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新しい君と  作者: たく
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父の面影

「秋山、篠原の様子はどうだ?何か変わったことはあったか?」


「いえ、特には」


電話の相手は先生だ。


どうしてこうなったか説明するには、少々時間を遡る必要がある。


あれは、作戦決行した直後の話だった。




ーー


『秋山、明日から夏休みだな』


『はい、そうですね』


『お前に頼みたいことがある、大丈夫か?』


『内容によりますけど、何ですか?』


『引き続き、篠原の様子を見て欲しいんだ』


『それはもちろんそのつもりですけど。それがどうかしたんですか?』


『夏休みの間、俺はお前たちの様子を確認することができない。部活があるからな』


『確かに、夏休みの間まで目を光らせておくのは難しいですよね』


『そうだ。そこでだ、一週間ごとに俺に篠原のことを報告してもらってもいいか?これはお前にしか頼めないことだ』


『どうして僕なんですか……?紺野さんの方が一緒にいることが多いですし、今となっては彼女の方が美月とは仲良いですよ。それに、あの二人は同性だし彼女の変化に気付くことも多いと思いますけど』


『お前より紺野の方が適任なのは分かってる。ただ問題があるだろう?それが分からないお前ではないはずだ』


『……』


僕が頭にハテナマークを浮かべていると、先生は呆れたようにこう言った。


『……お前が言ってる通り、性別の問題だよ』


『性別?』


『そうだ。俺は男で紺野は女の子だ。これが意味することが分かるだろう?』


『……そういうことですか』


そこまで言われ、先生が何を言いたいかようやく理解できた。


つまり、いい歳した大人が未成年の女の子に電話をするということは、色々とまずいということだろう。


同性ならまだしも、相手は異性だ。


しかも、教師と生徒という関係性もある。


そんな二人が電話をしてるところを誰かに見られたら……ということは想像に難くない。


確かに、紺野さんのためにも先生のためにもそれは避けるべきだろう。


こういうのは本人間の問題ではなく、他人がどう思うかが重要なのだ。


自分たちの中ではただの業務連絡のつもりでも、周りから見れば怪しいことをしてると疑いをかけられかねない。


一度そういった噂が浮上すると、それに尾ひれが付いてあることないことが勝手に広まってしまう。そこまでいったら後の祭りで、もう誰にも止められない。


そうなってからでは手遅れなのだ。


危険要素は無くすに越したことはない。


そこに関しては僕も同感だった。


『分かりました。美月の様子は僕が報告させてもらいます』


『ありがとう。助かるぞ!』


『でも、そこまでする必要性あるんですか?夏休みの間くらい様子を見てなくても問題はないはずですよね?お母さんの目もありますし』


『それはそうかもしれないが、大事な生徒のことだからな。しっかりと把握しておきたいんだ。……それに、お前たちに協力すると言ったからな。男に二言はない』


『先生……』


何て熱い先生なんだろう。


素直にそう思った。


今時、ここまで生徒のことを自分のことのように思える教師がいるだろうか?


少なくとも、僕は今までにそういった人と会ったことがなかった。


『これが俺の電話番号だ。電話するのは好きな時で構わないが、一応日時は決めておくか。その方がお互い都合がつくだろうしな』


『先生はいつが休みですか?』


『正直、休みといえる休みはほとんどないからどこでもいいぞ。秋山は何曜日がいい?』


『そうですね……金曜日の夜とかでどうですか?』


『分かった。その日は出来るだけ電話に出られる状態にしておく。……それじゃあ、後は頼んだぞ。良い夏休みを過ごせよ』


『はい』


ーー




というわけだ。


そして、今日がその定期報告の日なのだ。


「篠原の様子に変化はないと、了解だ。その他に秋山自身が気になってることはあるか?この際篠原のことじゃなくてもいい。何か話したいことがあれば聞くぞ?」


「先生は本当に懐が深いですね」


「そうか?自分ではよく分からないけどな」


確かにそういうものかもしれない。


いくら仕事とは言え、ここまでするだろうか?


少なくとも、自分にはとても真似できないと思った。


それを考えると、この人は本当に“教師”いう仕事が大好きなんだろうな、と思った。


「……あの、先生は美月のことについてどうお考えですか?」


「うーん、そうだなぁ……正直、分からないことだらけだ。俺もあれから本を読んだりネットで調べたりしてみたんだけどな。やっぱり不可解なことが多い」


「やっぱり、先生もそう思いますか」


「……もしかすると、記憶喪失とは何か別の要素があるのかもしれないな」


「……別の要素、ですか?」


「そうだ。例えば、自分が記憶喪失だと思い込んでるだけとか。本当は記憶喪失ではないとか」


「……まさか。そんなことあるんですか?」


「あくまで仮定の話だ。結局は想像の域を出ないし、真相は篠原にしか分からないだろう」


「思い込んでるのはありだとしても、記憶喪失じゃないというのはちょっと違うんじゃないですか?」


「それは、何か根拠があるのか?」


「まあ、信じてる……と言えばそれまでですけど。美月がそんなことをしても何のメリットも無いと思います」


「それは確かにその通りだな」


「それに、僕たちと接してる時の美月は本当に辛そうな時があって、それを見るにとても演技してるようには見えません」


「ふむ」


「何か別の要因があるとしても、記憶が無いのは恐らく事実だと思います」


「そうだな」


先生は、いつも通り最後まで話を聞いてくれた。


「とりあえず、今の段階ではまだ分からないことだらけだな。……あいつが転校してくる前に住んでた所にはいつ頃行くつもりだ?」


「予定では八月の中旬から下旬あたりです」


「そうか、分かった。その時に何か分かったらまたよろしく頼む」


「分かりました」


「それじゃあ、ゆっくり休めよ。宿題もちゃんと進めるんだぞ」


最後にそう言って先生は電話を切ろうとしたが、僕は思わずそれを引き留めてしまっていた。


「あのっ!」


「ん、どうした?」


「花火大会、教えてくれてありがとうございました。……お陰様で、すごく楽しめました」


そう言うと、先生は電話越しにクスクスと笑っていた。


「……そっか。それなら良かったよ。お前は何て言うか、人と接したりするのが苦手なんだろうなって思ってたから心配してたんだが、そんな風に楽しめるなら大丈夫だな」


先生の話し声は、まるで子供を心配する父親のようだった。


そんなことを考えてしまい、不意に涙が溢れ出しそうになる。


「……ちゃんと学生生活を楽しむんだぞ。後で振り返った時に分かるけど、学生の時間は本当に特別だからな。……大切に過ごすんだぞ」


最後にそう言って、今度こそ電話を切った。


……とても優しい話し方だった。


僕は、先生との会話で感傷的になってしまい、部屋で一人泣き崩れてしまった。


泣いてる内に眠ってしまったようで、気付いたら外はすっかり明るくなっていた。


寝てる時に父さんの夢を見てたような、そんな気がした。

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