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新しい君と  作者: たく
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転校生

記憶を無くした少女と出会った翌日、新学期が始まった。


今日から高校二年生だ。


とうとう今後の進路に頭を抱えるような時期なってしまった。


仕事を始める人、進学する人、夢を追う人、様々な人がいるだろう。


僕は、どうなんだろう。


ありきたりな進路に進む自分を想像したが、どうもしっくりこなかった。


何となく憂鬱な気分になってきたので、これ以上考えるのはやめた。


面倒なことを頭から放り出した僕は、重要なことを思い出した。


彼女は『私と一緒に居てくれれば良い』と言っていた。


けど、そもそもどうやって毎日会うつもりなんだろう?


僕たちはお互いに住んでいる所を知っているわけじゃないし、ましてや昨日たまたま会っただけだ。


まあ、またお墓に行けば会えるか。


学校終わったら行ってみよう。


そんな風に考えていた。


……と、その時。


新しい担任の先生が教室に入ってきた。


まだ始業までは時間があるはず、何かあったのかな?


そう思ったと同時に、先生が僕の心を読んだかのようにこう告げた。


「今日は転校生がいる、それじゃ入ってくれ」


先生は廊下に向かって話しかけた。


転校生は教室に入るのを躊躇っていたのか、三秒ほどしてから教室に入ってきた。


「あの子は昨日の……?」


見覚えのあるその姿に、ついぼやいてしまった。


「初めまして、篠原美月といいます。引っ越してきたばかりでこちらのことはあまり分からないですが、少しずつ慣れていこうと思いますので、よろしくお願いします」


自己紹介している姿を見て、昨日会った時とはまた違う雰囲気だなと感じた。


「よし、じゅあ一番後ろの右から二番目の空いてる席、あそこに座ってくれ」


それって、僕の隣の席じゃないか。


誰も来ないと思っていたが、そういうことだったのか。


クラスが変わったばかりで、誰がどの席かなんて全く気にしていなかった。


それに僕は彼女の名前を知らなかったので、気が付くことができなかった。


単に知らないのか、転校生だから知らないのか、傍から見ればそんなことは区別がつかないのだ。


気が付くとすれば、どちらも知っている人しかいないだろう。


「分かりました」


そう言って彼女はゆっくりとこちらに向かってきた。


そして僕たちは、この日初めて視線を交わした。


彼女は驚いていたが、ひとまず席に座った。


「君、ここの高校だったんだね」


ささやき声で彼女は言った。


「そうだよ。まさか君がここに転校してくるとは思わなかった」


「私も君がここにいるとは思わなかったよ~。昨日あんな風に言ったけど、どうやって君に会うか困ってたんだよ」


全く同じことを考えていたんだと知って、少し親近感が湧いた。


まあ、僕は会えなくても困ることは無いけど、彼女からしたら困ることだろう。


それに、一度手伝うと言ったのにすっぽかすのは僕も良い気はしなかった。


なので、彼女が転校して来てくれて本当に幸運だった。




それからしばらくして、放課後になった。


新学期初日なんて、終わるのはすぐだ。


この後どうするか悩んでいた矢先に、彼女は僕に話しかけてきた。


「ねえねえ、早速この後付き合ってよ」


「……別にいいけど。転校初日くらい友達作ったり、学校見学しなくていいの?」


「そういう君は友達いるようには見えないけど……」


「まあ、そうかもね」


会って間もないのに、ズバズバ言ってくる子だな。


心の中で一人悪態をついた。


「とは言え、別に予定があるわけじゃないんだ。だから、学校見学とかでも大丈夫だよ!」


「僕が案内する前提なの?」


「他に誰がいるの?」


昨日と全く同じ台詞を言われてしまった。


周りには誰もいなかった。


軽くため息をついたが、彼女は当然案内してくれるものだと信じ切っている。


ここは彼女の期待を裏切らないようにしとこう。


そう思った。


「分かったよ、じゃあ案内するから」


その後、学校を適当に案内していたが、彼女はこちらの話を聞いているんだか聞いていないんだか、よく分からない感じだった。


そしてついには飽きたのか、彼女はもう帰ろうと提案してきた。


一体何のために学校案内をしてきたのか疑問だったが、切り上げることにした。




彼女と別れて帰路についた。


しかし、少しして再び彼女と出会うことになった。


どうやら帰り道が同じ方向らしい。


別の道から帰ろうか悩んだが、特にそうする理由もないので結局一緒に帰ることにした。


他愛もない話をしながら歩いていたが、彼女は思い出したようにこう言った。


「私の名前は篠原美月」


突然のことに理解が追い付かなかった。


「それは知ってるけど?」


「そうじゃなくて!君の名前は?」


そこまで言われて、ようやく意味が分かった。


確かに自己紹介してなかった。


「秋山充」


「充君ね、私の事は美月って呼んでね」


「どうして呼び方指定するの?」


「私、自分の名前気に入ってるんだ。だから名前で呼んで欲しい、ただそれだけだよ」


自分の名前が好き、か。


自分の名前を誇れる。そんな彼女が少し羨ましいと思った。


「私は充君って呼ばせてもらうね」


「分かったよ、美月さん」


「さんはいらない、呼び捨てでいいよ」


「じゃあ美月」


「はい!」


初めて名前で呼んで違和感があったが、あまり気にしないことにした。


彼女は嬉しそうにしていたので、それで良かったってことにしておこう。


丁度良い流れだったので、僕は思い切って今日一日ずっと気になっていたことを聞いた。


「あのさ、一つ聞いていいかな?」


「なに?」


「自己紹介の時、記憶喪失のこと何も話してなかったけど、周りにはどう伝えるつもりなの?……まあ自己紹介で大々的に言うようなことでもないと思うけどさ。」


「周りの人には言わないよ」


「どうして、それって大切なことじゃないの?」


「確かに大切だけど、それは私が転校してなかったらの話だよね?ここには私の記憶をなくす前の私を知ってる人は誰もいない。つまりそれを話しても話さなくても結果は変わらない。周囲から見たら私が記憶があってもなくても私を見る目は変わらないから」


「それを言ったら僕にだって話す必要なかったじゃないか、それに、その理屈じゃ記憶を無くしてるかどうか僕には判断できないよね?」


「君は痛いところを突いてくるな~」


彼女は自分の髪をクルクル触りながら苦笑いを浮かべていた。


しかし、気を取り直してこう言った。


「記憶がないっていうのは本当なの、それは信じてほしい。そして私はその記憶を取り戻したい。でも一人じゃできることに限界があるから、君の助けが欲しいの」


そう言われて、僕はあることを思い出した。


「お母さんはいるんだよね?それならお母さんに聞くのが一番早いんじゃないの?」


どうしてこんな初歩的なことを思いつかなかったのだろう。


昨日お墓参りに行った時に、彼女は『お父さんのお参り』って言っていた。


それならばお母さんは生きているはずだ。


「お母さんは何も教えてくれないから……」


「……」


僕は何も言えなかった。


どうして教えてくれないのだろう?


美月に何かを隠しているのか、それとも思い出して欲しくない何かがあるのか。


思いつくのはこれくらいだったが、どちらにしても今の僕が分かることではなかった。


僕が黙っていたので、彼女は空気を読んでくれたのかそのまま話を続けてくれた。


「お母さんが記憶のことを話してくれないなら、自分で手掛かりを見つけるしかないでしょ?」


「確かにその通りだね。ごめん、あんまり深く考えずに首を突っ込み過ぎちゃった……」


「いいよ、話してなかった私も悪いし。それに、充君は私の記憶を取り戻すの手伝ってくれるんでしょ?」


「そこまで知ったら断るとは言えないかな」


「ありがとう」


「それで、何か手掛かりはあるの?」


「いやー、それがあんまりないんだよねー。あはは……」


「引っ越す前のことは?」


「それは私も思ってるんだけど、実はその時のことあんまり覚えてなくて」


「どういうこと?」


「記憶が無くなる前に何があったのか分からないんだけど、病院で起きたら記憶が無くなってたんだ。自分の名前も何も覚えてなくて、最初にお母さんが病室に入って来た時も、この人誰だろうって感じだった」


僕は黙って話を聞き続けた。


「私のリアクションを見てお母さんは酷く悲しんだよ、でもなんでだろう、すごく安心してるようにも見えた」


安心?自分の娘が記憶を無くして安心することってなんだ?


僕はますます訳が分からなくなっていた。


「それで、お母さんに名前を教えてもらって『私』のことについて色々な事を聞いた。それでやっぱり自分は記憶がないんだって自覚したよ。本当に何も覚えてなかったんだ……それからすぐに退院したんだけど、お母さんが急に引っ越すって言いだしたからそのままこっちに来たって感じ。だから、向こうに住んでいた時のことは覚えてないんだ」


「つまり記憶が無くなった上にすぐにこっちに来たから、元々どこに住んでたか分からないってこと?」


「そういうこと。前に住んでたところについても何も教えてくれないしね、困ったよー」


何となく事情は分かった。


理由は分からないが、美月のお母さんが何かを知ってるのは間違いなさそうだ。


「じゃあひとまず、元々住んでたところについて情報を集めよう」


「私もそれがいいと思う」


「中学の卒業アルバムとかは?」


「それも無かった。場所が特定できそうなものとか、記憶が無くなる前に関する物は全部捨てられちゃったんだと思う」


うーん、参った。


自分の考えはどうやら甘かったみたいだ。


何か手掛かりに繋がるものはないか悩んでいたが、そこで辺りが暗くなっていることにようやく気付いた。


午前中に学校が終わったことを考えると、かなり長い時間話していたことになる。


話しに夢中になってしまい、全く気付かなかった。


「もう、だいぶ暗くなってきたから、今日はこの辺にしとこう」


「本当だ、全く気付かなかった!」


どうやら彼女も同じだったようだ。


「じゃあ、また明日」


「うん、また明日。改めてよろしくね、充君!」


彼女は満面の笑みを浮かべてそう言った。




彼女の記憶を戻させるべきか僕には分からないけど、彼女がそれを望むのならば手伝おうと思う。


僕は相変わらず過去に縛られていて、そんな過去は忘れたいと思っている。


だけど、彼女は違う。


過去がどんなものなのか分からないのに、必死に思い出そうとしている。


いや分からないからこそ知りたいのだろう。


彼女は僕と正反対だ。


でもだからこそ、彼女に興味があった。


そんな彼女と接することで、僕も考え方が変わるかもしれない。


今後どうなるかは分からない。


けれど、彼女が記憶を取り戻し、僕も前に進めるきっかけになるのであればそれだけでいいのではないか?


少なくとも、今はそう思った。


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