第四歩 初の戦闘描写─前編
そして沢山ある宝具から何を持っていくかという事だが、1つしか持っていけないとなると意外と人間は悩むものである。
なので悩んでる間にこの世界についての説明をしようと思う。本当は王様達が説明してくれたんだけど勝手に省略しちゃったからね。
まず、レン達がいた世界。
今から80年ほど前にソ連がキューバにミサイル基地を建造、アメリカと全面戦争が始まり、その結果、国連が共産主義と資本主義に別れて冷戦が激化、二大勢力がぶつかる第三次世界大戦が勃発した。
さらに資本主義、共産主義の中からキリスト教やイスラム教などの宗教が突然、独立を宣言し、唯一神を信仰することで全ての人類を統一するという神政主義が出来た。
レン達が所属するのは資本主義で、その中でも学生兵候補と呼ばれている者だ。
学生兵というのは資本主義にだけある制度で才能を持った少年少女たちを1箇所にまとめて高校卒業後から学生兵という軍の上層部に入り込む。軍の兵器開発に取り掛かったり、実際に戦場で走り回ったり、将校として指揮をしたりと様々だがとりあえず偉くなれるのである。
そしてレンを召喚した国、フレード王国。この世界での大国の1つであり、前の魔王が逃げ込んだ魔の森に接してる国の1つでもある。
この世界では400年の間、100年ごとに魔王が生まれ、それを予言した女神の指示によって勇者が召喚され、魔王と全世界による戦争が起きていた。そして今回の勇者はレンとアオイ、ということである。
と、ここまで説明してきたけどレン達が決めれそうだからここで説明は終わりにするね。もっと沢山あるにはあるけどいつか説明することにするよ。
結局悩んだ末に片方がもう片方の宝具を選ぶことする。
「それじゃあアオイはこれだな。天使になってるわけだしキューピットとイメージが混ざってる気もするけど弓が似合いそう」
レンが選んだのは黄金の蛇が弓の形をしているものだ。
この弓を選んだのは白蛇が神の使いだとか、女神持ってた錫杖に雰囲気が似てるだとかあるがまあ、結局は直感だ。
「レンくんはやっぱり剣の方が合いそうですね」
アオイが宝の山から1本の剣を引っ張り出す。
それは黒い柄に白い刃が付いた剣だ。
「うーん、いや、剣はいいかな?」
「じゃあこれですね」
理由も聞かずに次の宝具を選び、レンに見せる。
「ん? なんで腕輪?」
「勇者って腕にリングつけてませんか?」
と、質問で返されたので勇者の姿を思い浮かべてみる。
「ああ、確かに金のリングつけてるの多いな」
「あれがオシャレなのか意味があるのかわかりませんがレンくんも勇者だし似合うと思いますよ」
ということなので用途がよくわからない窓のような絵が彫られた腕輪をつける。
「後は仲間だけど……誰か一緒に行きたいって奴いるか?」
「怖い人ばかりですからね」
異世界さんの戦闘職に少しばかり恐怖を感じながらアオイが仲間として一緒にいられそうな人を探す。
「あ、あの子とかどうですか?」
「あの女の子か? できるだけ子供は連れていきたくないんだけどな」
緑の髪をした少女を見てレンが険しい顔を見せる。
しかし他の仲間候補は怖い人ばかりだ。
「やっぱり怖いですよ」
「そうだな。あの子にするか」
ちょっと人見知りなアオイが無理なのは分かっているのでレンがその少女の元に向かう。
「えーと、俺たちと一緒に来て欲しいんだけど、大丈夫か?」
その少女はもう1人の女勇者の方を見ていたが声をかけられてすぐにレンの顔を見る。
「ん、いいですよ」
何か言葉を飲み込んだような言い方だったが気にせずにその手をとる。
「さてと、じゃあ自己紹介だ。俺はクレナイ・レン。気軽にレンと呼んでくれ」
「私がアオイです」
「私は……」
その少女は名前を言う前に少しいい淀み、しかしすぐに首を振って口を開く。
「私は、マインです」
「そうか、よろしく、マイン」
「これからどうしますか?」
「ん? もちろん出発」
王城を出たその足で馬車やらなんやらを買い揃えて王都から出る。
「と、ここまで元気に来ましたが行き道はわかってるんですか?」
「もちろんだよアオイ。王様が説明する時にちらちら見てた方向に今進んでる」
「勘ですか」
「勘ですよ」
と、とりあえず真っ直ぐ進むと森が見えてきたが構わず突き進む。食料その他も買い込んだので止まる必要が無い。
が突然馬車が止まる。
正確には馬車を操作していた緑の少女がその手を止める。
「どうした、マイン」
「いえ、少し厄介な害獣がいたのを思い出したので」
へぇー、ここにもそんなのいるんだなぁ。
と、気楽そうなレンのいる馬車に入り込んで赤いナイフをレンに向ける。
「あなたですよ。勇者」
唐突に告げられ、少し理解が追いつかない。
「うーん、それは冗談かい?」
「いいえ、本気ですよ」
「そうか」
と、レンが近くの食料箱から野菜を1つ取り出してマインに向けて放り投げる。
それをたたき落としている間にアオイを抱えて逆側の窓から逃げる。
「れ、レンくん。いきなり、何があったんですか?」
「アオイ、すまん」
レンがその言葉を口にしてアオイの目と耳だけを布で覆う。
そして驚いているアオイを木の傍に座らせてマインの方に振り向く。
「不思議なことをしますね。仲間じゃないんですか?」