第二十八歩 正義執行
なんとなくおいしそうな匂いに釣られて屋台で焼き鳥のようなものを買う。
しかし味わう暇もなくすぐそばの路地裏で人を見つける。
ヒーローとしての体質か、困った人間のほうからやってくるらしい。
「はあ、めんどくせぇけどほっとくわけにもいかねぇな」
一口で、買った焼き鳥を片付けて、一人の少女を取り囲む男たちに串の先を向ける。
「そいつが何かやったっていうわけでもねえみたいだしな」
女の子が犯罪を犯した可能性を一瞬で捨てる。
「まさかそこら辺の店主が毒を塗った暗器なんて持ってるわけねぇよなあ。騎士団長からもらった資料にもいなかったし、どこの誰だ?」
平和主義なライトの質問を無視して黒服の男が動く。
「だんまりとはひどいな」
近づいてきた男をサブマシンでハチの巣にしながら少女に怪我がないか見るが、
「まだ怪我してないみたいでよかった」
ただ刃物を突き付けられても泣きださないその胆力は、ふつうではない。
「お嬢様臭がするなあ。どこかの貴族の娘とかかなぁ」
そんな奴とのつながり多いなぁ、と言いつつ残った男もハチの巣にしていく。
ライトは王様や騎士団長から治安維持のための権限を与えれているのでよほどのことがない限り正義になる。もっとも、何もしていない無垢の民には危害を加えるつもりがないから渡されているもので、べつにライトも乱用する気はない。
「ずいぶんと汚れちゃったな。そこらの宿屋でシャワーでも借りるか」
武器を持った男がいなくなって気が抜けたのか、血を全身に浴びたせいか、気を失った少女をお姫様抱っこで宿屋に運ぶ。
宿屋の主人にすごく嫌そうかつ不審な目を向けられたが、気を失って血まみれの女の子を運び込んでるので仕方ないと思う。
「助けてくれてありがとう」
至近距離で浴びた血を流したライトが部屋に戻るとベッドで寝ていたはずの血まみれ少女が起きて話しかけてくる。
「無事に目を覚ましたのはいいんだけど、先にそれを流してこようか」
血生臭い臭いを落としてくるが、よくよく見れば圧倒的なまでのお嬢様臭が漂ってくる。
「改めて、助けてくれてありがとう。本当に死ぬかと思ったわ」
「まあ、無事でよかった」
少女がベットの上に腰掛ける。
「私はエリザベス」
「俺はライト、騎士団の指南役をやってる」
指南役というところでエリザベスが苦い顔をする。
「指南役って魔王の昔からの知り合いがやってた気がするのだけど」
「そうだよ。あの魔王の幼馴染み」
すこし困惑しながらエリザベスが話を続ける。
「その、魔王は残虐な悪魔というのは本当なの?」
どうやら町民と違って支配階級の人間は気になるようだ。
「そうだな。敵には容赦しないが、邪魔じゃないものには手出しをしない、それどころか手を差し伸べることだってある優しいやつだよ。それに、あいつに敵だと認識されるには相当のことをやらないといけないから普通に過ごしてたら大丈夫じゃねぇかな」
「そう、じゃあ仲良くできそうね」
ほっとしたようにエリザベスが息を吐く。
「魔王との思い出は何かあるの?」
ようやくいつもの調子を取り戻したのかエリザベスが好奇心に身を任せる。
「そうだな、まだ時間もあるし話すよ」
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「もう行っちゃうの?」
「ああ、そろそろ行かないといけんだ」
エリザベスが悲しそうな顔になる。
「また会ってくれるかしら」
「もちろん、俺が住んでる家の場所教えとくよ」
ライトが教えた住所は騎士団長からもらった王都の館だ。
「それじゃ、またな」
「頑張って」
エリザベスに見送られながらライトが仕事場に向かう。
王城の中に入り騎士の教練場に向かう。その途中で植込みのきれいな廊下を通るが
「女の子臭いがするんですけど、デートでもしてきたんですか?」
「なあ、なんで植込みの中から声が聞こえるのか聞いてもいいか?」
植込みから顔だけ出してるアオイを発見してしまう。
「そんなことより外に遊びに行くって女遊びだったんですか? どーなんですか!」
どうやって植込みの中から匂いをかぎ取ったのか、なんで植込みの中に入っているのか気になりすぎてアオイの質問に答えられない。まあ、それが普通だよね。