第三歩 ようやく異世界へ
「それで、年齢を足すことは出来るのか?」
さっさと話を進める連に諦めを覚えつつも丁寧に返してしまうのは女神の性格なのだろうか。
「出来ますけど1万歳は越しますよ」
「それでも俺が愛するから問題ない」
うわぁ、愛とか簡単に口にする人なんだこの人、
みたいな汚物を見る目で見ながら女神が異世界転移の準備と同時並行でスキルの付与を行う。
「さて、ではそろそろ向こうの準備が出来たようなので送りますね」
スキル付与らしき青い光が蓮たちの体を覆ったあと、女神が告げた。
「ああ、こっちもOKだ」
「では送りますね」
黄色い魔方陣の上に2人が乗ったのを確認して送り出す。
蓮が消える瞬間、女神を睨みつけながら言葉を紡ぐ。
「俺達の道を塞ぐものは女神だろうと焼き払うが、大丈夫か?」
「行ってらっしゃい」
蓮の警告を聞いても笑顔を崩さなかった女神はその笑顔のまま送る。
そして2人は光の粒子へと姿を変え、異世界へと旅立つ。
そして異世界転移は成功し、2人は姫様の後ろについて魔王の説明を受けながら勇者召喚の成功を祝うパーティ会場へと移動する。
「それでレンくん、これはどうなってるんですか?」
「異世界転移っていうのが最も早いんだけど……」
魔王についての説明が終わり、ある程度今の状況を把握した葵が蓮に確認する。が、なにやら珍しく蓮の歯切れが悪い。
「けど、なんですか?」
「どうしてカタカナなんだ?」
「どうやら異世界ということを説明されたので名前もカタカナの方が雰囲気にあうかなって思ったんですけど、よく気づきましたね」
普通に気づくものだよ。っと天才を拗らせた人外様。
「しかしスキルの説明もなくいきなり転移ですか」
「まあ、恐らく時間の流れが遅い白い部屋で行うつもりが俺たちの世界で行ったから時間が無くなったんだろうな。そうじゃなけりゃ前の勇者と同じなんて適当な選択を選ばせてくれるわけが無い」
と、そんなことを話している内に会場に着いた。そこは貴族が沢山集まっていて、立食式のパーティだった。
「しかしこれだけの量の金貨と宝物庫から宝具を1人ひとつ。さらに仲間まで。随分と優しいんだな」
「それで誰を連れていくんですか?」
「そうだな。っとその前に」
王様や貴族達を観察していたレンが王様の近くでナイフを取り出す不審人物を見つける。
「……ああ、暗殺か。しかし『死神』みてぇに手慣れてないところを見ると金で雇われたというより私怨か?」
「ん? どうしましたか、レンくん」
華やかなドレス姿のお嬢様や金色に輝く宝具たちに目を向けながらアオイがぼそぼそと呟くレンに不安を抱く。
「いや、大丈夫だ。少しここで待っていてくれ」
「は、はい。分かりました」
暗殺者と目が合い急いでナイフを突き立てようとするのを確認してレンが走り出す。そして暗殺者のナイフを蹴り落とし、その腕を取って地面に向けて投げ、押さえつける。
「うぐっ」
地面に倒された時の衝撃で肺から空気が押し出され、息が出来なくなる。
そんな一瞬を見逃さず、先程蹴り落としたナイフを拾い、暗殺者の腕に突き立てる。
「ぐあああ。や、やめろ」
「あ、やっぱり毒か何か塗ってあったのか。危ねぇな」
毒が回ったのか数秒で暗殺者が痙攣するだけの肉塊と化す。
「流石は学生兵志望ですね。今のは米軍ですか?」
「そうだよ。米軍お得意の白兵戦闘用の体術。といってもライトのに比べたら練度は恐ろしく低いけど」
「レンくんが体術で抑え込むことが出来たってことは素人ですか?」
投げる時に使った右腕の調子を確かめ、少し考え込む。
「それもあるだろうけど、この体が強化されたのもあるかもな」
「流石は勇者ですね」
「勇者が強いとは限らないけどな」
王を守ったことによる追加の金貨も貰いつつ、宝物庫から運び出されていた宝具の元へ近寄る。
「悲しいですね」
「あの少女のことか?」
レンの視線の先には王から与えられた防具に身を包み、仲間とともに会話をしている10歳ほどの少女がいる。
そんな少女が、戦いに参加していることに心を痛めつつ、アオイが話す。
「どうしてあんな子が魔王退治に駆り出されているんでしょうね」
「ヨボヨボの老兵士が前で戦うよりも小さくて弱そうな少女が戦っている方が周りの兵士たちの士気や守ってあげたいっていう気持ちを掻き立てるんだよ、例え老兵士の方が英雄並みの強さを誇っていてもな。それに殺された時に死にそうな老人よりまだ先がある子供の方が殺された時の憎しみも大きいしな。あれは魔王を殺すための錦の御旗だな」
「レンくんと同じプロパガンダ用の人材ですか」
「その通りだね」
そしてドレスが可愛いとかの無駄な話も加えながら宝具を厳選していく。