第二歩 キジンからの呼び出し
「はぁ、まーた汚くなってるのかあの部屋は」
「突然の転移に驚かないんだね」
周りの景色がマンションから黒を主張とした禍々しい部屋へと変わっている。
その中で蓮は目の前にいる黒いドレスを着た角を持つ女性に視線を向ける。
「まあ、女神様にあったからなぁ。驚いてはいるけど冷静さを保つことが今は重要だろ」
「うーん、想像を遥かに超える感覚を持ってるね」
「それで何が目的なんだ、鬼神さん」
「鬼神?」
「そんなに立派な角を持って鬼じゃないとか言われてもしっくり来ないんだけど」
なるほど、と立派な角を右手で撫でながら鬼神が納得する。
「ああ、そうだ。名前を教えて貰えるかな?」
「名前なんて必要なのかい?」
はっ、もしや私に気が……
とか言い出したバカを無視して話を続ける。
「名前が無いと不便だし、判断の材料としても使えるからな」
「うーん、いや止めとくよ。秘密が多い方が楽しめるからね」
嫌そうな顔をしながら蓮が口を開く。
が、それを鬼神は手拍子1つで押さえ込み、勝手に話を進める。
「はい、時間切れ。後は自分で考えてね。一応この場の記憶は封じるから」
その言葉の意味を理解する前に蓮の意識が途絶えて、転移が行われる。
引きこもりの葵が扉を開けて最初に目にしたのは棒を頭に乗せた状態で倒れている蓮の姿だった。
ただ、部屋の片付けが出来ない葵にとってはこういうことはよくある事なので蓮を部屋の中に台車を使って運び込んで介抱する。すぐに蓮は目を覚まして周りの状況を理解する。
「ああ、葵か。また汚くなってたんだな」
「どうしても上手くいかないものなんです」
悲しそうに葵が呟く。
いつもなら部屋の片付けを優先するところなのだが、今は緊急事態のなので別の件を優先する。
「葵、ちょっと俺の部屋まで来てくれるか?」
「え? 分かりました」
拒否という選択肢がないかのように即座に了承し、ゴミ屋敷から蓮の部屋へと移る。
「さて、アオイさん。あなたにも説明をしますね」
「いやそれは俺から説明するから問題ない。それよりも向こうの言語を教えてくれ」
初めて表情が変わらなかった女神に驚きという感情が見て取れる。
「頭が良すぎるというのも話しづらいものなのですね」
「自分が話そうと考えている道筋を先に歩かれているような感じだからな」
「では説明を省略して言語習得に移りますね」
「ああ」
そんな会話をしている間。葵は蓮の後ろで女神の姿を見ているだけで全く動こうとしなかった。
慌てず、驚きはしても顔に出さず。全ての決定権を蓮に委ね、ただ待つ。
女神は天使を召喚して葵に付かせて、自分自身で蓮に教える。
「吸収速度が段違いですね」
「主要な12ヶ国語を覚えているからな。言語自体の共通点みたいなのは分かってるんだよ。後は簡単な文法と単語さえ理解できれば問題ない」
「流石は全国一位の『エース』ですね。でもあちらはもっと凄いみたいですね」
異世界の共通語だけでなく、その他の種族の言語まで習得していく葵は人という種族を超越しているように見える。
「記憶体質と言いましたか。物覚えがいいということだけに特化した生物」
「技術や知識を一発で覚え、一度見たものをいつでも思い出せる体質。葵にとって言語を覚えることなんて赤ん坊が母国語を覚えることよりも簡単なのだろうな」
「でも順位は低い方なのでしょう?」
「いくら覚えることが出来たって臨機応変に使いこなすことは出来ないんだよ。ロボットやコンピューターと同じ。一度で記録し、再現も可能だけど応用は難しいんだよ」
「そうなのですね。あと、魔王と戦うための能力も与えますが、サイコロで数を決めることになっています。今やりますか?」
光り輝くサイコロを手に女神が聞く。
「どうせそのサイコロにも細工がしてあって規定の数だけ貰えるんだろ? 神のみぞ知る出目も神なら操作できるはずだ」
「はぁ、ロマンというものがないんですか?」
「ロマンで大事なものが守れるのはプライドだけが大事なバカだけだよ」
今日だけで何回目かわからない溜息をつき、女神が大量の本を取り出す。
「ではここから12個選んでくれますか?」
「前回の勇者と同じでいいよ。どうせ何を選んでもメリットデメリットが相殺されるようにこの世界は出来ているんだから何を選んでも同じだ」
出てきた大量の能力が書かれた本をペラペラ捲りながら答える。
「ではそうしますね。さてあの子にも聞いて……」
「いや、必要ない」
葵の方向に向こうとしていた女神を呼び止める。
「あそこにいる天使と同じスキルをあげてくれ」
「何故あなたが決めるのですか?」
「葵のことは俺にも決定権があるからな」
「天使になるには年齢が足りませんよ」
「なら足せばいいじゃないか」
無いなら作ればいいじゃないかの発想で蓮が言う。