創成の一族と雷親父
出発を前に荷物をキャリーケースに詰める、ふと月読様が何もない空中から短刀を取り出していたことを思い出し腕輪に向けて声をかける。
「ナヴィーおいで」
腕輪が中型犬サイズの空飛ぶライオンに変身する、ただし顔はカーナビのモニターだ。
ナヴィーの頭を撫でながら話しかける。
「月読様が、空中から物を取り出していたけど、ナヴィーも同じこと出来るの?」
ナヴィーの画面が(^_^)表示から質問に対する回答に変わる。
「可能です。 機能名 亜空庫を設定して使用しますか? 」
どうやらその機能は亜空庫というらしい。続けて質問をする。
亜空庫の容量はどのくらい?中に入れたものはどういう状態になる?
「体積で言えば約100m3です。中に入れたものの状態は設定により変更可能です、空間は任意のサイズに変更可能で設定した部屋毎に個別設定が可能です。」
どうやらキャリーケースは要らないようだ。
「こちらの世界から亜空庫を使用して物を持ち込むことも可能ってことだよね?」
念のため確認しておく。
「可能ですが、物品事に個別設定をきちんとすることをオススメします」
出発前に気付いて良かった。そういうことなら亜空庫を使う前提で買い物をし直す必要がある。
買い物を終えて家に帰る、約束の時間まで後一時間程だ。最後の時間を家族四人で過ごす、葉月は幼稚園で覚えた歌をたくさん歌ってくれた、歌詞は全然合ってないが音程はバッチリだ。
彩月は心臓が悪かったなど嘘のように顔色もよくなり泣き声も大きくなった。
約束の時間になり辺りがまた暗くなった、前回同様ろうそくが点り石段が現れる、石段を登り神殿へと歩いていく。
「月読様、いらっしゃいますでしょうか?」
神殿に向かい声をかける。
中から入りなさいという声が聞こえる。
「準備は良いか?」
月読様からの問いに出来ているとつげる。
「月読様のお陰で彩月の具合もよくなりました、今度は私がお返しさせていただく番です」
妻と二人で心からの感謝を告げる。
「それでは転送する、最後の別れを告げるが良い」
葉月を自分が抱き抱え、彩月を抱いてる妻ごと家族四人で抱き締めあう、必ず帰ると約束し月読様の方へ進む。
「そなたの行く道に月の加護があることを祈る」
その瞬間辺りが突然明るくなり、世界が物凄いスピードで回転を始めた。徐々に意識が遠退いていく。
「ツクヨミサマー~\:'%\@、ツクヨミサマー!%;\@!?#^。」
若い女の声で目が覚める、辺りを見渡すと月読様の神殿に似た作りの神殿のようだ、どうやら祭壇の様な場所で寝ていたようだ。
「ツクヨミサマー~\:'%\@、ツクヨミサマー!%;\@!?#^。」
また若い女が話しかけてくるが月読様の後が聞いたことの無い言語で全く理解出来ない。
「ナヴィーおいで」
突然現れた謎の生物に若い女は後ずさりしてあからさまに警戒している。
怯える女は置いといて、ナヴィーに言語翻訳が可能かと聞くと翻訳機能は無いがスキルを習得すれば可能だと教えてくれる。
若い女にジェスチャーで少し待てと伝える、コミュニケーション能力が高いらしく、なんとなく趣旨は理解したようだ。
ナヴィーにスキルの習得方法を聞くと教えてくれた。
「スキルはステータスモードから習得可能です、月読様からサービスで#SP__スキルポイント__#が20ポイント授与されています、3ポイント使用して言語理解のスキルを習得しますか?」
3ポイントって高すぎる気がするが、習得するしか選択肢はない。
若い女にためしに声をかける。
「ここはどこ?」
若い女はビックリしながら回答する。
「凄い、言葉がわかるのですね?ここは創成の一族の村です。あなたが月読様の使徒ですか?」
そうだと伝えて簡単に自分の自己紹介と現在の状況を確認する。
娘の名前は朔夜月読神社の巫女をしており、昨日の夜、月読様からの神託があり急いで祭壇に来たところ、祭壇で寝ている私を発見したとのこと。
状況把握のため神殿の外に出てみる、辺りを見回すと空には巨大な青い月。明らかに地球で見る月とは違う。無事に異世界に着いたことを実感する。
ふと物見やぐらが有ることに気付き登ってみる、高さはビルの三階くらい、回りの建物が平屋しかないので高さ的には十分だ。
村の大きさはかなり小さく家は20数件しかなさそうだ、村の回りは簡素な柵で覆われており、柵の外は火事や巨大竜巻でも合ったかのように木は倒れているか焦げているかのどちらかだ。
朔夜に理由を聞くと連日魔族の侵攻を受けており、現在防戦一方なことと、一族の姫が昨日の夜に魔族に攫われてしまい現在どうするか検討会議の最中だと教えてくれた。状況はかなり差し迫っている様だ。
「わざわざ姫をさらった目的は?姫の置かれている状況は?」
殺さずに誘拐した理由が気になる。
「姫と神器「草薙剣」を交換するのが狙いだと思います、ただし姫は四神獣の一つ玄武の契約者の為神力の切れるまでの間は結界術が使えます。なので姫の神力が切れる4日間の間に救いだす必要があります」
「戦力の差は?四神獣?残りの三体の神獣はどこにいる?」
まず必要なのは正確な状況整理と自分の能力の確認だ。
「現在近くにいる魔族の勢力は幹部が三人とその部下が千人程ですが、魔王が自ら草薙剣を欲しがっているとの話があり、その話しが本当ならば全軍を率いてこちらに向かっているそうです。その場合は魔王と幹部が6人、その部下が一万弱になります。対してこちらの戦闘可能者は、四神獣の使い手3人と5名の戦闘員、2名の回復術仕だけです。」
余りの戦力差に思わず笑えてくるが、こちらには絶対に負けられない理由が有る、与えられたカードをうまく使うしか手はない。
「神獣の使い手と敵の幹部は能力的にどちらが強いの?5名の戦闘員の強さはどのくらい?」
朔夜が答える。
「属性の相性を無視した場合ですが、敵の幹部よりも神獣使いの方が数倍強いと思います、戦闘員も敵の下級戦闘員の100倍程度の能力が有ります」
まさしく少数精鋭という感じだ、ただし敵の数が、余りに多すぎて正攻法では全く勝ち目はないという感じか、話しながら祭壇に戻る。
「ナヴィー、私のステータスを細かく表示できる?特にスキル関係、神獣使いの一人とステータスの比較もしたい。」
ナヴィーの画面表示が二分割し、それぞれの画面に自分のステータスと、朔夜のステータスが表示された、どうやら朔夜は白虎の神獣使いのようだ、神獣使いだと名乗らなかった所を見ると私に対してまだ警戒をしてるのだろう。当然の反応だと思うが、ゆっくり警戒を解いてる時間は無い。
「朔夜の白虎はどんなことが出来るの?」
突然、自分が白虎の神獣使いだろと指摘され、無表情を装っているが、動揺を隠しきれていない、さらに警戒を強めてしまった様だ。
「何故白虎の使い手だとわかったのですか?」
朔夜が恐る恐る理由を聞いてくる。
「ナヴィーは月読様の分体だから、色々な能力が使えるんだよ、朔夜のステータスもナヴィーに聞いた」
月読様の分体という言葉に朔夜の目が輝く。
「涼太郎様は月読様に直接お会いしたことが有るのですか?」
有ると告げて月読様にお会いした上で直接使徒として任命されこちらに来た事を告げる。
「月読様からの神託を授かっている、展開するので一時間後に一族の主だった者を集めてほしい、ただし、これから一時間の間朔夜以外の者はこの部屋に来ないようにして欲しい」
朔夜はわかりましたと告げると小走りに外に出ていった。
朔夜を見送るとステータスの確認に意識を集中させる。
ステータス画面は「名前」「レベル」「職業」「種族」「称号」が上段に記載され、下段に「体力」「力」「魔力/神力」「敏捷性」「幸運度」の数値が記載されるようだ。
朔夜のステータスをまずは確認する
名前「朔夜」
レベル「95」
職業 「月読の巫女」
種族 「人族」(創成の一族)
称号 「神獣使い 調停者」
所属 「無し」
体力 860 「Aランク」
力 690「Bランク」
神力 990 「Sランク」
敏捷性 1050 「SSランク」
幸運度 600 「Bランク」
神獣の加護(白虎) 敏捷性、神力に+200
スキル 神獣召還 神魔法(風) 神装(白虎)
比較対照が無いので厳密にはわからないが朔夜のステータスはかなりの高スペックだと理解した。次に自分のステータスを確認する。
名前「清水 涼太郎」
レベル 「1」
職業 「神成り親父」
種族 「神」(月読の使徒)
称号 「なし」
所属 「なし」
体力 600「Bランク」
力 600「Bランク」
神力 600「Bランク」
敏捷性 600「Bランク」
幸運度 1100「SSランク」
創世神の加護 すべてのステータスに+500
月の加護 状態異常無効、幸運度+500
スキル 親父の拳骨 神魔法 言語理解
突っ込みどころが多すぎて何から突っ込むべきか悩むが、雷親父になるはずが、神に成る親父で神成り親父ってこと?いつの間にか人間も卒業してしまったらしい。
月の加護は彩月の心臓を治してもらった家族四人に施してもらった加護のようだが、創成神の加護は出発間際に頂いた加護か?
所属が朔夜も自分も無しなことに気付きナヴィーに確認する。
「ナヴィー、所属とは何?所属すると何かメリットがあるの?」
「所属は国や組織等に自分で忠誠を誓った場合に加入が可能となります、その組織によりメリットは様々です。」
ナヴィーの回答を聞いて4つ目の能力を思い付いた。早速ナヴィーに説明し月読様にお願いして貰う。
そうこうしてるうちに一時間が経過し朔夜が戻ってきた。
「涼太郎様、お時間となります、村にいた主だったものをつれて参りました」
朔夜の後ろに3人が並んでいる。
「まずは私、朔夜から挨拶させていただきます、年は19です。白虎の使い手で近接戦闘が得意です。趣味は野菜作りです」
きちんと見ると朔夜は綺麗な顔をしており、肩まで有る銀髪を小さなリボンで一つに結んでいる。近接戦闘が多いのだろう、細くて華奢な腕は傷だらけで痛々しい、右の頬にも大きな古傷が見える。本人も少し気にしているのか傷が見えないように顔を少し斜めにしてこちらを見ている。
「ナヴィー、神魔法に回復系の魔法はあるの?」
「神回復があります。習得にはSP2が必要です、習得し使用しますか?」
ナヴィーに習得すると告げる。次の瞬間突然魔法の使い方、効能、効率的な使い方を理解した。
神回復を朔夜に向けて発動する、朔夜の腕とほほの傷が完璧に消えた。
鏡を見た朔夜が涙ぐんで喜んでいる、こちらの世界では立派な戦士だとは言え、19才の女の子なのだ当然と言えば当然だ。
朔夜の後ろにいた男が話し始める。
「私も神獣使いの一人で水月と申します、年は26才です。私の神獣青龍は水を司ります、主に村全体を水のバリアで守ったり、遠距離攻撃が得意です」
水月は肩まで有るダークブルーの長髪が印象的な好青年だ、しゃべり方も落ち着いていて話していて安心感が有る。
水月の隣にいた女性二人が話し始める、どうやら二人は双子のようだ、服装も髪型も鏡写しのように反転しているが、体型も顔も声も全く同じに見える。
「私たちはミラとユラと言います、年は23才で回復術仕です、先ほど朔夜の治療をした魔法は何ですか?顔の古傷まで消えるなんて信じられません。」
三人に自分が月読様の使徒である事を告げ自分がここに来た理由を説明しているとナヴィーが話しかけてくる。
「月読様からの通信が入りましたので接続します」
突然の事にビックリしたが、慌てて姿勢をただす。
「楽にするがよい、涼太郎おぬしの4つ目の願いを確認しに来ただけじゃ、詳しく説明してみるがよい」
予想外の内容に慌てて説明を始める。
「この世界には所属という概念が有りますが、これを利用したいです。所属を私を頂点とする組織にした者には自動的に眷族の腕輪がはまり、この腕輪をしているものは私の加護を得られる代わりに私に絶対の忠誠を誓うようにさせます、この誓いは私が解除するまで絶対に破れません。また、眷属の数により私の能力もアップする、その様な感じの能力にしたいです」
月読様は時折頷きながら話を聞いてくれている。
「この能力の最終目的は、すべての魔王を創成の一族の傘下に置くことですが現時点での戦力不足の補填の意味合いも強いです」
月読様は一度大きく頷き話し始める。
「まさに神の僕という訳じゃな、わかった授ける様にしよう、それと、創成の一族は全員涼太郎の傘下に入ること、これはワシの神託じゃ、よいな?」
朔夜が間髪いれずに返事をする。
「月読様の仰せのままに」
そこで通信が途絶えた。
少しの沈黙の後、朔夜達四人が顔を見合わせて頷くと片膝を着き目の前に並ぶ。
「私たち四人を最初の眷族にしてください、身命を賭して涼太郎様の覇道に付き従わせて頂きます。」
その瞬間四人の左手が光り輝き、突然ナヴィーがハイテンションで叫ぶ。
「神ガチャタ---イム!!」
あっけに取られる五人にナヴィーが説明をする。
「眷族に入る際のステータスに応じて金、銀、レインボーの3種類のガチャを一回引くことができます。
「ミラとユラは金ガチャだね」
ステータスを表示させながらナヴィーが呟くとミラとユラの前に金色のガチャが現れた。
二人は同時にガチャを回す。ガチャから拳大のカプセルが出てくる。ミラのカプセルは金色だがユラのカプセルは虹色だ、ミラの金色のカプセルを先に開ける、「魔力増強(大)」と記載された紙が入っていた。
魔力?ナヴィーに確認する。
「私と朔夜のステータスは、神力だけど、ミラのステータスは、魔力ってこと?その差はなに?」
「神力は神か神獣使いなどの一部の職業の物しか使えません、全種族共通で通常は魔力となります、神力が使えれば神魔法が使える可能性が有ります。例外としてスキルで使える神魔法もあります、その場合は魔力でも使用可能です」
なるほど、だから神回復の効果が高く驚いてたわけだ。
続いてユラのガチャを開ける、開けた瞬間に某RPGゲームのレベルアップ音に似たファンファーレがなる、中には紙が入っておりスキル「トゥーハート」と書かれていた。
ナヴィーがスキルについて説明する。
「このスキルは、二人協力技で、神回復が使えるようになります、ただし、協力できる対象は心から信頼している相手だけで、消費魔力は二人で300です」
二人共に当たりだったようだ。
続いて朔夜がガチャを回す、出てきたカプセルの柄は虹ではなく三日月模様だ。カプセルを開ける、ファンファーレは無い。中から出てきた紙には「進化 月読の神官」と書かれていた、巫女から神官に進化したということらしい。
「今までよりも能力も上がりスキルも増えているようです」
朔夜が嬉しそうにこちらを見ている、古傷を気にして斜めに構えることも無くなり、性格も明るくなったように感じる。
最後は私ですね、水月がガチャを回す、出てきたカプセルは満月柄だ、どれが熱いのかよくわからないが熱そうなのには違いない。
出てきた紙にはこう書いてある
「召還獣リヴァイアサン ゲット 」
一同が唖然としていると突然爆発音が鳴り響いた。
「また、魔族の襲撃のようです。」
水月が飽き飽きだと言わんばかりにうんざりした顔を見せる。
その時ある作戦を閃く、作戦の内容を皆に展開するが、口々に危険です、やめてくださいと否定的な意見が多い。そんな中朔夜が口を開く。
「私はあなた様の剣です、死地にでもご一緒します」
その一言で流れが変わった。
全員に作戦を決行すると告げる。
繰り返し響く爆発音のする外を見ながら絶対にしくじるわけにはいかないと自分に言い聞かせた。