第六歩 初の戦闘描写─後編
「もう眠れ」
レンが馬乗りになり、マインを押さえつける。
そして刀をマインの首に当て、引く。
それだけでその細い首はコロンと落ちる。
血が吹き出し、地面に血溜まりを作るが、すぐに染み込んで消えていくだろう。
血を払い、できるだけ自分の服を元の状態に戻して死体に火をつける。
燃えるマイン。しかしそれに目を向けたのは一瞬ですぐにアオイの元に向かう。
「怖くなかったか?」
「はい、ちょっと驚きましたけど大丈夫です」
レンに布を外して貰い、周りを見回す。
そしてまだ燃えている肉塊を見つける。
「殺しちゃったんですか?」
「ああ、その後焼いたから原型は残ってないけどな」
人の姿をしたモノが切り裂かれる瞬間というものはトラウマになりやすく。それを見せないためにアオイの視界を塞いだ。
焼いてしまえばただの気持ち悪い肉塊である。
ただそれでも可哀想という気持ちは残る。
「殺さない選択肢は」
「復讐の鬼っていうのは窓ガラスを割ってまわる悪ガキみたいなものだ。自分の気持ちを晴らすために者を壊す。そいつを生かしつつ壊されないようにするには、壊したくないほど大切な者になるか、壊せないほど頑丈になるかのどちらかだ」
「どちらも無理なんですね」
「危険すぎる。いつ爆発するかも分からない爆弾を抱えながら生きる気にはならないよ」
アオイとともに立ち上がり、そのままの足でナイフの刺さった場所に向かう。
そして刺さっていたナイフを抜いてその刃を確認する。
「そのナイフがどうかしたんですか?」
「いや、これ随分と深く刺さっていただろ?」
ナイフの刃を指で撫でる。
「切れ味がよかったり、細かったらと考えたんだがこれは投げることを前提とした安く多くのナイフなんだ」
ほら、といってアオイに渡す。
「確かに普通のナイフですね。それも刃こぼれが一切ない」
「そう、強引に刺した訳でもない。それどころか刺さっていた所にあった石は綺麗に2つに切れてる」
「鋭さをあげる能力ですか」
「しかもそれが継承されちゃってるんだよなぁ」
そのことを証明するためにそこら辺の枝を使ってそれよりも太い枝を切ってみせる。
「わぁ、まるで手品ですね」
「殺した相手のスキルを奪うことが出来るのがこの世界のルールなのか俺の能力なのかわからないけど強いやつを見つけたら殺していったほうがいいかもな」
「それはちょっと可哀想ですね」
さすがに出会って即、殺し合うような心意気で旅をするのは嫌なのか、否定的な姿勢を見せる。
だがそれ方法が最適の道だと分かったら躊躇せずに進めるほどの、小石ほどの抵抗だ。
そんな真剣な話の最中にくぅぅぅぅ、という音が生まれる。
「と、とりあえずご飯にしませんか」
「あ、ああ、そうだな。まだ何も食べてなかったもんな」
ということで食料箱から野菜と肉を取り出して、アオイの料理本(脳内)を使用してさっさと作る。
「他の能力はないんですか?」もぐもぐ
「何かあるような気がするんだが使い道がよくわからないんだよなぁ。前の勇者が持ってた能力もわからないままだし」
「私が貰った能力もよくわからないままですからね」もぐもぐ
レンはゆっくりと食べているが、朝ごはんを食べず、立食パーティーでも色々あって食べる暇がなかったアオイはもぐもぐと口を動かして平らげていく。
そしてものの数分で食べ終わる。
「このまま先に進みますか?」
「いや、どうもあの子が持ってた地図を見ると逆の方向なんだよなぁ」
「今どこですか?」
「ここ」
と、レンが指さしたのは今目指している魔王城がある魔の森とは真逆のフェンリルの森という所だった。
「フェンリルですか。北欧神話ですね」
「あんまり神政主義の連中が考えた話は知らないけどとりあえず神様関係ってのは分かった」
「この感じだと1度王都に戻った方が早そうですね」
「あれだけ張り切って出てきて今更戻るのもなぁ」
「それならこのイクラという街を中継して行きませんか?」
「随分と鮭の卵を思い出させる名前だけどそれで行こうか」
散らばった荷物をかき集めて、マインの手荷物も乗せて出発する。
「御者とか出来たんですね」
「いや、ダメ元でやってみたんだけど意外と上手く動いてくれる。マインが持ってたのかな?」
「謎だらけですね」
「体の違和感のおかげで何か能力を手に入れたっていうのは分かるけどな」
そのまま馬車を操作して街まで向かう。
「街で食料とか買い込みますけど他になにかしますか?」
「とりあえずは今の状況の確認かな? この腕輪やらアオイの弓やらわからない道具も多いし」
「凄そうな雰囲気を醸し出してますからね」
と、隣に座るアオイが外に向けて弓の弦をピンピン弾いていると突然光の矢が飛び出して森の木を1本、真ん中から折る。
さー、とアオイの顔から血の気が引き、ゆっくりとレンの方へ振り向く。
「れ、レンくん」
「いや、そんな助けを求めるような目で見られても被害者はあっちでしょ」