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新しい君と  作者: たく
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友達

湖にたどり着いた僕たちは、シートの上に座り、まるで家にいるかのように落ち着いていた。


「あ〜ここ気持ちいい〜……もう動きたくない〜」


「美月さん寝ちゃダメですよ!寝たら帰ってこられなくなりますよ!」


紺野さんは、日向に当たって気持ち良さそうに伸びている美月に声をかけ続けている。


「秋山君もちゃんと言ってください!」


「紺野さん」


「はい?何ですか?」


「なんかすごく楽しそうだね」


僕の言葉があまりにも予想外だったのか、紺野さんは少しの間戸惑っていた。


しかし、誇らしげに彼女はこう言った。


「……ええ。そうですね、この日を楽しみにしてましたから」


大人っぽく見えて、意外と年相応な所もあるんだなと思った。


だが、それは胸の内に秘めておいた。


「美月、そろそろ起きてよ。ご飯食べないの?」


「食べる食べるー!」


寝ころんでいた美月は、たったその一言で目を輝かせながら飛び起きた。


そのあまりにも単純な様子は、まるで犬みたいだった。




「すごいね……これ人並みってレベルじゃないんじゃないの?」


「そ、そうですか?」


「すごいよ!紅葉ちゃんこんなに料理できたの!?」


僕たちの目の前には、想像を遥かに超えるレベルの品物が用意されていた。


とは言っても、サンドイッチやおにぎり、唐揚げ、卵焼きなど庶民的な物ばかりだ。


ただ、とにかくレパートリーが豊富だった。


これを作るのに一体どれだけ時間をかけたんだろう。と、余計なことを考えてしまった。


お弁当の様子からも、紺野さんが如何に遠足を楽しみにしていたのかが伝わってきた。


「お二人とも、食べてみてください。感想を聞きたいです」


「 「いただきます」」


僕たちは、二人合わせて弁当に手を伸ばした。


とりあえず、無難にサンドイッチを食べてみた。


「美味しい……!」


気付けば素直に感想を伝えていた。


「ほんとですか?お口にあったようで良かったです。美月さんはどうですか?」


「私もこの味好きだな〜。なんか優しい味がする。……これは愛の味だね!」


美月はまた調子の良いことを言っていた。


……でも、昔母さんも似たようなことを言っていた。


それを不意に思い出した。


母さんは、料理が美味しくなる秘訣は何よりも『愛』だって言ってた。


どんな技術よりも大切なのは、食材や食べてくれる人に感謝すること。


そして、その気持ちを料理に込めて作ることが美味しいご飯に繋がる。


母さんはよくそう言っていた。


……紺野さんの弁当からも、そんな味がする気がした。


「なんか照れますね……」


「本当に美味しいよ、作ってきてくれてありがとうね!」


「どういたしましてです」




弁当を食べ終わった僕たちは、昼休みと言わんばかりにゆったりと過ごしていた。


「ご飯食べたら眠くなってきたちゃったよー……」


「美月、目的を忘れてない?」


眠そうにしている美月に喝を入れると、彼女の表情は真剣なものに変わった。


「……そうだったね。話すには丁度良いタイミングかな」


僕たちの雰囲気を感じ取ったのか、紺野さんも話を聞く姿勢になった。


「あのね紅葉ちゃん。今日はね、私から話しておきたいことがあるんだ。聞いてもらっても良いかな?」


「……はい。大丈夫ですよ」


紺野さんも少し緊張してる様子だった。


僕は、二人の様子を見守ることにした。


どうやって話を切り出すか悩んでいたが、やがて決心したように言葉を紡ぎ始めた。


「私ね、実は記憶が無いんだ」


「……それは、記憶喪失って事ですか?」


「うん、そういうことになるかな。ずっと隠しててごめんね」


「私は大丈夫ですよ。なかなか話せることじゃ無いと思いますから」


紺野さんはとにかく優しかった。


こちらが話を全て受け入れてくれるような、そんな懐の深さが彼女にはあった。


「それでね、この話は周りの人には言わないでほしいの」


「分かってますよ。そんな大切なこと話したりしないですから、心配しないでください」


「ありがとう。私はね、失ってしまった記憶を取り戻したいんだ。そして、そのために充君に手伝いをしてもらってるの」


ついに、外野から見守っていた僕の話題が持ち出された。


そこで紺野さんは合点がついたような反応をした。


「なるほど。それでお二人は一緒にいることが多かったんですね?」


「そうだね」


僕はありのままの回答をした。


「それでその……こんな記憶が無い私のことが嫌だったら、今後は距離を置いても大丈夫だからね……?」


……その言い方はちょっとまずいだろう。


美月はたまに、変な気の使い方をすることがある。


そして、それが今回も発動していた。


フォローを入れようとしたが、既に紺野さんが話し始めていた。


「そんな風に言わないでください。記憶が無くても、美月さんは美月さんじゃないですか。別人なわけじゃないんですから、そんなこと私は気にしないですよ!」


怒涛の勢いで畳み掛けられていた。


「ご、ごめん」


「謝らないでください」


「はい……」


いつもと構図が逆になっていた。


美月がこうして誰かに尻に敷かれてるのを初めて見た気がする。


「確認ですけど、美月さんは記憶を取り戻したいんですよね?」


「うん」


「分かりました。それなら私も手伝います。いえ、手伝わせて欲しいです」


その言葉に、美月は複雑そうな表情を浮かべていた。


「……いいの?」


「いいに決まってるじゃないですか。友達が困ってるのに放っておけないですよ」


「……私のこと、友達だと思ってくれてたんだね」


「あ、いえ!すみません……私ったら調子に乗ったことを……」


そこで紺野さんは、いつもの様子に戻った。


「気にしてないよ。それにありがとう……『私』にとって初めての友達……だね」


美月は、その言葉の響きにうっとりとしていた。


確か、初めて会った時にも友達が云々って言ってた。


美月に取っては、『友達』の存在がよほど大切だったのかもしれない。


その後、二人はあーでもないこーでもないと雑談を繰り広げていた。


芽生え始めていた友情を確認しあった二人は、とても幸せそうにしていた。

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