第四十七歩 人工天使
「これはクイン様。お帰りなさいませ」
「あ、ああ」
歓迎されたアリスが驚く。
「お前は皇子派では無いのか?」
「つい先日、革命が成功しまして現在エリザベス様を慕っている有志と皇帝陛下が政治を執り行っています」
「……そうか」
皇子派による暴政が無くなったのは喜ばしいことだが、帝国民がエリザベスの帰りを待ち望んでいることが心苦しい。
「エリザベス様はどちらに?」
「……亡くなられた」
隠し立てしても意味が無いと知っているアリスは、正直に答える。
「なぜ? なぜなのですか! ようやく革命が成功し、迎え入れる準備が出来たというのに」
絶望と虚無感に襲われる。
だが人はそれらの感情を怒りに代える。怒りは行動力へと代わる、
「私たちの仲間全員に伝えました」
そして、怒りを殺意に変えて、託す。
「動き始めます」
人工天使が王都に向かって飛んでいく。
それは街一つくらい滅ぼせる、暴力的なエネルギーの塊。しかし、そこは普通の街ではなく、現魔王城のある、王都だ。
「あれは太陽?」
「アリス、正解。あれがレンの持っている『恒星創造』というスキルによって作られた、本物の恒星だ」
「あれは自動照準なのですか?」
騎士が不規則に動く小さな太陽達を見ての感想。
「いや、あいつが操ってる」
「あれだけ多くの物体を不規則に動かせるというの?」
確かに、人間の脳は2つ以上のものを別々に動かせるようには出来ていない。
両手にペンを持って別々に、不規則に動かそうとしても、書いた線は同じようだったり直線ばかりだったり、例え1本でも不規則に動かすことすら難しかったりする。
「でもそれは普通の人間だった場合だ」
「つまり魔王だからできるってこと?」
「いや、エースだからこそできる、神業だよ」
レンは世界に存在する天才たちを軽く凌駕する閃きと、世界最高峰のスーパーコンピュータを超える平行演算能力がある。
「以前聞いた時は振り子を想像してた」
「振り子?」
「棒をいくつか繋げた長い振り子、これってすごく不規則に動くんだ」
実際は規則性があるのだが、パッと見ただけでは分かりづらい。
「そして全く同じ振り子を使っても、最初の条件が少しでも違えば、先の動きに差が生まれる」
レンを振り子の支点として、クルクルと回しているイメージ。支点に最も近い棒は規則正しく回っているが、先端はランダムに動く。
「それは俺たちにとっては規則性のねぇ動きだが、あいつにとっては全て同じ規則に沿って動いてる物体なんだ」
自分の脳のスペックをフルに活用したその攻撃は、天使を全て消滅させる。
「どれだけ強くとも、どれだけ数を用意しても、あいつの作戦に嵌ったら絶対に抜け出せない」
まるでブラックホールのように嵌ってしまったら例え光でも抜け出せない。
「だからあいつの作戦にはまらないように立ち回らないといけねぇんだよ」
そのために技術以外を上げなくてはならない。
例えどれだけ上手く制御できるコンピュータがあっても、それが制御する機械が低スペックであれば意味は無い。
「というわけでここに来たわけなんだが、あるのか?」
「もちろん、ある。ただ、覚悟はあるのかね?」
アリスに連れられた研究室、そこで能力の移植について研究しているジジイと話す。
「覚悟なんてものが必要なのか?」
「我々が開発したものは人間を次のステップに進めるなんて素晴らしいものでは無い。人間が持つ伸び代を勝手に前借りするだけなのだよ」
そして、前借りをなんのリスクも負わずにできるはずがない。引き出せるのは人間の持つ可能性のたった数パーセントほど。そして伸び代を使い切ったあと、成長は出来なくなる。
「でも、それはスペックの話だろ? スペックが上がらなくなっても、技術力はあげられる」
ライトの強みは圧倒的なスペックではなく、自分の持つ力を全て引き出せることだ。
「あいつと戦うとなると、今の俺じゃ力不足なんだよ」
「分かった、やってやろう」
若いものから可能性を奪うことに罪悪感を感じつつも、彼らは希望を次の世代に託すことしか出来ない。
魔方陣をライトの体に書き込み、いくつかの器具を組み合わせたり、液体を混ぜたりする。
「終わったぞ」
ほんの数分カチャカチャやっただけでそんなことを言われても実感がない。
「こんなに痛みも何も感じねぇものなのか?」
「空いていた部分に流し込むだけだからな。もっとも気泡が入りまくりで有効利用出来てない理由でもあるのだが」
自身の体に意識を集中し、一つ一つの筋肉に力を入れ、確かめていく。
見た目は全く変わっていない。しかし、とても軽くなっている。




