第七歩 1人目の奴隷
「いや、そんな助けを求めるような目で見られても被害者はあっちでしょ」
「まあ、そうですね」
「まさか矢がなくても撃てる弓だとは思ってもみなかったな」
「目標にしてた木のど真ん中に当たっているので命中補正もあるかもしれませんね」
ふーん、とレンが投げナイフを手に持って進行方向の木を凝視して念じるとナイフが消えて木に刺さる。
「物体転位ですか?」
「やっぱりそうなるか。この腕輪、触れている物を視界の範囲内に転移させることが出来る道具らしいな」
「それは便利ですね」
「自分が持っている武器が突然消えたりするかもしれないけどな」
「あっ」
どんな道具でもメリットとデメリットがあるものだ。
そんなものは使っていくうちに何とかするとして気にしないでいく。
「このままいくと8時間ぐらいで着きそうですね。」
「そうだな。着いたら起こしてあげるから寝といていいぞ。どうせ昨日もゲームばかりしてて寝てないんだろ?」
「うっ、そうですね。大人しく寝ています」
そしてアオイが寝付いてから数時間で目的地に着く。
「アオイ、着いたぞ」
隣で、レンの肩に頭を預けながら眠るアオイの肩を揺らして起こす。
「ん、くぅ、レンくん?」
「ああ、そうだぞ。イクラの街に着いたんだ」
「んん、レンくんが起こしに来るなんて珍しいですね。何かあるんですか?」
と、未だに寝ぼけていらっしゃる天使様。
「はぁ、ほら早く記憶を見直して」
「えっと」
と、アオイが頭に手をやり考え込む。
「ああ、見つけました。ここで食料やらなんやらを多めに買って行くんですよね」
「それと奴隷かな? この世界のことをある程度知っている案内役が欲しいんだよなぁ。それに2人というのは大変すぎる」
「それ私もついていくんですか?」
ちょっと不安げな元パシリ。
「そうだな。1人で行動するのはちょっと危険だし一緒に来てもらおうかな」
「昔から苦手なんですよ」
「知ってるよ。幼馴染みだし」
馬車を近くの宿屋に預け、宿屋の主人に聞いた奴隷商人の元に向かう。
「いらっしゃいませ。今日はどのような奴隷をお探しですか? 戦闘用から日常用、愛玩用まで数多く取り揃えております」
迎えてくれたのはある程度身なりの整った男だ。
「そうだな。オススメはあるのか?」
「そうですね。戦闘用の鬼人族。これは2年前の村狩りで取られたものです。それと、魔法が使えるのでしたら月光族の娘がおります」
「月光族というのは聞いたことがないな」
「それは希少な種族ですから! 魔法の触媒としても使えて、さらにその体は武器の材料として最高級!」
声を大きくして興奮状態で語る。
それは月光族が希少だということの証明のようにも見えた。
「(触媒というと大きな魔法陣の真ん中に置くヤツですね)」
「(となると通常では使えないような大きな魔法の時か)」
商人に聞こえないレベルの大きさでアオイがレンに情報を伝える。
「そして死への覚悟も持っており、何時でも死ぬ準備が整っております! 儀式への抵抗もありません。これ程生贄としてふさわしい物はないでしょう」
その商人の一言を聞いてレンの目が変わる。
「そいつを見せてもらってもいいか?」
「もちろんですとも」
商人が部下らしき男に指示を出して1人の女性を連れてくる。
その女性はアオイと同じくらいの年齢で、髪、目は紫で肌は褐色のダークエルフだった。
「どうでしょう。月光族の中でもとびきり上物の娘です」
その娘の目を見てレンが即決で決める。
「幾らだ?」
「金貨で30枚」
「よし、買った」
「ありがとうございます」
その傍で奴隷の首輪の使い方も教えてもらい、名付けを行い、その子とともに出る。
「レンくんが即決で買うなんて珍しいですね。タイプだったんですか?」
「いや、全然違う。でも目が良い目をしていた」
「死を覚悟しているとか言ってましたね」
「それは違うな」
アオイの言葉の微妙な違いを訂正する。
「あれは死を覚悟しているんじゃなくて死を受け入れているんだよ」
「何か違うんですか?」
「生きようとしているかどうか」
後ろを歩いている少女の顔を見る。