の今朝の件についてだ。誰がそれを行ったとはおよその検討がついている。
「生き残りのイタズラ、なんてことは恐らくない」
あれはそう思わせるほど、異質なものだった。
「あれはたぶん宇宙人がやったんだ」
今朝の件でわかったことが二つある。それは宇宙人を含めた何者かが意図的に我々生き残りを出したのではないということ、そして他にもいるかもしれない生き残りの可能性のこと。
だが、大きな疑問は残ったままだ。
「何故、一橋高校にいた人間のすべてが生き残ったのか……」
今朝の件で全世界に天鳴地動、ないしは人の消滅は行われたのではなく、やはり原和の仮説であった範囲的消滅が有力だろう。
それに範囲的消滅が有力であるのなら、天が鳴いたのを、地が動いたのを、何故俺たち生き残りも感じたのだろう。やはり、消滅と天鳴地動は別ものなのだろうか。
範囲的消滅であるならば何故七七八人をもの人間のいた学校をその範囲から外したのだろう。
「──わからない」
わからないことだらけだ。疑問には疑問で答えられるこの世界で、わからないことがわかるのだろうかと柊は思う。
自衛隊との同盟のことは、まずはあの女性自衛官、真田阿多御津ともう一度話すことが必要だろう。
「今夜もあそこにいるかな」
レポートと言うよりは問題文に近いそれを書き終えた柊は、部活動(自主練習)の時間まで暫し眠ることにした。
◆◆◆
午後十一時、校舎裏。
昨日よりも静かな夜。彼と出会った場所に真田は立っていた。目的は勿論、彼ともう一度会うため。
今、自衛隊側にある生徒側との唯一の接点が真田だった。今朝の件、全校集会での校長の言葉が、自衛隊側を動かすことになった。
今、手をとるべき勢力が大人側ではないと判断したのだ。
だからと言ってすぐに協力しないか、とはいかない。いくはずもない。まずは勢力の頭同士の対話が必要だ、協力関係になった後の話をしなければならない。
それにはやはり、真田と柊のセカンドコンタクトが一番手っ取り早く、生徒側、それも生徒会に所属する彼との再接触が最も確実なものなのだ。
「だからって少しは気まずいんだけどな……」
今ごろになって後悔している口づけのことが頭をよぎる。あの時は特に意味もなく、考えもなくしてしまったけれど、改めて重要人物として扱い、会うのだと考えると、いい歳とは言わないものの、歳の離れた子にこちらから口づけをしたのはまずかったと反省している。しかもあんなところで。無論、こんなことはリーダーには言えない。条件にもっとすごいことを要求されたらどうしようという不安もある。
「ここにくるかしら、あの子」
柊助。そう名乗った青年は、気晴らしにこの暗がりを時おり歩いているのだという。もしも、その時おりが今日でないのなら、その時おりが来るまで毎晩ここへ来なければいけないのかと真田は少し不安になった。
来てほしいのか、ほしくないのかよくわからない。
「──まだこの時間帯は冷えるわね」
六月中旬、梅雨入りはまだ。今年は大分遅いか。夏を運んでくる雨がまだ降らないここは、六月にしては少々冷える。真田は雨が嫌いじゃない。むしろ好きと言えよう。
音がいい。
いわゆる音フェチというやつだ。雨が地に打ち付ける音が好き。傘に当たる音が好き。降り止みの滴が水溜まりに落ちる音も好き。銃弾を撃ち出す音が好き。弾を装填する音が好き。空の薬莢が落ちる音が好き。物に着弾する音が好き。人の肉を貫く音が好き。人が果てる音が好き。骨が折れる音が好き。鼓膜が破れる音が好き。注射を入れられる音が好き。髪を切る音が好き。皮膚が溶ける音が好き。なにか柔らかい"者"が潰れる音が好き。
天が鳴く音が好き。
音に快感を覚えたことはなかった。ただ聴いて楽しむだけで、高揚するだけでよかった。けれどそれでは満足出来なくなってしまった。あの音を聴いてしまったから。聴いてしまったせいだ。
驚悸した。
驚喜した。
狂気した。
狂喜した。
どんな悲鳴よりも恐ろしく、しつこく全身に絡みついてくるそれを聴いた時、真田はそれに快楽を覚えてしまった。今も、心のどこかで思い、隠している、もう一度あの音が聞きたいと。思い出すだけで身震いするほどのあの音を。
後ろから近づく者たちに真田は気づかず、思いに馳せていた。
「──っ‼」
猿轡、にしては大きく熱がある。手だ、それも男の。
手を口に当てられた真田はそのままなし崩す形でその場にうつ伏せの形で抑えつけられた。
「んー!」
少し腕に力を入れてみるが、一人ではないのか、口を抑えている男とは別の人間に抑えられている。
振りほどくのをやめ、男の顔を見る。やせ形、冴えないの二つが印象の男だった。確かこんな顔の男が大人側にいたか。
「やっぱり……ここにいたんだ……ハァハァ……やっぱりあの人の言うことは正しい!」
息を荒げる冴えない男はそんなことを言った。
「お、おい。あの人は確認するだけだと……」
「あぁ、でも捕まえてあれこれ吐かせた方がいいだろ。あの方の役に立てるぞ……それに溜まってるんだ、少しだけ楽しんでもいいよなぁ」
呼吸の仕方が変わった。目の色が変わった。さっきまでの誰かにすがる目ではなく、女性を女を、雌を見る血走った目に。
「お、おい。それはさすがに……」
「いいんだよ!お前も欲求不満だろ!?」
「……」
──あーくそ、面倒くさい。
「さて……まずは仰向けにしようか……」
真田阿多御津という女性がされるがままになる筈がない。男たちの息の音は不快な音だった。この程度なら真田一人で対処できる。が力を入れようとした時、彼は、柊は現れた。
「ーーッ面!!!!」
バシッ!!!
口を抑える男の頭に背後から柊の竹刀は打った。竹刀がしなり、鈍い音が響く。覆い被さる男が怯んだ隙を、真田は逃さない。自ら仰向けになると手を振りほどき、足で頭を掴むと起き上がり、そのまま地面に叩きつけた。
「ぐっ……」
足を解くと、次にもう一人の呆然とする男の顔に一発、鳩尾に三発、拳をいれるとそのまま背負う形で投げた。
「ガハっ……‼」
「ふぅー」
一旦息を落ち着かせ、男らと同じように呆然とする柊のもとへと真田は歩みよった。
「昨日ぶりね、助けてくれてありがとう」
「い、いえ、名に恥じぬ行いをしたまでです。それにほとんどなにもしてませんし……」
柊は目の前で行われた鉄拳制裁と昨日の口づけのせいか、かしこまりすぎた。
「さてと、早めの再会を喜ぶ前にこの人たちをどうするか……」
男らは伸びているわけではない。今にも立つくらいの力は残っていた。真田は立つのを待った。
「くっそが……」
男らはよろよろと立ち上がる。
「とんだ糞あまだな」
「女が弱いなんて誰が決めたのよ」
真田は腰に手を当てた。脅しにはなるだろうと、拳銃を手に取ろうとしたのだ。だが……
「あの人の命令に添えなかった……だが、戦利品としてこれでご機嫌をとろう」
そう言った男の手には黒塗りの拳銃が握られていた。
「あーもーまたやっちゃった。うそでしょ……」
いつとられたのか、それともなんの拍子に落としたのかわからない。だが、かなり不味い状況にはかわりない。幸いこちらにも肩に下げたパルキュアストラップ付きの銃がある、脅しはないだろう。
「追ってはくるなよ」
「くそ!」
それだけ言って男らは暗闇に消えて言った。
「はぁ、やらかした」
「拳銃なんて力の塊のような物を渡してしまったとなると、結構な痛手になりますね」
「リーダーに怒られる……いや、怒られるだけですめばましか……」
「それは、お疲れ様です。それで、どうしてまたここへ?」
「それはもちろん、あなた達生徒側との同盟交渉のためよ」
頭を抱えた真田はそう言った。
柊は笑みを浮かべて、
「僕もそのためにきました」
◆◆◆
その後─────
「真田くん、ちょっといいかな?」
◆◆◆
時刻は今朝に戻る。
今朝の件は午前五時半に起きた、というよりも放送されたのだ。そう放送だった、今朝の件と大げさに表現してはいるけれど、今朝の件とは今朝の放送のことなのだ。
それはけたたましい音のオルゴールと共に放送された。
放送全文。
生き残ってしまった可哀想な人間達よ、これから楽にしてあげます。
俺たちは怒っているぜ!
貴方様がたは我を残念に思わせた。
ので消した。
だが、残っ、た。しまっ、た。
三日後、一匹残らず殺しにかかる。慈悲の心は我々にはない。
面倒だよ本当にさ、あの時消えてくれてたらよかったのに。
本当あーあって感じ。
翻訳は出来ているだろうか。なんせ日本語というものを学んだのは一ヶ月前だかぁぁらな。
今回のー放送はーチョーうけるけどー終わるねー。
では、去らばだ。
終わり。