真実
物語の余韻に浸り、私はボーッとしていた。
私はいつまでここにいるんだろう……?
ふと、そんな疑問が頭を駆け巡った。
それと同時に、私は突然背後から声をかけられた。
「ついに、全てを知ってしまったのね」
「あなたは……」
声の主は、私の夢によく出てくる女の子だった。
「……感想はどうかしら?」
「後味悪かった……」
「そう……」
私たちの会話は一度途切れる。
そして、私はずっと抱いていた疑問を尋ねた。
「……ねぇ、ここはどこなの?あなたはどこからやって来たの?」
「ここは私の深層心理よ。私は元からここにいるわ」
「えっ……?」
私の理解は全く追いつかなかったが、とりあえず話を合わせておくことにした。
「じ、じゃあさっきの映像は、あなた……?」
彼女は黙ってしまった。
そして、少し間を開けてからこう言った。
「……さあね。どうかしらね?」
「ハッキリしないなぁ」
「まあいいじゃない。それより、あなたこそどうやってここに来たの?」
「えっ?」
突然の質問に、私は驚いてしまった。
聞かれた質問に答えを探そうとするも、一向に見つかる気配はなかった。
「……分からない。全く覚えてないや」
「はぁ……本当に困った人ね、あなたは」
女の子は呆れたようにため息をついた。
でも、その姿はどこか嬉しそうにも見えた。
「あなたは、これからどうするつもりなの?」
「うーん。別にここにいてもいいんだけどさ〜、なんかそれじゃいけない気がするんだよね」
「……どうして?」
「私、何か大事なことをしようとしてた気がするから」
「……じゃあ、元の場所に戻らないとダメね」
「うん。どうやったら戻れるか分かる?」
「そこまでは私にも分からない。だけど、一つだけ言えることがあるわ」
「なになに?」
「さっきも言ったけど、ここは深層心理なのよ。普通ならこんな所に来れるはずないわ」
「つまり、どういうこと?」
「今のあなたの身体は、普通の状態じゃないんじゃないしら」
「……余計に意味分からないんだけど」
「例えば気絶してるとか、夢を見てるとか」
「そんな自覚全然ないけどなぁ」
「少なくとも、あなたの意識が覚醒してないことは確かだと思う」
「そっかぁ……じゃあ、誰かが起こしてくれるのを待つしかないのかなぁ?」
「そんな楽観的でいいの?」
「えっ?」
「さっきも言ったけど、今のあなたは異常な状態なのよ?それでなんとかなるとは思えない」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「……自力で目覚めるしかないわね」
「それが出来れば今頃こんな所にいないよー」
「それもそうだったわね」
そこで再び会話が途切れてしまった。
ふと、私はあることに気が付いた。
「ここはさ、“あなたの”深層心理なんだよね?」
「ええ、そうよ」
「私はどうして他人の深層心理にいるの?」
「……さぁね」
「……もしかして、何か知ってるんでしょ?いつも何か知ってそうな感じだもんね」
「私は知らない」
そう言うと、女の子は突然逃げ出した。
「あっ、ちょっと待ってよ!なんで逃げるの!?」
今日こそは捕まえてやる、そう意気込んで背中を追いかけた。
しばらくの間走り続けていたが、いつも通り追い付くことが出来なかった。
まるで何かの壁に阻まれてるようだった。
どうしても一線を超えることが出来ない。
もう少しで追いつけそうなのに……
ただ、いつもと違うことが一つだけあった。
それは、私が目覚めないということだった。
いつもなら追いつけないところで目が覚めるのだが、今回に限っては全くその気配がなかった。
……これは、あの子を捕まえろということだろうか?
そう思い、もう一度走り始めた。
しかし、結果は変わらなかった。
だが、不思議なことに女の子は、私から一定以上は離れようとしなかった。
まるで、私が追い付いて来るのを待ってるかのようだった。
「絶対追い付いてやる!」
自分に喝を入れ、再び走り始めた。
……そして、私はついに女の子に辿り着くことができた。
「……やっと追い付いた。もう逃げないでよ?」
彼女は何も言わなかった。
「……どうしていつも私から逃げるの?理由があるなら教えてよ」
「……あなたを守るためよ」
「えっ……?」
「私は、あなたを守らきゃいけない!……もうこれ以上大切な人を失いたくない……」
「やっぱり、さっきの物語はあなたのお話だったんだね……?」
「……うん」
「そっか。……辛かったね」
私がそう言うと、彼女はいつか見たように泣き出してしまった。
今になってようやく泣いてた理由が分かった。
「でも、私を守るってどういうこと?」
「……それは、言えない」
「ここまで来たら教えてくれてもいいじゃん」
「ダメだよ……それだけは言えない」
「困ったなぁ…」
そこでまた会話が途切れる。
一体これで何度目だろうか?
そして、それを打ち破ったのはまたしても私だった。
「……ねぇ、私とあなたってどういう関係なの?私はあなたのこと知らないけど、あなたは私のこと知ってるよね?もしかしてどこかで会ったことあった?」
「会ったことはないよ」
「……じゃあ、どうして私のこと知ってるの?」
「……」
「それも言えないってこと?」
「……うん」
「分かった」
そこでまた沈黙しそうになったが、珍しく彼女から私に話しをかけてきた。
「……あのさ」
「どうしたの?」
「あのお話、どうだった?」
「またその話?」
「いいから、答えてよ……」
そこで、私はあの凄惨な物語を思い返した。
少し思い出すだけで心がズタズタにされてしまうような、そんな物語だった。
……そして、私は自分の感じたことを素直に伝えた。
「お話自体は本当に辛かった。……でも、あなたはとても頑張ってたと思う。それに、とても強かった」
「強かった……?」
「うん。……結果的には何も救えなかったかもしれない。でも、あなたは最後まで諦めなかった。あんな逆境に立たされても、必死で生きようとしてた。……それがすごく強いなって思ったよ」
「ありがとう……」
「あなたは本当に頑張ったよ。だから、これからは自分のことをもっと大切にしてあげて」
「うん」
そう言って、彼女は笑ったような気がした。
「私は、自分を許してもいいの……?」
「いいに決まってるじゃん」
「人を殺したのに……?」
「それだって、本当はあなたのせいじゃない。むしろ、あなたがいてくれたからあそこまで生きられた。彼女もそう思ってくれてると思うよ?」
「そう、なのかなぁ……?」
「私はそう思うよ」
そして、最後に彼女は私にこう尋ねた。
「……私は、生きてててもいいのかな?」
「当たり前だよ。自分に誇りを持っていいんだよ」
「……そっか、良かった……」
そう言った瞬間、彼女の顔から靄が晴れた。
……そして、私は初めて女の子の顔を見た。
「えっ……あなたは……」
そっか。
そういうことだったんだ。
どうして今まで気付かなかったんだろう。
……あの物語の主人公は……“篠原美月”。
つまり、私自身だったのだ。




