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第五十三歩 獣人の願望

「人族に身体操作の方法を教えろとは、不思議な話ですな。鬼人族のお嬢さんならまだしも、人族には操作するほどの身体がないのでは無いですか?」

「帝国に渡した私の技術によって作られた人工勇者で、身体能力はあの神速の勇者と同じですよ」


 なんと、あの人工的に神の力を植え付ける方法は、学園国家産だったようだ。

 ただ、ほとんどの最新技術はあそこから生まれてるので、あまり驚くこともないような気がする。


「なるほど、それならば」


 長老の姿が掻き消え、ライトの後ろに移動する。


「て、転移並みの速さね」

「これだけぴたっと止まるのは俺でも出来ねぇなあ。って、なんで俺の体撫で回してんの?」


 突然獣王はライトの体をぺたぺたと調べ始める。


「なるほど、瞬発力だけを上げているようですな。ではこれにはどう対処するおつもりで?」


 密着状態からの手刀。避けるのは不可。それならば、と全身の力を抜きまるで柳のように受け流す。


「がぁ、痛てぇ。肩が外れやがった」

「だ、大丈夫ですか?」


 アリスがすっと肩を填めてあげる。


「速度と柔軟性を生かして衝撃を逃す。確かに有効ですが、体が暴走しないように、動く方向と逆方向にも力を入れているせいで逃がしきれてませんな」


 1の力で動くのではなく、11の力と-10の力を合わせて1の力で動く。

 それはとても無駄な行動だが。


「そうでもしなければ動けない。やはり生まれつきではない力は馴染んでいませんな」


 生まれた時から慣れ親しんできた体に、余計なものをくっつけたのだ。今ままで通り動けるはずがない。

 1週間ほど体の調子を調べて、普通に動けるようにはなったが、ミリ単位の精度を最小限の力で、という所まではいけてない。


「ただ、神具や魔法に頼らず、まず自分の体を改造するというのは我々としては喜ばしいこと」


 自分の体に自信を持ち、自らを高めることを喜びとする、亜人いや獣人の考え方。


「そうですね。速さに自信のある猫牙族にでも声をかけておきます。少しそこでお待ちくだされ」


 声をかけるとか言っときながら超高音の口笛を鳴らし出す長老さん。

 ほんと文化の違いって面白いね。


「さて、ではお嬢さんたちは私の家でもてなしましょう」

「あれ? 俺は?」

「レディファーストはどこの国でも同じですぞ」

「ただ、男にもてなすのが嫌なだけじゃねぇのか?」

「ほっほっほ」


 長老が笑いながら2人を連れていく。残ったのは悲しいことにライト1人。

 どうしようかな。このままその辺で三角座りして泣いてもいい気がする。




「しかし珍しいですね」

「何がですかな?」


 ここは長老の家で、その応接間と呼べるようなところ。

 そこに3人とも集まり、席につく。

 直ぐに1人の獣人がこの国の紅茶を持ってきて、長老とマイラだけでなく、アリスにも渡す。


「人間に優しくするなんて。それも弱い人間を」

「女性まで強くないといけない、なんてことはありませんぞ。メスはオスに守られればそれでいい。戦って帰ってくるオスの帰る場所になれば、オスを癒す存在であればいいのです」


 それは男に強さを求めるがゆえの、女に対する願望。


「その点あなたはよく出来ていた。人を治すことに長けているようですな」

「その分戦闘力を持てなかったわ」

「それでいい。守られなさい」


 そのあと、長老の妻も会話に参加する。

 魔力がないが故に魔法の話はないが、魔王を倒すための話が始まる。

 しかし強いオスに従う。そんな弱肉強食の考えを持つ獣人たちは、この状況に不満を抱いていない。


「武具や仲間の力を借りての強さには意味は無いけど、それがその人自身の力なら、私たちは認めてしまう。特に彼だけは別格、細胞ひとつひとつが強者だと判断するような、そんな規格外」

「それでも倒そうって考えさせてくれる程度には弱い」


 本当の強者は、戦うという選択肢すら奪ってくるのだから。


「あれ? そういえばメシアいないわね」

「メシアって、あの無口な女ですよね。あれなら置いてきましたよ」


 え? まさか仲間はずれ?


「死者蘇生の、明確な方法を探すって言ってたので置いてきました」

「そう、たしかに普通に不安は残るけども」

「それに、信用できませんしね」


 その目は、1人の少女ではなく、天才マイラの目。


「なんか、あれの思い通りに動いてる気がするんですよ。帝国にだって魔術書図書館はあるし、死者蘇生の研究所だってほとんどの国にある。そこに行って、ないから学園国家に来る、という道筋を辿るはずなのに、手順を飛ばしすぎてるんですよ」


 現れてすぐにライトを別の世界に取り込み、そしてすぐに学園国家を提案し、カンニングなんて対策されているはずの入国試験でカンニングをバレずに行った。

 まるで道からズレないように、よそ見する前に進めてるような。そんな不思議な感覚が今更芽生える。


「帰ってきたぞ。ちくしょう」


 そんなシリアスな空間に汗臭さがプラスされる。


「って、何やってきたんですか? そんな汗かいて」

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