第五歩 初の戦闘描写─中編
「仲間だからこそなんだけどな。それよりもそれは冗談ではないと受け取っていいんだな」
「ええ、もちろん」
赤いナイフをレンの方に改めて向け、宣言する。
「あなたを殺します」
だがそんな殺人宣言に全く動じず、レンは静かに対応する。
「殺すのは俺だけか?」
「いえ、ついでなのでそれも殺しますけど」
それ、という時にアオイを指さす。
「そうか、説得は出来そうにないな。親や息子、親族を殺された者の目をしている」
「まるで見た事あるような発言ですね」
「ああ、何度も見たさ」
戦争時ではよくある光景だ。戦争に行った親族が死体となって帰ってくることなど。
レンの周りにも沢山いた。
「だから、こちらも殺す気で行く」
「どうぞ、お好きにしてください」
と、その言葉すら聞かずにレンが空中から紅い刀を抜きマインに襲いかかる。
それは異世界転移してから目に付いていたもの。自分が動くのに同調して共に動いていたもの。
そして今自分が持っている唯一の武器だ。
そこから行われるは死闘である。
レンは女神の祝福により可視化された自分が辿るべき剣筋を辿り、マインはその技術で対応する。
斬り、避け、殴り、防ぎ、攻防を幾度となく入れ替えながら攻撃を続ける。
どちらも致命傷は避けながらも小さい傷が体に増えていく。
「なるほどあんなことをしたのはこのためですか」
そんな命の削りあいの中でマインが呟く。
「こんな汚れた世界を見せないため。血を流すところを見せないため。そのために隠したんですね」
「女の子を危険なものから体も心も守るのは男の務めだと思わないか?」
切り合いを続けつつ器用にため息をつく。
「自分が守らなくてはいけない。自分が支えてあげないといけない。これって傲慢だと思いませんか?」
「思わないね」
「そうですか」
レンの断言に少し怒りを含んだ一言を返す。だが、レンも生半可な覚悟で言っているのではない。
「アオイは俺を見ている。だから俺はアオイが前を向けるようにアオイの前を進む」
「花は太陽に顔を向けてただ美しく咲き誇るだけでいい。障害は全て焼き尽くす」
アオイを花に、自分を太陽に例えての言葉。
「お前が俺たちを殺そうとするのが利益のためか復讐のためか楽しむためかなんて知らないが。立ち塞がるなら越えていくぞ」
「やってみてください、よ!」
マインが突然向きを変えてアオイの方向へ跳躍する。
しかしそれを読んでいたレンはすぐに追いかける。
「あなたが想定し得るものを私が想定できないと思っていたのですか?」
しかし地面にいつの間にか刺さっていた投げナイフに足を取られ、前に倒れる。
「く、届けぇぇぇ」
「無理ですね」
倒れそうになりつつももう片方の足を前に出して体制を整え腕を限界まで伸ばす。
そして
そして鮮血がアオイを紅く染める。
「……どうして?」
自分の腹に深々と刺さった紅い刀から滴る血をマインは眺めながら疑問の声を上げる。
同じく理解が追いついていないレンも状況の把握に専念する。
「まさか、物体転位?」
刀がマインの腹まで移動する直前。
突然光った腕輪を見てそう結論づける。
「う、くぅ」
マインが痛みに呻きながら刀を抜き、捨てる。
捨てた途端にレンの手に戻るのを見て分の悪さを理解して即座に離脱する。
「くっ、あ、」
動きの遅い状態で逃げるマインに地面に刺さっていたナイフを投げつける。
それはマインの足にあたり、マインが地面に倒れ込む。
「う、ああああ」
しかし地に伏してなお腕を動かしてレンを殺そうとする。
「もう眠れ」