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第四十歩 人工勇者

「おい、魔王ならもっと正々堂々と正面から殴りかかって来やがれ!」


 攻撃が全く当たらないことに腹を立てた男が叫ぶ。

 魔術師の撃つ魔法も全て避けられ、魔術師からも鋭い目線が投げかけられる。


「殺しあってる敵に対して公正を求めるか。随分と温い世界で生きてきたんだな」


 苛立ちが最大まで昂っている男に刀を向ける。


「ただ、死ぬ前にそれを望むって言うならやってあげないことも無い」


 その刀からまるで雫が垂れるように光の玉が空中に飛び出す。

 それは空へと昇り光を増す。


「ダンタリオンは魔王勇者を別のもので例えた時に太陽を出てきた」


 レンの手のひらに降りてきたそれは段々と見た目を変えていく。


「あの時は矛盾を持つものとして例にあげたのが太陽だと思っていた」


 電球のような光の玉ではなく、溶岩が渦巻くような、熱の塊へと変わっていく。


「でも本当は俺に太陽を見て、その太陽の矛盾を取り上げただけだった」


 レンに太陽を見た。それは抽象的なものではなく。本当に太陽が見えたのだとしたら。


「前の勇者のものなのか、俺が手に入れたのか、それは分からないが、使えることは分かる」


 レンの手のひらに1つの恒星が降り立つ。


「膨大な熱量とエネルギーを持つ炎の玉だ。半端な防御も攻撃も意味が無いぞ」


 強者とはと言うものは3種類の能力によって決められる。

 ステータスと技術と作戦である。

 技術があればステータスが高い敵を翻弄出来るし

 作戦がよければ技術がある敵を丸めこめ

 ステータスが高ければ作戦ごと叩き潰せる。


「ステータスも戦い方も負けてるお前らが持ち前の技術力だけで取り戻すのは無理なんだよ。ライトくらい化け物なら変わったかもしれねぇが。お前らのそれはこれまでの経験で、あいつほどではない」


 魔術師としてレンの手のひらの上に、どれだけの魔力が集まっているのかがよく分かるのだろう。

 絶望したように座り込む。


「何故なんだ。何故お前達はそうやって私達の上を行くんだ! 私達だってあれだけ努力したのに!」


 勇者が吠えるが、その考え方なレンにとって少しズレた考え方だ。


「努力したことが報われるんじゃない。褒め称えられるのは努力によって生み出された結果の方だよ。それを無視して努力すれば報われるなんて考えるのはすごく傲慢なことだ」


 今まで、努力しても自分に届かなかった人間を多く見てきた天才の言葉。

 もしくは努力したこと全て出来るようになる天才の言葉と言うべきか。


「化け物め」

「その程度の覚悟ならさっさと死ねばいい。道の先に、人間では行けないのなら人間を辞めるしかないだろ」


 実際に人間を辞めたレンの言葉には勇者を黙らせるくらいの重みがあった。


「神話に描かれるような存在になってみろ」


 そうすればそれを倒した自分の格が上がるから。そんな完全に自分のためだけの言葉。

 しかしそれが勇者の背中を押す。

 勇者の持つ聖剣が、いや、魔剣が暗く輝き仲間の首を切り飛ばす。


「自暴自棄になったか?」

「いや、魔王の言う通りだった」


 先程まで魔術師が使っていたのと同じ、火属性の魔法で仲間の遺体を焼く。


「人間のまま魔王を殺せるなんて考えはすごく傲慢だった」


 灰が風に乗って消えていくのを眺めながら勇者は自分の体が変化していくのを感じ取る。


「私達は人工的に勇者としての力を与えられた勇者だ。所詮は偽物。人間を辞めた歴代の勇者には1歩及ばない」


 だから1歩踏み出して一線を超える。

 人間をやめ、歴代の勇者と同じか、それ以上の力を手に入れた勇者が改めて剣を構える。


「私の持つ強奪スキルによって彼らのステータスは全て譲渡された」


 これでステータスは拮抗した。技術力は自分の方が上、だが事前準備は魔王の方が上だ。

 魔王と戦うのに準備もせずにここに立ったのかと思うと自分がどれだけ魔王との戦いを楽観視していたのか分かる。


「俺を殺すなんて大きな目標を掲げたんだ。自分が本当に守りたい何か1つ以外は捨てるしかないさ。どうせそこに守りたいものはないんだろ?」

「私の守りたいものは一つだけ。うちの姫様さえ守れたらそれでいい」


 そんな1人の男の言葉を聞いてレンが笑みを零す。


「やはりそうか。帝国の姫は兄のリュドシエル派の人間には疎まれていて魔王の監視だなんだでこの国に飛ばされてきたってのは本当らしいな。でも帝国の民にとっては希望か」


 自分の進んできた道が正しかったことを再確認する。


「やはり帝国を落とすには姫を殺すのが一番いいか」


 姫を守るというものの前で姫を殺すと言う。


「やってみろ。帝国の民全てがお前を殺しにくるぞ」

「姫を送ったのがリュドシエル派の人間だと知ったら暴動が起こるだろうな。それでも俺には怒りが向かない。火山の中に身投げしても火山は責められるず、命令したものが非難される。俺は災害扱いだからな。危険なところに送り込んだやつが非難されるんだよ」


 その考え方は人の優しさなどこれっぽっちも含まれていない悲惨なもので、


「なるほどお前が魔王だというのを再確認したよ」

「まぁ、聞きたいことも聞けたし、そろそろ死のうか」

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