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新しい君と  作者: たく
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約束の日

エピローグです。

「夏休み前に二者面談をする。その時までに進路をしっかりと決めておけよー」


先生の言葉に、教室は騒つく。


僕の周りでは、不安を共有するようにお互いの進路について語り合っていた。


そして、僕も紛れも無くその一部だった。


「秋山君は進路どうするんですか?」


一年前まで何も考えられなかった。


自分がどうしたいのかも、何がしたいのかも分からなかった。


でも、最近になってようやく僕はそれを見つけることが出来た。


「僕は理系の大学に行こうと思ってる。そこで脳について研究をしてみたいと思ってるんだ」


「……美月さんのためですか?」


そう言って、紺野さんは少女の方をチラリと見た。


「それもあるけど。何より僕自身が興味を持ったんだ。人間の脳にはまだ色々なことが隠されてると思う。それを知れれば誰かの役に立てるんじゃないかと思ってさ」


「そうかもしれないですね」


「紺野さんは?」


「私も秋山君と似たような感じですよ」


「進学するってこと?」


「そうですね。……私は人の心を癒すような仕事をしたいと思ってます。まだ具体的にどういう形になるかは分からないですけど、それは模索しながら考えていこうと思います」


その答えは、実に彼女らしかった。


紺野さんは、誰かの痛みに寄り添いつつもしっかりと背中を押すことが出来る。


それが出来る彼女にはピッタリな職業だと思った。


「そっか。もしかしたら一緒の大学に行くことになるかもね」


「確かにそうですね。脳科学と心理学がセットになってる大学は多そうですからね」


「じゃあ、その時はまたよろしくね」


「ええ。……でも、それよりも今は勉強を頑張らないとですね」


「そうなんだよね……」


興味があることが出来たとは言え、今の成績のままでは希望の大学に通用しなかった。


そのため、慣れない理系科目を必死に強化していたのだ。


僕はふと、紺野さんが美月に勉強を教えていたことを思い出した。


「あのさ、良かったらでいいんだけど、今度勉強教えてもらってもいいかな?」


その言葉を聞いて、彼女は嬉しそうに笑った。


「私でよければ構いませんよ。……ただ、私は厳しいですからね〜」


「……覚悟しとくよ」


……そう。


僕たちは三年生になった。


そして、高校生活最後の夏休みを迎えようとしていた。




「二人とも、夏休み予定空いてるかな?」


「どうしたんですか?突然」


「……これ、行かない?」


そう言って、僕は一枚のチラシを見せた。


「……これって、もしかして」


僕は、紺野さんに向かって静かに頷いた。


僕たちの様子を見てた美月は、キョトンとしていた。


「そうですね、行きましょう。たまには息抜きした方がいいですしね」


「美月はどうする?」


「私も行っていいの?」


「当たり前じゃん」


「じゃあ、行かせてもらおうかな」


僕たち三人は、あれからもずっと一緒にいた。


最初は戸惑うことも多かったが、今となっては慣れてしまった。


よくよく考えてみると、“初めて会った時の美月”より、“今の美月”と過ごしてる時間の方が多くなっていた。


僕が手伝うと言った日から彼女は自分を探し続けていたが、まだそれは見つけられていないようだった。


うすうすそうなるとは思っていた。


何せ、以前の美月がそうだったから。


彼女と今の美月は別の人格のため、記憶は共有されていない。


そればかりは仕方のないことだった。


ちなみに、彼女は日記帳を引き継いで今も記録を続けているようだった。


「お祭り何着て行こうかなー」


「やっぱり浴衣じゃないですか?」


「去年はあんなに照れてたのに、今年は進んで着るんだね」


「べ、別にいいじゃないですか……」


そう言って、彼女は頰をうっすらと染めた。


……今の美月は、紺野さんをからかうようなことは全くなかった。


むしろ、人格が変わってからの美月は紺野さんとタイプが近く、大人しい子だった。


最初はコミュニーケーションに違和感があったけど、タイプが近いもの同士、それはそれで気が合ったようだ。


そして、からかい役がいなくなってしまったことで、こうして僕が彼女を時々からかっていた。


以前の自分なら、こんな風に人と接することは考えられなかった。


そんな会話が出来るようになったことで、僕が二人にどれだけ信頼を寄せてるかが改めて分かった。


「秋山君はたまに意地悪ですよね。やっぱり勉強教えるのやめようかなー」


そう言ってニヤニヤしていた。


「ごめんなさい、許してください」


「分かればいいんです」


こんな下らないやり取りが、なんだか楽しかった。


そして、僕たちのやり取りを見ていた美月が突然こう言った。


「二人は、付き合ってるの?」


「「えっ?」」


僕たち二人は、声を合わせて聞き返してしまった。


「だって、二人はいつもそうやって楽しそうに話してるからさ」


「まあ、仲は良いと思うけど。別にそういうのじゃないよ」


「その通りです。……それより、美月さんの方こそ秋山君のこと好きなんじゃないですか?」


ちょっ、真顔でなんてこと言うんだ……


「わたしは……」


美月は明らかに困った顔をしていた。


そして、紺野さんもそれを察知したようだった。


「……冗談ですよ。悪ふざけはこの辺にしといて、ちゃんと日程を決めましょう」


その後、僕たちは適当に予定を決めて解散した。


そして、花火大会の日はすぐにやってきた。




「お待たせ」


「遅いですよー」


「ごめん。人混みすごくて、ちょっと遅れた」


「じゃあ、行きましょうか」


僕たちは去年同様にたこ焼きを食べたり、屋台で遊びまわったりした。


だけど、去年とは少しだけ違う空気感で楽しむことができた。


美月が変わったからなのか、それとも僕たちが変わったからなのか。


……きっと、どちらもだろう。


そんなことを考えながら、二人のことを後ろから見守っていた。


こうやって自分から何かに誘うことだって、以前なら考えられなかった。


なぜなら、以前の僕は思い出なんて作る意味はないと思っていたからだ。


だって、それはいつか消えてしまうから。


どうせ消えてしまうのならば、最初から作らない方がマシだ。


本気でそう思っていた。


……でも、今は少し考えが違かった。


確かに、思い出はいつか消えてしまうし、作らなくても生きていくことは出来る。


……じゃあ、どうして人は思い出を作りたがるのだろうか?


つい最近になって、僕はその答えを見つけた。


……それは、“思い出があると心の拠り所があるから”だと思った。


いつか消えてしまうからこそ大切にしたい。


いつか死んでしまうからこそ楽しく生きたい。


有限なものだからこそそれは輝き、意味のあるものになるのではないか?


自分にとって大切なものを作りたい。


あの時は楽しかったって思いたい。


生きてて良かったって実感したい。


それが思い出を作る理由なんだと思った。


僕は、過去のことをずっと忘れたいと願っていた。


でも、今は忘れたくないって思ってる。


何故なら、過去の出来事が今の自分を作っているから。


そして、今の自分が未来を作る。


僕は、自分のやってきたことや生きてきたことに誇りを持ちたかった。


だから、この思い出や気持ちを大切にしたい。


きっと、忘れるも忘れないも自由なんだ。


いつだって選ぶのは自分。


自分の気持ち次第で前向きに強く生きていける。


正反対だった彼女と出会い、僕はそれを教わった。




祭りを十分に堪能した僕たちは、この日一番の目的を果たしに来ていた。


「……神社?」


「ここは、私たちの秘密の場所なんですよ」


「秘密の場所?」


「そうです。こっちに来てください」


そう言って、彼女は“例の場所”に案内していた。


「わ〜、綺麗だね〜!」


人工的な星空が広がる街を見渡し、美月は目を輝かせていた。


「本当はもっと早く連れてきたかったんですけどね。色々と忙しくて、結局今日になっちゃいました」


「僕はちょいちょいここに来てたよ」


「そうだったんですか?全然知りませんでした」


「だって、ここの風景が本当に綺麗だからさ。街並みもよく見えるし、空も広いし」


「秋山君も、この場所の魅力が分かりましたか?」


「僕はとっくに分かってるって」


そんな会話をしていると、突如として大きな音が鼓膜を振動させた。


「始まりましたね」


赤、青、黄、水。


様々な色が夜空を鮮やかに彩った。


この空を見ていると、不覚にも自分の心みたいだなって感じてしまった。


先が見えないような真っ暗な空、そしてそこに灯る一輪の花。


それはまるで、不安で真っ暗な道を進もうとする僕に優しく明かりを照らしてくれるようだった。


そんな頼もしい花火から、僕は勇気をもらえた気がした。




ふと隣を見てみると、少女は静かに涙を流していた。


「みづ、き?」


そう尋ねても彼女は何も言わず、ただただ涙を流し続けるだけだった。


そして、涙が眼鏡についてしまったのか、彼女はそれを外した。


その姿は、紛れもなく“あの時の美月”だった。


「……また、来れてよかった」


「えっ……?」


僕は耳を疑った。


何かに引っ張られるように、彼女のことをもう一度呼んだ。


「……美月?」


「なに?」


今度はしっかりと答えてくれた。


そして、その声はやけにハッキリとしていた。


少女の異変に、紺野さんもすぐに気付いたようだった。


少女はゆっくりと微笑んだ。


「……約束、守ってくれてありがとう」


僕は今度こそ確信を持った。


「君は“誰”なの……?」


少女は一度間を置いてからこう言った。


「……決まってるじゃん。私は“篠原美月”だよ」


「うそ……美月さん、なんですか……?」


「うん」


「でも、どうして……?」


「私にも分からない。……でも、また会えたね」


「美月さんっ!」


紺野さんは脇目も振らずに美月に抱きついていた。


その顔は、既にぐしゃぐしゃになっていた。


「紅葉ちゃん、久し振り。元気だった?」


「私は元気です!本当に会いたかったですっ……!」


一体どういうことなのだろう?


全くと言って理解が追いついていなかった。


僕は、その疑問を素直にぶつけた。


「あのさ、“もう一人の美月”は消えちゃったの……?」


「消えてないよ。……だって、私はこの一年間のこと全部覚えてるから」


まさか。


「私たち、きっと“一つ”になったんだよ」


「でも、表面的に見えるのは“初めて会った頃の美月”に見えるけど……」


「それは私がそういう風に振舞ってるからだよ。もしかしたら、私たちは元々一つだったのかもね」


「美月……」


「とにかく、今は“一人の私”ってことだから!どっちの美月とかはあんまり気にしないでねっ!」


そういう彼女は、とびっきりの笑顔を見せてくれた。


そして、美月は僕の耳元でこう囁いた。


「……後で話したいことがあるんだけど。いいかな……?」


その声は、やけにしおらしかった。


そのせいで、僕はあの日のことを思い出してしまった。


彼女は僕が考えていることを察したのか、大丈夫だよ。と、一言だけ言った。




その後、僕たち三人は花火が終わるまで一緒に過ごした。


紺野さんにも事情を説明したのか、彼女は先に帰ってしまった。


そして、僕たち二人だけが神社に取り残された。


二人きりになった僕たちは、どちらからと言わずにベンチに腰をかけた。


「話って、何?」


「う、うん。ちょっと待ってね……」


美月の様子が変だった。


「……まあ、話したくなったら言ってよ。僕はそれまで待ってるから」


美月はコクリと頷いた。


秒針が丁度一周するかしないかくらいのところで、ようやく彼女は喋り始めた。


「……あのね、今まで本当にありがとう」


その言葉に僕はギョッとした。


何故なら、彼女がこの言葉を使う時は別れる前だったからだ。


「……ちょっと、本当に大丈夫なんだよね……?」


「ごめんごめん!今のはそういう意味じゃなくて。……その、本当にありがとうってこと!」


「それならいいんだけど。……ていうか、そんなこと言うために僕を呼んだの?」


「そんなことって!大事なことでしょ!?」


「まあ、そうかもしれないけど」


彼女はわざとらしく咳払いをしてから話し始めた。


「……さっき、目覚めた理由が分からないって言ったでしょ?」


「うん」


「……でもね、一つだけ心当たりがあるんだ」


そう言うと、しおらしかった彼女は更にもじもじし始めた。


「あのね、その……」


「うん」


「……私、君のことが、好き……」


「……えっ?」


「だからっ!……好きだって、言ったの。充君のこと。……恥ずかしいから何回も言わせないでよ……」


彼女は顔を真っ赤に染めていた。


そんな顔を見られたくなかったのか、いつかのように頰を両手で隠していた。


「……ありがとう」


気付けば、僕は素直にお礼を言っていた。


「でも、それがさっきの話と何の関係があるの?」


「そうだよね、そこを話さないとだったね」


そう言って、彼女は再び話し始めた。


「……“あの子”もね、きっと君のことが好きだったんだよ」


「もしかして、“もう一人の美月”?」


「うん。……まあ、ここからは私の憶測なんだけどね。君への想いが同じだったから、私たちは一つになれたのかな、なんて。……ちょっとロマンチック過ぎるかな。あはは……」


「そうだね。美月らしくない」


「なっ……君はひどいなぁ……」


「でも、そんな美月もいいと思うよ」


「えっ……?」


「僕も、君に色々変えさせられたよ。本当にありがとう」


「充君……」


「本当はずっと言いたかったんだ。……でも照れ臭くて言えなかった。だから、これでおあいこ」


「うん」


そこで会話が途切れた。


しばらくの間沈黙が続いていたが、ふと左手に温もりを感じた。


彼女が僕の手を握っていた。


あの時と違って、しっかりとした強さを感じた。


それに僕は安心した。


「ねぇ、あれ見てよ」


彼女が指差した方向を見ると、そこには満月が浮かんでいた。


その光は、僕が今まで見てきたどんな月よりも明るかった。


それが、僕たちを祝福しているかのように微笑んでいる気がした。


……きっと、僕たちはこの日を一生忘れないだろう。

初めてこうして作品を上げさせてもらいました。



稚拙な部分もたくさんあったかもしれませんが、なんとか書き切ることが出来て良かったと思います。



最後に。



ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!



この物語が少しでも心に残りましたら、作者としては光栄です。



感想などもお待ちしています!

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