第三十五歩 死ねババア
サーリアは奇襲が嫌いなのか準備ができるまで待つようだ。
「さて、行きますよ」
アオイが天使の羽を背中から生やし、高速で接近する。
それを剣を持たない左手だけで抑え込み剣を振り下ろす。
「その剣すごい切れ味ですね」
翼とともに生やした第三の腕で剣をつかむ。しかしその剣は止まらず、肘のあたりまで切り進んでようやく止まる。
「ナイスだアオイ」
動きが止まったサーリアに向けてサブマシンガンを連射するが剣を支点にしてまるで鉄棒の大車輪の要領でくるりと回って回避する。
「うーん、さすがに速いですね」
そうつぶやくアオイは腰の後ろから幾本か虫の足を生やし、壁面を移動しつつ筋肉に包まれた剛腕を合計四本、背中に出現させる。
「おりゃおりゃおりゃー」
変な掛け声とともに四本の腕で乱打を叩き込む。
『普通の人間にはない筋肉、部位をよく動かしてるのよ』
「筋肉一つ一つを自分の意志で動かせるライトには負けますよ」
『どちらにしろ化け物になったかしら』
人間の奥底、本能の部分が恐怖を感じるアオイの姿は天使というより
『悪魔、というのが最もしっくりくるかしら』
いつも通り楽しそうにダンタリオンが笑う。
「まあ、人間はもともと怖いもんだがな」
一発一発が正確にサーリアの胸や眼球を狙っているがすべてよけられる。
「ちっ」
ライトが腰につけてた拳銃からノーマルのマガジンを取り外し、真っ赤に塗られたマガジンを取り付ける。
そして連射。今までと全く変わらないはずのその弾丸は女神の肉をえぐる。
「軌道修正ですか?」
「ああ、普通の弾丸の後に火薬を増やして初速を上げた弾丸を撃って最初の球に当てる。二発目で方向を調整して速度も上げるものだな」
「二発目は針のように細くてダメージが少ない代わりに速度を上げても反動が少なく銃への負担も少ない、でしたか」
銃弾に銃弾をぶつけて進路を曲げるなんてものは小説や漫画の中だけの話だ。しかし少し曲げる程度ならワンホールショットを三発成功させるのと同じくらいの難易度だ。曲げたい方向とは少し、ミリ単位でずらして二発目を撃つだけだからだ。
もっとも、いくらライトでも動きながら成功できるものではない。
「これだようやく一発だ女神様!」
今度は黄色と黒の警戒色が施されたマガジンを装填して撃つ。銃口から戦車と同じくらいのマズルフラッシュが噴出し、衝撃波をまき散らしながら重い球が飛んでいき逃げ遅れたサーリアの右足をかすめる。
ただかすめただけでサーリアの足が弾かれ、バランスを大きく崩す。
莫大な反動をきれいに流したライトが改めてサブマシンガンを取り出してサーリアを狙う。
「大チャンスですね!」
ライトが撃つ前にアオイが間に割り込む形でサーリアに攻撃を加える。
「うりゃー」
背中だけでなく、その背中に生やした腕の付け根からもさらに腕を生やしていく、まるで千手観音のような姿で連打を加える。移動には蜘蛛の足を使い、腕の数は数えられないほどになっている。
「どうやって制御してるんだ?」
『アオイが借りているあの腕や足は神話の生物の体の一部なのよ。その体が記憶している行動を再現しているだけ。アオイは記憶の通りに行動する体の手助けをしているだけかしら』
「体が覚えてるってことか」
サーリアの体を上に弾き上げ、背中の腕をしまい込む。
そして一本の巨人の腕を生やして振り下ろす。
「ドーンですー」
しかし叩き落されたサーリアにライトがつけた傷以外の怪我が見当たらない。
「全部防ぎ切ったってのか。化け物じゃねぇか」
『神話の世界ではあれが普通なのよ。むしろあれに普通の銃で一発当てたライトが化け物かしら』
「ま、とりあえず女神さまが攻撃してこないうちにとどめを」
その時サーリアがライトの目の前でアオイの右腕を切り飛ばす。
「アオイ!」
「大丈夫です」
さらに何度も切りかかってくるサリアの攻撃を必死に避けながら後退する。
「それに私だって何も考えずに殴りかかってたんじゃありません」
アオイが歩くたびに虫の足が床に傷を刻む。そして今まで描いてきたそれが完成する。
「神と悪魔、それと人間の血、すべての要素がそろい、魔方陣も完成しました」
床に刻み込まれた魔方陣に魔力が流し込まれる。
「古の時代に、恐ろしき悪魔を討伐するためにいけにえによって神を呼び出した。その際、悪魔の体は魔方陣によって動けなくされていました。その時の魔方陣を応用し対象を神に代えました」
足元の魔方陣にサーリアがサーリア自身の力で固定される。
「今までいろいろされましたからね」
アオイが天使の羽に魔力を込め、肥大化した翼で叩き潰す。
「死ねババア、です」




