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第六十二歩 それがエース

「久しぶりですね、クレナイさん」


 そこはたくさんの英雄たちが死してなお殺し合う戦場、ヴァルハラ。

 そこにレンも英雄として呼ばれた。


「オーディンに会わせてくれるんだよな」

「もちろん、アオイさんも呼びますか?」

「ああ、俺がするがな」


 サーリアの手によって呼ばれる前に、門が現れアオイが出てくる。


「なんですかこの地獄は」


 周りでは英雄たちが殺しあっていて、血みどろの地獄だ。


「ま、今から行くところも似たようなものだしな」


 オーディンに、出会って何をするか。

 北欧神話の主神に、願いを叶えてもらう訳では無い。

 むしろ、その逆。自分で願いを叶えるためにオーディンを殺すのだ。


「さて、ここが彼の屋敷だ」


 サーリアの案内によって辿り着いたそこはひとつの屋敷。

 だが、その中に主はおらず、屋敷は今、主の椅子として機能してる。

 歳をとり、老紳となったオーディンは静かに槍を構える。


「言葉はいらないってことか」


 ライトもそれにならい、何も語らず、意思疎通もせずに刀を構える。

 久しぶりに外界へと現れたその紅い刀は、主の戦闘を喜び、淡く光る。


「レンくん!」


 極限まで脳を回転させているレンの邪魔にならないよう、自分の気持ちを一言でまとめる。


「頑張ってください」

「ああ」


 自分の足元で、太陽を破裂させ、その威力を利用して空を飛ぶ。

 そして、轟音。

 レンの刀とオーディンの槍が激突したのだ。ただ、オーディンはその槍でレンの刀を受け止めたのではない。オーディンが投擲した槍をレンが空中で受け止めたのだ。

 すぐに槍はオーディンの手元まで帰ってくる。


「グングニル。誰がなんと言おうと最強の槍だよ」

「帰ってきてたんですね、サリア」

「せっかく久しぶりに会うって言うのにこっちを見てもくれないんだね」


 アオイの目は常にレンを追いかけていて、記憶するのに必死だ。

 そしてレンは不思議な戦い方をしている。今までのように、太陽や斬撃、罠を多用した戦い方ではなく、刀を使って削ぎ落としていくような戦い方。

 そんな戦い方をするのは、オーディンの特殊な体質が原因だ。


「オーディンが司るのは戦争と詩。戦争には物理的なエネルギーが、そして詩には感じにくいエネルギーが詰まっている。その2つを司るオーディンの体は純粋なエネルギーだけで構成されている。だからこそクレナイさんはあんな戦い方をしているんだろうね」


 エネルギーの塊相手に衝撃や斬撃を与えたってなんの意味もない。

 だからその莫大なエネルギーを削ぎ落とす。


「でも無駄だね。彼のエネルギーは常に補給され続けて無限だ。今この世に存在するエネルギーと、彼が持っているエネルギーを合わせた時に無になるように世界ができているのだから」


 それはこの世界に存在する全てのエネルギーと同等のエネルギーを所有していることになる。


「何か勝つ方法があるんだろうね。なけりゃ戦うはずがない」

「ありませんよ」


 アオイの断言。そして、驚くサリアに語る。


「レンくんはあれの倒し方なんて分かってません。でも、もう戻ることは出来ないんです。それに初めてで上手く行けるなんて都合が良すぎるじゃないですか」


 どんなゲームだって、1度目で全てを完全にクリアすることは出来ない。

 2度目から完全なるクリアに近づいていくんだ。


「今回は試すだけですよ。そう言ってましたから」


 だが、そんなレンは全力でオーディンにぶつかり、それ以上のダメージを負っている。


「あのままだと魂も死んじゃうだろうね」

「レンくん?」


 アオイすらも分からない。そんな現象がいま、目の前で起こっている。

 1万人を超える大魔道士との戦いにも、勝つビジョンを思い浮かべながら戦っていたはずのレンが、オーディンの槍に体を引き裂かれ、穴を開け、傷を負い続けている。


「ここまで、みたいだな」


 オーディンの一撃がレンの体を貫き、まるで丑の刻参りの人形のように、神樹ユグドラシルの枝に打ち付けられる。


「終わったみたいだね」

「嘘ですよ!」


 レンが勝つと信じ、疑っていなかったアオイが動揺する。

 今ままで1度も負けているところを見たことがないアオイには、これが初めてのレンの敗北だ。


「くっ」


 アオイも巨人や英雄の腕を背中から出してオーディンに特攻する。ただ、その程度で傷が付けられるようならレンが殺してる。ほんの一振でアオイが瀕死の状態にまでダメージを受ける。

 そして、今回の敗北は、終わりを意味する。


「さすがに、なんの対策もなく挑むのは無謀だったな」


 笑いながらそう呟く。

 既にレンの魂はグングニルによってボロボロに破壊されていて、立ち上がることは出来ない。


「またここに来る」


 変化は突然訪れる。

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