夢の子
『考えは変わったかしら?』
『変わってないよ。それより、あなたは何者なの?』
『まあ、私のことはいいじゃない』
『よくないよ。夢の中に何度も出てきて、気になるに決まってるじゃん』
『私のことはいずれ知ると思うわ。それより、後悔しても知らないからね。私は何度も忠告したわよ』
『うん……』
この子は本当に何者なのだろう……?
それに、最近のこの子の様子は今までと違う気がする。
最初に会った時はもう少し冷たい印象というか、何となく接しづらい雰囲気だった。
でも、今は私を労ってるような、まるでこの先どうなるのかを知ってるかのような態度をとる。
『じゃあ、私はもう少し眠らせてもらうわ。精々後悔しないように生きるのね、私のようにならないように……』
『ちょっと待ってよ!』
いつものように私から離れていく。
そして、そこで夢から覚めるのだ。
「いつまでこんな夢見るのかなぁ……」
記憶を取り戻せば、こんな夢を見ることはなくなるのだろうか?
ただ一つだけ分かったのは、夢に出てくるあの子は私を知ってるということだ。
そして、あの子は私が記憶を取り戻すことを止めようとしている。
と思ってたけど、少し違う。
“出来れば”記憶を取り戻さない方がいいと思っている。
という方が正しいのかもしれない。
「おはよう。お母さん!」
「おはよう〜。今日は何だかいつもより元気ねぇ」
「昨日の遠足楽しかったからね!まだ余韻が抜けないよ〜」
「それは良かったわ。お友達も出来たんでしょう?先生から聞いたわよ」
やっぱり、充君の言ってた通りお母さんと先生は定期的に情報交換してるんだ。
「うん。初めての友達だよ!」
「……ちゃんと大切にするのよ」
そう言って、お母さんは優しく微笑んだ。
何だろう、すごく想いの込もった笑顔だった気がする。
そんな笑顔につられて、私は昨日の出来事をたくさん話してしまった。
紅葉ちゃんが気遣いも出来て優しい人だってこと、バドミントンをやるとスイッチが入ってしまうこと。
などなど、ありとあらゆることを話した。
お母さんは、それを黙って聞き続けてくれた。
……そして、その勢いで“あの夢”について聞いてみた。
「あのね、ここ最近不思議な夢を見るんだ。知らない子が出てきて、私に後悔しても知らないぞー!って言ってくるの」
「後悔?」
「記憶のことだよ〜。記憶を取り戻すと誰かが不幸になるかもしれないぞ〜とか、後悔するかもしれないぞ〜って」
私は、あくまで明るい雰囲気で話した。
この話で空気が重くなるのは避けたかった。
「そう……」
だが、そんな私の努力も虚しく、空気は一瞬にして重くなってしまった。
「お母さん、そんな顔しないで。私は大丈夫だから」
「そうね、美月は美月よね」
その言葉に何となく違和感があったが、そこまで気にすることではないと思いスルーしてしまった。
「……お母さんはさ、私に何があったか全部知ってるんだよね?」
「それは……」
「あー、大丈夫大丈夫!詳しくは聞かないから!ただ、知ってるのか知らないのかだけ教えて欲しいな」
それを知ってるかどうかで、お母さんに対する見方が変わる。
知ってて隠してるのか、本当は知らないことがあるのか。
それは、とても重要なことだった。
「知ってるわ。でも話せないの、ごめんなさい」
「いいっていいって。……何か事情があるんでしょ?」
そう聞くと、お母さんは軽く頷いた。
室内はまるで深海のように、重く、暗い世界へと変わり果てていた。
「……ごめんね。朝から色々話しちゃって」
「違うの!……美月は何も悪くないのよ、あなたは何も悪くない!……ね?」
「……う、うん。ありがとう」
お母さんのあまりの勢いに、私はつい動揺してしまった。
何が何だか分からなかった。
自分のことも、お母さんの私に対する態度も、何もかも。
私は、そんな恐怖心から逃げるように家を出て行った。




